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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編
第185話 アリシャの声
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ルギニアスは私の手の中でなにを思っているのか、なにも言葉にしなかった。そしてぎゅっと抱き締める私の手を拒絶することもなく、ただじっとしている。俯き表情も分からない。それが私を不安にさせる。このままルギニアスがいなくなってしまうのではないか、というような不安。だからなのか、ルギニアスを抱き締める手を緩めることが出来なかった。
「ル、ルーサ」
リラーナが心配そうに私に寄り添ってくれる。
「ごめん、その鳥の魔傀儡を受け取ってもらえる?」
「う、うん」
リラーナは私に言われるがまま、フェリオから魔傀儡を受け取った。フェリオもどうしたのか訝し気ではあったが、箱に魔傀儡をそっと戻すとリラーナに手渡した。
「あ、あの……どうかされましたか?」
恐る恐るといった様子でフェリオが聞いて来る。しかし、私は取り繕う余裕なんてなかった。曖昧に笑って見せる。
「いえ、なんでもありません。もう失礼しますね。ありがとうございました」
それだけを口にすると、一人急いで小屋を出た。
「ルギニアス……大丈夫?」
なんと声をかけたら良いのか分からず、それだけしか言えなかった。ルギニアスは小さく「あぁ」とだけ答えると、鞄のなかへと入ってしまった。
どうしよう……アリシャの声……ルギニアスの名前……そしてラフィージア……。
一体どういうことなんだろうか……。初代聖女の声が録音されていた、それはまあ驚いたけれど、内容を無視して考えると、だからといってどうということはない。何百年も前の聖女の声を聴くことが出来たという驚きだけ。
そう、それだけのこと……しかし、初代聖女の声、アリシャの声……となると……ルギニアスの気持ちが気になるの……。
チラリと鞄に目をやるが、身動きひとつしていないのか、そこにいないかのような不安を覚える。そっと鞄を覗いて見ると、ルギニアスの姿が見え、ホッとする自分がいる。
ラフィージア……、なぜ初代聖女がラフィージアを? たまたま誰かと会話をしていて、たまたまラフィージアの話題になったのかもしれない。そう、それだけの可能性のほうが高い……でも、どうしてこんなに胸がざわつくんだろう。
ルギニアスの名前とラフィージア……あのままあの魔導具の声を聴いていたら他にもなにか分かったのだろうか……。怖い……でも、知りたい……。両方の反する気持ちが揺れ動く。
「ルーサ、大丈夫か? ルギニアスは?」
フェリオと言葉を交わしていたのか、しばらくしてから皆が出て来た。
「私は大丈夫……ルギニアスは……」
鞄をチラリと見たことで皆、理解してくれたようで、そのまま見送りに出て来ていたフェリオと別れを告げた。
フェリオはエミリーと共に手を繋ぎ、姿が見えなくなるまで見送ってくれていた。
「色々聞きたいことはあるんだが……とりあえず宿に戻るか」
ヴァドは苦笑しながらもそう言い、全員が頷いた。宿へ戻るまでの道中、リラーナからはあの鳥の魔導具の作動方法を聞いてきたから、もしかしたら他にもなにか言葉が聞けるかもしれないことを教えてもらった。しかし複雑な心境だった私は「ありがとう」と曖昧に笑うだけだった。
街へと戻ると再び列車に揺られ街の中心部へと戻る。行きとは違い、皆無言だった。それに居心地の悪さを覚えるが、しかし、今はなにも言葉に出来ないでいた。
宿に戻るとヴァドが口を開く。
「で、話を聞きたいところだが……」
そう言ってチラリと私を見たが、ヴァドは頭をガシガシと掻くと大きく溜め息を吐いた。
