運命の人

まる。

文字の大きさ
上 下
20 / 163
第1章 導き

第20話~天使の休息~

しおりを挟む
「と言うことから、当社における … …」

 土曜日の大会議室。広いこの会議室に合わせ、ホワイトボードの前に立ったその男性はその場にいる社員全員が聞き取れる事が出来るようにと、部屋全体に響き渡るほどの大きな声で説明をしている。その男性とは対照的に聞いている社員は皆、土曜日の朝の会議にうんざりといった様子だった。

「あーあ、たまんねぇよなぁー。土曜日に会議なんて」
「仕方ないだろ? この業界に土曜日も日曜日もないんだからさ」
「お前よく言うよ! ついこの間俺と同じ事言ってたくせに」

 どうしても前で話している男性の話に興味がわかないのか、若手社員同士が愚痴をこぼし始めた。

「しっかし、社長はタフだよなぁ。ほぼ休みなしで仕事してんだぜ?」
「そうなの?」
「あれじゃあ女が出来てもすぐ逃げられるよな?」
「言えてる」

 無駄話に花を咲かせた男性社員二人は、会議室の中央に座っている社長に視線を移した。

「「!」」
「と言う訳で、是非ともここで社長のご意見をお伺いし……?」

 前で説明をしていた男性が途中で発言を止め、どうしたのかと顔を下に向けていた社員が一斉に顔を上げる。どうやらその男性は社長の姿を見て言葉を失ってしまっていたようで、会議室中の皆がその男性の視線を辿った。

 窓から差し込む数本の日差しの中。ジャックは椅子の背もたれに身体をすっぽりと預け、すやすやと寝息を立てている。色白の肌に長い睫毛、少し乱れた前髪の隙間から見たその表情は何処か神聖なものの様に感じられた。
 その彼の珍しい姿に、会議室が急にざわざわと騒がしくなった。

「お、おい。社長、寝てるのか?」

 今、目の前で起こっている事が今一理解出来ないのか、眠っているジャックから視線を離すことが出来ず、肘で隣の男性社員をつついた。

「あ、ああ。そうみたいだな……」
「……う、嘘だろっ!? あんな仕事の鬼の様な人が会議中に寝るなんて……。俺、今まで見たことないぜ?」
「あ、ああ、俺もだよ。――しかし」

「綺麗だよなぁ……」「美形だなぁ」

 同時に同じ事を言ってしまい、会議中にもかかわらずざわついているのをいい事に、二人は思わず目を合わせぷっと吹き出してしまった。
 眉目秀麗とは彼の様な男性の事を指すのだろう。寝姿さえも絵になるジャックに周囲の皆の熱い視線が注がれていた。

「お、俺達ノーマルだよな?」
「お前は知らんが、俺は少なくともノーマルだよ」
「男でこんなだから、女だともっとすげーんだろうな」

 二人は会議に出ている女性社員を見渡して見ると、予想通り皆恍惚とした表情で彼を見つめている。中には、

「お、おいあの子見ろよ!」
「ん? ちょっ、流石に写メはやばいだろ!」

 珍しい社長の寝姿を写真におさめようとしている勇者が居たことに、二人とも流石に驚いた。

「俺も撮っとこう」
「お前、何に使うんだよ!? とうとう目覚めちゃったのか?」
「馬鹿! これをネタに女の子を誘うんだよ!」
「あーなるほど、頭いいなお前! ……じゃあ俺も少し失敬して。売れるかもしれないもんな」

 ざわついた会議室の中で皆の注目を浴びて居ることにも気付かず、すやすやと寝息を立てている彼はまるで天から舞い降りた天使が地上でその羽を休めているかの様に、穏やかな表情を浮かべて心地良さそうにしている。
 それは、会議が中断するのも無理もない程珍しく、そして美しい光景であった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【完結】あなたに恋愛指南します

夏目若葉
恋愛
大手商社の受付で働く舞花(まいか)は、訪問客として週に一度必ず現れる和久井(わくい)という男性に恋心を寄せるようになった。 お近づきになりたいが、どうすればいいかわからない。 少しずつ距離が縮まっていくふたり。しかし和久井には忘れられない女性がいるような気配があって、それも気になり…… 純真女子の片想いストーリー 一途で素直な女 × 本気の恋を知らない男 ムズキュンです♪

【R18】どうか、私を愛してください。

かのん
恋愛
「もうやめて。許してッ…」「俺に言うんじゃなくて兄さんに言ったら?もう弟とヤリたくないって…」 ずっと好きだった人と結婚した。 結婚して5年幸せな毎日だったのに―― 子供だけができなかった。 「今日から弟とこの部屋で寝てくれ。」 大好きな人に言われて 子供のため、跡取りのため、そう思って抱かれていたはずなのに―― 心は主人が好き、でもカラダは誰を求めてしまっているの…?

【完結】【R15】そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜

鷹槻れん
恋愛
「大学を辞めたくないなら、俺の手の中に落ちてこい」  幼い頃から私を見知っていたと言う9歳年上の男が、ある日突然そんな言葉と共に私の生活を一変させた。 ――  母の入院費用捻出のため、せっかく入った大学を中退するしかない、と思っていた村陰 花々里(むらかげ かがり)のもとへ、母のことをよく知っているという御神本 頼綱(みきもと よりつな)が現れて言った。 「大学を辞めたくないなら、俺の手の中に落ちてこい。助けてやる」  なんでも彼は、母が昔勤めていた産婦人科の跡取り息子だという。  学費の援助などの代わりに、彼が出してきた条件は――。 --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 (エブリスタ)https://estar.jp/users/117421755 --------------------- ※エブリスタでもお読みいただけます。

20年かけた恋が実ったって言うけど結局は略奪でしょ?

ヘロディア
恋愛
偶然にも夫が、知らない女性に告白されるのを目撃してしまった主人公。 彼女はショックを受けたが、更に夫がその女性を抱きしめ、その関係性を理解してしまう。 その女性は、20年かけた恋が実った、とまるで物語のヒロインのように言い、訳がわからなくなる主人公。 数日が経ち、夫から今夜は帰れないから先に寝て、とメールが届いて、主人公の不安は確信に変わる。夫を追った先でみたものとは…

五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。

あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。 夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中) 笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。 え。この人、こんな人だったの(愕然) やだやだ、気持ち悪い。離婚一択! ※全15話。完結保証。 ※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。 今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。 第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』 第二弾『そういうとこだぞ』 第三弾『妻の死で思い知らされました。』 それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。 ※この話は小説家になろうにも投稿しています。 ※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。

処理中です...