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第5章《旅立ち~天空の国ラフィージア》編

第214話 オルフィウス王とルギニアス

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「オルフィウス王にお願いがあってやって来たのです。これだけはお聞きいただきたい」

 ヴァドはオルフィウス王の拒絶する態度に一瞬怯んだが、それでも強い態度で言い切った。目を逸らすことなく、真っ直ぐに見据える。
 しかし、そんなヴァドの視線にも、表情を変えることなくオルフィウス王は聞いた。

「聖女のことか?」
「はい」

 ヴァドはチラリと私に視線を向け目を合わせた。私は頷き一歩踏み出す。

「彼女はサラルーサ・ローグ。アシェルーダの人間です。彼女の母親がどうやら現代の聖女。そしてなぜかその聖女は行方が分からない。その行方を知るために、彼女はアシェリアンの神殿を目指しているのです」

 なぜ神殿を目指しているのか、そして、なぜガルヴィオから、さらにはラフィージアにまで来ることになったのか。これまでの経緯をヴァドが説明して行った。

 オルフィウス王はその間ずっと黙って聞いていた。

「彼女は聖女の神託ではなく、魔石精製師。そしてアシェルーダからもガルヴィオからも大聖堂に対して、彼女への追跡があり、神殿へ向かうことが叶わなかったという訳か。それでラフィージアまでやって来た、と」
「はい」
「ふむ。彼女が聖女ではなかったため、次期聖女を誕生させるために抹殺されそうになっている、ということは理解出来るな。おそらくガルヴィオ国王の推測通りなのだろう」

 改めて言われると少し辛くなる。私のせいで次期聖女が生まれない。さらには私のせいでお母様が結界の守護に向かうことになったのだ。諦めないと心に決めたのは事実だけれど、だからといってなんとも思わなくなった訳ではない。

 そうやって現実を突きつけられ苦しくなるときもある。しかし、そんな気持ちはもう胸にしまうと誓ったから。
 だから私は目を逸らさない。

 オルフィウス王は私から視線を外すと、考え込むように顎に手をやった。そして、今度はなぜか私にではなく、ルギニアスに視線を向ける。

「で、その男は誰だ?」
「は?」

 全員、質問の意味が分からず固まった。

「その男、とはルギニアスのことですか?」

 ヴァドがルギニアスに視線を向け、確認するようにオルフィウス王へ聞いた。ルギニアスはさらに一層睨むように眉間に皺を寄せる。私はそれに酷く不安になり、ルギニアスの腕を掴んだ。
 そのことにルギニアスはピクリと反応したが、視線はオルフィウス王から外れることはなかった。

「ルギニアス……その男の名か。その男は何者だ? 普通の人間の魔力とは思えないほどの魔力を感じる」
「!!」

 思わず私はルギニアスの前に立った。背後に庇うように立つと、ルギニアスが私の肩を掴む。しかし、私はその場を動かなかった。

「ルギニアスは私の家族で大事な人です!!」
「家族?」

 オルフィウス王は怪訝な顔をする。

「そなたとその男が?」
「はい!」

 ヴァドを始め、皆が心配そうな顔をしている。でも、ルギニアスを不審がられるなんて嫌!

「今、俺のことなどどうでも良いだろう。関係のない話だ。今必要なのは大聖堂へ行けるのか行けないのか、それだけだ」

 ルギニアスは私の肩を掴み、庇うように後ろへと引いた。その手には力が籠り、オルフィウス王を睨む目は鋭さを増している。今にも魔法でも放ちそうな怒りの気配を感じ、私は慌ててルギニアスの手を握った。

 ルギニアスは私が手を握ったことで、フッと力が抜けたのか、私の手を握り返し、ほんの少し表情が和らいだ。しかし、オルフィウス王を見据えたままだった。

「まあ関係はないのだがな…………」

 なにやら歯切れが悪い。なんなのかしら。なぜそんなにルギニアスが気になるの? いまだにルギニアスを見据える視線に疑問を抱く。

 魔力が高いことに不審を抱いた、というのは分かるけれど、この国の人々も皆、異常に魔力が高い。この国に着いてから感じる魔力の圧。このオルフィウス王が発する魔力も異常な強さ。その横に立つ、先程案内をしてくれた男性も王に負けず劣らずの魔力を感じる。さらには先程演習場にいた人々も皆魔力が強そうだった。

 だからルギニアスがいくら魔力が異常に強くとも、この国にいてそれほど目立つ存在とも思えない。

「少し良いか?」
「?」

 オルフィウス王がしばらく考え込んだ後聞いた。

「そこのルギニアスとやらに見てもらいたいものがある」



********

次回、5月7日更新予定です。
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