100 / 247
第3章《試験》編
第97話 魔王復活
しおりを挟む
何度となく繰り広げられる攻防に、しかしどうやっても二人のほうが圧倒的に不利だった。いくら炎の攻撃がなくなったとしても、この巨体を攻撃するのは至難の業だった。しかも鱗は剣を通さない。限界が近かった。
「ディノ!! イーザン!!」
あぁ、もう駄目なの!? 私のせいで二人の命を失くしてしまうの!? ぐっと拳を握り締める。
「俺を解放しろ!!」
「!?」
ルギニアスが私の肩で叫んだ。スッと私の目の前に浮かび上がったルギニアスは真面目な顔。
「解放って?」
「俺をその魔石から解放しろ」
ルギニアスは真っ直ぐに私の胸元を指差した。そこには紫の魔石。
「か、解放って言われてもどうしたら……」
解放の方法なんて分からない……それに……魔王を解放? そんなことをして良いのだろうか……。ルギニアスが語られている魔王とは思えない。人間を滅ぼそうと思っているなんて思えない。でも……魔王と言われて簡単に解放をして良いのかなんて……私には判断が出来ない……。
「早くしないとあの二人は死ぬぞ」
「!!」
死という言葉にびくりとする。
「でも……どうしたら……」
「お前なら分かるはずだ」
ルギニアスは真っ直ぐに私の目を見詰めた。その後ろでは激しい音を上げながら二人が必死に闘っている。
私には分かる? 魔王の封印を解く方法が? 解放する方法が?
「ぐあっ!!」
ディノの声!! 考える間を与えてくれない……ディノが……イーザンが……。
紫の魔石……そのなかにルギニアスがいる。魔石のなかにルギニアスが封印されている……魔石……。
服のなかから紫の魔石を取り出し見詰める。昔はもっと暗い色だった。それが今は澄んだような明るい紫に……不思議な色の魔石。前世のお母さんの形見の魔石。傍にあると落ち着いた。その魔石をぐっと握り締める。そして魔石を感じる。
魔石の内部に集中していく……。今までこの魔石の感知もしたことはある。しかし今行うのはもっと内部……きっと表面上の感知じゃ駄目だ。
魔石の魔力、魔石の魔素、そしてそのもっと奥深く……。もやもやと魔素を感じる。違う、もっと奥よ。もっともっと深く……。目を瞑り、深呼吸をする。ゆっくりと集中していく。
魔素のさらに奥深く……なにかを感じる。温かい……懐かしい……そんな不思議な感覚。その周りにある光の膜。なにかを大事に包むように……。
瞼の裏に光が見える。大事な温かいなにか……。それをゆっくりと開いていくように……。少しずつ、少しずつ……大事な宝箱を開けるように……。
小さな光は開かれたその隙間、眩い光を放つ。
《――――――――》
目を開けると、紫の魔石から眩い光が放たれていた。目を開けていられないほどの眩い光。辺り一面を真っ白に染めるほどの眩い光。
目の前のルギニアスと私しかいない世界。なんの音もない世界。
「あぁ、やっと自由だ」
ルギニアスの身体が光に包まれたかと思うと、次第にその光が大きくなっていく。私よりも遥かに大きくなった光は次第に薄れていき、そのなかにいる人物の姿を浮かび上がらせた。
光がなくなったその人物は私よりも遥かに背が高く、スラリと均整の取れた体躯の男性。漆黒の長い髪に真紅の瞳。
身体を動かし自身の手を見詰め、にぎにぎと動かした後、フッと笑った。
そしてそのまま私のほうを見た。
「お前のおかげでやっと自由になれた」
そう言ってニヤッと笑ったその人は、
「ルーちゃん……なの?」
「ルーちゃんと呼ぶな」
フンと顔を逸らしたその仕草は、間違いなくルギニアス。やっぱりルギニアスなんだ……。魔王という理由が分かった気がする……。ルギニアスの魔力感知を行った訳ではないのに、威圧感を感じる。圧倒的な魔力を放っている気がする。
私は魔王を解放してしまった……。良かったのか分からない……世界を裏切ったかもしれない……でも……それでも……。
私にはルギニアスが人間を滅ぼそうなんて思っているとは思えない……。
ルギニアスは私から視線を逸らし後ろに振り向いた。その仕草は優雅で、ふわりと長い髪が揺れる。その瞬間、視界が戻って来た。
真っ白だった世界は色を取り戻し、ルギニアスと私は元の世界へと戻っていた。
『グゥォォオオオ!!』
色を取り戻した瞬間、ドラゴンの咆哮が響き渡った。我に返るとルギニアスの向こうにディノとイーザンが倒れていた。
「!! ルーちゃん!! 二人を助けて!!」
「ルーちゃんと呼ぶなと言っているだろうが」
ムスッとしたままルギニアスはやれやれといった顔で一歩足を踏み出した。
「ディノ!! イーザン!!」
あぁ、もう駄目なの!? 私のせいで二人の命を失くしてしまうの!? ぐっと拳を握り締める。
「俺を解放しろ!!」
「!?」
ルギニアスが私の肩で叫んだ。スッと私の目の前に浮かび上がったルギニアスは真面目な顔。
「解放って?」
「俺をその魔石から解放しろ」
ルギニアスは真っ直ぐに私の胸元を指差した。そこには紫の魔石。
「か、解放って言われてもどうしたら……」
解放の方法なんて分からない……それに……魔王を解放? そんなことをして良いのだろうか……。ルギニアスが語られている魔王とは思えない。人間を滅ぼそうと思っているなんて思えない。でも……魔王と言われて簡単に解放をして良いのかなんて……私には判断が出来ない……。
「早くしないとあの二人は死ぬぞ」
「!!」
死という言葉にびくりとする。
「でも……どうしたら……」
「お前なら分かるはずだ」
ルギニアスは真っ直ぐに私の目を見詰めた。その後ろでは激しい音を上げながら二人が必死に闘っている。
私には分かる? 魔王の封印を解く方法が? 解放する方法が?
「ぐあっ!!」
ディノの声!! 考える間を与えてくれない……ディノが……イーザンが……。
紫の魔石……そのなかにルギニアスがいる。魔石のなかにルギニアスが封印されている……魔石……。
服のなかから紫の魔石を取り出し見詰める。昔はもっと暗い色だった。それが今は澄んだような明るい紫に……不思議な色の魔石。前世のお母さんの形見の魔石。傍にあると落ち着いた。その魔石をぐっと握り締める。そして魔石を感じる。
魔石の内部に集中していく……。今までこの魔石の感知もしたことはある。しかし今行うのはもっと内部……きっと表面上の感知じゃ駄目だ。
魔石の魔力、魔石の魔素、そしてそのもっと奥深く……。もやもやと魔素を感じる。違う、もっと奥よ。もっともっと深く……。目を瞑り、深呼吸をする。ゆっくりと集中していく。
魔素のさらに奥深く……なにかを感じる。温かい……懐かしい……そんな不思議な感覚。その周りにある光の膜。なにかを大事に包むように……。
瞼の裏に光が見える。大事な温かいなにか……。それをゆっくりと開いていくように……。少しずつ、少しずつ……大事な宝箱を開けるように……。
小さな光は開かれたその隙間、眩い光を放つ。
《――――――――》
目を開けると、紫の魔石から眩い光が放たれていた。目を開けていられないほどの眩い光。辺り一面を真っ白に染めるほどの眩い光。
目の前のルギニアスと私しかいない世界。なんの音もない世界。
「あぁ、やっと自由だ」
ルギニアスの身体が光に包まれたかと思うと、次第にその光が大きくなっていく。私よりも遥かに大きくなった光は次第に薄れていき、そのなかにいる人物の姿を浮かび上がらせた。
光がなくなったその人物は私よりも遥かに背が高く、スラリと均整の取れた体躯の男性。漆黒の長い髪に真紅の瞳。
身体を動かし自身の手を見詰め、にぎにぎと動かした後、フッと笑った。
そしてそのまま私のほうを見た。
「お前のおかげでやっと自由になれた」
そう言ってニヤッと笑ったその人は、
「ルーちゃん……なの?」
「ルーちゃんと呼ぶな」
フンと顔を逸らしたその仕草は、間違いなくルギニアス。やっぱりルギニアスなんだ……。魔王という理由が分かった気がする……。ルギニアスの魔力感知を行った訳ではないのに、威圧感を感じる。圧倒的な魔力を放っている気がする。
私は魔王を解放してしまった……。良かったのか分からない……世界を裏切ったかもしれない……でも……それでも……。
私にはルギニアスが人間を滅ぼそうなんて思っているとは思えない……。
ルギニアスは私から視線を逸らし後ろに振り向いた。その仕草は優雅で、ふわりと長い髪が揺れる。その瞬間、視界が戻って来た。
真っ白だった世界は色を取り戻し、ルギニアスと私は元の世界へと戻っていた。
『グゥォォオオオ!!』
色を取り戻した瞬間、ドラゴンの咆哮が響き渡った。我に返るとルギニアスの向こうにディノとイーザンが倒れていた。
「!! ルーちゃん!! 二人を助けて!!」
「ルーちゃんと呼ぶなと言っているだろうが」
ムスッとしたままルギニアスはやれやれといった顔で一歩足を踏み出した。
0
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説
【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です
堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」
申し訳なさそうに眉を下げながら。
でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、
「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」
別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。
獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。
『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』
『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』
――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。
だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。
夫であるジョイを愛しているから。
必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。
アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。
顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。
夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる