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第2章 空手家、異世界冒険者になる

8.清掃員

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第8話
清掃員

 清掃員、平たく言えば、道の牛糞清掃だった……

 それでも、夕方になれば、ギルド登録が出来、宿にも入れて、報酬も受け取り、飯にありつけた。

 まあ、飯の前に風呂だよなぁ。
 かなり、クサイからね。


 翌日、ギルドに行くと、清掃員の求職依頼は、本日も張り出されていた。


 当然、牛は毎日、排泄はするのだから、当然といば当然。


 だが、今日は、受付嬢から、牧場の清掃を勧められた。町の清掃より、報酬が良いからだという。

「気を遣ってもらい済まない」と言うと、受付嬢は「いえ、町は人手不足なので、長くいて頂きたいですし」とのことだった。


『死後の世界が人手不足とは、どういうことだ?』と思ったが、オレは気にせず牧場に行くことにした。


 町営の循環馬車に乗り、町の外の牧場の1つに着いた。

 着くなり、なんだか空気が重いし暗い。

 経営者らしき人物に、ギルドから清掃に来たことを伝えると、経営者は「あっ、すまないね」と、こちらに気が付いた様子で対応してくれた。

 後で、「先ほど、随分と暗い雰囲気でしたね」と訪ねてみると、貴重な牛がゴブリンに襲われたらしい。
 なんでも、ここ最近はゴブリンが活発化しており、牛が襲われることが増えているとか!?

 見張りの依頼をギルドに出したいが、一晩中、この広い牧場を毎日見張りをするとなると、多額な費用になるので、とても依頼など出せなかったのだ。


 数件隣の牧場などは、経営者とその妻が、過去にハンターをしていたらしく、また、従業員も元ハンターというだけあって、自身で牧場の防衛をしているようだ。

 罠を仕掛け、交代で弓を放っているというのだから、『相当な規模の防衛をしているのだな』と感心してしまった。


 しかし、『ゴブリン用の罠って、どんなだろうか? 先日の野営の際、四足動物に殺されていたゴブリンは裸足だったので、マキビシとか巻いたら、良いのだろうか?』と、想像してしまった。
 とはいえ、オレの仕事は護衛ではない。あくまで、清掃だ。

 しかし、支払をする経営者が儲からないのでは、この仕事は長く続かない。
 さらに、この町の主要産業が危機に面しているというのは、町の危機ではないのか? 
 果たして、このままで良いのだろうか?



 その日、元ハンターの経営者の牧場に他の経営者達が集り、ゴブリン対策を講じていた。

 ゴブリン達は、牛を攫い自分たちの食料にしている。また、糞尿を集め、牛舎の中の牛の顔面目掛け投げつけているようだ。

 朝、牛舎に来ると糞まみれの牛や、目にクソを入れられ、目が開けられなかった牛もいる。

 ただ、ゴブリンは頭脳明晰ではない。

 むしろ悪いほうだが、悪知恵が効くというのだろうか?
 いや、相手が嫌がることを知っているのだろうか?


 しかし、最近のゴブリン達は、元ハンターの牧場を避け、他の牧場を優先的に襲うようになっていた。

 罠もなく、弓が飛んでくるかもしれない牧場より、襲いやすいところを襲う。それぐらいの知恵は、ゴブリンにもある。

 そこで、他の牧場経営者は、罠の作り方を元冒険者の、経営者に教わろうとしているわけだ。

 例えば、ゴブリンは、好奇心が強いので、派手な案山子を作ると必ず寄ってくるらしい。そこをヘッドショットする!

 ただし、定期的に新しいものにしないといけない。
 好奇心が強いということは、飽きるのも早く、厄介だ!

 しかし、ヘッドショットが出来る牧場経営者が、何人いるだろうか?
 やはり、元ハンターのこの牧場経営者ぐらいだろう。
 それに寝ずに牧場を守っていたら、昼間働けない。一人の労働力は、この規模の牧場には大きいのである。



 一方、酪農業界でハンターを護衛に雇いたい!という話も、以前から出てはいたが、支払う報酬を考えると十分な人数を集められない上、自分の牧場には必要のない元ハンターの経営者は、控えめながら出資したくない様子ではあった。


 結局、この日の対策会議も何ら解決には至らなかった。


 次回の空手家は、隼人はハンターになれ!
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