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④ 分からせられた。

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 彼は私をこの状況から救い出すと約束してくれた。それからの私は彼の計らいで、使用人部屋に潜んで過ごすことに。

「準備にそう時間はかからない。耐えてください」

「構わないわ。なんとか王城に留まり策を練ろうと思っていたのだから」

 でもあなたはどうするつもり?

「あなたが手を下す必要はない。私にすべてお任せください。ああ、そうだ。あなたのお書きになった原稿をお貸しいただけるか」

「原稿? 私が書いたものと世間に知らされない限りは構わないけど……」

「悪いようには致しません。あなたは宮廷の掃除婦になりきり、殿下の動向を注視しておくように」

「? ……分かったわ」



 その三日後の夜のこと。私はほっかむりで顔をできるだけ隠し、殿下の部屋の扉が見える周辺をホウキで掃いていた。のちほど自室に戻る殿下を発見し、廊下の角に隠れ様子を見守る。

「おや、扉の隙間に紙が……」

 殿下はそう呟き、一枚の紙を手にした。何が書かれているのだろう。彼はそれを真剣に読み込んでいる。

 そして次に、周囲の床をきょろきょろと見回す。そして彼から数歩先のところに落ちている、一筆箋のサイズの紙を拾い上げた。

 不審な挙動だ。それを読んだ彼はまたその先に落ちている紙を見つけ、こちら側に向かってくる。

 しかし殿下は私の存在に勘づくことなく、床の紙を拾い上げては読み、それを繰り返し、どんどん先へ進みゆく。

「気になる……! 続きが気になるぞ!!」

────いったい何を読んでいるのだろう。

 私は忍び足で彼の後を追った。


 そこは王宮の中でも高位の者しか立ち入らない、憩いの庭へ出る屋上テラス。拾った紙面を読み、また先へ進みを繰り返した殿下が、辿り着いた先に見るのは。

 月明かりによって浮かび上がるラグナルと令嬢アデラ!

 私は彼らと殿下両方の様子を覗き見るため、柱の後ろに身を隠した。殿下も彼らに声をかけようとして、だがいったん身を潜めたようだ。なぜなら彼らがすでに会話を交わしている。私も耳をすました。

「黒騎士ラグナル。どうしてあなたがここにいるの。私、ひとりになりたいのに」

「あなたがここにいるからだ。あなたの愛らしいハミングに誘われてきたよ」

 あら? 既視感あるわ。そうだ、これは、私の書いた物語のワンシーン!? 主人公とヒロインの出会い……。

「いけないわ。私は次期王妃となる身。一夜の戯れで失うには、背負うものが大き過ぎるの」

「このようにか細く、可憐な肩に熾烈な運命を背負せるのは忍びない。私があなたをこの凍てつく檻から、放つことができたなら」

 ええっと、運命を……から、それって私の書いた主人公の台詞!

わきまえなさい。いくら冥王ハデスの再来と呼び声高いあなたであっても、私は容易く連れ出せる女ではないのよ」

「ああ、なんて妖艶な眼差しだ。あなたの気高さの前で、私はもはや無力だ」

 そう、私の理想の主人公はつれない貴婦人に愛を乞うの。まるで愛に飢えた少年のように。

「あら。まぁこの私の魅力の前では仕方ないわよねぇ」

「あなたに虚勢の仮面を剥がされてしまった。あなたになら私のすべてを打ち明けられる」

 ああ……、ラグナル。あなたはまさに物語の中の主人公……。そうね、きっと私、あなたを書いていた。私の理想の男。認めざるを得ないわ。
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