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第一章 過去から来た者たち

13.ウィーンの噂

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 この日、襲撃を受けたことは、すぐに父に知らせた。
 父は顔面蒼白と言う感じになったが、すぐに私の手を取り、「無事でよかった」と繰り返し言ってくれた。
 そんな父に、相手の手首を握りつぶしたなど言えまい。

 お祖父さまは、またも、激怒した。
 それは、四方八方にだ。
 まずは父に、「あの男は護衛も付けず、ヴィルを外出させたのか!」と。無論、馬車だし、馬車には護衛の者も乗ってはいる。

 次に、襲った不審者にだ。
「娘に続き、孫を襲っただと。今すぐ、成敗してやるわ! どこの病院だ」
 文官と言うのは、厄介なもので、武力に関して手加減を知らない。だから、つい、何でもやり過ぎてしまうのだ。

 それは、ブルゴーニュ公国を滅ぼした時と同じに。
 そう、ライン宮中伯は手加減無く、あの時、やってしまったのだ。
 それが糸を引いているとは、本人は思いもしてはいない。文官なのだから、「こんなもんだろう」と思ってやったのだろう。

 また、この事件は、ブランデンブルク辺境伯達の耳にも届いた。
「兄上、これは彼女が取り押さえたということなの?」
「ありえるな。あのパワーなら」
「二人とも、『あのパワー』とは、どういうことなのか?」
 二人の息子は顔を見合わせて、先日のことを辺境伯に話した。

「やはり、ドイツ騎士団の娘なのか……ならば」


 一方、庶民の間では。

「やはり握力令嬢様は実在したんだよ」
「マジかよ。見てみたいぜ。どんな顔をしているんだ」
「ドレスを着ているが、鷲か鷹みたいな顔らしい」
「それって、ガルーダじゃないか」
「いや、トト神様かも」

「握力令嬢に手首を折られた男が、今、病院にいるってよ」
「どこの病院だ、見つけ出そうぜ」

「最近、手に包帯を巻いている貴公子が多いって話しが、有ったよな」

 街の噂に聞き耳を立てているのは、先日のアインス商会の会長であった。

「エマリー、奴らが動き出したようだ。こちらの情報網にも、ヴィルヘルミーナ嬢への襲撃の話は無かった」
「はい、お父様。これは、単独犯ではないかと」
「彼女に死なれるわけにはイカン。次期領主になってもらわないと、見知らぬ者が来て領主になるなどしたら、我が商会と良好な関係が気づけるかはわからぬ。
 また、一から新領主と信頼を気づき上げるなど、手がかかるのだ。なんとしても、彼女の命は我が商会が守るのだ。
 それが、我が商会の繁盛のためなのだ。エマリー」
「心得ております。お父様。私も、彼女の護衛に行ってまいります」
「頼んだ」
「そうです。従姉妹のイリーゼも誘ってみます」

 エマリーは、商会の武器外商部の従業員を集めた。
 武器を販売するには、武器が扱えないといけないというのが、この商会の方針なのだ。
 なので、販売半分、使用半分と常に鍛錬をしている連中なのだ。
 剣にナイフに小銃に大砲まで、ありとあらゆる武器を扱える。
 やや、マニア度数は高いが、武闘派部門である。

「御領主様のお嬢様であるヴィルヘルミーナ嬢をお助けするわ。
 これは商売よ。
 数日後、お嬢様は、ベルリンへ行く予定なの。そこで我が商会が行商を装い護衛をします。いつでも出発できるように準備をしておいて」

 護衛は商売!
 武器を売る者のアフターサービス?
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