上 下
6 / 7

6枚め

しおりを挟む
「ありがとう、ステュアート」

 カーテンの裾からそっと出た私は、心を込めて礼をしました。

「あなたもお急ぎください。離縁することを一方的に発表し、アリンガム侯に大恥をかかせるのでしょう?」

「あなたはこれからどうしますの?」

「折角の、侯爵閣下と並んで記者の前に立てる機会です。思う存分おやりください」

 私の問いに答えるのを、彼はあえて避けたようでした。

「……あなたともこれで最後ね。ずいぶん長い間お世話になりましたわ。あなたはブランドンに命じられて私の機嫌を取っていたのだろうけど、私には、あなたとの時間はとても楽しいものだった」

 彼が何も言葉を口にしないのをいいことに、私は思いをつらつらと述べていました。

「見識も広がった気がして。ひとりで生きていく決心もついたわ。……私財も十分に貯められましたし!」

「あなたのお役に立てたなら何よりです」

「では、仕上げに参りましょう」

 ステュアートに手を取られ書斎を出た私は、のそりと階段を下りて行きました。

 記者が我こそ先にとホールに駆け入り声を上げます。美しい血筋の娘婿を意気揚々と見せびらかす夫の前に、私は勇んで踏み出しました。

(本当に、長かったわ。やっとここまで──……)

 夫を尻目に、私は声を張り上げました。

「記者のみなさま、本日は我がアリンガム邸までご足労いただきまして……」





 翌々日の各社新聞記事一面は、私の宣言した、夫への長文絶縁状で占められました。

 ええ、あの時の夫の顔ときたら。

「ルシールっ……貴様! なにも今ここでっ……このような!!」

 このうえなく狼狽し、ろくな言い訳もできない夫に、もしかしたら多くの貴族男性は同情心を寄せたかもしれません。

 若い貴公子のなかには「女の人は強い……」と立ち呆ける方も。その若い方々にはよく見て知っていただいて、ご夫人を大事にしていただきたいものですわね。

 この騒ぎは瞬く間に世間に広まりまして、夫が王家から小言を頂き監視を受ける結末は必定でございます。

 私が貴国へ渡ることもすべて紙面で語られております。離縁の手続きを依頼した弁護士のところまで取材がいっていたようで。

 アリンガム家この先の運命はどうであるか……私には皆目見当もつきません。

 ともあれ、まったく晴れ晴れしい気分です。思い残すことはございません。貴国ではしばらく留学生として、国の歴史と、あとは建築を学ぼうかと。以後の身の振り方を考えながら──。

(あら、扉をノックする音が……)


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どこの馬の骨とも知れない素性のわからない悪役令嬢、実はとある方のご息女だった!?

下菊みこと
恋愛
主人公が色々あって公爵令嬢として生活していたら、王太子から婚約破棄されたお話です。 王太子は過剰な制裁を受けます。可哀想です。 一方で主人公はめちゃくちゃ幸せな日々になります。 小説家になろう様でも投稿しています。

【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです

菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。 自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。 生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。 しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。 そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。 この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。

バカ王太子が国王陛下に怒られるだけ

下菊みこと
恋愛
ざまぁ有り。悪役令嬢は救われます。

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

悪役令嬢に仕立てあげられて婚約破棄の上に処刑までされて破滅しましたが、時間を巻き戻してやり直し、逆転します。

しろいるか
恋愛
王子との許婚で、幸せを約束されていたセシル。だが、没落した貴族の娘で、侍女として引き取ったシェリーの魔の手により悪役令嬢にさせられ、婚約破棄された上に処刑までされてしまう。悲しみと悔しさの中、セシルは自分自身の行いによって救ってきた魂の結晶、天使によって助け出され、時間を巻き戻してもらう。 次々に襲い掛かるシェリーの策略を切り抜け、セシルは自分の幸せを掴んでいく。そして憎しみに囚われたシェリーは……。 破滅させられた不幸な少女のやり直し短編ストーリー。人を呪わば穴二つ。

【完結】義母が斡旋した相手と婚約破棄することになりまして。~申し訳ありませんが、私は王子と結婚します~

西東友一
恋愛
義母と義理の姉妹と暮らしていた私。 義母も義姉も義妹も私をイジメてきて、雑用ばかりさせてきましたが、 結婚できる歳になったら、売り払われるように商人と結婚させられそうになったのですが・・・・・・ 申し訳ありませんが、王子と結婚します。 ※※ 別の作品だと会話が多いのですが、今回は地の文を増やして一人の少女が心の中で感じたことを書くスタイルにしてみました。 ダイジェストっぽくなったような気もしますが、それも含めてコメントいただけるとありがたいです。 この作品だけ読むだけでも、嬉しいですが、他の作品を読んだり、お気に入りしていただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。 仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!

処理中です...