132 / 247
第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編
第129話 迫る獣
しおりを挟む
明けましておめでとうございます!
お待たせしました!
連載再開します!
**********
山小屋の調理とは一体どんなものだろうかと思ったが、大きな鍋に入れた野菜スープを暖炉の火で煮込んでいくものだった。
野菜はすでに切ったものを持って来ていたらしく、調理と呼べるほどのことはしていないようだ。具材を入れ、調味料を入れ、味見をしつつ味を調える。
小さな魔導コンロを持って来ていたようで、御者さんはフライパンで肉を焼いていた。塊の肉を豪快に焼いている。ジュージューと良い音に、さらには良い匂いが漂って来てお腹が鳴りそうだわ。
リラーナと共にスプーンとフォークをテーブルに並べていき、皿に盛られたスープを運んでいく。肉が焼き終わると、それを切っていく。肉汁が溢れ出るのを眺めながら、人数分に切り分けて行き、皿に盛り付ける。最後に、私も以前フェスラーデの森に持って行っていた保存食のパン。それを鍋で仕上げ、焼き立てパンに。それらを全てテーブルに並べ、全員で夕食の時間だ。
ララさんはすっかり眠ってしまっていたナナカちゃんを起こし、豪華な夕食の時間となった。「いただきます」という言葉と共に、皆が一斉に食べ始める。
一日中馬車に乗り続けていた疲労感のためか、温かいスープを飲むと一気に身体の力が抜けた。ホッと口から安堵の溜め息が漏れる。
「美味しいー!」
「沁みるー」
全員が感嘆の声を上げ、それと同時にアハハと笑い合った。
「いやぁ、エルシュには何度か行ったことはあるが、この山越えが一番しんどいよな」
「フッ。あぁ。ただ馬車に乗っているだけなんだがな」
ディノとイーザンもやはり疲れていたようだ。あの馬車の揺れはただ乗っているだけでも、やはり疲れるものは疲れるわよね。それがおかしくてみんなで笑い合う。
スープにほっこりした後は、肉汁たっぷりのお肉を堪能する。歯応えは柔らかく、しかし焼き目は香ばしく、しっかり目の塩味が食欲をそそる。お腹が空いていたから、いくらでも食べられそうね。
野営などで食事をするたびに思う。温かい料理の有難さ。家にいるときには分からない。温かい料理を仲間たちと食べる心地よさ。他愛もないことだけれど、あぁ、幸せだなぁ、と思ったりなんかして、じんわりと心が温かくなるのよね。
そうやって和気あいあいと食事をしていると、ルギニアスがテーブルにちょこんと座って食事をしているのをナナカちゃんが発見する。またしてもナナカちゃんが興味津々でじっと見詰めていたため、ルギニアスはやはり居心地が悪そうだった。
食事を終え談笑しつつ、後片付けを手伝い、その日は疲れのためか早々に就寝した。
翌朝、再び馬車へと乗り込み出発する。
山小屋からエルシュへ向かう山道は山の傾斜が激しいためか、迂回のための回り道がひたすら長かった。降っているような登っているような、山小屋までの道のりよりも険しい気がした。酔いそうだわ……。ナナカちゃんもしんどそうな顔色だ。
そのとき急に馬車の速度が上がった。ガタンと大きく揺れた馬車はガタガタと激しく揺れる。
「どうした!?」
ディノが御者さんに声を掛ける。
「獣が近付いています! 速度を上げますのでなにかにしっかりと掴まっていてください!!」
「「「「「!?」」」」」
獣!? なにかが近付いて来ている!? ガタガタと激しく揺れる馬車に振り落とされないよう必死にしがみ付く。ララさんは必死にナナカちゃんを抱き締めている。
「ディ、ディノ!! ここってよく獣が出るの!?」
「ま、まあ、滅多には出ないが、全くないこともないな……ちっ、イーザン!」
「あぁ」
ディノはイーザンと目を合わせ頷き合った。そして御者さんに叫ぶ。
「俺たちが倒す! 馬車を止めろ!」
「!? わ、分かりました!」
御者さんは背後から叫ばれ、驚いたようだったが、ディノとイーザンが剣士であることを思い出したのか、ディノの言葉に従った。
速度を落とし、道途中で馬車を止める。素早く馬車から飛び降りたディノとイーザンは馬車の背後をじっと見詰め、剣を構える。ララさんとナナカちゃんを出来る限り奥へと促し、私とリラーナはディノとイーザンの邪魔にならない距離で見詰める。
馬車が止まってからほとんど間を置かずして背後から何かの群れがやって来た。
「どうして獣が来るのが分かったんですか?」
迫り来る獣の姿を確認し、御者さんに聞いた。
「馬車には結界の魔導具が設置されているんです。馬車を守れるほどの結界を張れている訳ではないのですが、その代わり広範囲に結界を張ることが出来るため、それに獣などが触れると、私の手元にある魔導具が反応するように出来ています」
なるほど、そんな魔導具が設置されていたのか。
「結界の魔導具は色々あるからね。うちに設置されていたものは、範囲は狭いけれど、守護能力の高い結界魔導具だったから、侵入者を攻撃する魔導具。馬車に設置してあるものは、広範囲を優先して危険を事前に察知するための魔導具ね」
リラーナが結界魔導具について教えてくれる。そんな話をしている間に獣は一気にディノたちの目の前に迫っていた。
六匹の狼の群れだ。
「さーて、おでましだな」
ディノとイーザンは剣をしっかりと構え、狼の群れと対峙した。
お待たせしました!
連載再開します!
**********
山小屋の調理とは一体どんなものだろうかと思ったが、大きな鍋に入れた野菜スープを暖炉の火で煮込んでいくものだった。
野菜はすでに切ったものを持って来ていたらしく、調理と呼べるほどのことはしていないようだ。具材を入れ、調味料を入れ、味見をしつつ味を調える。
小さな魔導コンロを持って来ていたようで、御者さんはフライパンで肉を焼いていた。塊の肉を豪快に焼いている。ジュージューと良い音に、さらには良い匂いが漂って来てお腹が鳴りそうだわ。
リラーナと共にスプーンとフォークをテーブルに並べていき、皿に盛られたスープを運んでいく。肉が焼き終わると、それを切っていく。肉汁が溢れ出るのを眺めながら、人数分に切り分けて行き、皿に盛り付ける。最後に、私も以前フェスラーデの森に持って行っていた保存食のパン。それを鍋で仕上げ、焼き立てパンに。それらを全てテーブルに並べ、全員で夕食の時間だ。
ララさんはすっかり眠ってしまっていたナナカちゃんを起こし、豪華な夕食の時間となった。「いただきます」という言葉と共に、皆が一斉に食べ始める。
一日中馬車に乗り続けていた疲労感のためか、温かいスープを飲むと一気に身体の力が抜けた。ホッと口から安堵の溜め息が漏れる。
「美味しいー!」
「沁みるー」
全員が感嘆の声を上げ、それと同時にアハハと笑い合った。
「いやぁ、エルシュには何度か行ったことはあるが、この山越えが一番しんどいよな」
「フッ。あぁ。ただ馬車に乗っているだけなんだがな」
ディノとイーザンもやはり疲れていたようだ。あの馬車の揺れはただ乗っているだけでも、やはり疲れるものは疲れるわよね。それがおかしくてみんなで笑い合う。
スープにほっこりした後は、肉汁たっぷりのお肉を堪能する。歯応えは柔らかく、しかし焼き目は香ばしく、しっかり目の塩味が食欲をそそる。お腹が空いていたから、いくらでも食べられそうね。
野営などで食事をするたびに思う。温かい料理の有難さ。家にいるときには分からない。温かい料理を仲間たちと食べる心地よさ。他愛もないことだけれど、あぁ、幸せだなぁ、と思ったりなんかして、じんわりと心が温かくなるのよね。
そうやって和気あいあいと食事をしていると、ルギニアスがテーブルにちょこんと座って食事をしているのをナナカちゃんが発見する。またしてもナナカちゃんが興味津々でじっと見詰めていたため、ルギニアスはやはり居心地が悪そうだった。
食事を終え談笑しつつ、後片付けを手伝い、その日は疲れのためか早々に就寝した。
翌朝、再び馬車へと乗り込み出発する。
山小屋からエルシュへ向かう山道は山の傾斜が激しいためか、迂回のための回り道がひたすら長かった。降っているような登っているような、山小屋までの道のりよりも険しい気がした。酔いそうだわ……。ナナカちゃんもしんどそうな顔色だ。
そのとき急に馬車の速度が上がった。ガタンと大きく揺れた馬車はガタガタと激しく揺れる。
「どうした!?」
ディノが御者さんに声を掛ける。
「獣が近付いています! 速度を上げますのでなにかにしっかりと掴まっていてください!!」
「「「「「!?」」」」」
獣!? なにかが近付いて来ている!? ガタガタと激しく揺れる馬車に振り落とされないよう必死にしがみ付く。ララさんは必死にナナカちゃんを抱き締めている。
「ディ、ディノ!! ここってよく獣が出るの!?」
「ま、まあ、滅多には出ないが、全くないこともないな……ちっ、イーザン!」
「あぁ」
ディノはイーザンと目を合わせ頷き合った。そして御者さんに叫ぶ。
「俺たちが倒す! 馬車を止めろ!」
「!? わ、分かりました!」
御者さんは背後から叫ばれ、驚いたようだったが、ディノとイーザンが剣士であることを思い出したのか、ディノの言葉に従った。
速度を落とし、道途中で馬車を止める。素早く馬車から飛び降りたディノとイーザンは馬車の背後をじっと見詰め、剣を構える。ララさんとナナカちゃんを出来る限り奥へと促し、私とリラーナはディノとイーザンの邪魔にならない距離で見詰める。
馬車が止まってからほとんど間を置かずして背後から何かの群れがやって来た。
「どうして獣が来るのが分かったんですか?」
迫り来る獣の姿を確認し、御者さんに聞いた。
「馬車には結界の魔導具が設置されているんです。馬車を守れるほどの結界を張れている訳ではないのですが、その代わり広範囲に結界を張ることが出来るため、それに獣などが触れると、私の手元にある魔導具が反応するように出来ています」
なるほど、そんな魔導具が設置されていたのか。
「結界の魔導具は色々あるからね。うちに設置されていたものは、範囲は狭いけれど、守護能力の高い結界魔導具だったから、侵入者を攻撃する魔導具。馬車に設置してあるものは、広範囲を優先して危険を事前に察知するための魔導具ね」
リラーナが結界魔導具について教えてくれる。そんな話をしている間に獣は一気にディノたちの目の前に迫っていた。
六匹の狼の群れだ。
「さーて、おでましだな」
ディノとイーザンは剣をしっかりと構え、狼の群れと対峙した。
1
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説
【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です
堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」
申し訳なさそうに眉を下げながら。
でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、
「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」
別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。
獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。
『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』
『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』
――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。
だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。
夫であるジョイを愛しているから。
必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。
アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。
顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。
夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる