上 下
7 / 136
本編 リディア編

第七話 従者!?

しおりを挟む
 オルガはルーゼンベルグ家の下働き。綺麗な赤い髪が目立つリディアと同い年の青年だ。
 ルーゼンベルグ家の庭師の息子で幼い頃から父親の元で一緒に働いている働き者だ。
 幼い頃からリディアとはよく一緒に遊び、とても仲が良かった。

 お母様は下働きの者と親しくなることを好まず、よく注意されたが、兄弟のいないリディアにはオルガは大事な友でもあり兄弟のような存在でもあった。お母様には隠れてこっそりとよく遊んだものだ。

 今回の入れ替わりのための魔術士を探し出してくれたのも、このオルガだった。
 オルガには入れ替わりのことは詳しく話さなかったのだが、リディアが何か悩んでいる様子だったのを心配し、魔術士を何年もかけて探し出してくれたのだ。

 婚約についても相手があの冷徹王子だということで、とても心配をしてくれていた。
 リディアの中身がカナデになってしまったことを伝えてはいない。きっととても悲しむのだろうな、と胸が苦しく申し訳なくなる。
 一年後にまたリディアが戻って来るからね、と心の中で謝った。

「お嬢? ボーっとしてどうした?」

 オルガが顔を覗き込んできた。

「え、あ、ううん、何でもない。いきなりオルガが来てくれてびっくりしただけ」

 オルガはニッと笑い、正面に跪いた。

「お嬢、大丈夫? 嫌なことない? 疲れてない? 身体は元気? 俺は中々会いに来れなかったから心配した」

 私の両手を自分の両手で優しく掴み、心配そうな顔で聞いた。

「オルガ、無礼ですよ」

 マニカが慌ててオルガの肩を掴み引き戻そうとした。

「マニカ、良いよ。私もオルガに会えて嬉しいし。でもそれにしても急にどうしたの?」
「お嬢にどうしても会いたくて、荷物運びして来た」

 両手を掴みながらオルガは満面の笑みで話す。

「お嬢の好きなハーブもいっぱい持って来たぞ!」

 オルガの後ろの方、部屋の入口を見ると色々な荷物が置かれていた。
 箱に詰められ山積みにされている。

「ハーブ以外にもお嬢の好きなお茶やらお菓子やら、本とかもいっぱい持って来たから」

 強く手を握り締め言う。

「ありがとう、オルガ、嬉しいよ」

 ルーゼンベルグの屋敷にいたときには毎日会っていた。それが王宮に来てからはめっきり会えなくなり、忙しいせいで思い出す機会も少なくはなっていたが、やはり寂しかった。
 だから会いに来てくれたのは素直に嬉しかった。

「ねぇ、お嬢」
「どうしたの?」

 やけに真面目な顔になり、真っ直ぐにこちらを見詰めて来た。

「俺をお嬢の従者にしてくれない?」
「え?」
「何でもするからさ! 従僕でも良いから! 雑用とかも全部するし!」

 真剣に訴える。

「うーん、私の一存では決められないし……」
「お願いだ! お嬢の側にいたいんだよ!」

 慕ってくれているのは嬉しいし、オルガが側にいてくれるのも嬉しい。

「お父様に手紙を書いてみるね」
「やった! ありがとう、お嬢!」

 オルガは立ち上がり身体全体で喜んだ。

「お嬢様、良いのですか?」
「え? お父様に手紙を書くこと?」
「いえ、そうではなく……」
「?」

 何故か言いづらそうだ。何だろう。

「マニカ?」
「いえ、その……奥様がオルガのことを良く思ってらっしゃらないので……」

 それを耳にし、オルガは固まった。

「確かにオルガと仲良くしているのは良く思われていないと分かっているけど、従者になるくらいは大丈夫じゃない?」
「いえ、仲良くしていることを良く思っていないのではなく……オルガ自身を……」
「え? どういうこと?」

 オルガが真面目な顔をして話し出した。

「お嬢は覚えてないみたいだけど、五歳のときに俺たち街の外まで遊びに出て魔獣に襲われたんだ」
「えっ!」

 オルガは俯き、マニカが続けた。

「そのときはたまたま魔獣狩りに出ていた宮廷騎士団に助けられたのですが、お嬢様は大怪我を負って一度心臓が止まったのです。その後何とか蘇生出来て怪我も次第に治ったのですが、その事で奥様はオルガが連れ出したからだ、と酷くお怒りになられて……」
「そんな……」
「そのときのお嬢様は襲われたショックからか記憶をなくされていて。オルガも何も言わないものですから、全てオルガの責任として扱われました」

「俺のせいだから……」

 オルガは苦しそうな表情で言う。

「覚えてない……」
「お嬢様は記憶をなくされていましたし、その後も怪我が治るまでずっと療養されすっかりと元気がなくなられてしまいましたから」

 長くベッドに横になる日々があったことは記憶にある。しかし襲われたとされるその日以前の記憶が曖昧だ。幼かったこともあるが、かなりの恐怖だったのだろう。

 しかしオルガが外に遊びに出ようとするとは思えない。もしかしたら私が出ようとして止めたのかもしれない。
 それでもオルガが当時何も語らなかったは、幼心にも私を守ろうとしてくれていたのかもしれない。
 そんな気がする……。

「オルガ」

 オルガを真っ直ぐに見詰めた。オルガの瞳は茶色いがたまにキラキラと琥珀色にも見える。

「お嬢?」
「オルガ、私のことずっと庇ってくれてた?」
「!! 違うよ! お嬢は何も悪くないよ! 俺がちゃんと考えられてたら良かったんだ……」
「ありがとう、オルガ……オルガ、私のこと好き?」
「!?」

 オルガはバッと音が出そうな程、勢い良くこちらを見た。そして顔を真っ赤にし片手で顔を隠しながら、

「す、好きだよ! 俺は昔からずっとお嬢が好きだ!」
「ありがとう、私もオルガが大好きだよ」

 ニコリと笑った。やはりお父様に許可をもらおう。

「お嬢様……」

 マニカの溜め息が聞こえた。

「え?」
「お嬢様は罪なお方ですね…」
「えぇ!?」

 何それ!? 何で!? 何か悪いことした!?

「分からないなら良いです……」
「えぇー!! 教えてよー!!」

 マニカのさらに深い溜め息が響き渡った。
 その後ろではオルガが真っ赤な顔のままデレデレしてる?
 一体どういうことなのー!?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

引きこもり令嬢はやり直しの人生で騎士を目指す

天瀬 澪
ファンタジー
アイラ・タルコットは、魔術師を数多く輩出している男爵家の令嬢である。 生まれ持った高い魔力で、魔術学校に首席合格し、魔術師を目指し充実した毎日を送っていたーーーはずだった。 いつの間にか歯車が狂い出し、アイラの人生が傾いていく。 周囲の悪意に心が折れ、自身の部屋に引きこもるようになってしまった。 そしてある日、部屋は炎に包まれる。 薄れゆく意識の中で、アイラに駆け寄る人物がいたが、はっきりと顔は見えずに、そのまま命を落としてしまう。 ーーーが。 アイラは再び目を覚ました。 「私…私はまだ、魔術学校に入学してはいない…?」 どうやら、三年前に戻ったらしい。 やり直しの機会を与えられたアイラは、魔術師となる道を選ぶことをやめた。 最期のとき、駆け寄ってくれた人物が、騎士の服を身に着けていたことを思い出す。 「決めたわ。私はーーー騎士を目指す」 強さを求めて、アイラは騎士となることを決めた。 やがて見習い騎士となるアイラには、様々な出会いと困難が待ち受けている。 周囲を巻き込み惹きつけながら、仲間と共に強く成長していく。 そして、燻っていた火種が燃え上がる。 アイラの命は最初から、ずっと誰かに狙われ続けていたのだ。 過去に向き合ったアイラは、一つの真実を知った。 「……あなたが、ずっと私を護っていてくれたのですね…」 やり直しの人生で、騎士として自らの運命と戦う少女の物語。

聖女の証を義妹に奪われました。ただ証だけ持っていても意味はないのですけどね? など 恋愛短編集

にがりの少なかった豆腐
恋愛
こちらは過去に投稿し、完結している短編(2万字未満の作品)をまとめたものになります 章毎に一作品となります これから投稿される『恋愛』カテゴリの短編は投稿完結後一定時間経過後、この短編集へ移動することになります ※こちらの作品へ移動する際、多少の修正を行うことがあります。 ※タグに関してはおよそすべての作品に該当するものを選択しています。

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

逃げる太陽【完結】

須木 水夏
恋愛
 黒田 陽日が、その人に出会ったのはまだ6歳の時だった。  近所にある湖の畔で、銀色の長い髪の男の人と出会い、ゆっくりと恋に落ちた。  湖へ近づいてはいけない、竜神に攫われてしまうよ。  そんな中、陽日に同い年の婚約者ができてしまう。   ✩°。⋆☆。.:*・゜  つたない文章です。 『身代わりの月』の姉、陽日のお話です。 ⭐️現代日本ぽいですが、似て非なるものになってます。 ⭐️16歳で成人します。 ⭐️古い伝承や言い伝えは、割と信じられている世界の設定です。

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

処理中です...