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魔王編
魔王被害遺児が健気で辛い:後編
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翌朝……というか、チビコが昼まで寝てたらから昼ごはんを食べてから話をすることになった。
場所は食堂! メンバーは俺と、エリーと、チビコちゃんと、モー太と、蛇吉!
スッピンは日光が苦手だとかで寝てる!
そして、何故かモー太が今日はエプロン姿!
「ふっふっふ、お主は運が良いな! 今日は訓練をサボってばっかでブクブクに肥え太ったオークの奴をシメたからな……上等な豚肉が食えるモー!」
それ、しめるの意味完全に違いますよね?
てかお前草食動物だろ!
しかも言うに事欠いて部下の豚を食うとか……ブカのブタ? ハッ! こいつ、もしかしてこれが言いたかったのか。
何やら、気合を入れてにやりと不敵な笑みを浮かべているが。
「わしの部下のぶ「ほう、それは楽しみだな!」
言わせねーよ!
食い気味に言葉を隠して、モー太の発言を潰す。
子供のハートをダジャレでガッチリキャッチ? ブラックジョーク過ぎるわ!
見せ場を潰されたとでも思っているのか、あからさまにガッカリしてるけど……
いやいや、主の俺が楽しみって言ったんだから喜びを表して取り繕おうよ!
「わぁ!」
チビコも目を輝かせてモー太が運んでくる皿を見ている。
俺もその皿に目をやる。
うわぁ……生々しい。
確かに照りといい、滴る油といい上等な豚肉には違い無い。
ただ鑑定結果がオークとはっきりと、示している。
なんか……あれだな。
ただの豚であってほしかった。
「ステーキにベーコン、ハムにソーセージ、ウィンナーまであるモー!」
それはさておきモー太すげーな! これ本当にお前が作ったのか?
目の前に並べられたお皿には、本当にうまそうな豚料理の数々が。
野菜は?
色どりとか考えないのかな?
「オークは馬鹿だからな……食われると分かっていても訓練をサボるアホが多くて助かるモー。太りやすいからすぐにバレるしの!」
マジか……
本当に部下のオークのお肉らしい。
全然関係ないところから、調達してこいよ!
野良オーク狩って来い! 野良オーク!
いるかどうかは、知らんけど。
「これは確かに美味しいな……」
そして、一口食べてみて分かった。
肉の甘味といい、油の量といい良く肥え太った豚の肉だな。
でも、赤身の部分の締まった肉質……そう筋肉の質が恐らくオークだと物語っている。
ナムー……
「美味しい! ベーコンなんて年に一度の収穫祭でしか食べた事ないのに……それよりも美味しいよこれっ!」
あーあーあー、そんなにガッツくと……
ムギュ、ウー! ウー! ウー!
ほら喉に詰まらせた。
お約束ってやつだな……
「あらあらチビコちゃんったら、落ち着いて食べないと。これ飲んで……」
そういって、エリーが赤黒い飲み物を渡す……ま・さ・か?
「ンー! ンー! ゴックン!……わぁ、美味しい! 葡萄ジュースだね!」
なんだ……と?
俺もそれ飲みたい……
転生してから一度も飲んでない!
「あー、エリー……わしにもそれを一杯くれんかの?」
「あら、魔王様も喉が渇かれたのですか?でしたらいつもの特製ドリンクを用意してありますわよ!」
そう言って、血生臭い液体の入ったデキャンターを持ってきて、グラスに注ぐエリー。
そうじゃないんだ……飲み物が欲しいわけじゃないんだ……ジュースが飲みたいのだ……
なぁ、わざとだろ?
こんなに気遣いできるエリーが、分からぬ訳ないもんな?
「うっ……うむ。すまぬな……」
でも断れない俺!
そんな優しい俺、嫌いじゃないぜ!
魔王がジュースとかって嘗められるかなーって思ったり。
「うわぁ、魔王様またアレ飲んでる……」
「今日は、何の血だろうな……よく飲めるモー……」
おいっ! そこの蜥蜴と牛! なんか聞き捨てならない事言ったなおい!
「今日は先日魔王様が細切れにされた、4体の幹部達の生き血をミックスしてますわ。芳醇な魔力をお楽しみください。」
「そっ……そうなのか?」
「うわぁ……」
あいつらの生き血とか飲みたくないし……
てか、チビコがめっちゃ引いてる。
「幹部クラスの血のミックス! しかも4体分なんて、歴代魔王様でも飲まれたこと無い一品ですわよ!」
エリーはエリーであたかも貴重ですみたいな言い方するなし!
