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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第202話 油断

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『ギャァァァァア!!』

 悲鳴を上げたサパルフェンはさらに一層激しく暴れ出し、イーザンの竜巻から逃れようと、身体をあちこち叩きつけるように暴れる。
 ディノはさらに反対側の眼を斬り付けようと、再び駆け寄るが、暴れ回るサパルフェンから吹っ飛ばされそうになり、剣を突き立てしがみ付く。

 触手を振り回し、身体を水面に叩きつけ、なんとか逃れようとする。イーザンは竜巻を維持しつつ、そこに雷撃を飛ばし、眼を攻撃する。集中的に眼を狙われたサパルフェンは怒り狂っているのか、手当たり次第に暴れている。

 そのとき激しく波打つ水面から潜水艇が飛び出した。

「!?」

 驚いてそちらを見ると、飛び出た潜水艇の扉が開き、オキが大きく跳躍した。激しく水飛沫が上がり、潜水艇内に入り込みそうになる。潜水艇の扉はすぐさま閉められ、そして、サパルフェンから距離を取り避難した。湖岸へと移動した潜水艇からは、遠目にヴァドとリラーナが脱出している姿が見える。

 そして、オキはサパルフェンの眼に向かい、毒針を投げたかと思うと、片手剣を抜いた。普段から片手剣を腰に下げてはいるが、オキが今まで片手剣を使っているのは一度も見たことがなかった。

 毒針は眼に命中したらしく、サパルフェンは激しく暴れ出す。そして真っ赤だった眼は毒針が刺さった箇所なのだろうか黒ずんで来る。オキは暴れ狂うサパルフェンの首に片手剣を突き立てた。

「イーザン!! 雷撃で貫け!!」

 オキが叫び、イーザンはそれだけで理解したのか、オキが突き立てた片手剣に向かい雷撃を飛ばす。片手剣を捕えた雷撃は、突き刺さる剣先を伝い、サパルフェンの内部へと進んだようだ。サパルフェンの巨体がビクンと震える。

『ギュァァァァァア!!』

 耳をつんざくようなけたたましい声を上げたサパルフェンは、体内への雷撃のせいか動きが鈍くなった。

「ディノ!! 斬り落とせ!!」

 すかさず今度はイーザンがディノに向かって叫ぶ。サパルフェンの上にいたディノは突き立てていた剣を引き抜き大きく跳躍した。
 そして、大きく剣を振りかぶると、サパルフェンの首目掛けて一気に剣を振り下ろした。

 ディノの剣は一気にサパルフェンの首を斬り落とし、激しく血が噴き出す。

「「「ルーサ!!」」」

 ディノとイーザン、そしてオキが私に向かい叫んだ。叫んだと同時にディノとオキは湖岸へと跳躍する。
 ルギニアスが私に振り向き、庇ってくれていた身体を横に避けた。私は一歩踏み出すと、サパルフェンに向かい両手を伸ばす。

 サパルフェンの魔素と魔力が噴き出した血と共に流れ出す。そこへ結晶化の魔力を手に込める。手に込めた結晶化の魔力に反応するように、サパルフェンの血はゆるゆると集まり出す。

「うっ」

 結晶化の魔力とサパルフェンの血に含まれる魔力が反応し合っている。巨大な魔魚、しかも、恐らく魔力も強く多いのだろう。私の魔力が凄い勢いで消費しているのが分かった。お互いの魔力が引っ張り合うような、吸い取られるかのようなそんな感覚。
 少しでも気を抜けば、引っ張り合い均衡を保っていたのが、一気に吸い取られるだけになってしまう。

 引っ張られないように必死に魔力を繋ぎ止める。こちらに引っ張るように、手繰り寄せるようにサパルフェンの血を操る。

 手繰り寄せたサパルフェンの血は川の流れのように空を舞い、私の掌へと集まっていく。魔力が混じった血は澱んだ赤色から、キラキラと煌めく澄んだ色となる。そして私の目の前で渦巻き出し、圧縮されていく。

 もう少し……もう少しよ……。

 圧縮されていく魔力は私の手の上に渦を巻く。そして次第に中心へと集まって来ると、手の上に圧縮された魔石が出来上がった!

 そう思った瞬間だった。

 全ての血が魔石へと変わるその瞬間、サパルフェンの触手が最後の足掻きとばかりに私の身体を薙ぎ払った。

 しまった……首を落とされた直後ならまだ触手は動くのね……。

「「「!?」」」

「ルーサ!!」

 ディノたちの驚愕の顔。ルギニアスの叫び声が聞こえる。ルギニアスの見たことがないほどの焦った顔。あぁ、駄目。ルギニアスにそんな顔をさせたくはないのに……。

 まるで時間の流れが遅くなったかのように、私の視界はゆっくりと流れていた。

 全ての魔力が手の上に集まり魔石を結晶化させる。
 手の上に収まったかと思った魔石は地面へと転がり落ち、私は消えようとしているサパルフェンの触手によって湖に引きずり込まれた。

「ルーサ!!!!」

 ルギニアスの悲痛な声が耳に残る……。

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