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五章 竜の谷
第三十六話
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お互いに準備が必要だろうということで出発は次の日の昼になった。
「ユウ、引き受けてくれてありがとな。さて、そろそろ出発して良いか?」
アレンはレンの姿のまま迎えに現れた。
「あの人が依頼人かい? 本当に大丈夫かい?」
メルダさんとマリーさんは未だに心配してくれている。
「うん、大丈夫! 私にはルナもオブもいるしね」
「あぁ、そうだね。でも気を付けるんだよ?」
「うん、じゃあ行ってきます」
「あ! ディルアスじゃないか!」
行こうとしたその矢先、メルダさんが叫んだ。みんなメルダさんの目線を追う。その先には確かにディルアスがいた。
何だかすでに懐かしい気がした。
「ディルアス帰ったのか!」
フィルさんも叫んでディルアスを呼び寄せる。
「あぁ」
相変わらず小さい声だ。ディルアスは私たちの元までやって来た。
ディルアスにジーッと見詰められあたふたしていると、
「随分と成長したな」
「えっ!?」
ボソッと言われ、あぁ、魔法のことかな、と考えを巡らせた。
「あのさ、もう出発して良い?」
アレンが痺れを切らせ話に割って入った。
「あ、ごめん。今行く。ディルアスも久しぶり! 前助けてくれたときはありがとう。ちょっと私は出ないといけなくて……また会えたら色々話したいな! それじゃあ!」
慌ただしく挨拶だけをして小走りにアレンの元まで行った。
「あ! ディルアス! あんた、今依頼とかないんだったらユウを助けてあげなよ!」
「?」
「え!? メルダさん!?」
行こうとした足がまたディルアスたちに向いた。
「えー、何の話? 俺はユウにしか頼んでないし勝手に人を増やされてもねぇ」
アレンが不服そうに言う。
「ディルアスはユウと同じくらいの魔導士だよ? 足手纏いとかは絶対ないと思うけどね」
「え! そうなのか!? それは凄いな!」
アレンが興味津々になってきた。
「いやでもディルアスが行くとは思えないんだけど……」
フィルさんがチラッとディルアスを見た。
相変わらずの無表情。
「そんな急に言われてもディルアスも困るだろうし、大丈夫だよ、私一人で」
もう何だかよく分からなくなってきた。ディルアスにしてみたらいきなり言われて意味分からないだろうし。
「依頼か? 良いけど……」
相変わらずボソッと喋るから聞き取りにくい~。って、えっ!? 行っても良いって言ったの? 聞き間違い?
「え…、あぁ、あぁ、そうかい! 行ってくれるかい!」
メルダさんたちも一瞬何を言ったのか理解不能だったらしく、あたふたしていた。
ディルアスがまさか了承するなんて。
ディルアスがこちらに歩いて来た。
アレンの目の前に立ち見下ろす…。ディルアスのほうが背が少し高いんだね。無表情で見下ろされアレンは少し引きつっているように見えた。
「よろしく」
「お、おう」
ボソッと挨拶されアレンは思わず返事をした。一緒に行くのは良いんだね?何か気圧された感がありけど。
「じゃ、じゃあ行くかー」
アレンはそのまま踵を返すと歩き出した。
「はー、まさかディルアスが行くって言うとはねぇ。余程ユウのことが心配なのかねぇ」
メルダさんたちが何か呟いていたのは聞かなかったことに……。
歩きながらディルアスが聞いて来た。
「それで、どこに何をしに行くんだ?」
「あー、うん。ちょっとここでは話しにくいから街の外で」
アレンは早足でどんどん歩いて行く。ディルアスは余裕で付いて行っているが、私は小走りだ。脚の長さが違うからね。仕方ないし。
「アレン、全部話して大丈夫だよね?」
「あぁ、仕方ないからなぁ」
あの時アレンと初めて話した内容をそのままディルアスに説明する。
アレンも再び変装を解いて姿を見せてくれた。
「普段はレンだからな! お前たちも人前ではレンと呼んでくれよ?」
そう言いながらすぐにレンの姿に戻った。
「ディルアスだっけ? 本当にユウと同じくらいの魔力なのか?」
「いやいや、私よりもっと凄いよ!」
そのはず。見せてもらったことないしね。でも私なんかよりずっと長いこと魔法使ってて、多分使いこなすってことがもっと凄い魔法になるはず! と思う。と言うか、私もディルアスの魔法見てみたいんだよなぁ。
「ねぇ、ディルアスの魔法、見せてくれないかな?」
「なんだ、ユウも見たことないのか!」
「うん」
「アッハッハ! それで自分よりもっと凄いよ! って!」
アレンに大笑いされた。
だって! と言いかけたら、ディルアスが魔法を発動させた。
炎が躍りだし激しく揺らめきながら岩に向かう。炎と絡まるように雷撃が迸る。優雅に舞うように放たれた炎と雷は大きな岩を一瞬で砕いた。
「お、おぉ、凄いな! 本当にユウと同じくらいだな!」
「凄い、綺麗」
「ん? 感心するとこそこなのか?」
「え、だって、何か優雅で綺麗なんだもん」
「ハハハ!」
なぜかまたアレンに大笑いされた。だって、本当に綺麗だと思ったんだよ。炎と雷自体も優雅だったし、ディルアスの所作が何とも言えず優雅で綺麗だった。
ディルアスはそれでも無表情なんだよね。
「お前もっと覇気を出せ!せっかくそんな凄い魔法使えるのに」
アレンはディルアスの背中をバシバシ叩いていた。
ディルアスは少し嫌そうな顔。アハハ。無表情かと思ってたけど、よく見てると微妙に表情が変わっているんだな。少し楽しくなってきた。
「ユウ、引き受けてくれてありがとな。さて、そろそろ出発して良いか?」
アレンはレンの姿のまま迎えに現れた。
「あの人が依頼人かい? 本当に大丈夫かい?」
メルダさんとマリーさんは未だに心配してくれている。
「うん、大丈夫! 私にはルナもオブもいるしね」
「あぁ、そうだね。でも気を付けるんだよ?」
「うん、じゃあ行ってきます」
「あ! ディルアスじゃないか!」
行こうとしたその矢先、メルダさんが叫んだ。みんなメルダさんの目線を追う。その先には確かにディルアスがいた。
何だかすでに懐かしい気がした。
「ディルアス帰ったのか!」
フィルさんも叫んでディルアスを呼び寄せる。
「あぁ」
相変わらず小さい声だ。ディルアスは私たちの元までやって来た。
ディルアスにジーッと見詰められあたふたしていると、
「随分と成長したな」
「えっ!?」
ボソッと言われ、あぁ、魔法のことかな、と考えを巡らせた。
「あのさ、もう出発して良い?」
アレンが痺れを切らせ話に割って入った。
「あ、ごめん。今行く。ディルアスも久しぶり! 前助けてくれたときはありがとう。ちょっと私は出ないといけなくて……また会えたら色々話したいな! それじゃあ!」
慌ただしく挨拶だけをして小走りにアレンの元まで行った。
「あ! ディルアス! あんた、今依頼とかないんだったらユウを助けてあげなよ!」
「?」
「え!? メルダさん!?」
行こうとした足がまたディルアスたちに向いた。
「えー、何の話? 俺はユウにしか頼んでないし勝手に人を増やされてもねぇ」
アレンが不服そうに言う。
「ディルアスはユウと同じくらいの魔導士だよ? 足手纏いとかは絶対ないと思うけどね」
「え! そうなのか!? それは凄いな!」
アレンが興味津々になってきた。
「いやでもディルアスが行くとは思えないんだけど……」
フィルさんがチラッとディルアスを見た。
相変わらずの無表情。
「そんな急に言われてもディルアスも困るだろうし、大丈夫だよ、私一人で」
もう何だかよく分からなくなってきた。ディルアスにしてみたらいきなり言われて意味分からないだろうし。
「依頼か? 良いけど……」
相変わらずボソッと喋るから聞き取りにくい~。って、えっ!? 行っても良いって言ったの? 聞き間違い?
「え…、あぁ、あぁ、そうかい! 行ってくれるかい!」
メルダさんたちも一瞬何を言ったのか理解不能だったらしく、あたふたしていた。
ディルアスがまさか了承するなんて。
ディルアスがこちらに歩いて来た。
アレンの目の前に立ち見下ろす…。ディルアスのほうが背が少し高いんだね。無表情で見下ろされアレンは少し引きつっているように見えた。
「よろしく」
「お、おう」
ボソッと挨拶されアレンは思わず返事をした。一緒に行くのは良いんだね?何か気圧された感がありけど。
「じゃ、じゃあ行くかー」
アレンはそのまま踵を返すと歩き出した。
「はー、まさかディルアスが行くって言うとはねぇ。余程ユウのことが心配なのかねぇ」
メルダさんたちが何か呟いていたのは聞かなかったことに……。
歩きながらディルアスが聞いて来た。
「それで、どこに何をしに行くんだ?」
「あー、うん。ちょっとここでは話しにくいから街の外で」
アレンは早足でどんどん歩いて行く。ディルアスは余裕で付いて行っているが、私は小走りだ。脚の長さが違うからね。仕方ないし。
「アレン、全部話して大丈夫だよね?」
「あぁ、仕方ないからなぁ」
あの時アレンと初めて話した内容をそのままディルアスに説明する。
アレンも再び変装を解いて姿を見せてくれた。
「普段はレンだからな! お前たちも人前ではレンと呼んでくれよ?」
そう言いながらすぐにレンの姿に戻った。
「ディルアスだっけ? 本当にユウと同じくらいの魔力なのか?」
「いやいや、私よりもっと凄いよ!」
そのはず。見せてもらったことないしね。でも私なんかよりずっと長いこと魔法使ってて、多分使いこなすってことがもっと凄い魔法になるはず! と思う。と言うか、私もディルアスの魔法見てみたいんだよなぁ。
「ねぇ、ディルアスの魔法、見せてくれないかな?」
「なんだ、ユウも見たことないのか!」
「うん」
「アッハッハ! それで自分よりもっと凄いよ! って!」
アレンに大笑いされた。
だって! と言いかけたら、ディルアスが魔法を発動させた。
炎が躍りだし激しく揺らめきながら岩に向かう。炎と絡まるように雷撃が迸る。優雅に舞うように放たれた炎と雷は大きな岩を一瞬で砕いた。
「お、おぉ、凄いな! 本当にユウと同じくらいだな!」
「凄い、綺麗」
「ん? 感心するとこそこなのか?」
「え、だって、何か優雅で綺麗なんだもん」
「ハハハ!」
なぜかまたアレンに大笑いされた。だって、本当に綺麗だと思ったんだよ。炎と雷自体も優雅だったし、ディルアスの所作が何とも言えず優雅で綺麗だった。
ディルアスはそれでも無表情なんだよね。
「お前もっと覇気を出せ!せっかくそんな凄い魔法使えるのに」
アレンはディルアスの背中をバシバシ叩いていた。
ディルアスは少し嫌そうな顔。アハハ。無表情かと思ってたけど、よく見てると微妙に表情が変わっているんだな。少し楽しくなってきた。
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