そんなこと言われても、所詮は血だろう。
元人間の俺からしたら、拷問以外のなにものでもない。
けど、断ってエリーの表情を曇らせるわけにも……
憎いぜ、八方美人な俺が。
「うわぁ……」
「うわぁ……」
「うわぁ……」
チビコちゃんは分かる……チビコちゃんが引くのはまだ分かる……
だが、蜥蜴と牛! 何故お前らまで引く?
「そうか、今日のわしは気分が良い! 蛇吉と、モー太の普段の頑張りに報いるためにもエリー、こやつらにもそれを」
二人がコイツなんてことを言うんだといった、驚きの視線を向けてくる。
ふっ……道連れだよ……
「わっ、吾輩はリザードマン族なので水と酒以外受け付けませぬので。大変有り難い申し出ですが、ここは丁重に辞退させていただきます」
取って付けたような言い訳だなおいっ!
モー太が、こいつ上手い事言いやがってって顔してやがる!
おっ! 何か閃いたみたいだな……モー太が顔を上げると勢い込んで口を開く。
「わしも……牛じゃからミルクしか「そうか……蛇吉は飲めぬのか……勿体ない。モー太! お前は部下の豚を食うくらいだから、当然血もいけるよな?」
逃がさねーよ!
モー太の言い訳が始まるやいなや、強引に話を遮って逃げ場をなくす。
さぁ、お前にも飲んでもらおうか?血生臭い鉄の味しかしない、クソ不味いドリンクを……
俺がニヤリと笑うのを見て、モー太の目が死ぬ。
「モー太さんは本当に運が宜しいですわね? 美味しいお肉に、元幹部の血……最高の組み合わせです!」
ナイスエリー! そしてモー太ご愁傷さま……
モー太が死んだ魚のような眼で、グラスを見つめている。
グラスを手に持って、揺らすだけで一向に口に運ばない。
「ほれっ、遠慮するな。至高の一品じゃぞ?」
俺にそう言われたモー太からゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
そして、目を瞑ると覚悟したのか一気に飲み干す。
「ぶはぁぁ! 大変美味しゅうございました。」
おぉ! 飲み切ったこやつ!
涙目で血生臭い息を吐いているが、その目には達成感すら浮かんでいる。
「そうか、美味しかったか……どれもう一杯いかぬか? わしが注いでやろう!」
そういって、モー太のグラスに血を注ぐ。
血を注ぐって言い得て妙だな。
この状況にピッタリかもな……
「勿体ない……身に余る光栄で御座いますモー」
絶対そんな事思ってないよね?
結局この後、もう2杯注いだところでモー太が口を押えてトイレに駆け込んでいった。
ざまあみろ!
あれ? 別にモー太悪くなくね?
「短時間での魔力過剰摂取による、急性魔力中毒ですかね?」
そんなのあるんだ……アルコール中毒みたいだね……
***
食事を終え、場所を謁見の間に移す。
改めて、チビコの話を聞くためだ。
「それで、チビコはお父さんの形見が欲しいんだったな……」
俺がいくら魔王とはいえ、こうして親を失った幼子を前にすると途方もない罪悪感に襲われる。
魔人になってから生き物の命を奪う事自体にどうこう思う事は減ったが、人の感情の機微を読み取って同情することは出来る。
まぁ、元が人間だからそこまで非情にはなれないってことかな?
「うん……いや、はい! できれば骨が良いのですが……身に着けてたものでも構いません。私に探させてもらえませんか?」
あの地で遺品を探すというのか……
それ、無理だよなー
「どうしても遺品が欲しいか?」
「はい、ママが何も無い……前に進めない……って毎日泣いてるの……ママを助けたい!」
ええ子やぁ……本当にええ子やなチビコちゃんは。
よし! おいちゃんがいっちょその想い叶えたるでー!
「そいつは無理だな! チビコのお父上達は骨も残さず魔王様に消されてしまったからモー!」
「えっ?ふぇっ?」
ちょっ、牛! なんで今それ言っちゃうの?
バカー! お前マジバカー! 部下の豚と同レベルだよ!
「凄い魔法だったな……とてつもない炎の魔法で一瞬で蒸発してしまった。」
「びぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
おい蜥蜴! お前マジふざけんな!
どうすんだよ……って手遅れだよ!
「お前ら黙ってろ!」
俺が二人を睨むと、真っ青な顔をして震え始める。
若干魔力込めてるからねー。
「ふぇぇぇ、ごほっ! ごほっ! げひゅっ! ひゅっ! ひゅっ! ひゅはー! ひゅはー!」
やべぇ、チビコがショックの余り過呼吸や!
「おい、エリー袋持ってこい! エリーの口に袋当てろ!」
エリーが慌てて紙袋を持ってきて自分の口に当てる。
違う! 間違えた!
俺が落ち着け!
「間違えた! チビコの口に当てるんだ!」
「えっ、あっ、はい! ソウデスヨネー……」
エリーも慌ててたようだ。
チビコ並に顔が真っ赤になってる。
それから、紙袋をチビコに当てる。
あの中にはエリーたんの吐息がハァハァ……ってそれどころじゃねーわ!
徐々にチビコの呼吸の音が落ち着いてくる。
「貴方たち……あとで分かってますよね?」
どっちの方だろ?
先の発言か? それとも今の口止めか?
エリーの一言で完全に二匹の心が折れた。
尻尾を股に挟んでガタガタ震えてる。
紛いなりにも……って正真正銘の魔王軍幹部があまりの恐怖に縮みこまっている。
「やばいモー……」
「拙者……今日を生き延びたらあの子に告白するでござる」
蜥蜴それフラグや!
「あぁ……えっとチビコ落ち着け……お前の父上の魂は俺の中にある。」
いや、お前の父親は俺の中で生きてる的なカッコいい奴じゃないよ?
現実的に魂を俺が持ってるって意味ね。
俺に殺された人間は、生贄と同じ扱いで俺の中で予備のエネルギーとして蓄えられるってやつ。
「だから、お前が本当に父を思うのであれば蘇らせる事が出来る」
今日のびっくりドッキリチートマジック!【死者完全蘇生】
えっ? 蘇生って聖属性?
魔族は、聖属性使えないって?
誰がそんな事決めたの?
某有名ゲーム……竜の冒険シリーズではオークやでかいイカですら蘇生呪文使えるぜ?
「本当?」
まぁ、体が無いから彼女の記憶を元に体を作ってそこに魂と記憶を放り込むだけですけどね。
「あぁ、本当だとも! もしチビコちゃんの思いが強ければ強い程、パパは完全な状態で生き返るよ」
「分かった! チビコ頑張る!」
そう言って、チビコが涙を拭う。
強い子だ……
俺はチビコの頭に手を置いて、チビコの魂と繋がりのある魂を見つけ出す……三つある……まぁ叔父さんとかかな? その中で一番繋がりが強い魂を選び、そっと取り出す。
「よし、あとはお父さんの姿を出来るだけ鮮明にイメージするんだ。」
「鮮明?」
「はっきりとって意味だよ」
俺がそう言うと、チビコは大きく頷いて目をぎゅっと瞑って強く父親をイメージする。
「ふむ、これがチビコの父親か……」
俺はチビコのイメージを読み取って、そのイメージ通りに父親の身体を作り出す。
人間の元となる物質を創造し、結合しなんちゃらかんちゃらよくわかんねーけど、魔法って万能だわ!
「よし体は出来たな……あとは魂をここに移して、結合すれば……」
俺の掌から青白い火の玉が現れ、たったいま作ったばかりの身体に吸い込まれていく。
「成功だ!」
「この童貞インポ野郎!」
お前かぁぁぁぁぁ!
次の瞬間、俺は蘇った男の頭を弾き飛ばしていた。
「ふぇっ?」
「えぇぇ……」
「うわぁ……」
「いくら魔王様でも、これは軽蔑します……」
ちょっ……ちょっと待とうか皆……
「びぇぇぇぇぇぇぇ! パパを生き返らせて目の前で殺すとか魔王すぎるよぉぉぉぉ!」
「チビコちゃん、こっちにおいで。あっ、魔王様は近付かないでください!」
エリー……その目やめてくれるかな?
「魔王様が、魔王様たる所以を見た……」
「魔王とは、かくも非情にならざるを得ぬのか……ならば、拙者は魔王にはなれぬな……」
豚も蜥蜴もやめて……
「あー、えっとほらパパだよ?」
俺は死体の頭を復活させて、再度取り込まれた魂を器に戻す。
【沈黙】の魔法を掛けて。
「おいっ、お前の娘が来てるからな……余計な事言うなよ!」
それから、耳元で覇気を当てながら囁く。
男が高速で頷く。
取りあえず大丈夫かな? 【沈黙】を解除するとそっと男の背中を押す。
男が走って娘の方に駆け寄る。
「チビコ、どうしてこんな危ない所に!」
にべも無く男がチビコを叱りつける。
まぁ、まさかこんな小さな子が魔王城なんかに来るとは思わんわな……
「だって……パパが魔王に殺されちゃったから……ママが、パパが居なくてずっと寝てるの……」
「えっ?だって俺生きてる……」
娘の言葉に男が困惑する。
「それは魔王様が蘇らせたのだモー」
牛が若干怯えた様子で男に教える。
「そんな……魔王が蘇らせたというのか? ということは俺はアンデッドに……」
「安心しろ、完全な状態で生き返らせてある。」
俺が安心させるように言うと、男が自分の身体をペタペタと触る。
やたら、顔を触る。
とにかく顔を触る。
「どうした? 何か違うのか?」
俺が男に尋ねると、男が鏡を見せてくれと言い出した。
手鏡を魔法で創造して渡す。
「誰だこれ? どっかで見た気が……」
「ママがね、いっつもこの顔の絵を見せてくれるの! でね、これが本当のパパの姿なのよって教えてくれたの……」
男が凄く微妙な顔をしてる。
どういう事だろうか……
「あぁ、これ今流行ってる流れの演劇一座の花形の顔です……」
おおおい! お母さん? あんた何娘に言っちゃってんの?
子供は純粋だからすぐに信じちゃうのよ?
「俺……この顔で生きてくの?」
凄く微妙な顔をしている……
当たり前だ……こんな事実知りたくないだろう……
「あー、お前自分の顔をイメージしてみろ。」
「えっ? あっ、はい」
男が何が何やら良くわからないといった感じだったが、目を瞑ってイメージを始める。
俺はそのイメージを読み取り、さらに記憶も読み取りながらより忠実に顔を作り変える。
「あっ、パパだ!」
チビコが嬉しそうに父親に抱き着く。
「あぁ、この顔です……あれっ? でももうちょっと鼻が高くてりりしかったような。あれっ? これ俺?」
この短時間でゲシュタルト崩壊させんな!
それが紛れもないお前の顔だよ!
「あぁ、それがお前の顔だ! 顔の作り替えとかそうそう味わえるものじゃないからな……2~3日もすればなれるさ……それと……」
俺がそう言って男の頭を見つめる。
男が俺から目を反らしながら頭を押さえる。
「本物を生やしておいた……これはここまで頑張って来たチビコちゃんへのご褒美だ!」
「えっ?」
俺が耳元で小声で呟くと男が心底驚いた表情でこっちを見ると、自分の髪の毛を引っ張り始める。
「っていうかお前、口と足臭いな……」
「えっ?」
あぁ……この当たりはチビコちゃんのイメージ通りのままか……
「うん、パパの臭いだ! いっつもお仕事から帰ってくると足臭いの! それと口も!」
「ちょっ、それは一日中靴履いて歩いてるからで、決して元から臭いわけじゃ……それに口臭そんなにキツイか?」
「うん! パパがチューしてくれるの嬉しいけど……ちょっとイヤ……それに腕枕も本当はちょっと……」
こっ、これは酷い……
父親って辛い……
思春期に、パパの下着と一緒に洗わないでって言われるパターンや!
「【臭腺除去】」
俺はたったいま、持てる魔法の知識を使って消臭魔法を作り出した。
チート万歳!
「あれ? パパ凄く良い匂いがする!」
男がこっちを見つめてくる。
俺はそっと人差し指を口に当てた。
(貴方が神か……)
男は何も言わなかったが確かにそう聞こえた気がした。
***
「魔王さまありがとー!」
「この度は真に有難うございました。この御恩は決して忘れません!国に帰ったら周りにも貴方様の素晴らしさを伝えようかと思います。」
「辞めとけ! 異端者尋問に掛けられて、一族もろとも火あぶりにされるぞ。その気持ちだけでよい」
まぁ、まだ時期尚早だね。
今の世界で、魔王良い奴なんて言ったら即行で魔女裁判に掛けられるわ。
でも、ようやく世界に二人人間の味方が出来た。
***
二人を国の近くまで転移で送ると、俺は城に戻って寝室で横になった。
トントン
すぐに扉をノックする音が聞こえる。
誰だ。
「魔王様妾です……ムカ娘です……」
あぁ、ムカデ女か……
こんな時間に俺の寝室まで何の用だろう?
「どうしたムカ娘?」
俺が扉を開けると、上半身にセクシーなネグリジェを纏ったムカデ女が居た。
下半身は……裸だ……今日もこいつは平常運転だな……
「その、魔王様はまだ経験が無いと聞きまして……もし妾で宜しければ筆卸のお相手を務めさせて頂ければ……」
「間に合っておる!」
俺は怒りに顔を真っ赤にして扉を閉めた。
誰だ? 蜥蜴か? 牛か? 奴ら許さん!
***
まぁ、魔王様ったら顔を真っ赤にして……
あのように照れなくても宜しいのに。
初心なお方です事。
可愛いですわ……いつかきっと妾と床を……
***
次の日から、やたらとセクシーな百足が近くをウロチョロして辛い……
場所は食堂! メンバーは俺と、エリーと、チビコちゃんと、モー太と、蛇吉!
スッピンは日光が苦手だとかで寝てる!
そして、何故かモー太が今日はエプロン姿!
「ふっふっふ、お主は運が良いな! 今日は訓練をサボってばっかでブクブクに肥え太ったオークの奴をシメたからな……上等な豚肉が食えるモー!」
それ、しめるの意味完全に違いますよね?
てかお前草食動物だろ!
しかも言うに事欠いて部下の豚を食うとか……ブカのブタ? ハッ! こいつ、もしかしてこれが言いたかったのか。
何やら、気合を入れてにやりと不敵な笑みを浮かべているが。
「わしの部下のぶ「ほう、それは楽しみだな!」
言わせねーよ!
食い気味に言葉を隠して、モー太の発言を潰す。
子供のハートをダジャレでガッチリキャッチ? ブラックジョーク過ぎるわ!
見せ場を潰されたとでも思っているのか、あからさまにガッカリしてるけど……
いやいや、主の俺が楽しみって言ったんだから喜びを表して取り繕おうよ!
「わぁ!」
チビコも目を輝かせてモー太が運んでくる皿を見ている。
俺もその皿に目をやる。
うわぁ……生々しい。
確かに照りといい、滴る油といい上等な豚肉には違い無い。
ただ鑑定結果がオークとはっきりと、示している。
なんか……あれだな。
ただの豚であってほしかった。
「ステーキにベーコン、ハムにソーセージ、ウィンナーまであるモー!」
それはさておきモー太すげーな! これ本当にお前が作ったのか?
目の前に並べられたお皿には、本当にうまそうな豚料理の数々が。
野菜は?
色どりとか考えないのかな?
「オークは馬鹿だからな……食われると分かっていても訓練をサボるアホが多くて助かるモー。太りやすいからすぐにバレるしの!」
マジか……
本当に部下のオークのお肉らしい。
全然関係ないところから、調達してこいよ!
野良オーク狩って来い! 野良オーク!
いるかどうかは、知らんけど。
「これは確かに美味しいな……」
そして、一口食べてみて分かった。
肉の甘味といい、油の量といい良く肥え太った豚の肉だな。
でも、赤身の部分の締まった肉質……そう筋肉の質が恐らくオークだと物語っている。
ナムー……
「美味しい! ベーコンなんて年に一度の収穫祭でしか食べた事ないのに……それよりも美味しいよこれっ!」
あーあーあー、そんなにガッツくと……
ムギュ、ウー! ウー! ウー!
ほら喉に詰まらせた。
お約束ってやつだな……
「あらあらチビコちゃんったら、落ち着いて食べないと。これ飲んで……」
そういって、エリーが赤黒い飲み物を渡す……ま・さ・か?
「ンー! ンー! ゴックン!……わぁ、美味しい! 葡萄ジュースだね!」
なんだ……と?
俺もそれ飲みたい……
転生してから一度も飲んでない!
「あー、エリー……わしにもそれを一杯くれんかの?」
「あら、魔王様も喉が渇かれたのですか?でしたらいつもの特製ドリンクを用意してありますわよ!」
そう言って、血生臭い液体の入ったデキャンターを持ってきて、グラスに注ぐエリー。
そうじゃないんだ……飲み物が欲しいわけじゃないんだ……ジュースが飲みたいのだ……
なぁ、わざとだろ?
こんなに気遣いできるエリーが、分からぬ訳ないもんな?
「うっ……うむ。すまぬな……」
でも断れない俺!
そんな優しい俺、嫌いじゃないぜ!
魔王がジュースとかって嘗められるかなーって思ったり。
「うわぁ、魔王様またアレ飲んでる……」
「今日は、何の血だろうな……よく飲めるモー……」
おいっ! そこの蜥蜴と牛! なんか聞き捨てならない事言ったなおい!
「今日は先日魔王様が細切れにされた、4体の幹部達の生き血をミックスしてますわ。芳醇な魔力をお楽しみください。」
「そっ……そうなのか?」
「うわぁ……」
あいつらの生き血とか飲みたくないし……
てか、チビコがめっちゃ引いてる。
「幹部クラスの血のミックス! しかも4体分なんて、歴代魔王様でも飲まれたこと無い一品ですわよ!」
エリーはエリーであたかも貴重ですみたいな言い方するなし!
そんなこと言われても、所詮は血だろう。
元人間の俺からしたら、拷問以外のなにものでもない。
けど、断ってエリーの表情を曇らせるわけにも……
憎いぜ、八方美人な俺が。
「うわぁ……」
「うわぁ……」
「うわぁ……」
チビコちゃんは分かる……チビコちゃんが引くのはまだ分かる……
だが、蜥蜴と牛! 何故お前らまで引く?
「そうか、今日のわしは気分が良い! 蛇吉と、モー太の普段の頑張りに報いるためにもエリー、こやつらにもそれを」
二人がコイツなんてことを言うんだといった、驚きの視線を向けてくる。
ふっ……道連れだよ……
「わっ、吾輩はリザードマン族なので水と酒以外受け付けませぬので。大変有り難い申し出ですが、ここは丁重に辞退させていただきます」
取って付けたような言い訳だなおいっ!
モー太が、こいつ上手い事言いやがってって顔してやがる!
おっ! 何か閃いたみたいだな……モー太が顔を上げると勢い込んで口を開く。
「わしも……牛じゃからミルクしか「そうか……蛇吉は飲めぬのか……勿体ない。モー太! お前は部下の豚を食うくらいだから、当然血もいけるよな?」
逃がさねーよ!
モー太の言い訳が始まるやいなや、強引に話を遮って逃げ場をなくす。
さぁ、お前にも飲んでもらおうか?血生臭い鉄の味しかしない、クソ不味いドリンクを……
俺がニヤリと笑うのを見て、モー太の目が死ぬ。
「モー太さんは本当に運が宜しいですわね? 美味しいお肉に、元幹部の血……最高の組み合わせです!」
ナイスエリー! そしてモー太ご愁傷さま……
モー太が死んだ魚のような眼で、グラスを見つめている。
グラスを手に持って、揺らすだけで一向に口に運ばない。
「ほれっ、遠慮するな。至高の一品じゃぞ?」
俺にそう言われたモー太からゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
そして、目を瞑ると覚悟したのか一気に飲み干す。
「ぶはぁぁ! 大変美味しゅうございました。」
おぉ! 飲み切ったこやつ!
涙目で血生臭い息を吐いているが、その目には達成感すら浮かんでいる。
「そうか、美味しかったか……どれもう一杯いかぬか? わしが注いでやろう!」
そういって、モー太のグラスに血を注ぐ。
血を注ぐって言い得て妙だな。
この状況にピッタリかもな……
「勿体ない……身に余る光栄で御座いますモー」
絶対そんな事思ってないよね?
結局この後、もう2杯注いだところでモー太が口を押えてトイレに駆け込んでいった。
ざまあみろ!
あれ? 別にモー太悪くなくね?
「短時間での魔力過剰摂取による、急性魔力中毒ですかね?」
そんなのあるんだ……アルコール中毒みたいだね……
***
食事を終え、場所を謁見の間に移す。
改めて、チビコの話を聞くためだ。
「それで、チビコはお父さんの形見が欲しいんだったな……」
俺がいくら魔王とはいえ、こうして親を失った幼子を前にすると途方もない罪悪感に襲われる。
魔人になってから生き物の命を奪う事自体にどうこう思う事は減ったが、人の感情の機微を読み取って同情することは出来る。
まぁ、元が人間だからそこまで非情にはなれないってことかな?
「うん……いや、はい! できれば骨が良いのですが……身に着けてたものでも構いません。私に探させてもらえませんか?」
あの地で遺品を探すというのか……
それ、無理だよなー
「どうしても遺品が欲しいか?」
「はい、ママが何も無い……前に進めない……って毎日泣いてるの……ママを助けたい!」
ええ子やぁ……本当にええ子やなチビコちゃんは。
よし! おいちゃんがいっちょその想い叶えたるでー!
「そいつは無理だな! チビコのお父上達は骨も残さず魔王様に消されてしまったからモー!」
「えっ?ふぇっ?」
ちょっ、牛! なんで今それ言っちゃうの?
バカー! お前マジバカー! 部下の豚と同レベルだよ!
「凄い魔法だったな……とてつもない炎の魔法で一瞬で蒸発してしまった。」
「びぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
おい蜥蜴! お前マジふざけんな!
どうすんだよ……って手遅れだよ!
「お前ら黙ってろ!」
俺が二人を睨むと、真っ青な顔をして震え始める。
若干魔力込めてるからねー。
「ふぇぇぇ、ごほっ! ごほっ! げひゅっ! ひゅっ! ひゅっ! ひゅはー! ひゅはー!」
やべぇ、チビコがショックの余り過呼吸や!
「おい、エリー袋持ってこい! エリーの口に袋当てろ!」
エリーが慌てて紙袋を持ってきて自分の口に当てる。
違う! 間違えた!
