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サーナック誕生編
第2話 恐怖から始まる
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あのイルカは今どうなっているのだろう、まだ何かがいるかもしれないので確認する事はできないが、ろくな事になっていないだろうと思う。
俺にも起こりうる事だと思うと身体が震えた、今すぐここから逃げ出したかった、しかしそれはできそうにない。
ただの夢であったなら、このあたりで目覚めてもいいとおもう、しかし目覚めなかった。
「なんだよ・・・なんなんだよ・・・」
行き場のない怒りと恐れの感情が支配する。
グキュルルル…
そんな状況でも腹は減ってしまう。
「…何か、何か食べたい」
あんなものを食べなくてもいいはずだ、というかそもそも俺にあの怪物を食らう根性も術もない…ないと思う。
もし本能の赴くままに向かっていたらどうなっていたんだろうか…。
いや、もうさっきの事を考えるのはよそう、どうしようもない事だ。
俺は、別の事を考えて気を紛らわせる。
遺跡を巡って感じたことが、俺の身体の小ささだ。
ここは朽ちているとはいえ、人が作ったような家具や装飾品、壁に描かれた人物像等が残されており、比較してみて、自分の身長がだいたい大人の足の先から膝くらいなのではないかと思う。
まあ小さいとはいえ、こんな醜い怪物が現実で人間と鉢合わせしようものなら阿鼻叫喚間違いなし、俺だってそうするだろう、子供は泣くだろうし大人はすぐに排除したがるだろう。
せめて某国民的ポケットの電気鼠のような見た目だったら、例えモンスターでも躊躇してもらえただろうに。
もしこの夢が何者かに仕組まれているものだとしたら、仕掛け人はきっとサディストだ。
とそこまで考えてふと、あの陽光をあびる海面のような女の事を思い出す。
あいつがそうなのだろうか…?
…
遺跡の中を巡っていると色々な発見がある、怪物に襲われる可能性が無ければ観光気分にもなれただろうが、そんな余裕はない。
それでもこの遺跡内の芸術品に時折目を奪われる、美術館にしかなかったような画廊や、天井に彫られた神だか女神だかのありがたそうな石像、どれもこれも水没して朽ちていなければ相当の価値ある品物だったろうに。
あとあちらこちらに似たような紋章のようなものを見かける、六芒星のようにとげとげしていて、その中心に丸が6つ、まるで身を寄せ合うように集まったマークだ。
この遺跡の所有者の家紋のようなものだろうか?
そもそもこの遺跡はなんなのだろう、獣が引っ掻いたような傷や、甲冑やら剣やらがそこらじゅうに落ちているから、ここで大規模な戦いがあったのではないかって事は想像に難くはないが…。
グキュュルルル…
「…はやいとこ食い物を見つけられないと空腹で死ぬな…」
その後、何度か自分の何十倍もある怪物に見つかりそうになりながらも、瓦礫や狭い穴に逃げ隠れるように色んな所を巡った結果。
「これは…たべれるぞ!!」
蒼く透き通ったゼリーのような実をつける植物がそこにあった、それは俺くらい小さくないと入り込めないような狭い所で群生しているようだった。
ストローの先をゼリーに突き刺し、吸い取るように実を食した。
触感はゼリー、味は桃を水で薄めたような味だった。
「そんなに美味しいもんじゃないけど、贅沢は言えないな…」
のど越し爽やか、少し喉がやけるくらいにひやりとした、炭酸を飲んだ時に近いが、シュワシュワはしていない。
獲物に口の管を突き立て、中身を吸いつくす!
ジュルジュルルル…
時には角度を変えて余すことなく吸いつくす!
