206 / 247
第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編
第203話 ルギニアスの涙
しおりを挟む
ゴポリゴポリと自分の口から泡が零れて行くのが分かる。私の身体はサパルフェンの触手に引き摺られ湖底へと沈んだ。
触手はサパルフェンの身体と共に、水に溶けるように消えて行ったが、いまだに激しくうねる水は私の身体の自由を奪った。
水に煽られ、まともに泳ぐことも叶わない。水は流れが激しくなり、薄暗くなっていく。水面からどんどん離れて行っているのだということだけは分かったが、動かない身体が気力を奪う。
苦しい。息が続かない。苦しい。こんなところで私は死ぬの?
嫌だ……こんなところで死にたくない……。お父様とお母様を見付けてもいない。私がなぜルギニアスと共にこちらの世界に生まれ変わったのかも分からない。真実をまだ全て見付けていない……なにより……
ルギニアスを独りにしたくはない……。
私やお母さんを死なせたと思っているルギニアス。助けられなかったとずっと悔やんでいたルギニアス。
そんなルギニアスを今度は私が守りたい……独りで苦しんで欲しくなんかない。
傍にいて欲しいと思った……でも、違う……私がルギニアスの傍にいたいのよ……。あんな悲しそうな辛そうな顔をさせたくないのよ……。
だから死にたくない!! 死にたくはない……ルギニアスの傍にいたい!!
ガボッと残りの空気が抜けるように息が口から溢れた。
薄っすらと開いた目から見えたものは遠くに見える光。そこに映るひとつの影。
あれはなんの影だったのか……差し込む光のせいでよく見えない……。
あぁ……もう……。
「ルーサ!!!!」
驚くディノたちよりも素早く、一瞬の躊躇いもなく、ルギニアスは湖に飛び込んだ。水は荒れ狂い渦巻いている。ルーサはあっという間に湖底まで引き摺り込まれていた。
周りにはすでにサパルフェンの姿はない。おそらく魔石精製が完了し、消え去ったのだろう。それなのにルーサは水の流れのせいなのか、どんどんと湖底へと沈んでいく。
ルギニアスは自身の周りに結界を張り巡らせた。球体に広げた結界は水すらも遮り、ルギニアスの身体を濡らす水すらもない静かなものとなった。
足元に魔法陣を浮き上がらせたかと思うと、ルギニアスの身体はまるで空を飛ぶかのように進んだ。
くそっ、流れが速いせいで追い付けない。
ルーサが死んでしまうのではないかという恐怖が心を占めた。
また失ってしまう。それが怖い。
焦りのままに、この湖自体の水を全て吹っ飛ばしてやろうか、とすら思う。しかし、そんなことをすれば、ルーサごと吹っ飛んでしまう。ルギニアスはグッと拳を握り締めた。
ルーサの気配を探りつつ必死に追うが、流されていく方向に気付く。
まずい……これは……滝壺の横穴!!
湖底に現れた暗闇の広がる横穴。そこに湖の水が引き込まれている。水の流れがどうなっているのかは分からないが、今現在明らかにそちらへと流れて行っている。
横穴は海へと続く。一体どれほどの長さなのかが分からない。そんな長時間水に流され、呼吸を奪われてみろ。魔法の使えないルーサなどすぐに死んでしまう!
ルギニアスは手に魔力を込めた。そして横穴に向け、風魔法を発動させた。勢い良く噴き出た風は横穴に向け水を吹き飛ばし、水中に空洞の道を作った。しかし、それは一瞬だ。すぐさまその水中の道は圧し潰される。その一瞬の隙にルギニアスは一気にその道を進んだ。
ルーサの額に赤く光るルギニアスの印。どこにいても、遠く離れていても、気配にたどり着けるように印を付けた。ルーサの状態が分かるように。ルーサの居場所が分かるように。
目の前に光る赤い光。必死に手を伸ばした。
「ルーサ!!!!」
ルーサの腕を掴んだルギニアスは一気に自分の結界内へと引っ張る。そして、ルーサの背と頭に手を添え、グッと力強く抱き締めた。
ルーサを抱き締め、ほっとしたのも束の間、腕のなかで反応なくぐったりとしているルーサに酷く不安になる。
ルギニアスは抱き締める力をさらに強くし、横穴の流れの勢いに乗り、一気にその先を目指した。
流れに逆らうより、一気に海まで出てやる!
横穴は少しの湾曲ではあったが、複雑に入り組んでいることもなく出口へと向かった。
一気に眩しい光が差し込み、目が眩む。思わず目を細め、外へと飛び出すと、そこは前日見にやって来た横穴出口だった。遠目に獣人たちの姿が見える。驚いた様子ではあるが、そんなことはどうでもいい。
ルギニアスはザバァッと海から浮き上がると、結界を消滅させ、ルーサを抱き抱えたまま飛んだ。そして近くの岩場に降り立ち、ルーサを寝かせた。
「ルーサ!!」
ルーサの顔は真っ青になり、呼吸をしていない。
「ルーサ!! ルーサ!! 死ぬな!! 死なないでくれ……頼むから……」
ルギニアスはルーサの顔を両手で包み訴えた。冷たい身体に冷たい頬。唇は紫に変色していた。
風魔法を発動させ柔らかな風がルーサを包む。その風が優しくルーサの濡れた身体を乾かしていく。
ルーサの額に自身の額を合わせたルギニアスの瞳からはホロリと涙が落ちる。
そして、ルギニアスはルーサの冷え切った唇にそっと自身の唇を重ねた……。
触手はサパルフェンの身体と共に、水に溶けるように消えて行ったが、いまだに激しくうねる水は私の身体の自由を奪った。
水に煽られ、まともに泳ぐことも叶わない。水は流れが激しくなり、薄暗くなっていく。水面からどんどん離れて行っているのだということだけは分かったが、動かない身体が気力を奪う。
苦しい。息が続かない。苦しい。こんなところで私は死ぬの?
