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第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船
6-18.自由の大海原へ 【最終回】
しおりを挟むこれで、上からと下からの挟撃で、メッタ討ちにしてやると思いきや、なんと、残りの船は降参すると旗を振っている。
やる気のないことで……
とは、いえ、二隻は大破しており、避難している。
「捕虜にするか」
「船も没収ですね」
気が付けば、ここはライン宮中伯の領地。この連中のことは、ライン宮中伯の警備兵に任せるとしよう。
さて、一件落着したのだけれど。
「なあ、船長。あの最新鋭のガレオン船の中を見てみたいんじゃ」と、エンペラトリースが、何やらニヤニヤとしながら、話しかけてきた。
折角の機会だ。
見学をするぐらい構わんだろう。
「じゃあ、この辺りで停泊して見学をしようか」
「おう、楽しみじゃ」
皆、始めて見るガレオン船内に興奮気味だ。
「ヤスミン砲術長、このバカデカい大砲はなんじゃい?」
「あっ、先生。これは68ポンド砲です。ダブルカノンとか、ロイヤルカノンとも言います」
「ふーん、海賊の使うものではないのぅ」
そりゃ、そうだ!
うちの領地の水軍のための物なんだから。
「で、この船を船長は、どうするんじゃ?」
「奪いましょう」と、ローズマリーが言うと、「気が合うのう。イヒヒ」とエンペラトリースが笑っている。
本気でないのは、伝わってきた。
一願望、一選択肢として言っているのだろう。
しかし、それは困る人間がいる。
エマリーだ!
「ダメよ! まだ、半分しか支払いを受けてないわ。この船の!」と、真顔で訴えている。
笑ったよ、エマリー!
君は根っからの商売人だよ。
「では、残りは私が払うわ」と言っておいた。
「なら、船長がオーナーじゃな」
「フランスやスペインが、我が故郷にチョッカイをかけないよう。徹底的に略奪をする。それで、皆も良いのかな?」と言うと、一つ二つ、船員たちも頷いてくれた。
「お頭の為になることなら、何でも喜んで」
「ローズ、ありがとう」
「私も、同じく」
「もちろん、私も」
父にはすまないが、この船をしばらく頂くことにした。
キャラベルはアインス商会に返し、ガレオン船は、ドーバーのフィツジェラルドの工場へ向かった。
足らない大砲を揃え、そして、船体を白に塗装した。
斯くして、私の“白いガレオン船”の出来上がりだ。
イングランドでは、“The key to the future”号と名乗り、オランダでは、“Der Schlüssel zur Zukunft”号と名乗った。
共に意味は、「未来への鍵」だ。
何故なら、自分たちには、輝ける未来があり、未来の扉を開ける鍵がある。
それを信じ鍵を開けるかは、本人次第なのだから。
今まで、私は、貴族社会に辟易していた。
帝国内では、選定候同士の権力と領地争い、帝国外からは領地を狙われ、“貴族令嬢”と言えば聞こえが良いが、争いや政治のツールの一つに過ぎない。
そんなことは、当たり前じゃないか!
貴族に生まれたからには、覚悟すべきことだ。
確かに、そうなのだが……
しかし、虚しさを覚えてしまった。
それは、自由な海賊の生き方を知ってしまったからだ。
自由に大海原を闊歩したい。
そんな思いに駆られてしまった。
この思いは、どうすることも出来ない。
そう、グラーニャは、イングランドと和平と言いながら、今日もイングランド商船を襲っているのだろうか?
オランダのヴァスティアーン様は、スペインから領地を守るため、今もスペイン商船を襲っているのだろうか?
私は、いずれ、この領地に戻ってくる。
その日まで、私は自由を求める海賊の船長をするつもりだ。
この100人の仲間と共に、自由に大海原を駆けるつもりだ。
何故なら、私は何にも捕らわれるつもりはない。
過去からの侵略者からも、貴族社会からも。
未来は進むためにあるものだから。
これから、未来に何が待っているのだろうか。
私は何があっても、仲間と突き進むつもりだ。
何故なら、私はヴィルヘルミーナ。
この地の領主の娘にして、キーナ・コスペル海賊団の船長。
そう、キーナ・コスペル、その人なのだから。
完
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