23 / 44
第三章 踊るように笑え
23.クリスティアーネの誓い
しおりを挟むカロリーネが踊るように笑っていた頃、ヴィレム達は、川を下る準備をしていた。
そして、ヴィレムはハインリッヒ船長に訪ねた。
「『おじ様』、いや、会長が言っていた『先祖が交わした友情の誓い』とは何のことです?」と。
「あぁ、そのことか。会長や支店長のアインホルン家とご領主様との間で交わされた……」
「それは、故郷のラインラントを護るという誓いですよね」
「あぁ、そうだ」
「だとすると、船長は関係ないんじゃあ」
「実は、我が先祖はロッテルダム支店長を努めたクリスティアーネ・ド・モッテ様なんだ。ロッテルダム支店長をされていたヴィルヘルミーナ様が、ラインラントに南ドイツからカトリック貴族が攻め込んだ際、支店長を退任されラインラントへ帰られたのだ。ラインラントを護るために。その間、クリスティアーネ様が支店長として支店を護る誓いを立てたのだ」
「そんなことがあったのですか」
「ヴィルヘルミーナ様が戻るまで、支店長としてロッテルダム支店を護ると。だが、ヴィルヘルミーナ様は戻ってこなかった。その後、行方知れずと……」
「そんな……
ところで船長。ヴィルヘルミーナ様はご領主様でしたよね」
「あっ、紛らわしいよな。実は二人おられて、ご領主様のヴィルヘルミーナ様とその孫でクリスティアーネ様とロッテルダム支店にいたヴィルヘルミーナ二世様がおられる」
「そうなんですね」
***
17世紀なかば
若かりし頃は、“お転婆令嬢”と言われていたヴィルヘルミーナ二世も落ち着き、前任のロッテルダム支店長のイリーゼ・アインホルンの跡を継いで、支店長となっていた。
だが、ラインラントへ南ドイツからカトリック貴族が侵攻を開始してきた。
二世は、一世の『友情の誓い』をよく知っていた。何故なら、幼い頃より、一世から話を聞かされていたのだから。
一世とエマリーの友情を。
共に故郷を護ると。
だから、戦争となれば、武器を調達し馳せ参じる覚悟であった。
「クリスちぃ、申し訳ないわ。仕事を放棄して故郷に戻るなんて」
「何を言うの。ごめんなさい。まさか、私の実家が、ミーナの領地に攻め入るなんて」
「これだけはね。何とも……でも、私達、二人の友情は変わらないわ。家柄、宗教、戦争、いつだって私達は、闘ってきたわ」
「ミーナ、貴女が戻るまで支店は護るわ」
「お願いするわ」
「ミーナ」と声をかけたのは、前支店長のイリーゼだ。
「いつもいつも、この老体をこき使ってくれるわ」
「どこが老体なんですの」
「私とクリスティアーネで、ロッテルダム支店はなんとかする。ラインラントに武器を早く運んであげて」
「はい、任せてもらいますわ」
そう言って出発したヴィルヘルミーナ二世を見たのは、この日が最後だった。
船長は、この日、見送ったクリスティアーネの子孫だと言っている。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ヴィクトリアンメイドは夕陽に素肌を晒す
矢木羽研
歴史・時代
カメラが普及し始めたヴィクトリア朝のイギリスにて。
はじめて写真のモデルになるメイドが、主人の言葉で次第に脱がされていき……
メイドと主の織りなす官能の世界です。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
出撃!特殊戦略潜水艦隊
ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。
大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。
戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。
潜水空母 伊号第400型潜水艦〜4隻。
広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。
一度書いてみたかったIF戦記物。
この機会に挑戦してみます。
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
四本目の矢
南雲遊火
歴史・時代
戦国大名、毛利元就。
中国地方を統一し、後に「謀神」とさえ言われた彼は、
彼の時代としては珍しく、大変な愛妻家としての一面を持ち、
また、彼同様歴史に名を遺す、優秀な三人の息子たちがいた。
しかし。
これは、素直になれないお年頃の「四人目の息子たち」の物語。
◆◇◆
※:2020/06/12 一部キャラクターの呼び方、名乗り方を変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる