上 下
26 / 36

第26話 婚約破棄!

しおりを挟む
 卒業生代表としてセルディ殿下の挨拶があり、卒業式典は問題なく終わった。そして卒業パーティへ……。

 大勢がダンスをしたり、歓談したり、立食をしたりと楽しんでいるなか、私はアイリーンとともにいた。

 きっと大丈夫なはず。あれだけ仲が良かったのよ。婚約破棄なんてありえない。
 アイリーンをチラリと見ると、セルディ殿下の婚約者としての振る舞いか、凛とした姿でかっこいい。
 生徒会メンバーはセルディ殿下の傍にいる。彼らもキリッとしていてかっこいいわね。正装に身を包んだ生徒会メンバーやアイリーンはさすが貴族! というような気品に溢れていた。

 そうやって緊張感のもとセルディ殿下の様子を探る。セルディ殿下はこちらを見たかと思うとアイリーンの目前までやってきた。

 いつものにこやかな表情とは違い、真剣な顔をしたセルディ殿下。背後には生徒会メンバー三人も真面目な顔をしている。

 ちょ、ちょっと……違うわよね!? なんでそんな顔してるのよ……。


 セルディ殿下は一息深呼吸をすると声を上げた。

「アイリーン」

「はい」

 アイリーンとセルディ殿下は見詰め合っている……見詰め合ってはいるんだけど、表情が……。にこやかさはなく冷たい雰囲気の二人……。


「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」


 大勢が集まるこの場で、セルディ殿下はそう宣言した。極めて静かに、そして冷たく言い放った……。


 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
 なんでなのよ!! 二人共良い感じだったじゃないのよー!! 私が今まで頑張ったことはなんだったのよー!! どういうことよ!? 私の必死の努力を返してー!!

「アイリーン様!」

 私はアイリーンに駆け寄り腕を掴んだ。アイリーンはほんの少し微笑んだかと思うと、私の手をそっと払い除け、セルディ殿下を見据えた。

「理由をお聞きしても?」

「理由など貴女自身がよく分かっていると思うが」

「私には全く分かりませんわ」


 大広間は二人のやり取りに気付き出しざわざわとし始めた。こ、これはまずいんじゃ……この場にいる全員が二人の婚約破棄騒動を目撃してしまう……どうしてこんなことに……。


「仕方がない。ここではせっかくのパーティを台無しにしてしまう。また後日話をしよう」

 セルディ殿下は周りの状況を確認するとアイリーンに向かってそう言った。アイリーンは一つも表情を変えずに頷いた。

 台無しにしたのはセルディ殿下じゃないのよ!! こんな大勢がいる場で話すような内容じゃないのに、なんでこんなところで言い出した!! 立派な王子だと思っていたのに!! 見損なったわ!!

「分かりました。今日は気分が優れませんので、このまま退席させていただきますわね」
「あぁ」

 アイリーンはそう言うとセルディ殿下に頭を下げ、くるりと踵を返すと颯爽と大広間から出て行った。
 周りは騒然とし、皆が皆、アイリーンとセルディ殿下を見比べキョロキョロと視線を動かしていた。

「セルディ殿下!! 一体どういうことなんですか!? あんなに仲が良かったのに、なぜ婚約破棄なんですか!! なんで!!」

 無礼を承知でセルディ殿下に詰め寄った。必死に縋りついて聞いた。しかしセルディ殿下は私の肩に手を置くと、そっと身体を離し、小さく「すまない」とだけ呟くと大広間から出て行ってしまった……。

「どういうことよ!! なんでなのよ!!」

 生徒会三人組にも詰め寄った。しかし皆、「知らない」と顔を背けるばかり。

 アイリーン!! アイリーンを追いかけなくちゃ!! 今頃泣いているかもしれない……あんなに仲が良かったのに……なんで……なんで……。

 目に涙が滲むが必死に堪える。きっとアイリーンが泣いている。私が泣いている場合じゃない!!

 アイリーンを追いかけ走り出す。大広間を出るとすでにアイリーンの姿はなかった。

「アイリーン様!! どこ!?」

 周りを見回しアイリーンの名を呼びながら探し回る。

 いた!!

 学園内、大広間より少し離れた場所、噴水の傍らにアイリーンは佇んでいた。

「アイリーン様!!」

 名を呼びながら駆け寄る。アイリーンは私の姿を見ると少し驚いた顔をした。その表情は読めなかったが、涙はなかった……良かった……。

「アイリーン様!! 一体どういうことなんですか!? なんでセルディ殿下はあのようなことを!? あんなに仲が良かったじゃないですか!! それなのに……」

 うぅ、気が動転しているせいか、興奮しているせいか、泣きたくないのに涙が溢れそうだ。必死に耐える。
 アイリーンの手を両手で握り締め訴える。

 アイリーンに聞いたところで、婚約破棄を言い出したのはセルディ殿下だ。アイリーンは何も知らないようだった。今はアイリーン自身がショックを受けているだろうに、私が責めてどうするのよ!!

