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本編 リディア編

第八十五話 嫉妬と好きな気持ち!?

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「お菓子販売委託もお願い出来たし、私が出来ることはもう何もないかな……」

 すっかりやることがなくなってしまい部屋で放心。

「今までがあれやこれややることが多すぎたのですよ。しばらくのんびりと過ごされてはいかがです?」

 マニカが放心している姿に苦笑しながら言った。

「そうだね~。色々やることたくさんあったしね」

 マニカと二人で笑った。

「お嬢のやりたいことして過ごそう」

 朝、部屋にやって来たオルガも言う。

 それからは何を急かされるでもなく、自由に好きなときに好きな場所へと向かった。

 薬物研究所に顔を出しフィリルさんとハーブ談義で盛り上がり、魔獣研究所に行ってはフィンとイルの騎乗練習を眺め、ルーと一緒に乗馬をしてみたり。

 そしてゼロと共に飛翔しクズフの丘へと行ったりもした。
 クズフの丘ではゼロと二人きり。

「やっぱりゼロといると何だかホッとする」
『ホッとする?』
「うん。落ち着く」

 ゼロに凭れながらセイネアの花を眺める。穏やかな時間が心地良い。

『もうすぐ誕生日とやらなのか?』

 ゼロは静かに聞いた。

「そうだね、後少し……」
『そうか……』

 ゼロはそれ以上何も言わなかった。私もそれ以上は何も言わない。
 それでもお互いの心は通じ合っていると思えた。ゼロが知っていてくれて、受け入れてくれて良かったと心から思う。きっとゼロがいなければもっと辛かったはず。
 ゼロ大好きだよ、ありがとう……


 それからも相変わらず魔獣研究所や薬物研究所に顔を出したり、ラニールさんに会いに行ったり、街へ出かけ散策ついでにロキさんのお店に寄って様子を聞いたり、そういったゆったりとした時間を過ごしていた。

 そんな日々を過ごしているとふと思う。

「最近シェスに会わないね……」

 街へ行った日以降全く会わなくなってしまった。
 避けられているのだろうか……。
 あの日少し距離が近付いた気がした。そう思っていたけど、勘違いだったのかしら……。

「何か嫌われることでもしてしまったのかな」

 少し悲しい気分になってしまう。どうやらそれが顔に出ていたらしく、マニカが心配そうにする。

「お嬢様……、違います、殿下は!」
「え?」
「い、いえ……、最近殿下はとてもお忙しいようです。地方へと向かわれたりもされていたようですし!」
「そうなの?」

 マニカは頷いた。

「地方へ行ったり……、それは確かに忙しいね」

 少し寂しいが、仕事が忙しいならば仕方のないことだ、そう思えた。

 ある日ラニールさんの元へ遊びに行くと、控えの間からラニールさんの声が聞こえて来た。厨房から出て来てるなんて珍しいな、と控えの間を覗くと見慣れない光景に驚いた。

 シェスがラニールさんと話していたのだ。

 え、シェス? 何で? ラニールさんと話してるの初めて見た……、じゃなくて、ラニールさんに何の用なんだろう。私には会いに来てくれないのに……。

 そう思ってしまったことに自分で驚く。
 これって嫉妬よね……、会えた嬉しさと同時に嫉妬も感じ戸惑った。私には嫉妬する権利なんてないのに。

 そう自分で思っては苦笑し、情けなくなった。
 見てしまった手前、黙って去るのもどうかと思い声を掛けた。
 でもどうやらそれが失敗だったようだ。

「ラニールさん、シェス、ごきげんよう。シェスが控えの間にいらっしゃるなんて珍しいですね。二人で何をお話されていたのですか?」

 嫉妬のせいで嫌味っぽくなってしまったかしら、シェスは驚き目を見開いた。

「な、何でもない! 私はもう行く! ラニール、頼んだぞ!」
「え、あ、あぁ」

 シェスは私とは何も話さないまま行ってしまった。
 何でよ。何で私とは何も話してくれないのよ。やっぱり何か怒らせるようなことをしたんだ……。
 心当たりが……、いっぱいありすぎて分からない……。

 少しショックを受けつつラニールさんに近付いた。

「ラニールさん、何だったんですか?」
「え? いや、何もない」

 ラニールさんの目が泳ぐ。明らかに怪しいんですけど。

「殿下、自分だけ逃げたな……」

 ラニールさんがボソッと呟いた言葉が聞こえた。

「何なんですか!? 逃げたって何で!?」
「あ、いや、その……」

 明らかに不審な態度のラニールさんだが、問い詰めてもきっと言えないことなんだろうなぁ。言えることならきっとラニールさんは教えてくれる。

「仕方ないなぁ、もう良いですよ。ラニールさんの料理を食べさせてもらえるなら」

 にこりと笑って見せた。ちょっと無理矢理だけど、どちらにしろラニールさんのところへ来たのは料理目的だし!

 ラニールさんはその言葉を聞き苦笑しつつ、頭を撫ですまんな、と呟いた。
 ラニールさんが謝ることではないしね。忘れることにしよう。




「殿下! また逃げましたね!」

 足早に歩き続けるシェスレイトの後を追いながらディベルゼは溜め息を吐く。

「もういい加減にしてくださいよ、久しぶりにリディア様にお会い出来て緊張するのも分かりますが、あの話も聞けない上に何も話さず逃げ出すとか」
「分かっている!」

 分かっているがどうしようもなかった。

 リディアと会えば不審感で疑惑の目を向けてしまうのではないかと心配だった。

 しかしいざリディアを目の前にすると、疑惑よりも何よりも…………、

 好きだ。やはりリディアのことが好きなのだ。

 そう再認識しただけだった。

 そのことに嬉しくもあり、恥ずかしくもあり…………、どうしたら良いか分からず逃げ出した。

 何故リディアを前にするとこれほど愚かで情けない人間になってしまうのか。シェスレイトは落ち込むが、しかしリディアを好きなままでいられたことに嬉しさが込み上げたのだった。

 きっと大丈夫だ。
 リディアが何者であろうと、リディアを好きなことに変わりはない。
 どんな話でも受け入れられる。シェスレイトはようやく自信を持つことが出来た。


 しかし覚悟を決めたシェスレイトの気持ちとは裏腹に、結局誕生パーティー当日まで、リディアに会う機会を作ることも出来ず、疑惑についても聞くことが出来ないままだった。

 そうして迎えたリディアの誕生日当日……。
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