上 下
40 / 96
五章 竜の谷

第四十話

しおりを挟む
 谷間に入るととてつもなく深い谷底だったと分かる。両脇には頂上が見えない程の高さの岩肌が続く。
 崖となったその岩肌にはドラゴンの姿が見えた。こちらに気付き襲いかかってくる!

「ユウ、結界を!」
「うん!」

 全員一塊に集まり結界を張る。ディルアスはさらに障壁結界を。

 ドラゴンは激しい炎を噴き出した。ルナやゼルの炎よりももっと激しい炎。
 結界が破られそうだ。

「ユウ、結界強化を!」

 強化とさらに五重結界を張った。
 ディルアスは障壁結界を張りながら、水魔法を発動させた。
 攻撃するためではなく、結界の補助になるように。大量の水は風船のように膨らみ巨大な水の塊となった。水の塊は炎を受けどんどんと蒸発していく。

「攻撃を止めて! 私たちはあなたたちに危害を加えに来た訳じゃない!」

 意志疎通を発動させた。ドラゴンを捕まえたい訳ではない。話がしたいだけだ。
 このまま戦ってしまうとお互い無傷ではいられないだろう。平和的に話が出来なくなってしまう。

「ねぇ! 話を聞いてよ!」

 結界がどんどんと破られていく。もう限界だ。
 ルナが私の前に立ちはだかった。

「くっ」

 ディルアスが再び障壁結界を張ろうとしたとき、ドラゴンの攻撃が突然止んだ。

「えっ!?」

 ドラゴンを見ると、黙ったまま私たちを見下ろしている。

おさが呼んでいる。ついてこい』
「え? 長?」
「何だ!? どうなったんだ!?」

 アレンはドラゴンの言葉が聞こえない。状況が分からず聞いてくる。

「長が呼んでいるからついてこい、だって」
「長…いにしえのドラゴンか!?」
「さあ、どうだろう。とにかくついて行くしかないね」

 結界を解き、全員怪我がないことを確認し、ドラゴンについて行く。
 進むにつれ、様々な色のドラゴンの姿が見えた。

「これだけドラゴンがいると壮観だな」

 アレンは周りを眺めながら言った。

 ドラゴン同士でもボソボソと話しているのが聞こえる。こちらをチラチラ見ながら話す姿は、まるで人間みたい。ドラゴンにも噂好きなのがいるのかしら、とか呑気なことを考える。

 しばらく進むと巨大な鍾乳洞のような場所に入った。ひんやりとしたその場所は薄暗く、しかし光苔だろうか、ぼんやり光る苔のようなものが、幻想的に辺りを照らしていた。

 その一番奥に一際大きなドラゴンがいた。他のドラゴンとは比べ物にならないくらい大きい。
 そして漆黒のドラゴンだった。

『よく来たな、我が一族の者、そして魔を打ち払う者よ』

「!?」

 ディルアスとアレンと顔を見合せ驚いた。
 我が一族の者!? 魔を打ち払う者!?
 何!? どういうこと!? 意味が分からず混乱していると、アレンが切り出した。

「そなたが古のドラゴンか!?」

 漆黒のドラゴンはアレンを見た。

『古か、確かに無駄に永くは生きているな』

 威厳のある、少し年老いた声で言った。このドラゴンの話す言葉はアレンにも聞こえているようだ。ドラゴン自身の力なんだろう。

「ならば、そなたには魔を打ち払う力があるのだろう!? 力を貸して欲しい!」
『魔を打ち払う力か、確かにそんな力もあっただろうか』
「あった……?」
『今の私にはそんな力はもうないだろう』
「そ、そんな……」

 アレンは呆然とした。

『魔を打ち払う力のある者なら、そこにいるではないか』
「えっ!?」

 アレンは私とディルアスを見た。

「この二人のどちらかが? 確かに二人とも凄い魔力だけど……」

『我が一族の者、魔を打ち払う者、その二人がいるのだ、十分過ぎる程の力だろう』

「我が一族というのは……俺か」

 ディルアスが口を開いた。アレンも私も驚いてディルアスを見た。
 確かに漆黒のドラゴンと同じく、ディルアスの髪も瞳も漆黒だ。だからと言って、ドラゴンの血筋!? どういうこと!?

『私がまだ幼かった頃、当時の一族には人間の姿になる能力があったため、人間ともまだ関わって生きていた。ある時一族の雄が一人の人間と恋に落ちた。一族を出たその者は人間として暮らし、人間として死んでいった。その子供は自分がドラゴンの血族だと知らぬまま人間として生きた』

 漆黒のドラゴンはディルアスを見た。

『そうやってその一族はドラゴンの血を受け継いでいることを知らぬまま、魔力が異様に強い人間の一族として脈々と受け継がれていったのだ』

 ディルアスは呆然としている。

「だが、俺の両親は魔法は使えなかった」

 そうだ、ディルアスの両親は魔物に殺されたと言っていた。魔法が使えたなら負けなかったはずだ。

『そなたのように、生まれながらの素質がなければ、魔力があっても使い方を知らなければ使えない』
「そうか……」

 ディルアスが何を考えているのかは分からない。ドラゴンの血族だということがショックだったのか、両親が魔法を使えていたならば、と悔しかったのか、無表情のディルアスは静かに拳を握り締めるだけだった。

「じゃあ、魔を打ち払う者ってのは……」

 アレンが私を見た。

「えっ、え、私……!? いや、何で!? 無理でしょ!」

 意味が分からない。明らかにディルアスより魔力は劣っていると思う。

「まさか……ユウ、お前、異世界人か!?」
「えっ、えっと……」
「お前が最初にこの世界に来たときどこに現れたんだ!?」
  
 異世界人……、そう異世界から私は来た。どこに現れたか? 森だったよね。ディルアスを見た。
 ディルアスと目が合った。

「ケシュナの森だ。そこに倒れていた」

 アレンが目を見開いた。

「ケシュナの森……、そこは勇者が現れるとされる森だ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...