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③ 腹黒女のタネあかし
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────「そういうのはまだいい」? 「みっともない」?? どの口が言った!? いつの間にアドニスに接近した!?
「やだぁ! アネモネ様、私のほっぺつねって引っ張ろうと戦意満々ですぅ!」
アドニスがささっと彼女を後ろに隠す。
「アネモネ。補助魔法に特化したかよわい聖魔の彼女を、剣豪の君が威圧するなんて卑怯だ」
「アドニス、今なら何も聞かなかったことにしてあげる。私とダブルで行きましょう。落第したら1年無駄にするだけでは済まない。エリート揃いの家の出の、あなたの経歴に傷がつく。跡取りの座だってどうなるか……」
「オルタ家を継ぐというならこれしきの事、自身の力で成してみせる! なに、ミルアがいれば百人力だ!」
「アドニス様、ステキですぅ!」
あなたのためを思って言っているのに……! ため息が出るわ。
「確かに、この3ヶ月でミルアさんの魔力は驚くほど向上したと思うわ。私が保証する。でもさすがに卒業試験の同伴としては力不足よ。無理しない方がいい」
「……力不足、ですって?」
そこでアドニスの背後からヌゥっと、聖魔にそぐわぬ不穏なオーラを放出させ彼女は出てきた。
「それは聞き捨てなりませんわ。アネモネ様、人を表面だけで判断していては足元をすくわれましてよ」
いつもの甘えたタレ目が睨み目に。人相が変わった彼女を、私はじっと見つめてみた。
「私、爪を隠していただけですから♡」
「堂々とネイル塗りたくってたわよね?」
「先輩、今ここで“雷の鎖”、出してください」
「は?」
指示されたので私はみんなの前で右手を前に掲げ、魔力を手に集中させた。初級魔法だ、そんなのはすぐに。
「…………」
この悶着をヒヤヒヤしながら見守る周囲がここでどよめく。
「アネモネ様の手から鎖が出てこない!?」
「そんなバカな。アネモネ様が消費MPの少ない簡易魔法をしくじるはずがない。まだお食事前で本調子でないのでは!」
観衆のみなさん、実況ありがとう。
「出ないでしょ? 実は実はぁ、なんと! あなたの魔力、私が3ヶ月かけて徐々に盗んでいったのでぇす」
「盗む……?」
「あなたは私の“脆弱な聖魔”という表面でしか判断しなかった。聖魔がそんなスキル持ってるわけないって、油断してしまったのですねぇ。でも私、超絶便利スキル・“奪取”が使えるんで~す!」
「そ、そうなのかミルア!?」
「それは暗殺者・隠者系列のスキルよね……」
そこで彼女は聖魔用の淑やかなローブを脱ぎ捨て、女盗賊職専用の、身体にフィットした装束に包まれる自身を堂々と見せつけてきた。
「脱いだら意外とセクシーだ、とお思いでしょ?」
「隠者職が隠す気ない胸元だ、とお思いです」
「でも驚くポイントはそこではありませんわ! 私、聖魔と盗賊のハーフなんです! 誰もご存じないようですわねっ!」
誰も存じられないような微弱なスキルしか持ってないということでは。強者の潜在スキルはなかなか隠し切れないものだからね、うまいこと隠す人以外。
「少ぉしずつ持ちモノ盗まれてるの気付かないなんて、脳ミソまで筋肉でカッチカチなんですね!」
「しょせん盗んだスキルなんて、本人以上に操れるわけないわ。そんなので合格できると思って?」
「もちろんあなたほど使いこなせるとは思ってませんわ。それでも盗んだ魔力の総量はなかなかですし、スキルも試してみたらさすがに強くて十分でしたっ」
自信たっぷりに宣言しながら、彼女は私のところへ寄ってきた。そして耳元で、甲高い声でささやくのだった。
「MPも高次魔法スキルもありがとうおばさん! この試験クリアして、あなたのカレも奪取しちゃいますねっ」
彼女は私の耳元でにやりと笑っただろう。私はなんとなく放心していて、それを目にすることもなかった。ただ、勝利を確信したような表情の元婚約者アドニスが踵を返し、それを彼女が追って睦まじく去っていくのを無言で見ていた。
「……さて。昼食をいただくとするわ。“魚とカブの辛味煮込み”と“玉ねぎのグラタンスープ”と“ベリー風味のキジロースト”をお願いします」