「今すぐにでも聞きたいのはやまやまだが、どうにもルーサとルギニアスが落ち着かないことには話も出来なさそうだな……」
「ごめん……」
私もどう話したら良いのか、まだ考えがまとまらない。そもそも、私自身もルギニアスとまずはちゃんと話したい……。
「謝って欲しい訳じゃなくてだな」
そう言って苦笑するヴァド。
「んー、とりあえず飯にでも行こう。腹減った」
おもむろにオキが明るい口調で言った。確かにもうすっかり夕食の時間だ。辺りは次第に薄暗くなり陽が沈んで来ている。
「お、おう……」
ヴァドは突拍子もないオキの発言に驚き、目を丸くしていたが、オキはお構いなしにヴァドの背を押した。そしてディノたちも苦笑しつつそれに続く。オキは私に振り向くと手をひらひらとさせた。
「俺たちは飯に行って来るから、ルーサはルギニアスと話し合っとけー」
「オキって意外と気が利くわね」
「意外って失礼な。俺ほど気の利く男はいないだろ」
「えぇ?」
リラーナに突っ込まれながらも、先程までの微妙な空気がオキのおかげで軽くなった気がした。やいやいと言いながら出て行く皆の後ろ姿をクスッと笑いながら見送り、オキに感謝した。
皆が出て行ったあと、静まり返った部屋で鞄のなかのルギニアスに声を掛ける。
「ルギニアス……」
声を掛けても反応はない。ルギニアス自身も混乱したままなのか。アリシャの声を聴いて、なにを思ったのか。ラフィージアのことよりも、きっとルギニアスはアリシャの声のせいで色々思い出してしまっているのだろう。そう思った。そう思うとなんだか胸の奥がギシリと軋む。
その胸の軋みがなんなのか分からなかったけれど、ルギニアスがなにを思ったのかをちゃんと聞きたい。ルギニアスは話したくないのかもしれないけれど……なにも聞かずにはいられない……。
私はそっと鞄のなかに手を伸ばし、ルギニアスを持ち上げた。鞄を下ろし、両手のひらに抱えたルギニアスの顔を覗き込む。
「ルギニアス……今、なにを思っているの? 貴方がなにを思っているのか……聞きたい」
じっとルギニアスを見詰め、言葉を待った。しばらくの沈黙の後、ルギニアスはゆっくりと顔を上げたかと思うと、泣きそうな、辛そうな顔になり……そして、風を巻き上げ大きくなったかと思うと、私を抱き締めた……。
*********
※次回、3月21日更新予定です。
「ル、ルーサ」
リラーナが心配そうに私に寄り添ってくれる。
「ごめん、その鳥の魔傀儡を受け取ってもらえる?」
「う、うん」
リラーナは私に言われるがまま、フェリオから魔傀儡を受け取った。フェリオもどうしたのか訝し気ではあったが、箱に魔傀儡をそっと戻すとリラーナに手渡した。
「あ、あの……どうかされましたか?」
恐る恐るといった様子でフェリオが聞いて来る。しかし、私は取り繕う余裕なんてなかった。曖昧に笑って見せる。
「いえ、なんでもありません。もう失礼しますね。ありがとうございました」
それだけを口にすると、一人急いで小屋を出た。
「ルギニアス……大丈夫?」
なんと声をかけたら良いのか分からず、それだけしか言えなかった。ルギニアスは小さく「あぁ」とだけ答えると、鞄のなかへと入ってしまった。
どうしよう……アリシャの声……ルギニアスの名前……そしてラフィージア……。
一体どういうことなんだろうか……。初代聖女の声が録音されていた、それはまあ驚いたけれど、内容を無視して考えると、だからといってどうということはない。何百年も前の聖女の声を聴くことが出来たという驚きだけ。
そう、それだけのこと……しかし、初代聖女の声、アリシャの声……となると……ルギニアスの気持ちが気になるの……。
チラリと鞄に目をやるが、身動きひとつしていないのか、そこにいないかのような不安を覚える。そっと鞄を覗いて見ると、ルギニアスの姿が見え、ホッとする自分がいる。
ラフィージア……、なぜ初代聖女がラフィージアを? たまたま誰かと会話をしていて、たまたまラフィージアの話題になったのかもしれない。そう、それだけの可能性のほうが高い……でも、どうしてこんなに胸がざわつくんだろう。
