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第6章 侵食
第1話~抱き締められて~
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エントランスの向こうから一斉にたかれる無数のフラッシュ。制止する警備員達を今にもなぎ倒し、突っ込んできそうになっている記者の群れに叶子は怯えた。
ブランドンは叶子を抱き締めるとすぐに反転し、エントランスに背中を向けるようにして彼女をカメラから遠ざけた。後頭部を手で押さえ込まれ、ブランドンの胸板に無理に顔を埋めさせられる。両手で胸元を力いっぱい押し返してもびくともせず、今置かれている自分の状況を考えると呼吸もままならなかった。
「やっ、止めて下さい! 離してっ!!」
ブランドンの胸におさえ付けられたまま、くぐもった声で訴えかけた。
「いいからじっとしてろ!」
「っ! 出来るわけ――!」
「いいから! ジャックに会いたいんだろ!?」
「それとこれとっ――」
「関係あるんだよ! とにかくじっとしてろって! ……俺を信じろ!!」
「っ、」
――俺を信じろ!
ブランドンの力強い言葉。それはどこか、守られている様な錯覚を起こさせた。
「……――」
「……よし、いい子だ。そのまま手を俺の背中に回して?」
徐々に抵抗の力が弱まってきたのを感じると、おさえ込んでいたブランドンの力も弱まり、後頭部に置いた手で何度も叶子の頭を撫でている。それはまるで、小さな子供をあやしている様だった。
叶子は少し震えながらも小さくコクンと頷くと、そろりとブランドンの背中に手を回した。
「いいぞ、しばらくそのままで。――後でちゃんとご褒美をやるからな」
先程までとは違うブランドンの優しい声に、怯えていた気持ちがすこしづつ和らいでいく。ブランドンは更に叶子をキツク抱き締め、叶子は言われたとおりにブランドンに身を委ねた。
トクントクンと聞こえるブランドンの胸の鼓動を聞いていると、自分の感情が落ち着いていくのが良くわかる。あれほど拒絶していたのが嘘のようにだんだんと安心感で満たされ、騒がしかった周りの声も徐々に耳に入らなくなった。
(何だろう? この安心感。この人はジャックじゃないのに、凄く……あったかい)
ゆっくりと叶子の瞼が閉じられていく。ジャックに振り回されっぱなしで精神的に辛くなっていたのが、ブランドンの腕の中でその傷が癒えていく様だった。
◇◆◇
「悪いな。あんな事に付き合わせてしまって」
社長室に二人で入ると、ブランドンがソファーに向かって手を差し出し、そこへ掛ける様に促した。
「い、いえ。ちょっとびっくりしましたけど」
叶子は頭を少し下げると、部屋の中央に位置する大きなソファーに腰を沈めた。
「はは、そうだろうな。悪い、悪い」
ブランドンはネクタイを緩めながら部屋の隅にあるスリムなクローゼットを開け、脱いだジャケットをその中にしまいこんだ。
「あの、何があったんでしょう? あの記者たちは一体?」
「ん? ジャックから聞いてない?」
「……いえ、何も」
そう言われた叶子は一気に表情が曇り、そのまま視線を落とした。ブランドンの言い方だと、恋人だったら事情を知ってて当然だと言われている様で胸が痛くなる。部外者があまり首を突っ込むのはどうかと思っていたが、つまはじきにされるのが耐えられなくなった叶子は膝の上に組んだ手をぎゅっと握り締め、一体何が起こっているのか聞かなければと顔を上げた。
「何があったのか教えてく……、――っ!?」
ブランドンの方を見ると、いつの間にかワイシャツを脱いで上半身裸になっている。浅黒く、筋肉質な細身の体が目の前に惜しげもなくさらされ、叶子は慌てて視線を逸らした。
「なっ……! 何で脱いでるんですかっ!?」
「は? 帰ろうと思って着替えてるんだが?」
「あ、ぁぁあああ、あっち行って着替えてください!」
顔を上げられなくなった叶子はそのまま床を見ながら、クローゼットの横にある籐製のパーテーションを指差した。
「面倒くせーなぁ。見ても減るもんじゃなし」
「そそそ、それ! ブランドンさんが言うセリフじゃ……に、日本語の使い方おかしいです!」
ブランドンはズボっと頭から白のTシャツを着込むとクローゼットからボトムを取り出し、言われた通りにパーテーションの向こう側へと移動した。
「――カナコ? マジで何も聞いてないのか?」
パーテーションの向こうで衣擦れの音と、うっすらと動く影が見える。
「は、はい。――何も」
「……ふぅーん」
「あの、差し支えなかったら事情を教えて下さいませんか?」
「――OK、歩きながら話そうか」
着替えを終え、パーテーションから出てきたブランドンは残りの荷物をクローゼットから出すと、顎を使って「行くぞ」と合図をした。
ブランドンは叶子を抱き締めるとすぐに反転し、エントランスに背中を向けるようにして彼女をカメラから遠ざけた。後頭部を手で押さえ込まれ、ブランドンの胸板に無理に顔を埋めさせられる。両手で胸元を力いっぱい押し返してもびくともせず、今置かれている自分の状況を考えると呼吸もままならなかった。
「やっ、止めて下さい! 離してっ!!」
ブランドンの胸におさえ付けられたまま、くぐもった声で訴えかけた。
「いいからじっとしてろ!」
「っ! 出来るわけ――!」
「いいから! ジャックに会いたいんだろ!?」
「それとこれとっ――」
「関係あるんだよ! とにかくじっとしてろって! ……俺を信じろ!!」
「っ、」
――俺を信じろ!
