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第16話 ラドルフ
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ロナルドの一件があってからクラスの女生徒たちからはランチを誘われたりするようになった。ようやくお友達が出来たのねー! 嬉しい!
ロナルドとは付かず離れずくらいの程よい距離感を保てていると思う! 多分!
アイリーンともたまにランチをすることが出来たり、セルディ殿下との近況を聞いたりと、あの二人もそこそこ順調なんじゃないかしら、うんうん。
ただ最近ちょっと気になることがあるのよねぇ。以前アイリーンの傍で見掛けた黒い靄。
あれが最近よく見かける……。アイリーンの傍だけでない。学園内のあちこちでたまに見掛けるのよね。
見掛けるたびに蹴散らして行くんだけど、蹴散らしたりパンチしたりしていると霧散する。それが完全に消えたのか、ただその場で霧散しただけなのかが分からない。
どうにも嫌な予感がする。
あの黒い靄について調べられないかしら……。そんなことを考えながら歩いていると、遠目にセルディ殿下とアイリーンの仲睦まじい姿が見えた。
微笑ましい!
良かった! 最近良い雰囲気じゃないの!?
アイリーンが私に気付くと頬を赤らめながら手を振ってくれた。いやん、可愛いわぁ。
セルディ殿下にお辞儀をしつつ、アイリーンに小さく手を振ると、二人から離れた。うん、お邪魔しちゃ悪いしね。
それより図書館で黒い靄について調べてみようかしら。ふむ。
そう思い立ち張り切って図書館へ向かおうとした……したんだけど……何故か背後になにやら気配を感じると思い、チラリと見ると……ラドルフがいた。
ずっと付いて来る……なんなのよ、一体。
「あの、何かご用でしょうか?」
怖い顔でずっと背後に張り付かれても!
振り向いて聞いた。
ジロりと見下ろしながら睨んだラドルフは口を開く。
「殿下のご命令だ」
「は?」
「アイリーン嬢と自分が過ごしてしまうとルシア嬢が一人になってしまう。だから傍にいてやってくれ、とのご命令だ」
「…………」
要するにセルディ殿下は気を使ってくれたわけだが、いらーん! こんな仏頂面で傍にいられても!
「私は一人でも大丈夫です。てすから傍にいてくださらなくて大丈夫ですよ?」
ニコリと笑ってみせたが、ラドルフの表情は一切変わることなく……
「ご命令だ」
「いや、だから」
「「…………」」
お互い沈黙。
「では笑ってください」
「は?」
「そんな怖い顔で傍にいられるなんてしんどいです! だから笑ってください! 笑ってくださったら傍にいても良いです!」
偉そうだなーと思いながら、これで諦めてくれないかな、と期待した。
「…………」
グギギギと音が出るのでは、というほどぎこちない動きで、ラドルフの顔が歪んだ。
「!! 怖い!!」
般若のような、なんとも言えない顔のラドルフ。
「ぶふっ」
「笑うな」
「いや、だって! その顔!」
般若からいつもの怖い顔に戻ったラドルフ。
ブスッとしているようにも見えるが、安定の怖い顔!
「なんでも命令を聞かなくても良いのに。もっとご自身を大事にしてくださいよ」
「お前も同じ言葉を言うのだな」
「?」
ラドルフはボソボソと言葉にした。
「子供のころ、セルディに言われた台詞だ。
彼は私の母の形見であるペンダントを欲しがった。私にとってはほとんど覚えてもいない母親のものだ。形見といってもそれほど価値のないものだった。だから私はセルディにそのペンダントを渡した。
しかしセルディは喜ぶでもなく怒り出した。
『なぜそんな大事なものを渡してしまうんだ! たまには自分を大事にしろ!』と」
「…………」
「私からしたらそれほど大事でもないものだから渡したのだ。それなのに欲しがった張本人に怒られた。理不尽だとは思ったが、そのときは意味が分からなかった」
「今なら分かりますか?」
「分からん」
「分からんのかい!!」
あ、ヤバい、思わず突っ込んでしまった。ラドルフが目を見開いているわ!
「あ、いえ、その、えーっと、殿下はそのときペンダントが欲しかったわけではないと思いますよ?」
「なぜだ?」
「えぇ!? うーん、だってそれはお母様の形見だと分かっていたのですよね?」
「あぁ」
「そんな大事なものをセルディ殿下が欲しがると思います?」
「…………思わないな」
「フフ、でしょ?」
分かってるじゃないのよ。他の人なら形見と知らなければ欲しがる子供もいるかもしれないけど、セルディ殿下だよ? あの全方向から完璧な王子が、ましてや親友の形見なんかを欲しがるわけがないじゃない。
鈍感よねぇ、というか、厳しく育てられ過ぎたせいで、他人が自分の心配をしてくれるとか思わないんだろうね……。
「セルディ殿下はラドルフ様にもう少し自分というものを出してもらいたかったのではないでしょうか」
「…………」
「きっとそのとき、「嫌だ!」って言って欲しかったんじゃないですか? いつも我慢しているラドルフ様が心配だったんですよ」
「私は別に……我慢など……」
「セルディ殿下には我慢しているように見えたんでしょうねぇ。少しくらい我儘を言っても良いのですよ」
というか、これくらいの世代なら我儘なんて当たり前のような気がする。
ラドルフは自分を抑え込み過ぎなのよ! いつか禿げるわよ、あんた! こんなイケメンが禿げとかいやぁぁああ!!
脳内で悶絶していると、ラドルフの足元にあの黒い靄が!!
思わず大股でズシャッと踏み抜いた!! ヨッシャ!! 蹴散らした!! 見事に霧散した黒い靄!!
