【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
上 下
169 / 247
第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第166話 空を飛ぶ

しおりを挟む
 白耳獣人は一台の飛行艇へと近付くと、なにやら準備を始める。私たちはヴァドのあとに続き、その飛行艇へと近付く。
 近くで見る飛行艇はエルシュで見かけた飛行艇よりは明らかに小さい。エルシュで見た飛行艇は貨物運搬用だと言っていた。荷室だと思われるところは長く太い造りとなっていた。
 しかし、今目の前にある飛行艇は高さも私たちの目線の高さと左程変わらず、長さも短く細い。

 リラーナは興味津々になかを覗き込み、一緒になって覗くと、なかには椅子が左右に五席ずつ並んでいた。真ん中にある通路はとても細く、一人通るのにも大変そうだ。前方には操縦席なのだろう、客席とは別に設けられた椅子が見える。

 白耳獣人は飛行艇の点検確認をしたのち、自身の荷物を持ち込み、そして私たちに振り向いた。

「もう乗っていいぞー」

 そう言われ、私たちは顔を見合わせウキウキとする。それがヴァドや白耳獣人に見られていたようで、盛大に笑われた。

「アッハッハ! そんなに楽しみにしてもらえると、乗せる甲斐があるな!」
「普段は俺たちガルヴィオのやつが乗るだけだからなぁ、こんな喜ぶことはないもんな」

 そう言いながら笑う二人に、若干照れながらもやはり楽しみなのは隠しようもない、とばかりに、リラーナと二人ウキウキとしながら乗り込む。

 狭い内部は頭を下げながらしか歩けない。背の高い男性陣は余計に辛いのでは、と振り向くと、やはり辛そうだった。
 特にヴァドはそれでなくとも背が高く、屈強な身体つきだ。明らかに身動き取りにくそうで、ちょっと笑いそうになってしまった。

 荷物は最後尾に置く場所があり、そこへと積み上げる。そして各自席へと着くと、横には丸い窓があり外が眺められる。

「さて、全員着席したかー? じゃあ出発するぞ!」

 白耳獣人は最後に乗り込み、全員を見渡すと操縦席へと腰を下ろす。そして右手でハンドルらしきものを握り、左手は操縦席の横にある大きな球体に触れた。触れた途端そこから魔力を感じる。

「魔石ね!」

 思わず口に出すとヴァドが笑った。

「あぁ、あそこにある魔石から飛行艇全体へと魔力を送る」

 ヴァドの説明通り、白耳獣人があの球体に触れた途端、飛行艇全体に魔力が流れていくのが分かる。送られた魔力は風魔法を発動させ、飛行艇が動き出す。

「風系魔法だけじゃない? 大地系魔法も?」
「あぁ、ほぼ風魔法で済むんだが、大地系で安定させてる感じかな」
「へぇぇ」

 飛行艇全体を覆う魔力が、常に流れているのを感じる。魔導具として常に発動している造りなのは分かるが、それだけでなく操縦者である人間の魔力もずっと吸収しているようだ。
 冷蔵庫の魔導具のように一度発動させると、魔力が自動的に発動しているのとは違う。発動者が常に魔力を送らないと維持出来ない、ということか。

 これは確かに長距離を移動するにはキツイだろう。攻撃系の魔法を発動するよりは魔力の消費は少なそうだが、常に魔力を送る、という行為はかなり消耗するはず。
 そしてその発動者の魔力がこの魔導具に馴染むため、他の人間が使うと不安定に繋がるのだろう。

 なるほど、と感心と納得とで頷いた。

 飛行艇は徐々に速度を上げると、操縦席の辺りがふわりと浮いた。そして皆が「おぉ」と声を上げた途端、飛行艇全体が陸から離れたのが分かった。

 身体に圧力を感じ、一気に上空まで飛行艇は飛び上がった。

「うわぁぁ! 凄い! 凄い! 空を飛んでる!!」

 リラーナが興奮の声を上げた。ディノも窓の外を眺め「おぉ!」と声を上げている。イーザンも態度にはあまり出ていないが、それでも窓の外を眺め、目を見開いている。

 ある程度の高さまで上がったと思うと、浮遊感を感じ圧力を感じなくなった。その瞬間飛行艇は安定したように、同じ高さを進み出す。

「凄い」

 皆、窓に釘付けだ。ザビーグの街並みはあっという間に遠ざかり、眼下には山が広がる。それほど高いところを飛んでいるのではないのだろうが、山を越えるために飛んで行く、ということ自体がとても新鮮で不思議な感覚だった。

 以前ルギニアスに抱えられ、空を飛んだが、あのときは精々建物を越える高さというくらいだった。それが今は山を越えるのだ。それが不思議で仕方がない。

 遠目には鳥が飛んでいる姿も見える。太陽の光が山々を照らし、緑が映える。彼方まで見渡せ、世界の広さを痛感する。

「本当に凄いわね。飛行艇なんてアシェルーダでは考えたこともなかった……こんな乗り物があるなら移動ももっと楽になるんだろうな」

 リラーナが呟いた。

「アシェルーダで造るにしても……どういう構造になっているのか教えてくれないだろうしねぇ?」

 そう言いながらリラーナがヴァドを見る。ヴァドはアハハと笑いながら目を逸らした。

「まあ、教える訳にはいかないよなぁ。自分で考える分には自由だが」

 苦笑するヴァドにリラーナは拗ねたような目を向けるが、しかし、気合いを入れるように拳を握った。

「いつか絶対私も造ってやる!」

 そう意気込むリラーナに皆が笑ったのだった。

しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...