ジュッジュジュルル…
その時ふと壁際を見ると自身とその様子を移した姿鏡があった。
獲物に管を突き立て、全身をわたわたさせながらバランスをとりつつゼリーをすする怪物の姿がそこにあった。
なんと気味の悪い生き物だろう、UMAかなにかであってももう少し可愛げがあるものだ。
…とはいえあまり自分を卑下ばかりするものではないと思いなおした、それに現実の自分と比べれば、いくらかこの姿の方が健康かつ快適なのは間違いない、悪い所ばかりではないのだ。
後はそう、生き方の問題だ。
姿かたちや持って生まれた部分はもう変えようがない、ならせめて生き方は自分で納得できるようにしなければ。
「姿は化け物、心は人間…まったく、アニメじゃないんだぞ…。」
食事によってひとり言を呟く余裕はくらいはできたらしい。
一通り腹を満たすと不思議と眠くなった、この悪夢から覚める予兆ならいいが…。
俺はそのゼリーの植物に囲まれながら眠りについた…。
…と思った、しかし俺の意識はそのままで身体は眠ったまま、紫の結晶で全身が包まれていくのが解る。
やがて、完全に結晶に閉じ込められた後、鼓動が大きくなっていくのが解る。
その鼓動は俺に何かを呼びかけるような…不思議な感覚だった、何かを教えてくれるような…
俺は知っている、いやこの身体の本能が知っている、これは成長の過程なんだと。
…
夢をみていた。
正確には「俺の身体が見ている夢」を俺はみている。
この感覚はあの時、イルカの青い血を見て本能で近づいてしまったあの時の感覚。
なんとなくわかる、これはこの怪物の中に流れる血の記憶だ。
産みの親から受け継がれた怪物の思い出、それは凄惨な生存競争の様子だった。
怪物同士の争いであれば、ある程度の駆け引きと互いの実力勝負で拮抗し最後にはどちらかが勝利する
この記憶の中ではぎりぎりのところで勝ち残り続けた様子が見えた。
自身の能力に戦士としての誇りがあった、こんな怪物の精神にそんなものが存在したことに驚く。
俺が思っているよりもこの怪物達は人間らしい感情を持ち合わせているのかもしれない、そう思える内容だった。
しかしその中には人間もいた、恐ろしい殺気を放つ人間達がいた。
人間達はいともたやすく怪物達を屠った、鍛え抜かれた肉体、整った装備、隙を突く事を許さない立ち回り。
文字通り怪物達を蹂躙する様子を、ただ見ている事しかできない己を恥じた。
最後には怪物同士で戦い勝ち取った財産すべてを人間達によって奪われた。
「憎い…人間達が憎い…我が支配する地を蹂躙し、一族の女子供もかまわず殺してまわった」
「あまつさえ、残された魂さえも奪い去る、鎮魂の機会すら奪われ輪廻転生の輪にも加われぬとは」
「人間にそんな権限が…」
その時、鋭い殺意が己に向かっている事に気付いたが遅かった。
怪物を簡単に屠る輝くの矢が瞬いた瞬間、世界は暗転した。
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
絶叫をあげる、目蓋の裏側が熱く燃え上がるような痛みを感じた。
「私はお前たちを許さン!生まれ変わっても絶対に…許さんゾオオオ!!ニンゲンドモオオオオオアアア!!!!」
…
幽体離脱したかのように俯瞰の視点で、夢の映像は流れていく。
その光景に畏怖すると共に、怪物も人間と同様に考え生きている事に気付かされる。
この記憶の主は生存競争を勝ち残ったリーダーのような存在であり、戦士のような気高い精神を持っていた
友人も恋人も、家族もいた、人間に対抗して一時休戦し、仲間となったライバルもいた。
それらが一戦のうちに失われ、そしてこの男も、やはりというか、目を撃たれ何もできないうちに殺された。
しかし魂は奪われなかったようだ、それは俺の存在が証明している。
「よくここまで生き残りましたね…」
突然と女の声がした、あの女だ、陽光をあびる海面のようなあの女。
その声にどうしても心が温かくなる、母のようだと安心してしまう。
「サーナック、貴方に祝福を、更なる成長を願っています」
