88 / 126
第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-16.来て頂いても困ります 4
しおりを挟むその日の夕方。
例の市議会の議長が帰宅したようだ。
昼にあったことを夫人が伝えると、議長は頷き聞いていた。
素晴らしい花を育てることのできる花屋が、このエディンバラにあること。
その花屋の花畑を荒らしている者がいること。
「貴方、こんな素晴らしいローズマリーの花を見たことはありません。きっと、ペストの感染予防にもなると思うの」
「う~ん、家族を守るためにもか……」
実は、16世紀から18世紀後半まで、ロンドンでペストの流行は収まる気配すらなかった。
特に1665年の大流行は、死者10万人を超え、ロンドンの人口の4分の1を死に至らしめた。
しかし、16世紀では、単に死者の統計を取っていないだけで、決して少ない数値ではなかったのだ。
ペストは原因不明の「恐怖の死の病気」だったのだ。
しかし、人々はどことなく気が付いていた。
抗菌作用のあるハーブを全身に塗りたくると、感染率が低いことを。
その代表として、ラベンダーやローズマリー、ガーリック、シナモンなどがあったが、医師は「ペストは悪臭が原因」で香りを重視していたため、悪臭防止マスクの中のローズマリーの量が少なかった。
そして、やはり彼らも死んだ。
「明日、自警団と話してみるよ。調査してくれるかもしれない」
「ありがとう。貴方」
自警団!
今のように、国家も領地も警察組織がない中世では、自警団が警察の役目を果たしていた。
日本では、“岡っ引き”なる自警団があったが、ヨーロッパでもやはり自警団が警察の役目を果たしていた。
自警団が個人騎士や傭兵を雇用している場合もある。
さて、市議会の議長から依頼を受けたとなると、自警団も断る訳にもいかず、調査することになった。
だが、被害を受けたのが城壁外の旧教徒の花屋だ。
「団長、適当な理由を付けて、調査を打ち切りましょうぜ」と、若い団員が、もう放置したいと言っている。
「それなりの調査をしておかないと、議員様だ。今後、何かとご贔屓にしてもらえなくなる。こちらばかり、リクエストするわけにもイカンだろう」
「そ、そうですね……」
とはいうものの、団長の頭の中には、犯人像は浮かんでいたのだが。
その日の夜。
ローズマリーは、こっそり教会へ出かけて行った。
夜遅い時間は、人の出かける時間ではない。特に、街に街頭のある時代ではない、16世紀だ。
そして、暗闇に隠れていた。
そこに猪が現れた。
墓荒らしの犯人の多くは、猪だったりする。
死肉を食らうのだ。
しばらくして、猪は墓を掘り返し、人肉を食らおうとした時、別の動物が現れた。
狼だ!
狼は、ニホンオオカミを除き、人間を襲わない。
何故か、ニホンオオカミは小型にも拘らず、人を尾行して襲ったり、また、墓を荒らして人肉を食らう。
しかし、ニホンオオカミ以外の狼も、死肉は食べることがある。
また、狂犬病にかかっていると、人を襲うこともあるらしい。
さて、狼が猪を襲ったようだ。
狼の目的は、墓の人肉でなく、猪の様だった。
猪が絶命し、狼が肉を食しているときに、ローズマリーは動き出した。
ローズマリーは狼の後ろに立ち、“バシッ”と鞭を振るったため、狼の首は折れ、頭は胴体から垂れ下がっていた。
「いっぱい、肥料が取れたわ」というローズマリーは、なんとも幸せそうだった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり
もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。
海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。
無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。
【完結】勝るともなお及ばず ――有馬法印則頼伝
糸冬
歴史・時代
有馬法印則頼。
播磨国別所氏に従属する身でありながら、羽柴秀吉の播磨侵攻を機にいちはやく別所を見限って秀吉の元に走り、入魂の仲となる。
しかしながら、秀吉の死後はためらうことなく徳川家康に取り入り、関ヶ原では東軍につき、摂津国三田二万石を得る。
人に誇れる武功なし。武器は茶の湯と機知、そして度胸。
だが、いかに立身出世を果たそうと、則頼の脳裏には常に、真逆の生き様を示して散った一人の「宿敵」の存在があったことを知る者は少ない。
時に幇間(太鼓持ち)と陰口を叩かれながら、身を寄せる相手を見誤らず巧みに戦国乱世を泳ぎ切り、遂には筑後国久留米藩二十一万石の礎を築いた男の一代記。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる