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第3章 噛み合わない歯車
第23話~過去の清算~
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食事を終え、いつもの様にジャックの家で過ごす事になった。二人楽しく談笑しながら長い廊下を歩きリビングの扉を開ける。すると、誰も居ないと思っていた室内から暖かい空気が流れ出し、その事から既にそこに誰かが居る事を知らされた。
リビングの中央に置かれたソファーに座っている人影が、ゆっくりと二人の方を振り返る。そして、その人物は二人に冷たい眼差しを向けた。
「カレン? 帰国は明日じゃ……?」
「急遽今朝帰ってきたのよ」
叶子は思わず繋いでいた手を解こうとしたが、逆にジャックに握り締められた。不安そうな面持ちでジャックを見上げると、“大丈夫だよ”と言わんばかりに彼の口角がキュッと上がった。
カレンは立ち上がり、腕を組みながら二人の方へゆっくりと近づいてくる。その冷ややかな視線は二人の繋がれている手にじっとりと注がれていた。
「フン、お盛んなことね。昨晩も帰ってこなかったって言うのに、まだヤり足らないわけ?」
「君には関係の無い事だろう、カレン。……それに、本当にそう思うなら今すぐここから立ち去るべきじゃないのかな?」
「――っ!」
明らかにカレンの様子が変わる、その怒りの矛先は当然の様に叶子に向けられた。
「せいぜい今のうちに楽しむがいいわ。もうすぐジャックはアメリカに戻ってくるんだしね!」
「カ、カレン!」
「……え?」
(彼がアメリカへ――帰る?)
怒気をはらんだカレンのその言葉に驚愕を覚える。きっと聞き間違えたのだと思いたかったが、慌ててカレンの言葉を遮ったジャックのその態度がそうではないのだと裏付ける結果となった。
カレンは二人の様子を見て満足そうに笑っている。そして、ここぞとばかりに叶子を煽るような言葉の羅列が続いた。
「あら? ジャック。子猫ちゃんにまだ言って無かったの? ダメじゃないこういう事はちゃんと言っておかないと。……それとも、この子にはそんな大事な話をする必要が無いとでも思っていたのかしら?」
「……」
容赦ないカレンの口撃にとうとうジャックは口を閉ざしてしまう。しっかりと繋がれていたはずの手はいつの間にか解かれ、側にいるはずのジャックの手は何故か遠くに感じる。今の叶子にはその手を捕まえる事が出来なかった。
カレンは腕を組んだまま叶子の前に立ち塞がると、更に追い打ちをかけるような言葉を吐いた。
「ふん、丁度いいわ。ついでに言っておくけど、あなたがジャックにフラれた日を覚えてる? 彼が何で貴女をふったのか理由はわかっているのかしらね?」
「カレン!」
「あの日、ジャックは貴女じゃなく私を選んだの。あの前の晩、私達は愛し合ったのよ。わかる? セックスしたの」
「っ、」
「なっ、カレン!! いい加減に――!」
「なぁんだ。その様子じゃこの話も初耳? 貴女達の関係って何なの? 包み隠さず話す事がお互いの信頼関係を築くものだと思うけど?」
絶句している叶子を見て、カレンはいい気味と言わんばかりに嘲笑っていた。
「もう……うんざりだ。今すぐここから出て行ってくれ!」
「言われなくても出て行くわよ。ふん、自分だけ幸せになろうなんて虫が良すぎるわ。……あぁ、そうだジャック。私、マットと正式に離婚れたから」
「……え?」
カレンのその言葉にジャックは驚きのあまり目を見開いている。彼からしてもその事は想定外だったという事だろう。
叶子は、カレンは既に結婚していると以前グレースが言っていたのを思い出した。あの時に感じていたカレンに対する嫉妬心はその時既に薄れていたのだが、その人と正式に離婚れたと知り身震いが止まらない。カレンが言った言葉の持つ意味は想像するに容易かった。
カレンは叶子を鋭い目で睨みつけ、言葉を続けた。
「これ以上、貴方に変な虫がつかないように見張ってなきゃね」
「カレン。前にも言った通り、僕は君とは――」
「貴方のお父様は何て言うかしら?」
眉を顰めるジャックに見向きもせず、カレンは言葉を遮った。
「それに、いずれ嫌でも貴方が私を必要とする時がやって来るはずよ。自分でもわかっているんでしょ?」
言いたいことを全部言うと、カレンは二人の間を通り抜け扉に手を掛けた。
「じゃあね子猫ちゃん。今のうちにせいぜい楽しみなさい」
まるで勝ち誇るかの様な面持ちでそう言うと、扉の向こうへと姿を消した。
「――」
叶子は今ここで何が起こったのかわからなかった。いや、わかりたく無かっただけなのかもしれない。カレンの言った言葉に対し、ジャックは一切否定する事も無ければ、はっきりと拒絶もしない。ただ、ジャックの口から「カレンの言った事はデタラメだ」と、いつか彼に着せられたおかしな噂の真相を尋ねた時の様に今ここではっきりと否定して欲しかった。
真相はどうであれ、彼の口からその言葉を聞くだけで叶子は救われるのだから。
ジャックはそんな叶子の気持ちを知ってか知らずか、ただ沈黙を貫いている。
そんなジャックを見るのが辛くて、そんな大事な話をカレンから聞かされたという事実が悲しくて、呼吸をするのもままならない。
時だけが刻々と過ぎていく。静まり返った室内で、二人は互いの目を見ることも出来ず、ただ言葉を無くしていた。
リビングの中央に置かれたソファーに座っている人影が、ゆっくりと二人の方を振り返る。そして、その人物は二人に冷たい眼差しを向けた。
「カレン? 帰国は明日じゃ……?」
「急遽今朝帰ってきたのよ」
叶子は思わず繋いでいた手を解こうとしたが、逆にジャックに握り締められた。不安そうな面持ちでジャックを見上げると、“大丈夫だよ”と言わんばかりに彼の口角がキュッと上がった。
カレンは立ち上がり、腕を組みながら二人の方へゆっくりと近づいてくる。その冷ややかな視線は二人の繋がれている手にじっとりと注がれていた。
「フン、お盛んなことね。昨晩も帰ってこなかったって言うのに、まだヤり足らないわけ?」
「君には関係の無い事だろう、カレン。……それに、本当にそう思うなら今すぐここから立ち去るべきじゃないのかな?」
「――っ!」
明らかにカレンの様子が変わる、その怒りの矛先は当然の様に叶子に向けられた。
「せいぜい今のうちに楽しむがいいわ。もうすぐジャックはアメリカに戻ってくるんだしね!」
「カ、カレン!」
「……え?」
(彼がアメリカへ――帰る?)
