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第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船
6-9.無敵
しおりを挟むアンに乗り移った母は無敵だった。
『秘密の攻撃』をはじめ、剣術のあらゆる動きを身に付けていた。
思わず見とれてしまった。
「ご領主様! 我々も加勢しないとここから離れることが出来ません」
「分かった。進め!」と、父が言うと。
「フォルカー、やめなさい」と母が言った。
「なに」
「フォルカー、貴方は軍事指揮は向いていない。今も、そう……ここはヴィルヘルミーナにやらせなさい」
「「「えぇっ」」」
父も、護衛隊も、私もびっくりした。
私たちは、しばらく沈黙していたのだろうか?
護衛隊長が口を開いた。
「ご領主様、ご指示を」と。
「……」
「フォルカー、決断しなさい」
「分かった。ヴィル。指揮を取れ」
「……わ、わかったわ、お父さま」と、私は頷いた。
「前列、10人は馬を降りて私に続け。後ろの5人は父の周りを固めつつ進攻する」と言うと、皆が驚いている。
歩兵は騎兵に勝てない。
だから、馬から降りるなど、愚の骨頂なのだ。
わざわざ、自分の有利さを捨てるとは、何を考えているのだと思ったに違いない。
だから、勝てない。
この狭い岩の上、馬にまたがって、騎兵の長所が使えるのか?
馬が走れて騎兵なのだ。
狭いところには狭い戦い方がある。
これが、海賊として、船の上で戦った経験だ!
「よく聞け! 『秘密の攻撃』は不要だ。母のように派手に斬るのではない。狭いところでは、突くのだ。相手が切ろうとしたところを首や心臓を突く、手首を小さく斬る。これが必勝の戦い方だ」 と、私が言うと、護衛隊員が驚いていた。
「なぜ、お嬢さまが、そんなことを知っているのでしょうか」
「これが、知識ではなく経験だ。バート・メルゲントハイムで、ケーニヒスベルクで、アイルランド島で戦闘をした経験だ」と、私が言うと、護衛隊員が、ゴクリと唾を飲み込んだのが分かった。
「行くぞ!」
「「「おおぉぉ」」」と、10人の護衛隊員が前進を始めた。
そして、100人いた傭兵も数を減らした頃には、こちらへの進攻を止め、中には撤退する者も出だした。
「勝てる」と思った、その時だった。
“ドォーーーン”という大砲の音がした。
「なんだ?」
辺りを見渡すと、なんとライン川から砲撃をしている船が三隻あるのを発見した。
下流から上がって来る。
「ご領主様、大丈夫ですか」
「何ですって」と私は父の方を向いた。
腕から血を流しているでは。
「お父さま」というと、私は思わず、振り向き父の方へ駆けだしていた。
すると、私の背後から、後頭部を殴り追い越した者がいた。
「フォルカーーーー」
「えっ?」
「フォルカー、その腕は大丈夫なの」
私は、両親は、いくつになっても恋人の様な熱愛夫婦だと思っていた。
それが、この出来事で、母の愛を疑っていたのだが、何のことは無い、私の良く知る両親をアンの身体を使ってやっている。
「もう、私、許しませんわ。あのブルゴーニュどもを始末いたします」と、母が言うものの、砲撃になすすべもない。
ブドウ弾を撃たれては、全滅しかねない。
「クレマンティーヌ様、この機に下におりましょう」
「分かったわ」
「そうはさせるか」と追いかけようとした際、また、砲撃で周りの岩が飛び散って、動くことが出来ない。
敵の船が徐々に近づいてきて、狙いが正確になりつつある。
その時である。
上流方向から、大砲の音が聞えた。
“ドォーーーン”という音と共に、水柱があがった。
岩から降りようとしたクレマンティーヌたちが、その音に驚き脚を止めてしまった。
すると、小砲だろうか。
アレクサンドラという女に直撃した。
その砲弾は破裂し、ジョルジェットが足を滑らせて、岩場から転落した。
それを見て、
「ヴィル!」と母が言った。
これは、残ったクレマンティーヌを始末しろと言っているのが分かった。
「この魔女め、覚悟」と言うと、私は、あのケーニヒスベルクの紅白戦で副団長のヴァッテンバッハと戦った時の技、『垂直の攻撃』でクレマンティーヌの首を一刀両断した。
クレマンティーヌの首は森の中に落ちて行った。
しかし、砲撃は続いている。
また、それを見て、散り散りになった傭兵が再編成されている。
「マズイな」
すると、ボートが三隻、接近している。
傭兵とやるつもりなのか?
ボートの上のホローが外された。
「ドイツ騎士団では? なぜ?」
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