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第3章《試験》編
第97話 魔王復活
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何度となく繰り広げられる攻防に、しかしどうやっても二人のほうが圧倒的に不利だった。いくら炎の攻撃がなくなったとしても、この巨体を攻撃するのは至難の業だった。しかも鱗は剣を通さない。限界が近かった。
「ディノ!! イーザン!!」
あぁ、もう駄目なの!? 私のせいで二人の命を失くしてしまうの!? ぐっと拳を握り締める。
「俺を解放しろ!!」
「!?」
ルギニアスが私の肩で叫んだ。スッと私の目の前に浮かび上がったルギニアスは真面目な顔。
「解放って?」
「俺をその魔石から解放しろ」
ルギニアスは真っ直ぐに私の胸元を指差した。そこには紫の魔石。
「か、解放って言われてもどうしたら……」
解放の方法なんて分からない……それに……魔王を解放? そんなことをして良いのだろうか……。ルギニアスが語られている魔王とは思えない。人間を滅ぼそうと思っているなんて思えない。でも……魔王と言われて簡単に解放をして良いのかなんて……私には判断が出来ない……。
「早くしないとあの二人は死ぬぞ」
「!!」
死という言葉にびくりとする。
「でも……どうしたら……」
「お前なら分かるはずだ」
ルギニアスは真っ直ぐに私の目を見詰めた。その後ろでは激しい音を上げながら二人が必死に闘っている。
私には分かる? 魔王の封印を解く方法が? 解放する方法が?
「ぐあっ!!」
ディノの声!! 考える間を与えてくれない……ディノが……イーザンが……。
紫の魔石……そのなかにルギニアスがいる。魔石のなかにルギニアスが封印されている……魔石……。
服のなかから紫の魔石を取り出し見詰める。昔はもっと暗い色だった。それが今は澄んだような明るい紫に……不思議な色の魔石。前世のお母さんの形見の魔石。傍にあると落ち着いた。その魔石をぐっと握り締める。そして魔石を感じる。
魔石の内部に集中していく……。今までこの魔石の感知もしたことはある。しかし今行うのはもっと内部……きっと表面上の感知じゃ駄目だ。
魔石の魔力、魔石の魔素、そしてそのもっと奥深く……。もやもやと魔素を感じる。違う、もっと奥よ。もっともっと深く……。目を瞑り、深呼吸をする。ゆっくりと集中していく。
魔素のさらに奥深く……なにかを感じる。温かい……懐かしい……そんな不思議な感覚。その周りにある光の膜。なにかを大事に包むように……。
瞼の裏に光が見える。大事な温かいなにか……。それをゆっくりと開いていくように……。少しずつ、少しずつ……大事な宝箱を開けるように……。
小さな光は開かれたその隙間、眩い光を放つ。
《――――――――》
目を開けると、紫の魔石から眩い光が放たれていた。目を開けていられないほどの眩い光。辺り一面を真っ白に染めるほどの眩い光。
目の前のルギニアスと私しかいない世界。なんの音もない世界。
「あぁ、やっと自由だ」
ルギニアスの身体が光に包まれたかと思うと、次第にその光が大きくなっていく。私よりも遥かに大きくなった光は次第に薄れていき、そのなかにいる人物の姿を浮かび上がらせた。
光がなくなったその人物は私よりも遥かに背が高く、スラリと均整の取れた体躯の男性。漆黒の長い髪に真紅の瞳。
身体を動かし自身の手を見詰め、にぎにぎと動かした後、フッと笑った。
そしてそのまま私のほうを見た。
「お前のおかげでやっと自由になれた」
そう言ってニヤッと笑ったその人は、
「ルーちゃん……なの?」
「ルーちゃんと呼ぶな」
フンと顔を逸らしたその仕草は、間違いなくルギニアス。やっぱりルギニアスなんだ……。魔王という理由が分かった気がする……。ルギニアスの魔力感知を行った訳ではないのに、威圧感を感じる。圧倒的な魔力を放っている気がする。
私は魔王を解放してしまった……。良かったのか分からない……世界を裏切ったかもしれない……でも……それでも……。
私にはルギニアスが人間を滅ぼそうなんて思っているとは思えない……。
ルギニアスは私から視線を逸らし後ろに振り向いた。その仕草は優雅で、ふわりと長い髪が揺れる。その瞬間、視界が戻って来た。
真っ白だった世界は色を取り戻し、ルギニアスと私は元の世界へと戻っていた。
『グゥォォオオオ!!』
色を取り戻した瞬間、ドラゴンの咆哮が響き渡った。我に返るとルギニアスの向こうにディノとイーザンが倒れていた。
「!! ルーちゃん!! 二人を助けて!!」
「ルーちゃんと呼ぶなと言っているだろうが」
ムスッとしたままルギニアスはやれやれといった顔で一歩足を踏み出した。
「ディノ!! イーザン!!」
あぁ、もう駄目なの!? 私のせいで二人の命を失くしてしまうの!? ぐっと拳を握り締める。
「俺を解放しろ!!」
「!?」
ルギニアスが私の肩で叫んだ。スッと私の目の前に浮かび上がったルギニアスは真面目な顔。
「解放って?」
「俺をその魔石から解放しろ」
ルギニアスは真っ直ぐに私の胸元を指差した。そこには紫の魔石。
「か、解放って言われてもどうしたら……」
解放の方法なんて分からない……それに……魔王を解放? そんなことをして良いのだろうか……。ルギニアスが語られている魔王とは思えない。人間を滅ぼそうと思っているなんて思えない。でも……魔王と言われて簡単に解放をして良いのかなんて……私には判断が出来ない……。
「早くしないとあの二人は死ぬぞ」
「!!」
死という言葉にびくりとする。
「でも……どうしたら……」
「お前なら分かるはずだ」
ルギニアスは真っ直ぐに私の目を見詰めた。その後ろでは激しい音を上げながら二人が必死に闘っている。
私には分かる? 魔王の封印を解く方法が? 解放する方法が?
「ぐあっ!!」
ディノの声!! 考える間を与えてくれない……ディノが……イーザンが……。
紫の魔石……そのなかにルギニアスがいる。魔石のなかにルギニアスが封印されている……魔石……。
服のなかから紫の魔石を取り出し見詰める。昔はもっと暗い色だった。それが今は澄んだような明るい紫に……不思議な色の魔石。前世のお母さんの形見の魔石。傍にあると落ち着いた。その魔石をぐっと握り締める。そして魔石を感じる。
魔石の内部に集中していく……。今までこの魔石の感知もしたことはある。しかし今行うのはもっと内部……きっと表面上の感知じゃ駄目だ。
魔石の魔力、魔石の魔素、そしてそのもっと奥深く……。もやもやと魔素を感じる。違う、もっと奥よ。もっともっと深く……。目を瞑り、深呼吸をする。ゆっくりと集中していく。
魔素のさらに奥深く……なにかを感じる。温かい……懐かしい……そんな不思議な感覚。その周りにある光の膜。なにかを大事に包むように……。
瞼の裏に光が見える。大事な温かいなにか……。それをゆっくりと開いていくように……。少しずつ、少しずつ……大事な宝箱を開けるように……。
小さな光は開かれたその隙間、眩い光を放つ。
《――――――――》
目を開けると、紫の魔石から眩い光が放たれていた。目を開けていられないほどの眩い光。辺り一面を真っ白に染めるほどの眩い光。
目の前のルギニアスと私しかいない世界。なんの音もない世界。
「あぁ、やっと自由だ」
ルギニアスの身体が光に包まれたかと思うと、次第にその光が大きくなっていく。私よりも遥かに大きくなった光は次第に薄れていき、そのなかにいる人物の姿を浮かび上がらせた。
光がなくなったその人物は私よりも遥かに背が高く、スラリと均整の取れた体躯の男性。漆黒の長い髪に真紅の瞳。
身体を動かし自身の手を見詰め、にぎにぎと動かした後、フッと笑った。
そしてそのまま私のほうを見た。
「お前のおかげでやっと自由になれた」
そう言ってニヤッと笑ったその人は、
「ルーちゃん……なの?」
「ルーちゃんと呼ぶな」
フンと顔を逸らしたその仕草は、間違いなくルギニアス。やっぱりルギニアスなんだ……。魔王という理由が分かった気がする……。ルギニアスの魔力感知を行った訳ではないのに、威圧感を感じる。圧倒的な魔力を放っている気がする。
私は魔王を解放してしまった……。良かったのか分からない……世界を裏切ったかもしれない……でも……それでも……。
私にはルギニアスが人間を滅ぼそうなんて思っているとは思えない……。
ルギニアスは私から視線を逸らし後ろに振り向いた。その仕草は優雅で、ふわりと長い髪が揺れる。その瞬間、視界が戻って来た。
真っ白だった世界は色を取り戻し、ルギニアスと私は元の世界へと戻っていた。
『グゥォォオオオ!!』
色を取り戻した瞬間、ドラゴンの咆哮が響き渡った。我に返るとルギニアスの向こうにディノとイーザンが倒れていた。
「!! ルーちゃん!! 二人を助けて!!」
「ルーちゃんと呼ぶなと言っているだろうが」
ムスッとしたままルギニアスはやれやれといった顔で一歩足を踏み出した。
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