「ま、まってくれ、お前は一体誰なんだ、これは本当に俺の夢なのか?」
女は微笑んだ
「貴方は全て知っている、今はただ生きて…」
言い終わる前に、結晶の崩れる音と共に世界は光に包まれた。
…
私は目覚めなかった、"現実の俺” に戻る事は無かった。
そしてこの夢が夢ではないと確信してしまった。
まるで自分がここに生きている言葉にできない真理を与えられたようにこの世界が身近に感じられる。
「母の言葉を借りれば、思い出したと言うべきか。」
自身が生きている理由、産まれた理由を知った時、人は生まれ変わると聞いたことがある。
「…いや、人ではないな、私は海の魔物の戦士、サーナック…」
「俺は…人間どもを許さない…!」
…
俺にも起こりうる事だと思うと身体が震えた、今すぐここから逃げ出したかった、しかしそれはできそうにない。
ただの夢であったなら、このあたりで目覚めてもいいとおもう、しかし目覚めなかった。
「なんだよ・・・なんなんだよ・・・」
行き場のない怒りと恐れの感情が支配する。
グキュルルル…
そんな状況でも腹は減ってしまう。
「…何か、何か食べたい」
あんなものを食べなくてもいいはずだ、というかそもそも俺にあの怪物を食らう根性も術もない…ないと思う。
もし本能の赴くままに向かっていたらどうなっていたんだろうか…。
いや、もうさっきの事を考えるのはよそう、どうしようもない事だ。
俺は、別の事を考えて気を紛らわせる。
遺跡を巡って感じたことが、俺の身体の小ささだ。
ここは朽ちているとはいえ、人が作ったような家具や装飾品、壁に描かれた人物像等が残されており、比較してみて、自分の身長がだいたい大人の足の先から膝くらいなのではないかと思う。
まあ小さいとはいえ、こんな醜い怪物が現実で人間と鉢合わせしようものなら阿鼻叫喚間違いなし、俺だってそうするだろう、子供は泣くだろうし大人はすぐに排除したがるだろう。
せめて某国民的ポケットの電気鼠のような見た目だったら、例えモンスターでも躊躇してもらえただろうに。
もしこの夢が何者かに仕組まれているものだとしたら、仕掛け人はきっとサディストだ。
とそこまで考えてふと、あの陽光をあびる海面のような女の事を思い出す。
あいつがそうなのだろうか…?
…
遺跡の中を巡っていると色々な発見がある、怪物に襲われる可能性が無ければ観光気分にもなれただろうが、そんな余裕はない。
それでもこの遺跡内の芸術品に時折目を奪われる、美術館にしかなかったような画廊や、天井に彫られた神だか女神だかのありがたそうな石像、どれもこれも水没して朽ちていなければ相当の価値ある品物だったろうに。
あとあちらこちらに似たような紋章のようなものを見かける、六芒星のようにとげとげしていて、その中心に丸が6つ、まるで身を寄せ合うように集まったマークだ。
この遺跡の所有者の家紋のようなものだろうか?
そもそもこの遺跡はなんなのだろう、獣が引っ掻いたような傷や、甲冑やら剣やらがそこらじゅうに落ちているから、ここで大規模な戦いがあったのではないかって事は想像に難くはないが…。
グキュュルルル…
「…はやいとこ食い物を見つけられないと空腹で死ぬな…」
その後、何度か自分の何十倍もある怪物に見つかりそうになりながらも、瓦礫や狭い穴に逃げ隠れるように色んな所を巡った結果。
「これは…たべれるぞ!!」
蒼く透き通ったゼリーのような実をつける植物がそこにあった、それは俺くらい小さくないと入り込めないような狭い所で群生しているようだった。
ストローの先をゼリーに突き刺し、吸い取るように実を食した。
触感はゼリー、味は桃を水で薄めたような味だった。
「そんなに美味しいもんじゃないけど、贅沢は言えないな…」
のど越し爽やか、少し喉がやけるくらいにひやりとした、炭酸を飲んだ時に近いが、シュワシュワはしていない。
獲物に口の管を突き立て、中身を吸いつくす!
ジュルジュルルル…
時には角度を変えて余すことなく吸いつくす!
ジュッジュジュルル…
その時ふと壁際を見ると自身とその様子を移した姿鏡があった。
獲物に管を突き立て、全身をわたわたさせながらバランスをとりつつゼリーをすする怪物の姿がそこにあった。
なんと気味の悪い生き物だろう、UMAかなにかであってももう少し可愛げがあるものだ。
…とはいえあまり自分を卑下ばかりするものではないと思いなおした、それに現実の自分と比べれば、いくらかこの姿の方が健康かつ快適なのは間違いない、悪い所ばかりではないのだ。
後はそう、生き方の問題だ。
姿かたちや持って生まれた部分はもう変えようがない、ならせめて生き方は自分で納得できるようにしなければ。
「姿は化け物、心は人間…まったく、アニメじゃないんだぞ…。」
食事によってひとり言を呟く余裕はくらいはできたらしい。
一通り腹を満たすと不思議と眠くなった、この悪夢から覚める予兆ならいいが…。
俺はそのゼリーの植物に囲まれながら眠りについた…。
…と思った、しかし俺の意識はそのままで身体は眠ったまま、紫の結晶で全身が包まれていくのが解る。
やがて、完全に結晶に閉じ込められた後、鼓動が大きくなっていくのが解る。
その鼓動は俺に何かを呼びかけるような…不思議な感覚だった、何かを教えてくれるような…
俺は知っている、いやこの身体の本能が知っている、これは成長の過程なんだと。
…
夢をみていた。
正確には「俺の身体が見ている夢」を俺はみている。
この感覚はあの時、イルカの青い血を見て本能で近づいてしまったあの時の感覚。
なんとなくわかる、これはこの怪物の中に流れる血の記憶だ。
産みの親から受け継がれた怪物の思い出、それは凄惨な生存競争の様子だった。
怪物同士の争いであれば、ある程度の駆け引きと互いの実力勝負で拮抗し最後にはどちらかが勝利する
この記憶の中ではぎりぎりのところで勝ち残り続けた様子が見えた。
自身の能力に戦士としての誇りがあった、こんな怪物の精神にそんなものが存在したことに驚く。
俺が思っているよりもこの怪物達は人間らしい感情を持ち合わせているのかもしれない、そう思える内容だった。
しかしその中には人間もいた、恐ろしい殺気を放つ人間達がいた。
人間達はいともたやすく怪物達を屠った、鍛え抜かれた肉体、整った装備、隙を突く事を許さない立ち回り。
文字通り怪物達を蹂躙する様子を、ただ見ている事しかできない己を恥じた。
最後には怪物同士で戦い勝ち取った財産すべてを人間達によって奪われた。
「憎い…人間達が憎い…我が支配する地を蹂躙し、一族の女子供もかまわず殺してまわった」
「あまつさえ、残された魂さえも奪い去る、鎮魂の機会すら奪われ輪廻転生の輪にも加われぬとは」
「人間にそんな権限が…」
その時、鋭い殺意が己に向かっている事に気付いたが遅かった。
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アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
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「私はお前たちを許さン!生まれ変わっても絶対に…許さんゾオオオ!!ニンゲンドモオオオオオアアア!!!!」
…
幽体離脱したかのように俯瞰の視点で、夢の映像は流れていく。
その光景に畏怖すると共に、怪物も人間と同様に考え生きている事に気付かされる。
この記憶の主は生存競争を勝ち残ったリーダーのような存在であり、戦士のような気高い精神を持っていた
友人も恋人も、家族もいた、人間に対抗して一時休戦し、仲間となったライバルもいた。
それらが一戦のうちに失われ、そしてこの男も、やはりというか、目を撃たれ何もできないうちに殺された。
しかし魂は奪われなかったようだ、それは俺の存在が証明している。
「よくここまで生き残りましたね…」
突然と女の声がした、あの女だ、陽光をあびる海面のようなあの女。
その声にどうしても心が温かくなる、母のようだと安心してしまう。
「サーナック、貴方に祝福を、更なる成長を願っています」
「ま、まってくれ、お前は一体誰なんだ、これは本当に俺の夢なのか?」
女は微笑んだ
「貴方は全て知っている、今はただ生きて…」
言い終わる前に、結晶の崩れる音と共に世界は光に包まれた。
…
私は目覚めなかった、"現実の俺” に戻る事は無かった。
そしてこの夢が夢ではないと確信してしまった。
まるで自分がここに生きている言葉にできない真理を与えられたようにこの世界が身近に感じられる。
「母の言葉を借りれば、思い出したと言うべきか。」
自身が生きている理由、産まれた理由を知った時、人は生まれ変わると聞いたことがある。
「…いや、人ではないな、私は海の魔物の戦士、サーナック…」
「俺は…人間どもを許さない…!」
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