「おお、さすがアネモネ様! 昼間から快活でいらっしゃる!」
「メニューに対する決断力、いつも素晴らしい!」
観衆のみなさん、いつも激励ありがとう。
「やだぁ! アネモネ様、私のほっぺつねって引っ張ろうと戦意満々ですぅ!」
アドニスがささっと彼女を後ろに隠す。
「アネモネ。補助魔法に特化したかよわい聖魔の彼女を、剣豪の君が威圧するなんて卑怯だ」
「アドニス、今なら何も聞かなかったことにしてあげる。私とダブルで行きましょう。落第したら1年無駄にするだけでは済まない。エリート揃いの家の出の、あなたの経歴に傷がつく。跡取りの座だってどうなるか……」
「オルタ家を継ぐというならこれしきの事、自身の力で成してみせる! なに、ミルアがいれば百人力だ!」
「アドニス様、ステキですぅ!」
あなたのためを思って言っているのに……! ため息が出るわ。
「確かに、この3ヶ月でミルアさんの魔力は驚くほど向上したと思うわ。私が保証する。でもさすがに卒業試験の同伴としては力不足よ。無理しない方がいい」
「……力不足、ですって?」
そこでアドニスの背後からヌゥっと、聖魔にそぐわぬ不穏なオーラを放出させ彼女は出てきた。
「それは聞き捨てなりませんわ。アネモネ様、人を表面だけで判断していては足元をすくわれましてよ」
いつもの甘えたタレ目が睨み目に。人相が変わった彼女を、私はじっと見つめてみた。
「私、爪を隠していただけですから♡」
「堂々とネイル塗りたくってたわよね?」
「先輩、今ここで“雷の鎖”、出してください」
「は?」
指示されたので私はみんなの前で右手を前に掲げ、魔力を手に集中させた。初級魔法だ、そんなのはすぐに。
「…………」
この悶着をヒヤヒヤしながら見守る周囲がここでどよめく。
「アネモネ様の手から鎖が出てこない!?」
「そんなバカな。アネモネ様が消費MPの少ない簡易魔法をしくじるはずがない。まだお食事前で本調子でないのでは!」
観衆のみなさん、実況ありがとう。
「出ないでしょ? 実は実はぁ、なんと! あなたの魔力、私が3ヶ月かけて徐々に盗んでいったのでぇす」
「盗む……?」
「あなたは私の“脆弱な聖魔”という表面でしか判断しなかった。聖魔がそんなスキル持ってるわけないって、油断してしまったのですねぇ。でも私、超絶便利スキル・“奪取”が使えるんで~す!」
「そ、そうなのかミルア!?」
「それは暗殺者・隠者系列のスキルよね……」
そこで彼女は聖魔用の淑やかなローブを脱ぎ捨て、女盗賊職専用の、身体にフィットした装束に包まれる自身を堂々と見せつけてきた。
「脱いだら意外とセクシーだ、とお思いでしょ?」
「隠者職が隠す気ない胸元だ、とお思いです」
「でも驚くポイントはそこではありませんわ! 私、聖魔と盗賊のハーフなんです! 誰もご存じないようですわねっ!」
誰も存じられないような微弱なスキルしか持ってないということでは。強者の潜在スキルはなかなか隠し切れないものだからね、うまいこと隠す人以外。
「少ぉしずつ持ちモノ盗まれてるの気付かないなんて、脳ミソまで筋肉でカッチカチなんですね!」
「しょせん盗んだスキルなんて、本人以上に操れるわけないわ。そんなので合格できると思って?」
「もちろんあなたほど使いこなせるとは思ってませんわ。それでも盗んだ魔力の総量はなかなかですし、スキルも試してみたらさすがに強くて十分でしたっ」
自信たっぷりに宣言しながら、彼女は私のところへ寄ってきた。そして耳元で、甲高い声でささやくのだった。
「MPも高次魔法スキルもありがとうおばさん! この試験クリアして、あなたのカレも奪取しちゃいますねっ」
彼女は私の耳元でにやりと笑っただろう。私はなんとなく放心していて、それを目にすることもなかった。ただ、勝利を確信したような表情の元婚約者アドニスが踵を返し、それを彼女が追って睦まじく去っていくのを無言で見ていた。
「……さて。昼食をいただくとするわ。“魚とカブの辛味煮込み”と“玉ねぎのグラタンスープ”と“ベリー風味のキジロースト”をお願いします」
「おお、さすがアネモネ様! 昼間から快活でいらっしゃる!」
「メニューに対する決断力、いつも素晴らしい!」
観衆のみなさん、いつも激励ありがとう。
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