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第1章 導き
第42話~魔法の箱~
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大画面で見る映画の迫力にいつしか飲み込まれ、彼が横に居る事も今彼の部屋に居るという事も忘れ、映画の世界に入り込んでしまっていた。
エンドロールが終わってその事に気付くと、映画の余韻に浸ったまま隣に座るジャックに目を向ける。
「?」
彼女の目の高さまで上げられた彼の両手は、何かを掬うような形を作って掌を上に向けていた。
キョトンとしている叶子を見て、ジャックはどこか嬉しそうな表情をしている。叶子が自分の手に注目しているのを確認すると広げた手の平をもう一方の手でくるりと覆い、そして再び両方の手の平を上に向けるようにして見せた。すると、先ほどまでは何もなかった彼のその大きな手の上に、金色のリボンがかかった小さな黒い箱が突如現れ出た。
「わぁ、凄い!」
みるみる明るくなる叶子の表情に、ジャックはとても満足している様子であった。
「どうやったの?」
突然見せられた手品に興奮したのか、ジャックに対していつもは敬語で話していたのが思わずタメ口になっているのにも気付いていない。彼の手を上から見たり下を覗き込んでみたりと、どうやってやったのかを必死で暴こうとしていた。すると、頭上から特大の溜息と共に、つまらなさそうな声が聞こえてきた。
「そこなの?」
「え?」
肩透かしをくらったと言わんばかりの表情でそう言った。一体何を間違ってしまったのだろう。何故そんな風に言うのか、叶子は落ち着いて考えてみた。
「――。あ、コレ?」
掌に乗った小さな箱を指差した。
「そ」
「コレ、さっき隣の部屋にあったチョコじゃないんですか?」
「違うよ」
「え? じゃあ??」
何が言いたいのかさっぱりわからず、首を傾げながらジャックを見た。そんな叶子の様子に業を煮やしたのか、ジャックは彼女の手を取るとその小さな箱を叶子の手の上に置いた。
まだ事の自体を把握していないであろう叶子に、その小さな箱を開けるよう促した。
「開けてみて」
「え? あ……私に??」
幾分拍子抜けしたような彼の様子が見てとれる。コクコクと頷いて初めて、自分へのプレゼントなのだということに気が付いた。
何が入ってるのだろうかとドキドキしながら、言われた通りに金色のリボンをスルスルと解き始める。
「――ん? やっぱりチョコ??」
「うん」
箱の中身は形がバラバラなチョコレートが四つ。彼は少し照れているのか、瞬きの回数が格段に増えているのがわかった。
食べろという仕草をジャックがするので、叶子はその歪な形のチョコを一粒口に放り込んだ。
途端、片方の頬を膨らませながら眉間にしわを寄せる。お世辞にも、美味しいものを食べている時にする表情ではないということは誰が見ても一目瞭然だった。
「おいしくない?」
「か、かたひ」
「あ、やっぱり?」
「形もなんだか変わってるし、これ一体どこで買ったんですか?」
「……」
「?? ――あっ」
一瞬、むっとした顔になったかと思うと、何も言わずに残りのチョコを叶子の手から取り上げ背中の後ろに隠された。自分は何も用意していなかったのだから偉そうに批評できる立場では無い。例え不味かったとしても顔に出す事は愚か、口に出すなんてもってのほかだ。
せっかく自分の為に用意してくれたというのに、調子に乗って口を滑らせ、機嫌を損ねてしまった。気遣いの感じられない自分の言動に叶子は激しく後悔した。
だが、いつもおいしい食事をチョイスする彼にしては本当に意外で、もしかして何か理由でもあるのかという思いもあっての発言だった。
とにかく、何とか臍を曲げてしまったジャックのご機嫌を取らなければと、思った事を率直に言うことにした。
「……あ! 味はおいしいですよ!」
「また嘘吐いてる」
「嘘じゃないですって!」
「そりゃぁ――、材料自体はグレースが選んだいいものを使ってるから、下手でもそれなりにおいしいかもしれないけどね」
映画を観るために落とされた照明は、まだ灯されていない。薄暗くてわかりにくいものの、ジャックの顔が心なしか赤くなっている様な気がした。
――グレースが用意した材料?
