上 下
148 / 247
第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第145話 交渉成立

しおりを挟む
「お前はなんでそこまでして俺たちの仲間になろうとする?」
「ん、まあ飽きたのもあるし、国王のやっていることの意味も分からんし、事が全て終わったら、今度は俺が狙われそうだしなぁ。それに……お前らといるほうが面白そうだし」

 ハハと笑いながら言った。

「どうする?」

 イーザンが全員の顔を見渡し聞いた。

「ルーサはどうしたい?」

 ディノが真面目な顔で聞く。
 リラーナもイーザンも同様に私の顔を見詰めている。

 私はどうしたいんだろう。この人のことを信用出来るかと言われたら、まだ完全には信用出来ていない気はする。
 でも先程聞いた国王の話、雇われて私を見張っていたということは聞かせてもらえて良かったと思っている。

 お父様とお母様が自分から爵位返上した訳ではないということが分かったのだから。
 神殿に連れて行かれたということも分かった。やはりお母様は聖女で結界の守護のために神殿に向かったんだ。
 そして国王がなぜか強制的に爵位返上を……。その理由を知るためにも、証拠を持つ彼といるほうが有難いかもしれない……。

「私は……彼と仲間になっても良い」
「ルーサ! 本当に良いの!?」
「うん、だって彼の持つ国王の言葉の証拠は強みになる」
「確かにな」
「私も同意見だ。この男を受け入れずとも、結局見張りは続くだろう。この男ではない者が来る可能性もある。それならばお互い事情が分かった今、この男が裏切らないよう見張るほうが早い」

 イーザンの言葉に全員が頷く。

「なにか変な行動を起こしたら、俺が消し炭にしてやる」

 突然ルギニアスがそう宣言した。全員がルギニアスに釘付けになり固まる。

「あー、確かにドラゴンを倒したのはルギニアスだったよな。そんなやつが傍にいるんだから、ルーサの身は安心だよな」

 ディノがハハと笑った。イーザンはなにも言わないが、ジッとルギニアスを見詰めている。
 リラーナといえば……めちゃくちゃ驚いた顔。あ、しまった。リラーナはルギニアスがドラゴンを倒したということは知らないんだった。

「あ、リラーナ? えっと、ルギニアスは……」

 そのときひょいっと男が覗き込んだ。

「あー、そのちびっこいやつ、確かでかくなるんだよな? なんか訳分からん力を持ってるんだっけか?」

 ギョッとしガバッと振り向く。

「な、なんで……って、あのときも傍にいたのね?」
「そりゃ、まあね」

 ハハ、と男は笑う。
 あのときは魔石の精製に必死で周りの気配なんて探ってなかったしな……。見られてたのね……。

「なら、話は早い」

 ルギニアスはそう言うと風を巻き上げ大きくなった。
 そして男に向かいつかつかと歩き出すと目の前まで行った。そして男をジロリと見下ろすと、

「なにか余計なことをしてみろ、跡形残らず消してやる」

 ルギニアスは手に魔力を込めると、発現こそはしないが、とてつもない魔力が渦巻き、手が揺らいで見えた。

「お、おいおい、俺は仲間になるって言ってるんだから信じろよ。裏切ったりしない」

 飄々としていた男もさすがにルギニアスの魔力に顔が引き攣り後退る。

「ルギニアス、ありがとう」

 ルギニアスの傍へと向かい、冷たい目で男を見下ろしていたルギニアスの腕をそっと掴んだ。
 そして横に並ぶとそれに反応するようにルギニアスは手に込めていた魔力を収めた。

 それにホッとし、男に向き直る。

「ルギニアスのことを国王陛下に報告してないでしょうね?」

 じろりと睨むように男を見据え聞いた。

「そんな面倒なことするか。こんなややこしそうなやつ報告したら、なんか面倒なことになりそうだしな。俺が請け負ったのはあんたの報告だけだ」

 嫌そうな顔をしながら両手をひらひらさせている。一応そこは信じても良さそうね。

「今後国王陛下に連絡をするときは私たちに必ず報告をして」
「あ、あぁ。それは必ず約束する」

 その返事を聞き、にこりと手を差し出した。

「これからよろしくね、あなたの名前は?」

 たじろいでいた男はようやく受け入れた私たちに安堵したのか、ホッとしたような表情となり、手を差し出し私の手を握った。

「オキと呼んでくれ」

 おそらく偽名なのだろう。それでも今はまだそれで良い。
 私たちはオキと行動を共にすることを選んだ。


「それで、どうやったらガルヴィオの船に乗れるの?」

 オキは私たちを見るとニッと笑った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

悪役令嬢ですが最強ですよ??

鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。 で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。 だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw 主人公最強系の話です。 苦手な方はバックで!

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

処理中です...