ルギニアスの名前とラフィージア……あのままあの魔導具の声を聴いていたら他にもなにか分かったのだろうか……。怖い……でも、知りたい……。両方の反する気持ちが揺れ動く。
「ルーサ、大丈夫か? ルギニアスは?」
フェリオと言葉を交わしていたのか、しばらくしてから皆が出て来た。
「私は大丈夫……ルギニアスは……」
鞄をチラリと見たことで皆、理解してくれたようで、そのまま見送りに出て来ていたフェリオと別れを告げた。
フェリオはエミリーと共に手を繋ぎ、姿が見えなくなるまで見送ってくれていた。
「色々聞きたいことはあるんだが……とりあえず宿に戻るか」
ヴァドは苦笑しながらもそう言い、全員が頷いた。宿へ戻るまでの道中、リラーナからはあの鳥の魔導具の作動方法を聞いてきたから、もしかしたら他にもなにか言葉が聞けるかもしれないことを教えてもらった。しかし複雑な心境だった私は「ありがとう」と曖昧に笑うだけだった。
街へと戻ると再び列車に揺られ街の中心部へと戻る。行きとは違い、皆無言だった。それに居心地の悪さを覚えるが、しかし、今はなにも言葉に出来ないでいた。
宿に戻るとヴァドが口を開く。
「で、話を聞きたいところだが……」
そう言ってチラリと私を見たが、ヴァドは頭をガシガシと掻くと大きく溜め息を吐いた。
「今すぐにでも聞きたいのはやまやまだが、どうにもルーサとルギニアスが落ち着かないことには話も出来なさそうだな……」
「ごめん……」
私もどう話したら良いのか、まだ考えがまとまらない。そもそも、私自身もルギニアスとまずはちゃんと話したい……。
「謝って欲しい訳じゃなくてだな」
そう言って苦笑するヴァド。
「んー、とりあえず飯にでも行こう。腹減った」
おもむろにオキが明るい口調で言った。確かにもうすっかり夕食の時間だ。辺りは次第に薄暗くなり陽が沈んで来ている。
「お、おう……」
ヴァドは突拍子もないオキの発言に驚き、目を丸くしていたが、オキはお構いなしにヴァドの背を押した。そしてディノたちも苦笑しつつそれに続く。オキは私に振り向くと手をひらひらとさせた。
「俺たちは飯に行って来るから、ルーサはルギニアスと話し合っとけー」
「オキって意外と気が利くわね」
「意外って失礼な。俺ほど気の利く男はいないだろ」
「えぇ?」
リラーナに突っ込まれながらも、先程までの微妙な空気がオキのおかげで軽くなった気がした。やいやいと言いながら出て行く皆の後ろ姿をクスッと笑いながら見送り、オキに感謝した。
皆が出て行ったあと、静まり返った部屋で鞄のなかのルギニアスに声を掛ける。
「ルギニアス……」
声を掛けても反応はない。ルギニアス自身も混乱したままなのか。アリシャの声を聴いて、なにを思ったのか。ラフィージアのことよりも、きっとルギニアスはアリシャの声のせいで色々思い出してしまっているのだろう。そう思った。そう思うとなんだか胸の奥がギシリと軋む。
その胸の軋みがなんなのか分からなかったけれど、ルギニアスがなにを思ったのかをちゃんと聞きたい。ルギニアスは話したくないのかもしれないけれど……なにも聞かずにはいられない……。
私はそっと鞄のなかに手を伸ばし、ルギニアスを持ち上げた。鞄を下ろし、両手のひらに抱えたルギニアスの顔を覗き込む。
「ルギニアス……今、なにを思っているの? 貴方がなにを思っているのか……聞きたい」
じっとルギニアスを見詰め、言葉を待った。しばらくの沈黙の後、ルギニアスはゆっくりと顔を上げたかと思うと、泣きそうな、辛そうな顔になり……そして、風を巻き上げ大きくなったかと思うと、私を抱き締めた……。
*********
※次回、3月21日更新予定です。
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