13 / 126
第一章 過去から来た者たち
13.ウィーンの噂
しおりを挟むこの日、襲撃を受けたことは、すぐに父に知らせた。
父は顔面蒼白と言う感じになったが、すぐに私の手を取り、「無事でよかった」と繰り返し言ってくれた。
そんな父に、相手の手首を握りつぶしたなど言えまい。
お祖父さまは、またも、激怒した。
それは、四方八方にだ。
まずは父に、「あの男は護衛も付けず、ヴィルを外出させたのか!」と。無論、馬車だし、馬車には護衛の者も乗ってはいる。
次に、襲った不審者にだ。
「娘に続き、孫を襲っただと。今すぐ、成敗してやるわ! どこの病院だ」
文官と言うのは、厄介なもので、武力に関して手加減を知らない。だから、つい、何でもやり過ぎてしまうのだ。
それは、ブルゴーニュ公国を滅ぼした時と同じに。
そう、ライン宮中伯は手加減無く、あの時、やってしまったのだ。
それが糸を引いているとは、本人は思いもしてはいない。文官なのだから、「こんなもんだろう」と思ってやったのだろう。
また、この事件は、ブランデンブルク辺境伯達の耳にも届いた。
「兄上、これは彼女が取り押さえたということなの?」
「ありえるな。あのパワーなら」
「二人とも、『あのパワー』とは、どういうことなのか?」
二人の息子は顔を見合わせて、先日のことを辺境伯に話した。
「やはり、ドイツ騎士団の娘なのか……ならば」
一方、庶民の間では。
「やはり握力令嬢様は実在したんだよ」
「マジかよ。見てみたいぜ。どんな顔をしているんだ」
「ドレスを着ているが、鷲か鷹みたいな顔らしい」
「それって、ガルーダじゃないか」
「いや、トト神様かも」
「握力令嬢に手首を折られた男が、今、病院にいるってよ」
「どこの病院だ、見つけ出そうぜ」
「最近、手に包帯を巻いている貴公子が多いって話しが、有ったよな」
街の噂に聞き耳を立てているのは、先日のアインス商会の会長であった。
「エマリー、奴らが動き出したようだ。こちらの情報網にも、ヴィルヘルミーナ嬢への襲撃の話は無かった」
「はい、お父様。これは、単独犯ではないかと」
「彼女に死なれるわけにはイカン。次期領主になってもらわないと、見知らぬ者が来て領主になるなどしたら、我が商会と良好な関係が気づけるかはわからぬ。
また、一から新領主と信頼を気づき上げるなど、手がかかるのだ。なんとしても、彼女の命は我が商会が守るのだ。
それが、我が商会の繁盛のためなのだ。エマリー」
「心得ております。お父様。私も、彼女の護衛に行ってまいります」
「頼んだ」
「そうです。従姉妹のイリーゼも誘ってみます」
エマリーは、商会の武器外商部の従業員を集めた。
武器を販売するには、武器が扱えないといけないというのが、この商会の方針なのだ。
なので、販売半分、使用半分と常に鍛錬をしている連中なのだ。
剣にナイフに小銃に大砲まで、ありとあらゆる武器を扱える。
やや、マニア度数は高いが、武闘派部門である。
「御領主様のお嬢様であるヴィルヘルミーナ嬢をお助けするわ。
これは商売よ。
数日後、お嬢様は、ベルリンへ行く予定なの。そこで我が商会が行商を装い護衛をします。いつでも出発できるように準備をしておいて」
護衛は商売!
武器を売る者のアフターサービス?
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり
もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。
海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。
無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。
【完結】勝るともなお及ばず ――有馬法印則頼伝
糸冬
歴史・時代
有馬法印則頼。
播磨国別所氏に従属する身でありながら、羽柴秀吉の播磨侵攻を機にいちはやく別所を見限って秀吉の元に走り、入魂の仲となる。
しかしながら、秀吉の死後はためらうことなく徳川家康に取り入り、関ヶ原では東軍につき、摂津国三田二万石を得る。
人に誇れる武功なし。武器は茶の湯と機知、そして度胸。
だが、いかに立身出世を果たそうと、則頼の脳裏には常に、真逆の生き様を示して散った一人の「宿敵」の存在があったことを知る者は少ない。
時に幇間(太鼓持ち)と陰口を叩かれながら、身を寄せる相手を見誤らず巧みに戦国乱世を泳ぎ切り、遂には筑後国久留米藩二十一万石の礎を築いた男の一代記。
凍殺
稲冨伸明
歴史・時代
「頼房公朝鮮御渡海御供の人数七百九十三人也」『南藤蔓綿録』
文禄元(1592)年三月二十六日寅刻、相良宮内大輔頼房率いる軍兵は求麻を出陣した。四月八日肥前名護屋着陣。壱岐、対馬を経由し、四月下旬朝鮮国釜山に上陸した。軍勢は北行し、慶州、永川、陽智を攻落していく。五月末、京城(史料は漢城、王城とも記す。大韓民国の首都ソウル)を攻略。その後、開城占領。安城にて、加藤・鍋島・相良の軍勢は小西・黒田らの隊と分かれ、咸鏡道に向けて兵を進める。六月中旬咸鏡道安辺府に入る。清正は安辺を本陣とし、吉川、端川、利城、北青などの要所に家臣を分屯させる。清正はさらに兀良哈(オランカヒ)方面へと兵を進める。七月下旬清正、咸鏡道会寧で朝鮮国二王子を捕らえる。清正北行後、鍋島、相良の両軍は、それぞれ咸興と北青に滞陣し、後陣としての役割を果たしていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる