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五章 竜の谷
第四十話
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谷間に入るととてつもなく深い谷底だったと分かる。両脇には頂上が見えない程の高さの岩肌が続く。
崖となったその岩肌にはドラゴンの姿が見えた。こちらに気付き襲いかかってくる!
「ユウ、結界を!」
「うん!」
全員一塊に集まり結界を張る。ディルアスはさらに障壁結界を。
ドラゴンは激しい炎を噴き出した。ルナやゼルの炎よりももっと激しい炎。
結界が破られそうだ。
「ユウ、結界強化を!」
強化とさらに五重結界を張った。
ディルアスは障壁結界を張りながら、水魔法を発動させた。
攻撃するためではなく、結界の補助になるように。大量の水は風船のように膨らみ巨大な水の塊となった。水の塊は炎を受けどんどんと蒸発していく。
「攻撃を止めて! 私たちはあなたたちに危害を加えに来た訳じゃない!」
意志疎通を発動させた。ドラゴンを捕まえたい訳ではない。話がしたいだけだ。
このまま戦ってしまうとお互い無傷ではいられないだろう。平和的に話が出来なくなってしまう。
「ねぇ! 話を聞いてよ!」
結界がどんどんと破られていく。もう限界だ。
ルナが私の前に立ちはだかった。
「くっ」
ディルアスが再び障壁結界を張ろうとしたとき、ドラゴンの攻撃が突然止んだ。
「えっ!?」
ドラゴンを見ると、黙ったまま私たちを見下ろしている。
『長が呼んでいる。ついてこい』
「え? 長?」
「何だ!? どうなったんだ!?」
アレンはドラゴンの言葉が聞こえない。状況が分からず聞いてくる。
「長が呼んでいるからついてこい、だって」
「長…古のドラゴンか!?」
「さあ、どうだろう。とにかくついて行くしかないね」
結界を解き、全員怪我がないことを確認し、ドラゴンについて行く。
進むにつれ、様々な色のドラゴンの姿が見えた。
「これだけドラゴンがいると壮観だな」
アレンは周りを眺めながら言った。
ドラゴン同士でもボソボソと話しているのが聞こえる。こちらをチラチラ見ながら話す姿は、まるで人間みたい。ドラゴンにも噂好きなのがいるのかしら、とか呑気なことを考える。
しばらく進むと巨大な鍾乳洞のような場所に入った。ひんやりとしたその場所は薄暗く、しかし光苔だろうか、ぼんやり光る苔のようなものが、幻想的に辺りを照らしていた。
その一番奥に一際大きなドラゴンがいた。他のドラゴンとは比べ物にならないくらい大きい。
そして漆黒のドラゴンだった。
『よく来たな、我が一族の者、そして魔を打ち払う者よ』
「!?」
ディルアスとアレンと顔を見合せ驚いた。
我が一族の者!? 魔を打ち払う者!?
何!? どういうこと!? 意味が分からず混乱していると、アレンが切り出した。
「そなたが古のドラゴンか!?」
漆黒のドラゴンはアレンを見た。
『古か、確かに無駄に永くは生きているな』
威厳のある、少し年老いた声で言った。このドラゴンの話す言葉はアレンにも聞こえているようだ。ドラゴン自身の力なんだろう。
「ならば、そなたには魔を打ち払う力があるのだろう!? 力を貸して欲しい!」
『魔を打ち払う力か、確かにそんな力もあっただろうか』
「あった……?」
『今の私にはそんな力はもうないだろう』
「そ、そんな……」
アレンは呆然とした。
『魔を打ち払う力のある者なら、そこにいるではないか』
「えっ!?」
アレンは私とディルアスを見た。
「この二人のどちらかが? 確かに二人とも凄い魔力だけど……」
『我が一族の者、魔を打ち払う者、その二人がいるのだ、十分過ぎる程の力だろう』
「我が一族というのは……俺か」
ディルアスが口を開いた。アレンも私も驚いてディルアスを見た。
確かに漆黒のドラゴンと同じく、ディルアスの髪も瞳も漆黒だ。だからと言って、ドラゴンの血筋!? どういうこと!?
『私がまだ幼かった頃、当時の一族には人間の姿になる能力があったため、人間ともまだ関わって生きていた。ある時一族の雄が一人の人間と恋に落ちた。一族を出たその者は人間として暮らし、人間として死んでいった。その子供は自分がドラゴンの血族だと知らぬまま人間として生きた』
漆黒のドラゴンはディルアスを見た。
『そうやってその一族はドラゴンの血を受け継いでいることを知らぬまま、魔力が異様に強い人間の一族として脈々と受け継がれていったのだ』
ディルアスは呆然としている。
「だが、俺の両親は魔法は使えなかった」
そうだ、ディルアスの両親は魔物に殺されたと言っていた。魔法が使えたなら負けなかったはずだ。
『そなたのように、生まれながらの素質がなければ、魔力があっても使い方を知らなければ使えない』
「そうか……」
ディルアスが何を考えているのかは分からない。ドラゴンの血族だということがショックだったのか、両親が魔法を使えていたならば、と悔しかったのか、無表情のディルアスは静かに拳を握り締めるだけだった。
「じゃあ、魔を打ち払う者ってのは……」
アレンが私を見た。
「えっ、え、私……!? いや、何で!? 無理でしょ!」
意味が分からない。明らかにディルアスより魔力は劣っていると思う。
「まさか……ユウ、お前、異世界人か!?」
「えっ、えっと……」
「お前が最初にこの世界に来たときどこに現れたんだ!?」
異世界人……、そう異世界から私は来た。どこに現れたか? 森だったよね。ディルアスを見た。
ディルアスと目が合った。
「ケシュナの森だ。そこに倒れていた」
アレンが目を見開いた。
「ケシュナの森……、そこは勇者が現れるとされる森だ……」
崖となったその岩肌にはドラゴンの姿が見えた。こちらに気付き襲いかかってくる!
「ユウ、結界を!」
「うん!」
全員一塊に集まり結界を張る。ディルアスはさらに障壁結界を。
ドラゴンは激しい炎を噴き出した。ルナやゼルの炎よりももっと激しい炎。
結界が破られそうだ。
「ユウ、結界強化を!」
強化とさらに五重結界を張った。
ディルアスは障壁結界を張りながら、水魔法を発動させた。
攻撃するためではなく、結界の補助になるように。大量の水は風船のように膨らみ巨大な水の塊となった。水の塊は炎を受けどんどんと蒸発していく。
「攻撃を止めて! 私たちはあなたたちに危害を加えに来た訳じゃない!」
意志疎通を発動させた。ドラゴンを捕まえたい訳ではない。話がしたいだけだ。
このまま戦ってしまうとお互い無傷ではいられないだろう。平和的に話が出来なくなってしまう。
「ねぇ! 話を聞いてよ!」
結界がどんどんと破られていく。もう限界だ。
ルナが私の前に立ちはだかった。
「くっ」
ディルアスが再び障壁結界を張ろうとしたとき、ドラゴンの攻撃が突然止んだ。
「えっ!?」
ドラゴンを見ると、黙ったまま私たちを見下ろしている。
『長が呼んでいる。ついてこい』
「え? 長?」
「何だ!? どうなったんだ!?」
アレンはドラゴンの言葉が聞こえない。状況が分からず聞いてくる。
「長が呼んでいるからついてこい、だって」
「長…古のドラゴンか!?」
「さあ、どうだろう。とにかくついて行くしかないね」
結界を解き、全員怪我がないことを確認し、ドラゴンについて行く。
進むにつれ、様々な色のドラゴンの姿が見えた。
「これだけドラゴンがいると壮観だな」
アレンは周りを眺めながら言った。
ドラゴン同士でもボソボソと話しているのが聞こえる。こちらをチラチラ見ながら話す姿は、まるで人間みたい。ドラゴンにも噂好きなのがいるのかしら、とか呑気なことを考える。
しばらく進むと巨大な鍾乳洞のような場所に入った。ひんやりとしたその場所は薄暗く、しかし光苔だろうか、ぼんやり光る苔のようなものが、幻想的に辺りを照らしていた。
その一番奥に一際大きなドラゴンがいた。他のドラゴンとは比べ物にならないくらい大きい。
そして漆黒のドラゴンだった。
『よく来たな、我が一族の者、そして魔を打ち払う者よ』
「!?」
ディルアスとアレンと顔を見合せ驚いた。
我が一族の者!? 魔を打ち払う者!?
何!? どういうこと!? 意味が分からず混乱していると、アレンが切り出した。
「そなたが古のドラゴンか!?」
漆黒のドラゴンはアレンを見た。
『古か、確かに無駄に永くは生きているな』
威厳のある、少し年老いた声で言った。このドラゴンの話す言葉はアレンにも聞こえているようだ。ドラゴン自身の力なんだろう。
「ならば、そなたには魔を打ち払う力があるのだろう!? 力を貸して欲しい!」
『魔を打ち払う力か、確かにそんな力もあっただろうか』
「あった……?」
『今の私にはそんな力はもうないだろう』
「そ、そんな……」
アレンは呆然とした。
『魔を打ち払う力のある者なら、そこにいるではないか』
「えっ!?」
アレンは私とディルアスを見た。
「この二人のどちらかが? 確かに二人とも凄い魔力だけど……」
『我が一族の者、魔を打ち払う者、その二人がいるのだ、十分過ぎる程の力だろう』
「我が一族というのは……俺か」
ディルアスが口を開いた。アレンも私も驚いてディルアスを見た。
確かに漆黒のドラゴンと同じく、ディルアスの髪も瞳も漆黒だ。だからと言って、ドラゴンの血筋!? どういうこと!?
『私がまだ幼かった頃、当時の一族には人間の姿になる能力があったため、人間ともまだ関わって生きていた。ある時一族の雄が一人の人間と恋に落ちた。一族を出たその者は人間として暮らし、人間として死んでいった。その子供は自分がドラゴンの血族だと知らぬまま人間として生きた』
漆黒のドラゴンはディルアスを見た。
『そうやってその一族はドラゴンの血を受け継いでいることを知らぬまま、魔力が異様に強い人間の一族として脈々と受け継がれていったのだ』
ディルアスは呆然としている。
「だが、俺の両親は魔法は使えなかった」
そうだ、ディルアスの両親は魔物に殺されたと言っていた。魔法が使えたなら負けなかったはずだ。
『そなたのように、生まれながらの素質がなければ、魔力があっても使い方を知らなければ使えない』
「そうか……」
ディルアスが何を考えているのかは分からない。ドラゴンの血族だということがショックだったのか、両親が魔法を使えていたならば、と悔しかったのか、無表情のディルアスは静かに拳を握り締めるだけだった。
「じゃあ、魔を打ち払う者ってのは……」
アレンが私を見た。
「えっ、え、私……!? いや、何で!? 無理でしょ!」
意味が分からない。明らかにディルアスより魔力は劣っていると思う。
「まさか……ユウ、お前、異世界人か!?」
「えっ、えっと……」
「お前が最初にこの世界に来たときどこに現れたんだ!?」
異世界人……、そう異世界から私は来た。どこに現れたか? 森だったよね。ディルアスを見た。
ディルアスと目が合った。
「ケシュナの森だ。そこに倒れていた」
アレンが目を見開いた。
「ケシュナの森……、そこは勇者が現れるとされる森だ……」
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