「なにをやっている」
ぐふっ!! しまった……ラドルフが目の前にいるんでした……。
ロナルドとは付かず離れずくらいの程よい距離感を保てていると思う! 多分!
アイリーンともたまにランチをすることが出来たり、セルディ殿下との近況を聞いたりと、あの二人もそこそこ順調なんじゃないかしら、うんうん。
ただ最近ちょっと気になることがあるのよねぇ。以前アイリーンの傍で見掛けた黒い靄。
あれが最近よく見かける……。アイリーンの傍だけでない。学園内のあちこちでたまに見掛けるのよね。
見掛けるたびに蹴散らして行くんだけど、蹴散らしたりパンチしたりしていると霧散する。それが完全に消えたのか、ただその場で霧散しただけなのかが分からない。
どうにも嫌な予感がする。
あの黒い靄について調べられないかしら……。そんなことを考えながら歩いていると、遠目にセルディ殿下とアイリーンの仲睦まじい姿が見えた。
微笑ましい!
良かった! 最近良い雰囲気じゃないの!?
アイリーンが私に気付くと頬を赤らめながら手を振ってくれた。いやん、可愛いわぁ。
セルディ殿下にお辞儀をしつつ、アイリーンに小さく手を振ると、二人から離れた。うん、お邪魔しちゃ悪いしね。
それより図書館で黒い靄について調べてみようかしら。ふむ。
そう思い立ち張り切って図書館へ向かおうとした……したんだけど……何故か背後になにやら気配を感じると思い、チラリと見ると……ラドルフがいた。
ずっと付いて来る……なんなのよ、一体。
「あの、何かご用でしょうか?」
怖い顔でずっと背後に張り付かれても!
振り向いて聞いた。
ジロりと見下ろしながら睨んだラドルフは口を開く。
「殿下のご命令だ」
「は?」
「アイリーン嬢と自分が過ごしてしまうとルシア嬢が一人になってしまう。だから傍にいてやってくれ、とのご命令だ」
「…………」
要するにセルディ殿下は気を使ってくれたわけだが、いらーん! こんな仏頂面で傍にいられても!
「私は一人でも大丈夫です。てすから傍にいてくださらなくて大丈夫ですよ?」
ニコリと笑ってみせたが、ラドルフの表情は一切変わることなく……
「ご命令だ」
「いや、だから」
「「…………」」
お互い沈黙。
「では笑ってください」
「は?」
「そんな怖い顔で傍にいられるなんてしんどいです! だから笑ってください! 笑ってくださったら傍にいても良いです!」
偉そうだなーと思いながら、これで諦めてくれないかな、と期待した。
「…………」
グギギギと音が出るのでは、というほどぎこちない動きで、ラドルフの顔が歪んだ。
「!! 怖い!!」
般若のような、なんとも言えない顔のラドルフ。
「ぶふっ」
「笑うな」
「いや、だって! その顔!」
般若からいつもの怖い顔に戻ったラドルフ。
ブスッとしているようにも見えるが、安定の怖い顔!
「なんでも命令を聞かなくても良いのに。もっとご自身を大事にしてくださいよ」
「お前も同じ言葉を言うのだな」
「?」
ラドルフはボソボソと言葉にした。
「子供のころ、セルディに言われた台詞だ。
彼は私の母の形見であるペンダントを欲しがった。私にとってはほとんど覚えてもいない母親のものだ。形見といってもそれほど価値のないものだった。だから私はセルディにそのペンダントを渡した。
しかしセルディは喜ぶでもなく怒り出した。
『なぜそんな大事なものを渡してしまうんだ! たまには自分を大事にしろ!』と」
「…………」
「私からしたらそれほど大事でもないものだから渡したのだ。それなのに欲しがった張本人に怒られた。理不尽だとは思ったが、そのときは意味が分からなかった」
「今なら分かりますか?」
「分からん」
「分からんのかい!!」
あ、ヤバい、思わず突っ込んでしまった。ラドルフが目を見開いているわ!
「あ、いえ、その、えーっと、殿下はそのときペンダントが欲しかったわけではないと思いますよ?」
「なぜだ?」
「えぇ!? うーん、だってそれはお母様の形見だと分かっていたのですよね?」
「あぁ」
「そんな大事なものをセルディ殿下が欲しがると思います?」
「…………思わないな」
「フフ、でしょ?」
分かってるじゃないのよ。他の人なら形見と知らなければ欲しがる子供もいるかもしれないけど、セルディ殿下だよ? あの全方向から完璧な王子が、ましてや親友の形見なんかを欲しがるわけがないじゃない。
鈍感よねぇ、というか、厳しく育てられ過ぎたせいで、他人が自分の心配をしてくれるとか思わないんだろうね……。
「セルディ殿下はラドルフ様にもう少し自分というものを出してもらいたかったのではないでしょうか」
「…………」
「きっとそのとき、「嫌だ!」って言って欲しかったんじゃないですか? いつも我慢しているラドルフ様が心配だったんですよ」
「私は別に……我慢など……」
「セルディ殿下には我慢しているように見えたんでしょうねぇ。少しくらい我儘を言っても良いのですよ」
というか、これくらいの世代なら我儘なんて当たり前のような気がする。
ラドルフは自分を抑え込み過ぎなのよ! いつか禿げるわよ、あんた! こんなイケメンが禿げとかいやぁぁああ!!
脳内で悶絶していると、ラドルフの足元にあの黒い靄が!!
思わず大股でズシャッと踏み抜いた!! ヨッシャ!! 蹴散らした!! 見事に霧散した黒い靄!!
「なにをやっている」
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