――下手でもそれなり?
先ほど、彼の言ったセリフをもう一度じっくり考えてみる。
「……、――っ!? ま、まさかコレ、貴方が作ったとか??」
「……」
背中に箱を隠しながら顔を背け、口を尖らせている彼の態度を見ると、やはりこれは彼が作ったのだと確信した。
(え!! 嘘!? か、彼がチョコを……!? キッチンでエプロンしてテンパリングとかするの??)
にわかに信じられず、頭の中が一気に騒がしくなる。慌てふためいてまともな思考が出来なくなっていた。
妄想を一通り終えた後、それよりも何よりも何かいい言い訳をしなければと考えたがいい言葉が浮かばない。もし、自分が人にチョコを作ってあげて、あんな微妙な事言われたら傷つきすぎてきっと立ち直れない。
「あ、あのー。もう一個食べたいなぁー?」
何て言えばこの場を切り抜けられるかと必死で捻り出したものの、こんな台詞しか思い浮かばなかった。上目遣いで彼にお願いするが、完全に拗ねてしまった彼は顔をフンッと逸らしたまま箱を渡す気は全く無いようだ。
こうなったら実力行使に出るしかないと、叶子は賭けに出た。
「……あっ! あのCD、私も持ってるかもー?」
ジャックの後ろにあるデスクを指差し、彼の気を逸らそうとする。完全な棒読みだったと言うのに、彼はそれに釣られて後ろを振り返った。
「ん? どれ? ……、――あ! こら!」
身体を捻った事で後ろ手に持ったチョコレートの箱の姿が見えた。油断しているその隙を狙って、そーっとジャックの手にある箱を奪おうと試みるが、すぐにそれもばれてしまった。
ジャックは腕のリーチの長さを生かし、上に上げたり後方にぐんと離したりと、決して叶子に取られまいと抵抗した。
「もう! ダメだってば!」
「いいじゃない! それ私にくれたものでしょう?」
ジャックと叶子は、まるで小さな子供が無邪気にじゃれあっているかの様にソファーの上でその小さな箱の争奪戦を始めた。
そして、気付かぬうちにどんどん二人の距離が狭まって行った。
エンドロールが終わってその事に気付くと、映画の余韻に浸ったまま隣に座るジャックに目を向ける。
「?」
彼女の目の高さまで上げられた彼の両手は、何かを掬うような形を作って掌を上に向けていた。
キョトンとしている叶子を見て、ジャックはどこか嬉しそうな表情をしている。叶子が自分の手に注目しているのを確認すると広げた手の平をもう一方の手でくるりと覆い、そして再び両方の手の平を上に向けるようにして見せた。すると、先ほどまでは何もなかった彼のその大きな手の上に、金色のリボンがかかった小さな黒い箱が突如現れ出た。
「わぁ、凄い!」
みるみる明るくなる叶子の表情に、ジャックはとても満足している様子であった。
「どうやったの?」
突然見せられた手品に興奮したのか、ジャックに対していつもは敬語で話していたのが思わずタメ口になっているのにも気付いていない。彼の手を上から見たり下を覗き込んでみたりと、どうやってやったのかを必死で暴こうとしていた。すると、頭上から特大の溜息と共に、つまらなさそうな声が聞こえてきた。
「そこなの?」
「え?」
肩透かしをくらったと言わんばかりの表情でそう言った。一体何を間違ってしまったのだろう。何故そんな風に言うのか、叶子は落ち着いて考えてみた。
「――。あ、コレ?」
掌に乗った小さな箱を指差した。
「そ」
「コレ、さっき隣の部屋にあったチョコじゃないんですか?」
「違うよ」
「え? じゃあ??」
何が言いたいのかさっぱりわからず、首を傾げながらジャックを見た。そんな叶子の様子に業を煮やしたのか、ジャックは彼女の手を取るとその小さな箱を叶子の手の上に置いた。
まだ事の自体を把握していないであろう叶子に、その小さな箱を開けるよう促した。
「開けてみて」
「え? あ……私に??」
幾分拍子抜けしたような彼の様子が見てとれる。コクコクと頷いて初めて、自分へのプレゼントなのだということに気が付いた。