嫌だ……こんなところで死にたくない……。お父様とお母様を見付けてもいない。私がなぜルギニアスと共にこちらの世界に生まれ変わったのかも分からない。真実をまだ全て見付けていない……なにより……
ルギニアスを独りにしたくはない……。
私やお母さんを死なせたと思っているルギニアス。助けられなかったとずっと悔やんでいたルギニアス。
そんなルギニアスを今度は私が守りたい……独りで苦しんで欲しくなんかない。
傍にいて欲しいと思った……でも、違う……私がルギニアスの傍にいたいのよ……。あんな悲しそうな辛そうな顔をさせたくないのよ……。
だから死にたくない!! 死にたくはない……ルギニアスの傍にいたい!!
ガボッと残りの空気が抜けるように息が口から溢れた。
薄っすらと開いた目から見えたものは遠くに見える光。そこに映るひとつの影。
あれはなんの影だったのか……差し込む光のせいでよく見えない……。
あぁ……もう……。
「ルーサ!!!!」
驚くディノたちよりも素早く、一瞬の躊躇いもなく、ルギニアスは湖に飛び込んだ。水は荒れ狂い渦巻いている。ルーサはあっという間に湖底まで引き摺り込まれていた。
周りにはすでにサパルフェンの姿はない。おそらく魔石精製が完了し、消え去ったのだろう。それなのにルーサは水の流れのせいなのか、どんどんと湖底へと沈んでいく。
ルギニアスは自身の周りに結界を張り巡らせた。球体に広げた結界は水すらも遮り、ルギニアスの身体を濡らす水すらもない静かなものとなった。
足元に魔法陣を浮き上がらせたかと思うと、ルギニアスの身体はまるで空を飛ぶかのように進んだ。
くそっ、流れが速いせいで追い付けない。
ルーサが死んでしまうのではないかという恐怖が心を占めた。
また失ってしまう。それが怖い。
焦りのままに、この湖自体の水を全て吹っ飛ばしてやろうか、とすら思う。しかし、そんなことをすれば、ルーサごと吹っ飛んでしまう。ルギニアスはグッと拳を握り締めた。
ルーサの気配を探りつつ必死に追うが、流されていく方向に気付く。
まずい……これは……滝壺の横穴!!
湖底に現れた暗闇の広がる横穴。そこに湖の水が引き込まれている。水の流れがどうなっているのかは分からないが、今現在明らかにそちらへと流れて行っている。
横穴は海へと続く。一体どれほどの長さなのかが分からない。そんな長時間水に流され、呼吸を奪われてみろ。魔法の使えないルーサなどすぐに死んでしまう!
ルギニアスは手に魔力を込めた。そして横穴に向け、風魔法を発動させた。勢い良く噴き出た風は横穴に向け水を吹き飛ばし、水中に空洞の道を作った。しかし、それは一瞬だ。すぐさまその水中の道は圧し潰される。その一瞬の隙にルギニアスは一気にその道を進んだ。
ルーサの額に赤く光るルギニアスの印。どこにいても、遠く離れていても、気配にたどり着けるように印を付けた。ルーサの状態が分かるように。ルーサの居場所が分かるように。
目の前に光る赤い光。必死に手を伸ばした。
「ルーサ!!!!」
ルーサの腕を掴んだルギニアスは一気に自分の結界内へと引っ張る。そして、ルーサの背と頭に手を添え、グッと力強く抱き締めた。
ルーサを抱き締め、ほっとしたのも束の間、腕のなかで反応なくぐったりとしているルーサに酷く不安になる。
ルギニアスは抱き締める力をさらに強くし、横穴の流れの勢いに乗り、一気にその先を目指した。
流れに逆らうより、一気に海まで出てやる!
横穴は少しの湾曲ではあったが、複雑に入り組んでいることもなく出口へと向かった。
一気に眩しい光が差し込み、目が眩む。思わず目を細め、外へと飛び出すと、そこは前日見にやって来た横穴出口だった。遠目に獣人たちの姿が見える。驚いた様子ではあるが、そんなことはどうでもいい。
ルギニアスはザバァッと海から浮き上がると、結界を消滅させ、ルーサを抱き抱えたまま飛んだ。そして近くの岩場に降り立ち、ルーサを寝かせた。
「ルーサ!!」
ルーサの顔は真っ青になり、呼吸をしていない。
「ルーサ!! ルーサ!! 死ぬな!! 死なないでくれ……頼むから……」
ルギニアスはルーサの顔を両手で包み訴えた。冷たい身体に冷たい頬。唇は紫に変色していた。
風魔法を発動させ柔らかな風がルーサを包む。その風が優しくルーサの濡れた身体を乾かしていく。
ルーサの額に自身の額を合わせたルギニアスの瞳からはホロリと涙が落ちる。
そして、ルギニアスはルーサの冷え切った唇にそっと自身の唇を重ねた……。
3
お気に入りに追加
272
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる