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第2章 空手家、異世界冒険者になる

18.ジム・ライト

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ジム・ライト


 アニーは自身の控室に戻ったが、サバサバした様子たった。

 普通、CランクハンターがDランク受験者に負けるなど、あり得ないことだが、『あれは、あの受験者がEランクと言うこと自体がおかしい』のである。

 アニー自身はCランクハンターとしての実力も実績もあり、この審査でも、その実力を示している。

 今回の相手は戦闘に特化した、そういう奴なのだろう。

『気にすることは無い』と思っていたが、そこに、無法者:ジム・ライトが、黙ってやって来た。

 何かを会話する訳でもない。
 ただ、座っているだけだが、言いたい事は、アニーにも伝わってきた。

 アニーは、「はぁぁ」と、ため息を付き、
「なによ!」と吐き捨てた。

 つまり、『言いたい事があるのなら、実力で示せ!』という態度を取った。


『勿論そうする』と、言いたげにジムは去ってしまった。



 このジムは、無法者と呼ばれる事がある。

 戦争での腕を見込まれて、シェリフとして各都市に雇われるが、汚職やら無断で決闘を行っていたらしく、解雇された。


 その後、用心棒を続けているうちに、ハンターとなった様だ。



 また、シェリフ時代に商人との繋がりを持ち、賄賂をせしめていたようだが、不思議なことに、ジムからの賄賂を断った商人は、盗賊に襲われることになる。

 こんな奴が、今、片田舎とはいえ、盗賊でなくハンターをやっているのは、やはり“商人との繋がりは大事だ!”ということかもしれない。



 だから、アニーの様に“実力があれば、上に行ける。生き残れる”という考えのハンターとは、ジムは性格的に合わないのだ。

 まあ、コネクションも実力のうちなのだろう。

 実際、日本の現代社会でも、実力がある者が、出世するわけでもなかろう?
 それと同じだ。

 そして、今回の受験者も、そんなアニーの様なニオイを、プンプンさせている。


 そんなニオイに釣られて、ジムは、こんなことを言っていた。

「奴の次の相手は、オレにしろ!」

「わかった。いつもの武器は用意してある」

と、ギルド職員らしき男は、ジムに、そう答えた。



 つまり、審査試合で使う武器は、木剣のように木製であり、ナイフや手裏剣も木製で出来ている。

 だが、ジムはこの職員を使い、見えない調整や細工が出来るらしい。

 外見は木製であっても、中は金属の武器にすり替えることは、この2人には朝飯前の様であった。



 その元シェリフであるジムの愛用武器は、普段の戦闘に於いてもロングソードよりも、ナイフを手にすることが多い。

 暗殺用ナイフのカランビットナイフだ。



 しかし、この審査ではナイフ型模型を使うつもりだが通常のものではない、先ほどのギルド職員が用意した。いわゆる『それ』である。



 一方、その頃、蒼井は、まだお茶の時間であった……


***


 この町のギルドは町役場としての機能もあり、体育施設はハンターが暇な際、トレーニングをしていたり、また、各種受付窓口には一般人も来ている。

 そんな中、ハンター資格試験が野外格技場で行われているとなると、いつの間にか、人は集まるものである。

 そこに、“引き続き2試合目が行われる”と通知された。



 ハンター達は、それは「おかしいのでは?」と思い、ざわついている。

 そもそも、魔法使いなら、1日に使える魔法の数も決まっているのだから、連闘となるとハンデが大きくなる。



「本気かよ?」

「受験者にキツイのでは無いのか?」

と、いった声が上がっているようだ。

 こちらの審査室でも、ギルドマスターや毒堀らが、「危険だ。止めさせるように!」と職員に指示をしているが、先ほど、ジムと話していた例のギルド職員が、「蒼井からの“要望”で、まだまだ出来るとのことです。今、対戦相手を選考しております」と、マスター達の行動を阻んだ。



 無論、そんな要望等、蒼井は言ってもなければ、誰も聞いてはない。また、対戦相手を選考などしてはない。

 対戦相手は、端から決まっているのだから。


***


 さて、話は変わり。

 ジム・ライトは、蒼井の様なハンターは好きになれるはずもなかった。
 先ほどのアニーと同じ理由だけではない。

 スピード出世する同業者は、早く潰すに限る。

 それに、コイツは、独りで清掃から農作業に護衛に魔物の駆除・討伐まで行いやがった。

 独りで、そこまで行うような便利屋が現れたら、ジムのような“殺し系の仕事”しか出来ない、元殺し屋ハンターは、売上に関わるということだ。



 実は、この男、魔物の討伐やら用心棒やら護衛の仕事を増やすため、わざと魔物を引き寄せ、行商人や牧場を襲わせたりしていた。


 それがである。


 元ハンターの牧場経営者が現れ、『ハンターに依頼などしなくても、大丈夫なのではないか?』という空気が、この町を覆い始めた。

 魔物など襲ってこないと!


 ジムは焦った。

 地方都市最高のランクであるCランクハンターの価値、用心棒や護衛の価値が崩れる可能性があるのではないか?


 そこで、ジムは仕掛けることにした。


 魔物に牧場を襲わせ、まだまだ、ハンターの護衛が必要であるとを人々に教えこむことにしたのだ。



 連日、鼻の効くゴブリン達を誘導するように、街道沿いや牧場の近くに生肉や小動物の死骸を仕掛け、行商人や牧場の牛を襲わせた。



 そんなある日、ジムは“あの人”と出会った。

 “あの人”は、ジムの話をよく聞いてくれた。

「このままでは、地方都市のハンターは売上を落とし、存続の危機がくるだろう」と、ジムは話した。

 すると、生肉等で、ゴブリンを誘導することしか出来ないジムに、“あの人”は、ゴブリンに命令が出来る魔法石を与えてくれた。

 その日以来、ゴブリンはジムの指示する処に現れ、人々を襲うようになった。

 そのお陰で、人々は「やはり、高くてもハンターに護衛を依頼すべきか」と考え直し始めていた。


 しかし、このやり方が、順調に思えてきた頃に、何故か、二度の失敗を犯した。



 一度目は街道沿いで、野営をしている旅人を襲わせた際、ウルフが現れ、ゴブリンを瞬殺したのには、大いに驚いたが、あれ以降はウルフを見かけたことはないので、たまたま、そのウルフは通り掛かったのだろう。
 
 あれは、たまたまだ!


 もう1度は、元ハンターの経営する牧場地区を大規模襲撃をさせた時だ。普段から、ゴブリン達は、あの地区に出没していたようだが、元ハンターのせいで、ハンターを雇うというところまで被害を与えることが出来なかった。

 そこで、ジムは“あの人”から頂いた魔法石を使い、大規模襲撃を行わせたが、元ハンターだけでなく、普段、牧場の清掃をしていたハンターが活躍して、追い払ったらしいではないか!


「そいつは、バカか!」


 オレがハンターの価値を上げようと必死なのに、わざわざ、お手軽に使われよってからに!?



 そして、そのバカが昇格試験を受けに来ていると、ギルド職員からの話を聞いて、駆けつけた。

 単なる腹いせだけでない。
 そのハンターには、罰を与えねばなるまい。

 バカには、言ってもわかるはずもないから、殺すに限る。

 そう、あとは、如何に事故に見せかけて、このバカを殺すかである。


 次回の空手家は、殺人シェリフと激突だ!



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