上 下
141 / 247
第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第138話 アランの魔石屋

しおりを挟む
 アランから聞いていた住所を元に店を探す。エルシュは街の中心に大きな広場があり、そこから放射状に道が続いていた。広場の周りにあるのは王都で言う大通りの店と同じようなもので一等地に並ぶ有名店が多いらしい。そしてそれらの放射状に続く道を入り込むと、ララさんの店のように、それぞれ違う商店街が並んでいたりする。

 ララさんの店は飲食店街。飲み屋や食事処が多く並ぶ。それ以外には武器や防具の店ばかりが並ぶ通り、薬や食品の店が並ぶ通りに、本や日用品などが売られている店の通りだったりと様々だ。

 アランの店は魔石や魔導具の店が並ぶ通りだった。多くの魔導具屋が並び、リラーナがうずうずとしていた。

「アハハ、リラーナ、先に魔導具屋を見る?」
「え、良いの!?」
「うん、アランの店はそのあとでも良いし」
「じゃあ! ……いや、でもやっぱり先にアランのお店にしよう……」

 勢い良く言ったかと思えば、急に真面目な顔になったリラーナ。

「え? なんで?」
「魔導具を見始めると終わらないからだろう」

 リラーナが答えるよりも早くイーザンが言った。

「ブッ。確かにリラーナが魔導具を見始めたら止まらなそうだもんな!」

 イーザンの言葉にディノは爆笑。リラーナは少しムッとしたが、開き直るように言い切る。

「だってこんな多くの魔導具屋が並んでいたら全部の店を見たくなるじゃない!!」

 思わず私も噴き出してしまった。

「プッ。アハハ、確かにそれじゃあいつまでもアランの店には行けないかもね」
「もう! ルーサまで笑わないでよ!」
「アハハ、ごめんごめん。フフッ。じゃ、じゃあとりあえずアランの店に行っても良い?」
「うん」

 なんだか納得いかないわ、といった顔のリラーナだが、皆笑いながらもリラーナがどれだけ魔導具好きかを知っているため、リラーナを宥めながらアランの店へと向かったのだった。

「ここだな」

 ディノが住所を確認し、ひとつの店の前で止まった。

 それほど大きくはないがなんだか可愛らしい雰囲気の店。三角屋根に大きな窓、扉には看板が掲げられ、店先を照らすためランプが灯されている。
 扉を開けるとカランコロンと扉に付いたベルが鳴り、店内に足を踏み入れると薄暗いがランプが多く灯され、優し気な灯りとなんだか良い香りがし落ち着く。

「いらっしゃい……って、ルーサか! 来てくれたんだね」

 店の奥からアランが出て来た。私たちを目にした途端、店主の顔から一気に緩み、友達として出迎えてくれているのが分かった。

「アランのお店、可愛いわね」
「そう? 色々頑張ったからそう言ってもらえると嬉しいよ」

 ダラスさんのお店よりも店自体は小さい。しかしダラスさんの店よりもなんだか可愛く店内が飾られている。
 ダラスさんの店は基本的に魔石が並んでいるだけで、特に店内に飾りを施したりとかはなかった。まあダラスさんがそんなことをしていたらちょっと引くかも……? と、苦笑した。

 アランの店は魔石が様々なところに展示されている。メインであろう正面のカウンター部分にも魔石が並んでいるのはダラスさんの店とも同じなのだが、それ以外にも壁に棚がお洒落に飾られ、そのひとつひとつの棚にひとつふたつの魔石が飾られている。その棚にそれぞれ照明のランプが設置され、魔石の輝きがより一層際立っていた。

 魔石を照らすランプの光が、魔石を通し輝きが反射し、店全体がキラキラと煌めいているようだ。

「父さんの店とは全く違うわねぇ。綺麗!」

 リラーナも感心しながらきょろきょろと周りを見回し興奮している。

「ダラスさんのお店はやっぱりダラスさんの魔石があるから余計なことをしなくても、価値あるものとして認められているしね。僕の店はまだまだこれからだ。いかにお客さんに印象を残すか、が大事かな、と思って」
「なるほどねぇ、店を出すにもただ出すだけじゃなく色々考えないと駄目なのね……」

 リラーナが真面目な顔で言った。
 確かにそうよね。最初はやはり無名な訳だし、いかに固定客を付けるかが重要になってくるものね。だから最初の印象が大事な訳か。リラーナとも最終お店を出そうという話をしていることだし、私たちにとっても良い勉強になるわね。

「最初は師匠の店の常連さんが来てくれているから、そこから新規のお客さんに繋げられるように頑張らないとなんだ」
「そういえばアランのお師匠さんも近くに店があるの?」
「うん、ここからもう少し奥に行ったところにあるよ。あとで覗いてみて。師匠の魔石も凄いから」

 そう言ってにこりと笑った。

 アランの精製した魔石を眺めつつ、色々話しをしていると思い出したかのようにアランが言った。

「そういえばルーサが精製した魔石、もし売ったりするのなら僕に買い取らせてね?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」  申し訳なさそうに眉を下げながら。  でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、 「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」  別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。  獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。 『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』 『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』  ――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。  だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。  夫であるジョイを愛しているから。  必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。  アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。  顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。  夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。 

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

処理中です...