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第三章 プロイセン公国へ(失われた栄光のために)

3-8.花屋の店主:ローズマリーは、城壁の中に入らない

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 私たちがケーニヒスベルクへ行く準備をしていた頃、クレマンティーヌは傭兵の手配をしていたようだ。

 さて、話は変わって、ポーランドから遥か海の先にスコットランド王国と言う国がある。

 何故か、王家の者はフランス王家の宮殿にいる。
 さらにおかしなことに、王国として成り立っているのだ。
 それは不思議にも思えるが、これが他国の介入と言うもの。
 つまり、フランス王家はスコットランドを乗っ取ろうとしている。
 その行為が正当なものであると見えるように、必死に努力している。

 さて、そのスコットランド王国の首都:エディンバラは要塞都市であり、城壁に囲まれている。
 城壁都市の特徴は、建物の高さが高いということだ。
 何故なら、決められた面積で多くの機能を揃え、人口も賄うには、高さを求めるしかないからだ。
 そして、このエディンバラは、実に高い建物ばかりの街なのだ。

 そのエディンバラの城壁に入ることが出来なかったのか?
 それとも、入らなかったのか?
 昨年、成人の儀を済ませた女性が城壁の外側を歩いていた。
 つまり、成人女性なのだが、どう見ても少女と言う感じで、その可愛らしさも相まって、美少女と言っても差支えが無い容姿を持っていた。

 その美しい女性の名前は、ローズマリー。

 花屋の店主をしている。
 彼女の父母も花屋を営んでいるが、成人を機に自分の店を構えたのだ。
 かなり、やり手である。

 そして、両親が娘に、『ローズマリー』と言う名前を付けるぐらい花好きであり、それに勝るとも劣らないぐらい彼女も花を愛していた。

 鳥や虫が花の中に入るのは、花を愛しているからと、幼いころは思っていたのだが、今でもそれは否定しない様だ。

「この世に花を嫌いな人はいない」が、彼女の信条だ。

 そんな彼女の夢は、このスコットランドに無い花を見に行くことだ!
 世界中の花を見てみたい。
 いや、見なくてはいけない。

 そして、人々の人生を花で飾り、より豊かな人生をプレゼントする。そのアシストをするのが花屋の仕事なのだ。
 それは揺るぎない彼女の信念だ。

 だから、彼女は願う!
「世界の花の六割が集まる北ネーデルランド(オランダ)に行ってみたい」と。
 しかし、この花畑を放置して、旅に出るわけにはいかない。
「そう、明後日、通夜の祈りがあると教会の方が言っていたわ」

 彼女の花畑では、白百合とカーネーションが開花していた。
「明後日の通夜の祈りは、白百合とカーネーションですね」と、ローズマリーは笑った。

 翌日、ローズマリーは愛用の荷車に花を詰め、教会に向かう。
 会場の設営だ。
 無論、そんなことは教会がすればよいではないかと思うなかれ。
 花屋がすべて行うから、この花屋を選ぶわけだ。花だけ売っていたのでは、生きていけない。

 しかし、花屋に生まれて独立したローズマリーに取って、会場づくりなど、慣れたものだった。

 そして、当日!

 ローズマリーは、会場の端にいた。
「皆さま、ご起立ください。神父様の入堂でございます」と言うと、神父の入堂の際は、ともに入堂聖歌を歌うローズマリー。

 献花の時になれば、花を用意し、手渡す。

 そして、最後には、「天に召されました〇〇様。今、心安らかにおやすみなさいますように、今一度、祈りを捧げましょう」と言い手を合わせる。

 そして、神父に遺族たちが墓地に行き、埋葬する際、花を投げ入れる。
 墓地まで、その花を運ぶのも彼女の仕事だ。

 そして、教会に戻り、後片付けをして、その日の仕事を終える。
「あの方の人生の最後を花で飾ることが出来た。きっと、あの方の人生は素晴らしいものであるはずです」と思いながら、帰宅するのだ。

 出産、結婚時を花で飾ることに対し、嫌悪する人はいない。
 だが、人生の終わりに花を贈ることを、忌み嫌うものが多い。
 職業に貴賤をつけたがるものも多い時代だ。
 城壁の中の者は「花屋とは葬儀屋だ」という。

 だが、ローズマリーは、葬儀は嫌いではない。
 何故なら、「天国に旅立つ時を花で飾るのだから」

 そんなローズマリーは、城壁の中には入らない。

***

「花屋の店主、ローズマリーが貴女の人生を花で飾ります。うれしい時も悲しい時も。より人生を豊かにするため、私は花を送ります。
 だって、私は花屋の店主、ローズマリーだから」

 私が、この言葉を彼女から聞くのは、まだ先のことになる。


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