不貞の罪でっち上げで次期王妃の座を奪われましたが、自らの手を下さずとも奪い返してみせますわ。そしてあっさり捨てて差し上げましょう

松ノ木るな

文字の大きさ
上 下
6 / 6

⑥ あなたと外の世界へ

しおりを挟む
 その後、令嬢に戻った私は、殿下の執務室にラグナルと共に呼ばれた。

「本当に申し訳なかった。私も道化の妖精に薬を塗られていたのだよ」

 その言い様に、何も言葉が出てこない私だった。彼に対しもう何の感情も沸いてこない。

「これは君の創作であったのか。フロアに落ちた原稿を拾い読み続けずにはいられなかった。なんと儚く優雅な恋物語だろう。私は再び君の類まれな感性に恋をした。改めて、私の生涯に渡るパートナーとして」

 私はそんな王子の口元にすっと手を差し出し、言葉を遮る。

「一度口より零れた言葉は取り返しがつきませんわ。私はあなたのご都合に合わせて動くマリオネットではありませんのよ」

「申し訳なかった。君に裏切られたと冷静さを失い……心から謝罪しよう。君の望むいかなる方法でも償おう。だから私の隣でこの物語の続きを綴ってくれ。私がいの一番に読みたいのだ」

「残念ですが。本当に心から償うとおっしゃるなら、私の実家、カンテミール一族の娘からまたお妃候補をお立てくださいませ」

「君が良い! 君以外目に入らない! 君ほどの良識と造詣を兼ね備えたレディなど……」

 褒めそやされても、どうにも心に響かないのだから。

「あなたには私の受けた精神的苦痛に対する賠償として、私の自由への解放を助勢していただきますわ」

「なにっ!? 私を捨て、国の中枢から出ていくというのか!」

「ええ。もしあなたが私の決意に異を唱えるとのことでしたら、私にも戦う意思があります。あなたの浅慮な仕打ちをすべて書き綴り、世に知らしめますわ。それはあなたの死後ですら何百年と語り継がれ、悪名はこの地に留まるでしょう」

「何と……」

 そこで椅子に腰掛け我らのやり取りをただ聞いていたラグナルが立ち上がり、労わるように私の肩へ彼の外套を掛けた。彼は優しく私に退室を促す。

 私は項垂れた王子に念押しの一言、

「ペンは剣より強いのですよ」

これを授けそこを後にした。



 夜も更け、天頂に木星が輝いている。ラグナルは若干早歩きで私を真夜中の庭園に連れ出したら、無言でこの腕を引き寄せた。

 そして何の断りもなく、私は唇を奪われる────。

──唇が離れたら、彼の潤む瞳を見つけて。

「あなたが好きだ。苦しいほどに。もう何に囚われることなく、言葉にできるんだ……!」

「私もよ。ずっと自身の心に気付けずに、待たせてしまったけれど。もう迷わないわ。私をここから連れ出して」

「戻れない処へ、連れていっても?」

「物語の続きを書いて入稿しなくてはいけないから、郵便事業の稼働しているところへお願いするわね!」

「ははっ。我が儘な姫だ。いいさ、私も熱心な一読者。敬愛する作家の望みはすべて叶えよう」

 こうして私たちは恋の逃避行、もとい取材旅行へ出た。



華麗な黒騎士に連れ去られる私は、今後生まれる世の作家たちに

新たな主題テーマを提供することとなる────。



                 ~FIN~
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

婚約者を追いかけるのはやめました

カレイ
恋愛
 公爵令嬢クレアは婚約者に振り向いて欲しかった。だから頑張って可愛くなれるように努力した。  しかし、きつい縦巻きロール、ゴリゴリに巻いた髪、匂いの強い香水、婚約者に愛されたいがためにやったことは、全て侍女たちが嘘をついてクロアにやらせていることだった。  でも前世の記憶を取り戻した今は違う。髪もメイクもそのままで十分。今さら手のひら返しをしてきた婚約者にももう興味ありません。

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

さようなら、わたくしの騎士様

夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。 その時を待っていたのだ。 クリスは知っていた。 騎士ローウェルは裏切ると。 だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

メイクした顔なんて本当の顔じゃないと婚約破棄してきた王子に、本当の顔を見せてあげることにしました。

朱之ユク
恋愛
 スカーレットは学園の卒業式を兼ねている舞踏会の日に、この国の第一王子であるパックスに婚約破棄をされてしまう。  今まで散々メイクで美しくなるのは本物の美しさではないと言われてきたスカーレットは思い切って、彼と婚約破棄することにした。  最後の最後に自分の素顔を見せた後に。  私の本当の顔を知ったからって今更よりを戻せと言われてももう遅い。  私はあなたなんかとは付き合いませんから。

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

やめてください、お姉様

桜井正宗
恋愛
 伯爵令嬢アリサ・ヴァン・エルフリートは不幸に見舞われていた。  何度お付き合いをしても婚約破棄されてしまう。  何度も何度も捨てられ、離れていく。  ふとアリサは自分の不幸な運命に疑問を抱く。  なぜ自分はこんなにも相手にされないのだろう、と。  メイドの協力を得て調査をはじめる。  すると、姉のミーシュの酷い嫌がらせが判明した。

この国において非常に珍しいとされている銀髪を持って生まれた私はあまり大切にされず育ってきたのですが……?

四季
恋愛
この国において非常に珍しいとされている銀髪を持って生まれた私、これまであまり大切にされず育ってきたのですが……?

処理中です...