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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第122話 魔獣のいない森

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 木々が鬱蒼とはしているが、比較的陽も差し込み明るさがあった。魔獣の気配や魔蟲の気配もなく、方角を確認しながらひたすら歩く。

「普段から魔獣とか魔蟲はあまりいないのかしら?」
「さあなぁ、気配もなにもないよな」

 ディノもイーザンも警戒しながら歩いている。私も周りの気配を探ってみたりもするが、普通の獣の気配などはあるが、魔獣らの気配はない。肩に乗るルギニアスも特に反応はなかったが、なにを思っているのかずっと無言だった。

 たまに草むらがガサッと音を立て、ビクッとしたりもするが、いるのは小さい獣だったりする。ディノが「あいつは美味い」とか言って、獣を見る視点が違うことに笑いそうになりながら、のどかな雰囲気で歩き続けていた。

 しばらく歩き続けていると崖になったところにぶち当たった。

「この先は山になっているな」

 イーザンは崖を見上げ呟く。同様に見上げると、崖の上には木々が続き、さらに森が続いているようだった。それほど高くはないのだろうが、現在地としては山の麓に当たるようだ。

「崖の上なら調べようがないなぁ……範囲が広すぎる」
「だよね。うーん、なにもいないのかしら……」

「ねえ、あそこは?」

 どうしたものか、と考えていると、リラーナが声を上げた。そしてリラーナが指差す方向を見ると、遠目になにか洞窟のようなものが見える。

 四人とも顔を見合わせる。

「行ってみるか」

「そうだね。感知してみるにしてももう少し近付きたいし」

 話で聞いていたよりも、穏やか過ぎる雰囲気が、余計に違和感を覚える。洞窟らしきものに近付いて行っても、特になにも感じない。なにかがいるとも思えない。魔獣や魔蟲の気配も感じない。それが余計に気持ち悪い。

「なんなのかしら。全くなにも感じない……」

「この森には元々魔獣はいないのかもしれないが……この洞窟にもなにもいないのか……」

 目の前に広がる洞窟の入り口はそれほど広くはなかった。私たちの背でぎりぎり屈まずに入れるくらいだ。

「暗いね……入ってみる?」

「なにかいるとも思えないが、とりあえず確認だけしておくか」

 皆で顔を見合わせ頷いた。鞄から魔導ランプを取り出し灯りを点ける。まず最初にイーザンが洞窟内部の様子を伺った。イーザンはなにやら呟くと白い小さな光のようなものが飛んで行った。

「特に変なガスが出ていたりもなさそうだな。大丈夫そうだ」

 そう振り向いたイーザンが全員を促した。私たちは恐る恐る洞窟に足を踏み入れた。ゆっくり慎重に進むと、洞窟内部はそれなりに広いようだ。大きく広がった空間は、私たちの背の高さよりも遥かに高い天井となっていた。

 しかしそれだけだ。なにもない……地面に転がるなにかを除いて。

「あれ、なんだ?」

 ディノが訝し気に言った。

 洞窟の一番奥、行き止まりとなった場所の地面になにかが転がっている。ランプを掲げても、それにはまだ光が届かず影にしか見えない。黒い塊としか見えないそれは一体なんなのか。

「全く動く気配がないな。生き物ではないということか?」

 そう言いながらディノは慎重に歩を進める。私たちもそれに続く。

 次第にランプの灯りが届きそうな距離までやって来ると、それの大きさもはっきりとしてくる。大きさはそれほど大きくはない。私たちの身体よりさらに小さい。なにやら布のようなものが見える。

「ね、ねぇ、あれって……足じゃない?」

 リラーナが私の腕にしがみ付き、怯えたように言う。その転がる物体に目を凝らす。黒い塊だと思っていたそれは、ぼんやりと白いものを浮かび上がらせていた。そしてそれはリラーナの言う通り、人間の足に見えた……。

「子供!?」

 小さな足……しかも裸足! それが暗闇のなか白く浮かび上がっていたのだ。

 思わず駆け出しそうになり、イーザンが私の前に腕を伸ばし止めた。

「安易に近付くな。忘れたのか、目撃例は人の子供のようだった、と。しかしその子供が襲ってきた、とも言っていた」

「!!」

 そ、そうだった。そんな話だったわね。

「ご、ごめん、そうよね」

 イーザンは頷き、ディノと共にじりじりとゆっくり近付いていく。腰に下げた剣に手を添え、攻撃態勢で歩を進める。
 肩に乗るルギニアスからも少し緊張が伺えた。ちらりとルギニアスに目をやると、眉間に皺を寄せながら、じっとその黒い影を見詰めている。そんなルギニアスが気にはなるが、とにかくディノとイーザンの後に続く。リラーナは怯えた顔をし、私の腕をぎゅっと握っていた。

 じりじりとその黒い物体に近付くと、徐々にその姿が露わになってくる。足のように見えたそれは実際足だった……。小さな足……人間の足……しかし……それは人の子ではない。

「こ、こいつは……」

 全員が言葉を失くした。

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