怒気をはらんだカレンのその言葉に驚愕を覚える。きっと聞き間違えたのだと思いたかったが、慌ててカレンの言葉を遮ったジャックのその態度がそうではないのだと裏付ける結果となった。
カレンは二人の様子を見て満足そうに笑っている。そして、ここぞとばかりに叶子を煽るような言葉の羅列が続いた。
「あら? ジャック。子猫ちゃんにまだ言って無かったの? ダメじゃないこういう事はちゃんと言っておかないと。……それとも、この子にはそんな大事な話をする必要が無いとでも思っていたのかしら?」
「……」
容赦ないカレンの口撃にとうとうジャックは口を閉ざしてしまう。しっかりと繋がれていたはずの手はいつの間にか解かれ、側にいるはずのジャックの手は何故か遠くに感じる。今の叶子にはその手を捕まえる事が出来なかった。
カレンは腕を組んだまま叶子の前に立ち塞がると、更に追い打ちをかけるような言葉を吐いた。
「ふん、丁度いいわ。ついでに言っておくけど、あなたがジャックにフラれた日を覚えてる? 彼が何で貴女をふったのか理由はわかっているのかしらね?」
「カレン!」
「あの日、ジャックは貴女じゃなく私を選んだの。あの前の晩、私達は愛し合ったのよ。わかる? セックスしたの」
「っ、」
「なっ、カレン!! いい加減に――!」
「なぁんだ。その様子じゃこの話も初耳? 貴女達の関係って何なの? 包み隠さず話す事がお互いの信頼関係を築くものだと思うけど?」
絶句している叶子を見て、カレンはいい気味と言わんばかりに嘲笑っていた。
「もう……うんざりだ。今すぐここから出て行ってくれ!」
「言われなくても出て行くわよ。ふん、自分だけ幸せになろうなんて虫が良すぎるわ。……あぁ、そうだジャック。私、マットと正式に離婚れたから」
「……え?」
カレンのその言葉にジャックは驚きのあまり目を見開いている。彼からしてもその事は想定外だったという事だろう。
叶子は、カレンは既に結婚していると以前グレースが言っていたのを思い出した。あの時に感じていたカレンに対する嫉妬心はその時既に薄れていたのだが、その人と正式に離婚れたと知り身震いが止まらない。カレンが言った言葉の持つ意味は想像するに容易かった。
カレンは叶子を鋭い目で睨みつけ、言葉を続けた。
「これ以上、貴方に変な虫がつかないように見張ってなきゃね」
「カレン。前にも言った通り、僕は君とは――」
「貴方のお父様は何て言うかしら?」
眉を顰めるジャックに見向きもせず、カレンは言葉を遮った。
「それに、いずれ嫌でも貴方が私を必要とする時がやって来るはずよ。自分でもわかっているんでしょ?」
言いたいことを全部言うと、カレンは二人の間を通り抜け扉に手を掛けた。
「じゃあね子猫ちゃん。今のうちにせいぜい楽しみなさい」
まるで勝ち誇るかの様な面持ちでそう言うと、扉の向こうへと姿を消した。
「――」
叶子は今ここで何が起こったのかわからなかった。いや、わかりたく無かっただけなのかもしれない。カレンの言った言葉に対し、ジャックは一切否定する事も無ければ、はっきりと拒絶もしない。ただ、ジャックの口から「カレンの言った事はデタラメだ」と、いつか彼に着せられたおかしな噂の真相を尋ねた時の様に今ここではっきりと否定して欲しかった。
真相はどうであれ、彼の口からその言葉を聞くだけで叶子は救われるのだから。
ジャックはそんな叶子の気持ちを知ってか知らずか、ただ沈黙を貫いている。
そんなジャックを見るのが辛くて、そんな大事な話をカレンから聞かされたという事実が悲しくて、呼吸をするのもままならない。
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