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第一章 帆船の女王
11.竜骨
しおりを挟む「この様なことが起きるのだろうか」と支店長は怒りを堪えていた。
それは、どういうことだろうか。
支店長がティーレース参加の契約書にサインをした後、工場は夜勤もいないためジャスミンは戸締りをして帰宅した。
その数時間後、工場の隣に自宅があるフィッツジェラルド工場長は異変に気がついた。
「工場に明かりが見える。おかしい……」
工場長は走った。
工場の扉を開くと、なんとクリッパー船が燃えているではないか。
「イカン、竜骨に火が付くと取り返しのつかないことになるぞ」
そう、船は竜骨という背骨があってこそ、建造出来るのだ。
そこに引火すると、すべてやり直しなのだ。
しかし、工場には誰もいない。消火を手伝う者は誰もいない。
「おーい、誰かぁ。家事だぁ」
一人で井戸から水をバケツで運ぶフィッツジェラルド工場長。
間に合うはずもない。
やがて、火は竜骨へと……
「工場長ッ」
「宿から見えたので来ました」
他の従業員達、アインス商会からも支店長、船員、ヴィレムも駆けつけた。
「皆、バケツをリレーで渡すんだ」
フィッツジェラルド工場の従業員、アインス商会の従業員で火を懸命に消し、沈下した。
「おい、竜骨は! 竜骨は大丈夫なのか!」
従業員からの返事がないので、工場長が駆け寄ると、なんと、竜骨が焦げて炭と化していた。
「そんな……」
「ここまで、出来上がっていたのに……」
一方、支店長は考えていた。
今日、サインした契約書には、不参加となった場合、キャンセル料金は発生しないが、会社名は公表すると。
そうなれば、また、会社に汚名を……
先日の私掠船のこともあり、解雇もあり得るのではと、支店長は肝を冷やしている様子だ。
そこに、大きな声が聞こえた。
「うあぁ、私のせいだ。私が火の不始末を……」と、ジャスミンが泣き出した。
「私が、私が」と繰り返し泣いている。
「ジャスミン、何があったのか、教えて」と、ヴィレムは声をかけた。
「今日は私が最後だったの。きっと私が、火に気が付かなかったのだわ」と、泣いている。
誰も、どうすることも出来ない……
「いや、竜骨だけを燃えるように、火の不始末とかあり得るか?」
「船長、どういうことだ?」と、支店長が訪ねた。
「余りにもピンポイントなんですよ。燃えやすくない頑丈な竜骨周辺だけ燃やすなんて」
「ということは?」
「火矢とかで窓から」
工場は静まり返った。
「燃えたあたりを確認しろ」と、工場長は叫んだ。それは、怒りの声だった。
「これなんて、矢に見えなくもないですが、どうですか」
「なんてこった。上の窓からだ。あの窓からなら竜骨が狙える」
ボヤですんだとはいえ、竜骨を変えるとなると、イチから作り直さないといけない。
ティーレースに、間に合うのだろうか。
皆の心が冷えて行くのであった。
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