「ルシアさん、ありがとう。心配をしてくださるのね。私は大丈夫ですわ。貴女は卒業パーティをお楽しみなさい」
「そんなこと出来るわけがないじゃないですか!!」

 叫んだと同時にボロッと涙が零れた。

「わ、私はアイリーン様に幸せになってくださいってお願いしました……それはセルディ殿下と一緒じゃなきゃ駄目なんです……お二人で幸せになってもらいたかったのにぃぃぃいい!!」

 あぁ、駄目だ。涙がボロボロと零れ落ちる。

「ルシアさん……泣かないで……ありがとう。貴女は優しい子ね」

 違う。私は優しくなんかない……私は自分の都合だけで貴女がセルディ殿下と結婚してくれることを願っている。
 これは罰なのか。ゲームの内容に逆らった私へ罰なのか。

 私のせいで、アイリーンを傷付けただけじゃないか……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。 ――というのは表向きの話。 婚約破棄大成功! 追放万歳!!  辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。 ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19) 第四王子の元許嫁で転生者。 悪女のうわさを流されて、王都から去る   × アル(24) 街でリリィを助けてくれたなぞの剣士 三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ 「さすが稀代の悪女様だな」 「手玉に取ってもらおうか」 「お手並み拝見だな」 「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」 ********** ※他サイトからの転載。 ※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

ヤンデレ悪役令嬢は僕の婚約者です。少しも病んでないけれど。

霜月零
恋愛
「うげっ?!」  第6王子たる僕は、ミーヤ=ダーネスト公爵令嬢を見た瞬間、王子らしからぬ悲鳴を上げてしまいました。  だって、彼女は、ヤンデレ悪役令嬢なんです!  どうして思いだしたのが僕のほうなんでしょう。  普通、こうゆう時に前世を思い出すのは、悪役令嬢ではないのですか?  でも僕が思い出してしまったからには、全力で逃げます。  だって、僕、ヤンデレ悪役令嬢に将来刺されるルペストリス王子なんです。  逃げないと、死んじゃいます。  でも……。    ミーヤ公爵令嬢、とっても、かわいくないですか?  これは、ヤンデレ悪役令嬢から逃げきるつもりで、いつの間にかでれでれになってしまった僕のお話です。 ※完結まで執筆済み。連日更新となります。 他サイトでも公開中です。

その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。

ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい! …確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!? *小説家になろう様でも投稿しています

悪役令嬢なのに下町にいます ~王子が婚約解消してくれません~

ミズメ
恋愛
【2023.5.31書籍発売】 転生先は、乙女ゲームの悪役令嬢でした——。 侯爵令嬢のベラトリクスは、わがまま放題、傍若無人な少女だった。 婚約者である第1王子が他の令嬢と親しげにしていることに激高して暴れた所、割った花瓶で足を滑らせて頭を打ち、意識を失ってしまった。 目を覚ましたベラトリクスの中には前世の記憶が混在していて--。 卒業パーティーでの婚約破棄&王都追放&実家の取り潰しという定番3点セットを回避するため、社交界から逃げた悪役令嬢は、王都の下町で、メンチカツに出会ったのだった。 ○『モブなのに巻き込まれています』のスピンオフ作品ですが、単独でも読んでいただけます。 ○転生悪役令嬢が婚約解消と断罪回避のために奮闘?しながら、下町食堂の美味しいものに夢中になったり、逆に婚約者に興味を持たれたりしてしまうお話。

乙女ゲームのヒロインに転生したらしいんですが、興味ないのでお断りです。

水無瀬流那
恋愛
 大好きな乙女ゲーム「Love&magic」のヒロイン、ミカエル・フィレネーゼ。  彼女はご令嬢の婚約者を奪い、挙句の果てには手に入れた男の元々の婚約者であるご令嬢に自分が嫌がらせされたと言って悪役令嬢に仕立て上げ追放したり処刑したりしてしまう、ある意味悪役令嬢なヒロインなのです。そして私はそのミカエルに転生してしまったようなのです。  こんな悪役令嬢まがいのヒロインにはなりたくない! そして作中のモブである推しと共に平穏に生きたいのです。攻略対象の婚約者なんぞに興味はないので、とりあえず攻略対象を避けてシナリオの運命から逃げようかと思います!

この異世界転生の結末は

冬野月子
恋愛
五歳の時に乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したと気付いたアンジェリーヌ。 一体、自分に待ち受けているのはどんな結末なのだろう? ※「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...