ブランドンの力強い言葉。それはどこか、守られている様な錯覚を起こさせた。
「……――」
「……よし、いい子だ。そのまま手を俺の背中に回して?」
徐々に抵抗の力が弱まってきたのを感じると、おさえ込んでいたブランドンの力も弱まり、後頭部に置いた手で何度も叶子の頭を撫でている。それはまるで、小さな子供をあやしている様だった。
叶子は少し震えながらも小さくコクンと頷くと、そろりとブランドンの背中に手を回した。
「いいぞ、しばらくそのままで。――後でちゃんとご褒美をやるからな」
先程までとは違うブランドンの優しい声に、怯えていた気持ちがすこしづつ和らいでいく。ブランドンは更に叶子をキツク抱き締め、叶子は言われたとおりにブランドンに身を委ねた。
トクントクンと聞こえるブランドンの胸の鼓動を聞いていると、自分の感情が落ち着いていくのが良くわかる。あれほど拒絶していたのが嘘のようにだんだんと安心感で満たされ、騒がしかった周りの声も徐々に耳に入らなくなった。
(何だろう? この安心感。この人はジャックじゃないのに、凄く……あったかい)
ゆっくりと叶子の瞼が閉じられていく。ジャックに振り回されっぱなしで精神的に辛くなっていたのが、ブランドンの腕の中でその傷が癒えていく様だった。
◇◆◇
「悪いな。あんな事に付き合わせてしまって」
社長室に二人で入ると、ブランドンがソファーに向かって手を差し出し、そこへ掛ける様に促した。
「い、いえ。ちょっとびっくりしましたけど」
叶子は頭を少し下げると、部屋の中央に位置する大きなソファーに腰を沈めた。
「はは、そうだろうな。悪い、悪い」
ブランドンはネクタイを緩めながら部屋の隅にあるスリムなクローゼットを開け、脱いだジャケットをその中にしまいこんだ。
「あの、何があったんでしょう? あの記者たちは一体?」
「ん? ジャックから聞いてない?」
「……いえ、何も」
そう言われた叶子は一気に表情が曇り、そのまま視線を落とした。ブランドンの言い方だと、恋人だったら事情を知ってて当然だと言われている様で胸が痛くなる。部外者があまり首を突っ込むのはどうかと思っていたが、つまはじきにされるのが耐えられなくなった叶子は膝の上に組んだ手をぎゅっと握り締め、一体何が起こっているのか聞かなければと顔を上げた。
「何があったのか教えてく……、――っ!?」
ブランドンの方を見ると、いつの間にかワイシャツを脱いで上半身裸になっている。浅黒く、筋肉質な細身の体が目の前に惜しげもなくさらされ、叶子は慌てて視線を逸らした。
「なっ……! 何で脱いでるんですかっ!?」
「は? 帰ろうと思って着替えてるんだが?」
「あ、ぁぁあああ、あっち行って着替えてください!」
顔を上げられなくなった叶子はそのまま床を見ながら、クローゼットの横にある籐製のパーテーションを指差した。
「面倒くせーなぁ。見ても減るもんじゃなし」
「そそそ、それ! ブランドンさんが言うセリフじゃ……に、日本語の使い方おかしいです!」
ブランドンはズボっと頭から白のTシャツを着込むとクローゼットからボトムを取り出し、言われた通りにパーテーションの向こう側へと移動した。
「――カナコ? マジで何も聞いてないのか?」
パーテーションの向こうで衣擦れの音と、うっすらと動く影が見える。
「は、はい。――何も」
「……ふぅーん」
「あの、差し支えなかったら事情を教えて下さいませんか?」
「――OK、歩きながら話そうか」
着替えを終え、パーテーションから出てきたブランドンは残りの荷物をクローゼットから出すと、顎を使って「行くぞ」と合図をした。
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