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第2章 空手家、異世界冒険者になる
29.正拳突きとカランビットナイフ
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第29話
正拳突きとカランビットナイフ
オレたちは向かい合ったが、悲しいかな……
オレにはジムの考えがわかってしまった。
ジムは肩当と胸当てをつけていた。つまり、鎖骨を守ろうというわけだ。
前回の対戦では、鎖骨を破られてしまったからだ。
鎖骨を守れば、腰だめからの一突きができると思っているのだろう。
「小賢しい」
だが、今回はオレから仕掛けた。
ジムが腰だめに構えようとした瞬間、ジムの膝下が激痛を覚えた。
継足からの上足底前蹴り!
いわゆる、和道流空手の脛蹴りという技だ。
蒼井が蹴った部位は、脛ではなく、膝の内側の下の柔らかい部分をブーツで蹴り飛ばしたのだ。
問題は、蒼井が蹴ろうとしていることに、ジムは、まったく気がつかなかったことだ!
いつ、蹴りのモーションに入ったのだ?
蹴りとは、放つ際、頭が上下してしまう技だ。
例えば、後ろの足で蹴る場合、軸足となる前足に、体重をかけた時点で、頭の位置が下がるので、この時点でわかるのである。
また、前足で蹴る場合は、後ろ足を引き付けた時に頭が上下する。
ところがである。
地味な基本動作の反復、移動稽古、股関節の柔軟性の維持のため股割りを繰り返しているうちに、後ろ足を引きつけても、頭は上下にも、左右にも揺れないようになる。
つまり、対戦相手は、いつ近づいてきたのか判断がつかないのだ!
気が付いた時には、蹴られているのである。
縮地法といっても良いかもしれない。
そうして、ジムは膝下を蹴られ、前屈みになり、軽く顔を叩かれた。
この一発の蹴りで、ジムは激しく動揺した。
今までに、経験したことの無い技術……
今までに、経験したことの無い痛みに……
足の痛みで、動きが悪い。こちらから、ナイフで突く、斬るということはやり難い。
相手の突き手や蹴り足を斬るというカウンター作戦に切り替えた。
今こそ、相手の手首を絡めて斬ることが出来る、カランビットナイフの出番である。
「さあ、蒼井よ! 突いてこい、お前の手首を切り落としてやる」とジムは呟いたのだ。
そして、カランビットナイフ、それは相手の手を巻き込み斬るために工夫をされた特殊ナイフである。
持ち方は、逆手が基本だ。
そして人差し指を通す輪っかがあり、それにより、変則的な持ち方が出来る。
また、両刃、片刃など形状は様々だ。
ジムのナイフは、片刃だった。
自分から切裂くより、カウンターで反撃が得意なのだろう。
そして、動いたのは蒼井からだった。
相手がカウンター狙いでも、先に動いたのだ。
それも意外な事に、左手の人差し指でジムの顔を指差したのだ。
ジムは、『こいつバカにしているのか?』と思ったのだろう。口には出さないが、顔が微妙に歪んだ。
ジムのナイフは片刃である。逆手に持つと、自分側に刃が向く訳である。
顔の位置を斬るには苦労する。刃を逆さに持つか、順手に持ち替えるなどしないと、斬れない訳だ。
しかし、カランビットナイフは片刃であっても、人差し指を入れる輪っかで、逆手から順手に持ち帰るのは簡単なのだ。
しかも、輪っかに指を入れているので、落とすこともなく、確実に持ち帰られる。
その時間は、一瞬だ!
『蒼井め! このナイフのすごさを分からせてやるぜ』と思い、ジムが蒼井の方を見ると、蒼井は、人差し指を下から上へ、どじょう掬いでもするかの様に動かしてきた。
『マジでバカにしてやがる』
しかし、ジムは上手く蒼井の指を斬れない。
たった一本の指に顔を差されているだけなのだが、その人差し指が段々と大きく、プレッシャーと迫ってくるように、ジムには思えた。
バシッ!
という音が木霊する。
なんだ? どうなっているんだ?
気が付かない間に、鼻先を殴られたようだ。
ジムは鼻先を殴られたため、頭は重く、両目は涙が溢れてきた。
視界が歪む……
まだ、蒼井は、まだジムの顔を指差している。
すると、その指が握られたかと思うと、蒼井の肩関節が外れて、拳が鼻先にヒットした。
な、なんだと!?
この男は、自身の関節の脱着ができるだと!?
ジムは、こんな変人を相手にしたことは、今まで無い。どうすれば良いものか?
オレは、明らかに混乱しているジムを眺め、
「こいつは、何をパニクっているのか?」と、不思議な気分だった。
実際、蒼井が、まるでジョナサンのズームパンチの様に、関節を外した訳ではない。
そう相手に見えただけだ。
この時、オレの使った技は、スーパーマンパンチだった。
次回の空手家は、スーパーマンパンチとは!?
正拳突きとカランビットナイフ
オレたちは向かい合ったが、悲しいかな……
オレにはジムの考えがわかってしまった。
ジムは肩当と胸当てをつけていた。つまり、鎖骨を守ろうというわけだ。
前回の対戦では、鎖骨を破られてしまったからだ。
鎖骨を守れば、腰だめからの一突きができると思っているのだろう。
「小賢しい」
だが、今回はオレから仕掛けた。
ジムが腰だめに構えようとした瞬間、ジムの膝下が激痛を覚えた。
継足からの上足底前蹴り!
いわゆる、和道流空手の脛蹴りという技だ。
蒼井が蹴った部位は、脛ではなく、膝の内側の下の柔らかい部分をブーツで蹴り飛ばしたのだ。
問題は、蒼井が蹴ろうとしていることに、ジムは、まったく気がつかなかったことだ!
いつ、蹴りのモーションに入ったのだ?
蹴りとは、放つ際、頭が上下してしまう技だ。
例えば、後ろの足で蹴る場合、軸足となる前足に、体重をかけた時点で、頭の位置が下がるので、この時点でわかるのである。
また、前足で蹴る場合は、後ろ足を引き付けた時に頭が上下する。
ところがである。
地味な基本動作の反復、移動稽古、股関節の柔軟性の維持のため股割りを繰り返しているうちに、後ろ足を引きつけても、頭は上下にも、左右にも揺れないようになる。
つまり、対戦相手は、いつ近づいてきたのか判断がつかないのだ!
気が付いた時には、蹴られているのである。
縮地法といっても良いかもしれない。
そうして、ジムは膝下を蹴られ、前屈みになり、軽く顔を叩かれた。
この一発の蹴りで、ジムは激しく動揺した。
今までに、経験したことの無い技術……
今までに、経験したことの無い痛みに……
足の痛みで、動きが悪い。こちらから、ナイフで突く、斬るということはやり難い。
相手の突き手や蹴り足を斬るというカウンター作戦に切り替えた。
今こそ、相手の手首を絡めて斬ることが出来る、カランビットナイフの出番である。
「さあ、蒼井よ! 突いてこい、お前の手首を切り落としてやる」とジムは呟いたのだ。
そして、カランビットナイフ、それは相手の手を巻き込み斬るために工夫をされた特殊ナイフである。
持ち方は、逆手が基本だ。
そして人差し指を通す輪っかがあり、それにより、変則的な持ち方が出来る。
また、両刃、片刃など形状は様々だ。
ジムのナイフは、片刃だった。
自分から切裂くより、カウンターで反撃が得意なのだろう。
そして、動いたのは蒼井からだった。
相手がカウンター狙いでも、先に動いたのだ。
それも意外な事に、左手の人差し指でジムの顔を指差したのだ。
ジムは、『こいつバカにしているのか?』と思ったのだろう。口には出さないが、顔が微妙に歪んだ。
ジムのナイフは片刃である。逆手に持つと、自分側に刃が向く訳である。
顔の位置を斬るには苦労する。刃を逆さに持つか、順手に持ち替えるなどしないと、斬れない訳だ。
しかし、カランビットナイフは片刃であっても、人差し指を入れる輪っかで、逆手から順手に持ち帰るのは簡単なのだ。
しかも、輪っかに指を入れているので、落とすこともなく、確実に持ち帰られる。
その時間は、一瞬だ!
『蒼井め! このナイフのすごさを分からせてやるぜ』と思い、ジムが蒼井の方を見ると、蒼井は、人差し指を下から上へ、どじょう掬いでもするかの様に動かしてきた。
『マジでバカにしてやがる』
しかし、ジムは上手く蒼井の指を斬れない。
たった一本の指に顔を差されているだけなのだが、その人差し指が段々と大きく、プレッシャーと迫ってくるように、ジムには思えた。
バシッ!
という音が木霊する。
なんだ? どうなっているんだ?
気が付かない間に、鼻先を殴られたようだ。
ジムは鼻先を殴られたため、頭は重く、両目は涙が溢れてきた。
視界が歪む……
まだ、蒼井は、まだジムの顔を指差している。
すると、その指が握られたかと思うと、蒼井の肩関節が外れて、拳が鼻先にヒットした。
な、なんだと!?
この男は、自身の関節の脱着ができるだと!?
ジムは、こんな変人を相手にしたことは、今まで無い。どうすれば良いものか?
オレは、明らかに混乱しているジムを眺め、
「こいつは、何をパニクっているのか?」と、不思議な気分だった。
実際、蒼井が、まるでジョナサンのズームパンチの様に、関節を外した訳ではない。
そう相手に見えただけだ。
この時、オレの使った技は、スーパーマンパンチだった。
次回の空手家は、スーパーマンパンチとは!?
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