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第6章:動き出す世界

第6話:ゴブリンズ

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20階層

「マスターはもう帰っててください」
「俺、邪魔?」
「邪魔とかじゃなくて、ここは私達の持ち場ですから。マスターが居るとやり辛いです」
「そうだよね。本当ゴメンね」

 ただの小さい部署で、社長が一般社員って書いた仮面被って仕事しだしたら超気まずいもんね。
 俺もやだよ。
 素直に言う事を聞こう。

「要改善ですね」
「ああ、そうだな……通路型のダンジョンに改造しようか? 一人ずつしか通れないような」
「一旦預かって、検討します」

 どうしてだろう。
 この階層作る時は凄く良い案だと思ったんだけどな。
 広い階層に、一人の強ボス。
 倒すまで先に進めない。
 ……ようにすれば良かった。
 太郎を倒さないと扉が開かない的な。
 あと、回復までの時間も稼がないと。
 扉が開いて、次の階層まで1時間くらい歩かせる道にするか。
 そうだな……
 広間の扉に入ったら、すぐに次の階層とか嘗めすぎてたわ。
 なんで、あんなに自身満々だったんだろう?

 そして入れ替わりで5人が入って来る。

「今度はちゃんとゴブリンが5体ね」
「にしてもSS級冒険者のアライン殿がゴブリンの相手をするとはねー」
「役に立たん護衛だったわい」
「わしの部下を悪く言うな! お陰でここまで来られたんだろ!」
「あー、タイチョーさんには悪いが正直わしらだけだったらとっくに辿り着いてたわい」

 ワイワイ言いながら。
 五月蠅いな、こいつら。

「人間ってのは本当に五月蠅いな」
「まあ、ここまで来られたんだ。少しははしゃぎたくもなるだろ?」
「三郎は優しいんだな」

 こっちも割と私語が多かった。
 
「ちょっと、そこのゴブリンさん? どいてくれるかなー?」
 
 ネミアが腰をくねくねさせながら、ゴブリンに話しかける。
 口元を扇子で隠しながら。
 ズルい。
 喋り終わった後で、小声で呪文を詠唱してる。

「下手な小細工はせんことだ」
「なっ!」

 レッドがネミアに向かって、ナイフを投げる。
 一直線に放たれたそれは、扇子を切り裂きネミアの頬を傷つける。

「あまり行儀が悪いと、次は口を縫い付けるぞ?」
「クソッ小鬼が! 調子に乗ってんじゃねーぞ!」
「おいっ、挑発に乗るな」

 ネミアが新しい扇子を取り出して、レッドに近付こうとするのをタイチョーが止める。
 ナイス判断。
 あと1歩進んでたら、四郎の拳の間合いだったのに。
 
「雑魚が調子に乗るなよ!」

 その横からクトリフが槍を突き出すと、真空波が巻き起こってレッドに向かって行く。

「ふんっ」

 それを、レッドが剣を振るうだけでかき消す。
 あり得ない光景に、クトリフが思わず顔を顰める。

「おいっ、こいつらただのゴブリンじゃねーぞ?」

 ただのゴブリンです。
 レベルが高いだけの。

「いつからゴブリンが雑魚だと錯覚していた?」

 いや、今も昔もゴブリンは雑魚キャラの代名詞ですが?
 と思ったら、ゴブリン達が何やら陣形を取り始める。

「一つの武をひたすら極めた一武臨、太郎!」
「二度目は無いと知るが良い! 二武臨、次郎!」
「三秒後には地面と口付けすることになるぜ? 三武臨、三郎!」
「四肢全てが武器! 四武臨、四郎!」
「ゴブゴブゴブゴブ! 五武臨、レッド!」

「我ら五人!武の頂きに臨む者! 選ばれし5人のゴブリン!」
「「「「「その名も五武臨者ゴブリンジャー」」」」」
「我らが武を極めるための礎となるがよい!」

 5人のゴブリンが一斉に叫んで構えを取ると、後ろで大爆発が起こる。
 誰だ、そんな演出仕込んだの。
 すっごく恥ずかしいです。
 
 ほら、みんなポカンとしてるし……

「おい、ゴブリンがなんかアホなこっ……」
「クトリフ!」

 クトリフが何かを言い終わる前に、すでに太郎がクトリフの胸に剣を突き立てていた。

「くそっ!」
「遅い!」

 そして、イラブが魔法を使おうと突き出した手を、次郎が一瞬で槍で切り落とす。

「ごめんな、嬢ちゃん……」
「えっ?」

 そして、三郎がネミアの意識を一瞬で刈り取る。
 手に持った鎖分銅を凄い速さで腹に叩き込んで。

「……」
「おっと、早すぎて言葉も出なかったか?」
 
 その横で背後に一瞬で移動した、四郎がタイチョーの首に手刀を当てて気絶させていた。

「馬鹿な……」
「馬鹿なも何も、ゴブリンが弱いと思い込んでいたお前らが愚かなんだよ」
「チッ」

 おお、流石SS級冒険者。
 レッドの槍を簡単に躱すか。
 
「お前はやるみたいだな」
「ゴブリン風情に褒められても嬉しく無いな」

 レッドと、アラインが互いに向き合って槍を構える。
 次の瞬間、2人同時に槍を投げる。
 空中でぶつかった槍を、2人が腰の剣で打ち払い互いに斬りかかる。

「なるほど……確かに強い」
「おっさんもな」

 互いに剣をぶつけ合い、鍔迫り合いの形になる。
 どちらも、押すことができずギギギという音がダンジョン内に鳴り響いている。

「確かにゴブリン風情と侮っていたが……本気を出さねばなるまい」

 アラインの鎧が弾け飛び、中から筋肉の鎧が現れる。
 鍛え込まれた傷だらけの身体。
 彼のこれまでの戦闘の歴史を物語っているようだ。

「ほうっ、奇遇だな……だったら、俺も本気を出してやろう」
「ちいっ!」

 同じように筋肉で鎧を弾き飛ばすレッド。
 うん、ゴブリンだから鎧脱いだらほんとそこらへんのゴブリンと変わらんぞお前。
 あと、その鎧結構高いし、支給品だから勝手に壊さないように。

「つっても、もう終わってるんだけどな」
「はっ?」
「クラタ流剣技【肉断骨砕ヤセガマンゲキ】!」
「はっ?」

 レッドが鍔迫り合いの最中、自分の剣を反らしアラインの攻撃を身体で受けた状態で筋肉で刃を挟み、そのままアラインの喉に自分の剣を突き刺す。

「カヒュー! カヒュー!」

 そして、剣を抜いて血を振り払うレッド。
 喉に風穴を開けられて、空気が漏れる音がする。

「ヒュッ!」

 それでも流石はSS級の冒険者。
 最後の力を振り絞って同じようにレッドの喉に剣を突き立てる。
 そして、霞のように消えるレッド。

「残像だ」

 いつの間にかアラインの背後にレッドが背を向けて立っている。

「【蓮池地獄ブラッディロータス】!」

 アラインの胸から腹にかけて放射状の傷が入り、レッドが剣を鞘に収めると同時に蓮の花を咲かせたような血しぶきが舞い散る。

「あの世への手向けには、丁度いい仏花だろ?」

 カッコいいぜレッド。
 でも知ってるか?
 こいつゴブリンなんだぜ?

「マスター終わったぜ?」

 うーん、まあ一つ分かったのはやっぱりゴブリンって地味だよな。

「えっ?」
「はっ?」
「マスター?」
「酷くね?」
「やれやれ……」

 あっ、声に出てたらしい。
 うん、別にどうでも良いよ。
 俺には、これからメイベルたんとの地獄の面談が待ってるんだから。

「あと、五武臨者ゴブリンジャーってダサいから、見られたやつはきっちり殺しとけよ?」
「あっ、はい」

 ここは素直なんだ。

「マスターにそっくりに育ってますよ?」
「えっ? 俺ってあんなの?」
「まあ、似たりよったりです」

 本気で凹む……
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