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第三章 踊るように笑え
27.ドックランズ
しおりを挟むクリッパー船は手に入った。
アムステルダム支店に譲る理由は無い。
なので、「この仕事はロッテルダム支店がやる」と支店長が言い放った。
だが、支店の命運を左右しかねない。会長からは「進退をかけろ」と言われたことが頭をよぎった。支店長は自ら船に乗り込みたいところではあったが支店から離れるわけにはいかない。
「ハインリッヒ船長に託すしかないな」と、ひとつ呟いた。
「僕も行きます。インドまで」
二人は興奮気味だが、工場長は冷静に言った。
「テスト航海をする時間があまりありません。うちとしても初めての作業です。何があるかわかりませんよ。まっすぐにすら進まんかもしれんですぞ」と、工場長は脅しをかけてきた。
確かに、そうかもしれない。鉄で補強した船なのだ。歪みも計算していたとは言い難い。
「それと、どのドックを使いますか」と工場長は尋ねた。
このティーレースは、どのドックを使うかは勝敗のカギを握ることもある。
というのも、ティーレースのゴールは、ロンドンドックランズにある自分のドックに固定した時点のタイムが公式タイムとなるからだ。
となると、テムズ川は西から東に流れているわけだから、下流になる東よりが距離的に有利だ。しかし、分単位で争われたティーレースは1868年のレースぐらいで、一日、二日、遅れて到着するものだ。
なので、支店長は、医薬品を運ぶことを考慮し、営業所に一番近いが、最も西にあるセイント・キャサリンドックを選ぶことにした。
まあ、支店長としてはレースよりも商売を優先した形だ。
「そうですか。最も下流にあるロイヤルドックも手配できますが……」
「いや、そこまで下流になるとロンドンの街中より外れてしまいます。営業所の連中が苦労すると思いますので」
「なるほど。では、セイント・キャサリンドックを手配しておきます」
あとは、船員たちを集めて、テスト航海を早くしないと、もう四月だ。五月にはイギリスを経たないといけない。
だから、支店長は、ロッテルダムに帰ると、あわただしくなった。会長への報告を始め、船員集めと。
そして、支店長は、共に会長に自身の進退をかけるといったハインリッヒ船長しか、今回の船長はいないと思っていたのだから、彼に船長を任せることにした。
「ハインリッヒ船長、副船長は誰にする?」
「ヘニーが最も航海時間が長いです」
「なら、ヘニーにするか」
そのころ、ヘニーは、あの男女からもらった名刺を眺めていた。
「フランス語か、さっぱりわからん」
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