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⑮ 愛しい人がみているところでするの?
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ここはパーティー会場から離れた部屋のバルコニー。真ん丸の月が浮かんでいる。夜風が気持ちいいのは肩の荷が下りたからか。
しばらくは言葉も交わさずに、星々に囲まれる月をふたりきりで、ただ眺めていた。
「ほらよ」
貝殻をいつの間にか回収していたらしい、彼は私の手にそれをぽんと乗せる。
「あ。これ、借り物だというのにすっかり忘れてたわ」
「さぁ、帰るか」
「そういえば、あなたはパーティーを何も楽しまれてないですよね」
「ずっと働かされていたからな。もう疲れたわ」
「私、これで王宮に戻っても大丈夫かしら」
「あの場にウワサ好きの連中もごろごろいたしな。誰に頼むでなくとも翌朝から早速話が出回って、とりあえずお前の汚名は晴れるだろ」
王太子とゾーエの処遇はどうなるかしらね。婚約不成立、ゾーエは実家に返されるだろう。あの子が居座る実家なんて私も二度と帰りたくないから、お父様とも縁を切らなくてはいけないかしら……。
「アルフレッドも無事に立太子するか分からねえなこれ」
「継承権2位の方がアップを始めそうですね」
それももう私には関係のない話。
「とりあえず王宮の私の部屋に帰ろうかな……。今後のことは明日からまた考えます」
そよ風を受ける彼が、ドレスに着替えた私をエスコートする。令嬢のふりをして会場を抜け、馬車にとび乗った。
ん? いや私、本物の令嬢だったわ! もうすっかり平民気分でいたから……。
「本当に疲れました……」
心地よく揺れる馬車の中、彼の肩を枕に私は即刻、眠りこけてしまったわけだけど────。
「えっ……ええええ────!!」
まっ、また朝の光と小鳥のさえずりで目覚めたら、下着姿の自分! 大きなベッドにふたつ枕!!
「いつまで寝てるつもりなんだお前は……」
デジャブ──!? 身支度を終えたエルネスト様が優雅にコーヒーを飲みながら本を読んでいる!
「なっ、なんで……また……」
「ん? お前も夜明けのコーヒー飲むか?」
「なんで私またエルネスト様の部屋にいるんですか──!?」
「お前の部屋に送り届けるなんて一言も言ってないぞ」
嫁入り前に二度も男性宅で目覚めたなんてお父様が知ったら、脳卒中を起こしてしまいます……。
「まぁでもどうせ、何もないのでしょ。もうからかうのは止めてください……って、え??」
ベッドから這い出ようとした私を、エルネスト様は突として押し倒した。
「まだ何もないぞ。まだな」
そして上にかぶさって来て────。
「やっ……。また冗談ばっかり!!」
「この状況で冗談だと思ってるなら、ずいぶん楽観的だな」
私を抑え込んだ彼は、上から不敵な笑みを浮かべる。
「………………」
「なんで抵抗しないんだ?」
「……あそこ」
彼の下で私は、ベッドの反対側の壁に掛かった、小さな肖像画を指さした。
「少し遠いからよく見えないけど、あれ女性の画ですよね」
「……ああ」
「彼女が見てるところでするんですか?」
「……嫌なのか?」
「ええ~~……私のいいの嫌なのなんて最初から聞く気ないくせに」
私が“いいか・嫌か”ではなくて、あなたがいいのか聞いているのに。
……あれ、私自身はどうなんだろう。からかわれるの嫌じゃないの? からかわれてなければいいの? この人は別に、私の結婚相手じゃないのに……。
「でも今回うまくいったのは、あなたが助けてくれたおかげですから。キスくらいならOKです! もう1回しちゃってますしね!」
「この体勢でキスくらいならって上から言える神経が分からない」
「下から上から言ってすみません?」
「もういい口閉じろ」
「~~~~っ」
もう1回しちゃってるから何回したってきっと一緒! でもなんでキスするのか分からない……この人はキス魔なの? そんなこと聞けない、絶対怒られる。でもなんでか知りたいっ……。ああもう顔が……唇がすぐそこに……。
────きゅるるる~~。
「キュル? なんだ?」
「おっ……」
「お?」
「お腹痛い……」
「はぁ!?」
「お腹痛い~~っ!! おっ、お手洗いはどこですかっ!」
「あっ、だからお前、チョークなんか食うから!! 出てまっすぐ左だ!」
「お手洗いお借りしますぅ……!」
「ひとりでいけるかっ?」
「大、丈、夫っ……」
***
「まったく。ふざけるのも大概にしろ」
「だって……カルシウムなのに……」
なんとかギリギリ無事にコトは済み、今は休憩のため、彼のベッドで右側を下にして寝ている。お腹痛い時は右が下、聖女の豆知識だ。
「昼過ぎまで人のベッド陣取るとか、いったいお前は何様なんだ」
隣で寝っ転がった彼が本を読みながら延々と嫌味をぶつけてくる。病人相手に、大人げないです。
「もうすぐ復活するので、そうしたら王宮の私の部屋まで送ってください……」
「……はァ……」
「…………」
やっぱりこのベッドから小さな肖像画が目に映る。ここからだとうっすらだけど、穏やかな微笑みをたたえる、淑やかそうな女性。
私はそれをぼーっと見ていた。少しちくちくするような胸の重みを抱えつつも、それがこの隣にいる彼を知る手掛かりになるのだろうと、縋りつきたい思いに駆られている。
あれ? 私の目的は達成したのだから、もうこの人との縁も、これで終わりなのでは……。
「やっぱりまだ身体がだるいです……もうひと眠りします~~」
「ああ、おやすみ」
これからのことはまた後で。今はこの暖かいところで、ゆったり時を過ごしましょう。
~to be continued??
しばらくは言葉も交わさずに、星々に囲まれる月をふたりきりで、ただ眺めていた。
「ほらよ」
貝殻をいつの間にか回収していたらしい、彼は私の手にそれをぽんと乗せる。
「あ。これ、借り物だというのにすっかり忘れてたわ」
「さぁ、帰るか」
「そういえば、あなたはパーティーを何も楽しまれてないですよね」
「ずっと働かされていたからな。もう疲れたわ」
「私、これで王宮に戻っても大丈夫かしら」
「あの場にウワサ好きの連中もごろごろいたしな。誰に頼むでなくとも翌朝から早速話が出回って、とりあえずお前の汚名は晴れるだろ」
王太子とゾーエの処遇はどうなるかしらね。婚約不成立、ゾーエは実家に返されるだろう。あの子が居座る実家なんて私も二度と帰りたくないから、お父様とも縁を切らなくてはいけないかしら……。
「アルフレッドも無事に立太子するか分からねえなこれ」
「継承権2位の方がアップを始めそうですね」
それももう私には関係のない話。
「とりあえず王宮の私の部屋に帰ろうかな……。今後のことは明日からまた考えます」
そよ風を受ける彼が、ドレスに着替えた私をエスコートする。令嬢のふりをして会場を抜け、馬車にとび乗った。
ん? いや私、本物の令嬢だったわ! もうすっかり平民気分でいたから……。
「本当に疲れました……」
心地よく揺れる馬車の中、彼の肩を枕に私は即刻、眠りこけてしまったわけだけど────。
「えっ……ええええ────!!」
まっ、また朝の光と小鳥のさえずりで目覚めたら、下着姿の自分! 大きなベッドにふたつ枕!!
「いつまで寝てるつもりなんだお前は……」
デジャブ──!? 身支度を終えたエルネスト様が優雅にコーヒーを飲みながら本を読んでいる!
「なっ、なんで……また……」
「ん? お前も夜明けのコーヒー飲むか?」
「なんで私またエルネスト様の部屋にいるんですか──!?」
「お前の部屋に送り届けるなんて一言も言ってないぞ」
嫁入り前に二度も男性宅で目覚めたなんてお父様が知ったら、脳卒中を起こしてしまいます……。
「まぁでもどうせ、何もないのでしょ。もうからかうのは止めてください……って、え??」
ベッドから這い出ようとした私を、エルネスト様は突として押し倒した。
「まだ何もないぞ。まだな」
そして上にかぶさって来て────。
「やっ……。また冗談ばっかり!!」
「この状況で冗談だと思ってるなら、ずいぶん楽観的だな」
私を抑え込んだ彼は、上から不敵な笑みを浮かべる。
「………………」
「なんで抵抗しないんだ?」
「……あそこ」
彼の下で私は、ベッドの反対側の壁に掛かった、小さな肖像画を指さした。
「少し遠いからよく見えないけど、あれ女性の画ですよね」
「……ああ」
「彼女が見てるところでするんですか?」
「……嫌なのか?」
「ええ~~……私のいいの嫌なのなんて最初から聞く気ないくせに」
私が“いいか・嫌か”ではなくて、あなたがいいのか聞いているのに。
……あれ、私自身はどうなんだろう。からかわれるの嫌じゃないの? からかわれてなければいいの? この人は別に、私の結婚相手じゃないのに……。
「でも今回うまくいったのは、あなたが助けてくれたおかげですから。キスくらいならOKです! もう1回しちゃってますしね!」
「この体勢でキスくらいならって上から言える神経が分からない」
「下から上から言ってすみません?」
「もういい口閉じろ」
「~~~~っ」
もう1回しちゃってるから何回したってきっと一緒! でもなんでキスするのか分からない……この人はキス魔なの? そんなこと聞けない、絶対怒られる。でもなんでか知りたいっ……。ああもう顔が……唇がすぐそこに……。
────きゅるるる~~。
「キュル? なんだ?」
「おっ……」
「お?」
「お腹痛い……」
「はぁ!?」
「お腹痛い~~っ!! おっ、お手洗いはどこですかっ!」
「あっ、だからお前、チョークなんか食うから!! 出てまっすぐ左だ!」
「お手洗いお借りしますぅ……!」
「ひとりでいけるかっ?」
「大、丈、夫っ……」
***
「まったく。ふざけるのも大概にしろ」
「だって……カルシウムなのに……」
なんとかギリギリ無事にコトは済み、今は休憩のため、彼のベッドで右側を下にして寝ている。お腹痛い時は右が下、聖女の豆知識だ。
「昼過ぎまで人のベッド陣取るとか、いったいお前は何様なんだ」
隣で寝っ転がった彼が本を読みながら延々と嫌味をぶつけてくる。病人相手に、大人げないです。
「もうすぐ復活するので、そうしたら王宮の私の部屋まで送ってください……」
「……はァ……」
「…………」
やっぱりこのベッドから小さな肖像画が目に映る。ここからだとうっすらだけど、穏やかな微笑みをたたえる、淑やかそうな女性。
私はそれをぼーっと見ていた。少しちくちくするような胸の重みを抱えつつも、それがこの隣にいる彼を知る手掛かりになるのだろうと、縋りつきたい思いに駆られている。
あれ? 私の目的は達成したのだから、もうこの人との縁も、これで終わりなのでは……。
「やっぱりまだ身体がだるいです……もうひと眠りします~~」
「ああ、おやすみ」
これからのことはまた後で。今はこの暖かいところで、ゆったり時を過ごしましょう。
~to be continued??
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