何が入ってるのだろうかとドキドキしながら、言われた通りに金色のリボンをスルスルと解き始める。
「――ん? やっぱりチョコ??」
「うん」
箱の中身は形がバラバラなチョコレートが四つ。彼は少し照れているのか、瞬きの回数が格段に増えているのがわかった。
食べろという仕草をジャックがするので、叶子はその歪な形のチョコを一粒口に放り込んだ。
途端、片方の頬を膨らませながら眉間にしわを寄せる。お世辞にも、美味しいものを食べている時にする表情ではないということは誰が見ても一目瞭然だった。
「おいしくない?」
「か、かたひ」
「あ、やっぱり?」
「形もなんだか変わってるし、これ一体どこで買ったんですか?」
「……」
「?? ――あっ」
一瞬、むっとした顔になったかと思うと、何も言わずに残りのチョコを叶子の手から取り上げ背中の後ろに隠された。自分は何も用意していなかったのだから偉そうに批評できる立場では無い。例え不味かったとしても顔に出す事は愚か、口に出すなんてもってのほかだ。
せっかく自分の為に用意してくれたというのに、調子に乗って口を滑らせ、機嫌を損ねてしまった。気遣いの感じられない自分の言動に叶子は激しく後悔した。
だが、いつもおいしい食事をチョイスする彼にしては本当に意外で、もしかして何か理由でもあるのかという思いもあっての発言だった。
とにかく、何とか臍を曲げてしまったジャックのご機嫌を取らなければと、思った事を率直に言うことにした。
「……あ! 味はおいしいですよ!」
「また嘘吐いてる」
「嘘じゃないですって!」
「そりゃぁ――、材料自体はグレースが選んだいいものを使ってるから、下手でもそれなりにおいしいかもしれないけどね」
映画を観るために落とされた照明は、まだ灯されていない。薄暗くてわかりにくいものの、ジャックの顔が心なしか赤くなっている様な気がした。
――グレースが用意した材料?
――下手でもそれなり?
先ほど、彼の言ったセリフをもう一度じっくり考えてみる。
「……、――っ!? ま、まさかコレ、貴方が作ったとか??」
「……」
背中に箱を隠しながら顔を背け、口を尖らせている彼の態度を見ると、やはりこれは彼が作ったのだと確信した。
(え!! 嘘!? か、彼がチョコを……!? キッチンでエプロンしてテンパリングとかするの??)
にわかに信じられず、頭の中が一気に騒がしくなる。慌てふためいてまともな思考が出来なくなっていた。
妄想を一通り終えた後、それよりも何よりも何かいい言い訳をしなければと考えたがいい言葉が浮かばない。もし、自分が人にチョコを作ってあげて、あんな微妙な事言われたら傷つきすぎてきっと立ち直れない。
「あ、あのー。もう一個食べたいなぁー?」
何て言えばこの場を切り抜けられるかと必死で捻り出したものの、こんな台詞しか思い浮かばなかった。上目遣いで彼にお願いするが、完全に拗ねてしまった彼は顔をフンッと逸らしたまま箱を渡す気は全く無いようだ。
こうなったら実力行使に出るしかないと、叶子は賭けに出た。
「……あっ! あのCD、私も持ってるかもー?」
ジャックの後ろにあるデスクを指差し、彼の気を逸らそうとする。完全な棒読みだったと言うのに、彼はそれに釣られて後ろを振り返った。
「ん? どれ? ……、――あ! こら!」
身体を捻った事で後ろ手に持ったチョコレートの箱の姿が見えた。油断しているその隙を狙って、そーっとジャックの手にある箱を奪おうと試みるが、すぐにそれもばれてしまった。
ジャックは腕のリーチの長さを生かし、上に上げたり後方にぐんと離したりと、決して叶子に取られまいと抵抗した。
「もう! ダメだってば!」
「いいじゃない! それ私にくれたものでしょう?」
ジャックと叶子は、まるで小さな子供が無邪気にじゃれあっているかの様にソファーの上でその小さな箱の争奪戦を始めた。
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