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六章 勇者

第四十九話

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 翌朝、ガイアスに出発することになった。

 王宮の裏門から出ると森が広がっていた。
 ディルアスはゼルを呼んだ。ゼルは何処からともなく飛翔し舞い降りて来た。

「ゼル! よろしく頼むな!」

 アレンは嬉しそうに言った。

「殿下、くれぐれもお二人のご迷惑になる行動は慎まれますように」
「俺が迷惑なんかかける訳ないだろ!」

 リシュレルさんの深い溜め息が聞こえた。

「すいません、ユウ様、ディルアス様、よろしくお願いしますね」
「はい、大丈夫ですよ、アレンなら」

 アレンは何だかんだと自分の立場の理解や状況判断が優れていると思う。そういうところはやはり王子なんだな、と思う。
 まあ普段はリシュレルさんに凄い負担かけてそうだけど。

「それにしても俺が相乗りで良かったのか?」

 アレンはニヤッと笑ってディルアスに言った。

「何がだ? 早く乗れ」
「はいはい」

 呆れた顔のアレンはこちらをチラッと見ながらディルアスの後ろに乗った。

 ルナは元の姿に戻り、私はその背に乗る。
 久しぶりのルナの背中! やっぱりもふもふ! 気持ち良い!

「では出発するぞ」

 ゼルは大きく羽ばたき、空高く舞い上がった。
 アレンの歓声が聞こえてくる。

「ゼルの後を追って」

 ルナはゼルの位置を確認しながら進む。
 やはり重力がないのかと思う程、軽やかな走りだ。崖だろうが岩だろうが、軽々と越えて行く。そしてそのスピードが異常に早い。景色が飛ぶように見える。

 ゼルもこちらを気にしながらスピードを調整してくれているのだろうが、それでもゼルがスピードを落としたような素振りは見えない。
 飛翔しているものに平気で付いて行けるルナの脚力が凄いのだろう。

 しばらく進むと国境が現れた。と言っても何もない。ただひたすらに平原が広がっている。
 壁がある訳でも見張りがいる訳でもない。ただひたすら平原だった。違和感があるくらいに。

「ここがガイアスとの国境だな」
「国境って言っても何もないんだね」
「あぁ、ガイアスとは勿論だが、残りの二国とも不戦条約を結んでいる。魔王や魔物を倒すための共闘だ。そのため表向きはお互い不用意に越境はしないということになっている」
「表向き?」

 アレンは苦笑しながら言った。

「あぁ、表向きはな。だが内実は平原にすることで、不戦条約を破り攻め入って来るのをすぐに見付けられるようにするためだ。まあ今まで国境でそのような事態になったことはないみたいだがな」

 遥か彼方昔から続く条約のようだ。魔王や魔物を倒すためのその当時の国王たちの苦肉の策だったのだろう。

「さて、後もう少しでガイアスの王宮が見えてくるはずだ」

 アレンがそう言いながら指を指した。

「ん?」

 その指した方向上空に何か黒い影が見える。

「何だあれ?」

 何か嫌な予感がした。その時アレンの通信に連絡が入った。イグリード殿下のようだ。

 イグリード殿下が何を言っているかは聞こえないが、何やらただならぬ雰囲気だ。

「ガイアスの王宮に魔物が出たらしい!」
「!! あの黒い影!?」
「あぁ、どうやらそのようだ。リードは今は来るな、と連絡してきた……」

 魔物が出て危険だから来るな、と言ってくれているのか。
 アレンは険しい顔をしている。
 オブを抱き締めながらルナを撫でた。ルナは真っ直ぐな目を向けていた。
 ディルアスと目が合い、お互い考えていることは同じだろう、と思い小さく頷き合った。

「行こう、アレン」
「ユウ?」
「こんな近くにいるのに、助けに行かないとかありえないでしょ!」

 ディルアスも頷いた。

「あ、あぁ、ありがとう! 頼む……」

 アレンは悲痛な顔で小さく言った。
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