俺が落ち着け!
「間違えた! チビコの口に当てるんだ!」
「えっ、あっ、はい! ソウデスヨネー……」
エリーも慌ててたようだ。
チビコ並に顔が真っ赤になってる。
それから、紙袋をチビコに当てる。
あの中にはエリーたんの吐息がハァハァ……ってそれどころじゃねーわ!
徐々にチビコの呼吸の音が落ち着いてくる。
「貴方たち……あとで分かってますよね?」
どっちの方だろ?
先の発言か? それとも今の口止めか?
エリーの一言で完全に二匹の心が折れた。
尻尾を股に挟んでガタガタ震えてる。
紛いなりにも……って正真正銘の魔王軍幹部があまりの恐怖に縮みこまっている。
「やばいモー……」
「拙者……今日を生き延びたらあの子に告白するでござる」
蜥蜴それフラグや!
「あぁ……えっとチビコ落ち着け……お前の父上の魂は俺の中にある。」
いや、お前の父親は俺の中で生きてる的なカッコいい奴じゃないよ?
現実的に魂を俺が持ってるって意味ね。
俺に殺された人間は、生贄と同じ扱いで俺の中で予備のエネルギーとして蓄えられるってやつ。
「だから、お前が本当に父を思うのであれば蘇らせる事が出来る」
今日のびっくりドッキリチートマジック!【死者完全蘇生】
えっ? 蘇生って聖属性?
魔族は、聖属性使えないって?
誰がそんな事決めたの?
某有名ゲーム……竜の冒険シリーズではオークやでかいイカですら蘇生呪文使えるぜ?
「本当?」
まぁ、体が無いから彼女の記憶を元に体を作ってそこに魂と記憶を放り込むだけですけどね。
「あぁ、本当だとも! もしチビコちゃんの思いが強ければ強い程、パパは完全な状態で生き返るよ」
「分かった! チビコ頑張る!」
そう言って、チビコが涙を拭う。
強い子だ……
俺はチビコの頭に手を置いて、チビコの魂と繋がりのある魂を見つけ出す……三つある……まぁ叔父さんとかかな? その中で一番繋がりが強い魂を選び、そっと取り出す。
「よし、あとはお父さんの姿を出来るだけ鮮明にイメージするんだ。」
「鮮明?」
「はっきりとって意味だよ」
俺がそう言うと、チビコは大きく頷いて目をぎゅっと瞑って強く父親をイメージする。
「ふむ、これがチビコの父親か……」
俺はチビコのイメージを読み取って、そのイメージ通りに父親の身体を作り出す。
人間の元となる物質を創造し、結合しなんちゃらかんちゃらよくわかんねーけど、魔法って万能だわ!
「よし体は出来たな……あとは魂をここに移して、結合すれば……」
俺の掌から青白い火の玉が現れ、たったいま作ったばかりの身体に吸い込まれていく。
「成功だ!」
「この童貞インポ野郎!」
お前かぁぁぁぁぁ!
次の瞬間、俺は蘇った男の頭を弾き飛ばしていた。
「ふぇっ?」
「えぇぇ……」
「うわぁ……」
「いくら魔王様でも、これは軽蔑します……」
ちょっ……ちょっと待とうか皆……
「びぇぇぇぇぇぇぇ! パパを生き返らせて目の前で殺すとか魔王すぎるよぉぉぉぉ!」
「チビコちゃん、こっちにおいで。あっ、魔王様は近付かないでください!」
エリー……その目やめてくれるかな?
「魔王様が、魔王様たる所以を見た……」
「魔王とは、かくも非情にならざるを得ぬのか……ならば、拙者は魔王にはなれぬな……」
豚も蜥蜴もやめて……
「あー、えっとほらパパだよ?」
俺は死体の頭を復活させて、再度取り込まれた魂を器に戻す。
【沈黙】の魔法を掛けて。
「おいっ、お前の娘が来てるからな……余計な事言うなよ!」
それから、耳元で覇気を当てながら囁く。
男が高速で頷く。
取りあえず大丈夫かな? 【沈黙】を解除するとそっと男の背中を押す。
男が走って娘の方に駆け寄る。
「チビコ、どうしてこんな危ない所に!」
にべも無く男がチビコを叱りつける。
まぁ、まさかこんな小さな子が魔王城なんかに来るとは思わんわな……
「だって……パパが魔王に殺されちゃったから……ママが、パパが居なくてずっと寝てるの……」
「えっ?だって俺生きてる……」
娘の言葉に男が困惑する。
「それは魔王様が蘇らせたのだモー」
牛が若干怯えた様子で男に教える。
「そんな……魔王が蘇らせたというのか? ということは俺はアンデッドに……」
「安心しろ、完全な状態で生き返らせてある。」
俺が安心させるように言うと、男が自分の身体をペタペタと触る。
やたら、顔を触る。
とにかく顔を触る。
「どうした? 何か違うのか?」
俺が男に尋ねると、男が鏡を見せてくれと言い出した。
手鏡を魔法で創造して渡す。
「誰だこれ? どっかで見た気が……」
「ママがね、いっつもこの顔の絵を見せてくれるの! でね、これが本当のパパの姿なのよって教えてくれたの……」
男が凄く微妙な顔をしてる。
どういう事だろうか……
「あぁ、これ今流行ってる流れの演劇一座の花形の顔です……」
おおおい! お母さん? あんた何娘に言っちゃってんの?
子供は純粋だからすぐに信じちゃうのよ?
「俺……この顔で生きてくの?」
凄く微妙な顔をしている……
当たり前だ……こんな事実知りたくないだろう……
「あー、お前自分の顔をイメージしてみろ。」
「えっ? あっ、はい」
男が何が何やら良くわからないといった感じだったが、目を瞑ってイメージを始める。
俺はそのイメージを読み取り、さらに記憶も読み取りながらより忠実に顔を作り変える。
「あっ、パパだ!」
チビコが嬉しそうに父親に抱き着く。
「あぁ、この顔です……あれっ? でももうちょっと鼻が高くてりりしかったような。あれっ? これ俺?」
この短時間でゲシュタルト崩壊させんな!
それが紛れもないお前の顔だよ!
「あぁ、それがお前の顔だ! 顔の作り替えとかそうそう味わえるものじゃないからな……2~3日もすればなれるさ……それと……」
俺がそう言って男の頭を見つめる。
男が俺から目を反らしながら頭を押さえる。
「本物を生やしておいた……これはここまで頑張って来たチビコちゃんへのご褒美だ!」
「えっ?」
俺が耳元で小声で呟くと男が心底驚いた表情でこっちを見ると、自分の髪の毛を引っ張り始める。
「っていうかお前、口と足臭いな……」
「えっ?」
あぁ……この当たりはチビコちゃんのイメージ通りのままか……
「うん、パパの臭いだ! いっつもお仕事から帰ってくると足臭いの! それと口も!」
「ちょっ、それは一日中靴履いて歩いてるからで、決して元から臭いわけじゃ……それに口臭そんなにキツイか?」
「うん! パパがチューしてくれるの嬉しいけど……ちょっとイヤ……それに腕枕も本当はちょっと……」
こっ、これは酷い……
父親って辛い……
思春期に、パパの下着と一緒に洗わないでって言われるパターンや!
「【臭腺除去】」
俺はたったいま、持てる魔法の知識を使って消臭魔法を作り出した。
チート万歳!
「あれ? パパ凄く良い匂いがする!」
男がこっちを見つめてくる。
俺はそっと人差し指を口に当てた。
(貴方が神か……)
男は何も言わなかったが確かにそう聞こえた気がした。
***
「魔王さまありがとー!」
「この度は真に有難うございました。この御恩は決して忘れません!国に帰ったら周りにも貴方様の素晴らしさを伝えようかと思います。」
「辞めとけ! 異端者尋問に掛けられて、一族もろとも火あぶりにされるぞ。その気持ちだけでよい」
まぁ、まだ時期尚早だね。
今の世界で、魔王良い奴なんて言ったら即行で魔女裁判に掛けられるわ。
でも、ようやく世界に二人人間の味方が出来た。
***
二人を国の近くまで転移で送ると、俺は城に戻って寝室で横になった。
トントン
すぐに扉をノックする音が聞こえる。
誰だ。
「魔王様妾です……ムカ娘です……」
あぁ、ムカデ女か……
こんな時間に俺の寝室まで何の用だろう?
「どうしたムカ娘?」
俺が扉を開けると、上半身にセクシーなネグリジェを纏ったムカデ女が居た。
下半身は……裸だ……今日もこいつは平常運転だな……
「その、魔王様はまだ経験が無いと聞きまして……もし妾で宜しければ筆卸のお相手を務めさせて頂ければ……」
「間に合っておる!」
俺は怒りに顔を真っ赤にして扉を閉めた。
誰だ? 蜥蜴か? 牛か? 奴ら許さん!
***
まぁ、魔王様ったら顔を真っ赤にして……
あのように照れなくても宜しいのに。
初心なお方です事。
可愛いですわ……いつかきっと妾と床を……
***
次の日から、やたらとセクシーな百足が近くをウロチョロして辛い……
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