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3.バルト海を並び行く幽霊たち
3-19.少年は苦難と時を経て騎士となる
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3-19.少年は苦難と時を経て騎士となる
すっかり女海賊団は、人気者になっていた。
行く先々で、人が集まるのだな。
それと、先日の一件で、エルメンヒルデは伯父のお気に入りとなったようだ。
「良かったら、お父上のことを教えて欲しい」と、父のことを調べてくれるそうだ。
のちに、エルメンヒルデの父親が病気で入院していることを、伯父が知らせてくれることになる。
また、クライネス・キンダーも伯父とアンナに気に入られたようだ。幼子が可愛いという感じだろうか?
クライネスの“あの飄々とした性格”も貴族向きだ。
さすがに公爵家の養子には、出来ないだろうが、伯父が世話をするのなら、大商人や一代貴族の養子なんて夢じゃない。
今のうちに、礼儀作法やら教養を仕込んでおこうか?
そして、貴族から大商人への養子や嫁入りは、歓迎される。
大商人としては、貴族への結びつきが出来るだけでなく、貴族社会に精通している者がいれば、作法やらに困ることが無いのだから。
その時は、良い名前を付けてもらえよ。
クライネス・キンダー、つまり、“ガキ”とか“おチビちゃん”では、大きくなって困るだろうし。
だが、この時の私は、想像すらしていなかったのだ。
クライネスが、将来、「名前をもらえるなら、『ヴィルヘルミーナ』じゃなきゃ嫌よ」ということで、クライネスがヴィルヘルミーナになろうとは。
バターにクッキーと、やかましかったクライネスの癖に!
さて、街中では、絵師が女海賊団のイラストを描いていた。
写真の無い時代、即興でイラストを描く仕事があり、街角で商売をしていた。
おそらく、絵の勉強をしている者が、小遣い稼ぎで街に立っているのだろう。
そこで、どんな絵があるのだろうかと、覗いてみると!
ヤスミンとイリーゼが人気のようだ。
これは、ヤスミンの顔アップ。
滅茶苦茶、男前だ。これを好きだという女もいるだろう。毛むじゃらの男より、男装の麗人が好きだというような。
次に、男装の麗人のヤスミンとお嬢さん風のローズマリー。これなら、男も女も買えるな。
こちらはイリーゼだ。
エルメンヒルデと背中合わせで海賊刀を構えている。
ほうほう、カッコいいので、ファンには人気が出るだろう。
またまた、二人がダンスでも踊るかのように、手を握り合い、正面を向いている。社交ダンスか?
その中に、とりあえず程度に、ワタクシのイラストもあった。船長服の私だ。
あまり気合が入っていない……
なぜ……
そして、気になったのがエマリーが無い!
あの女は、デカいだけで、ブサイクでは無い!
そう、例えるならば、
みんなのお姉さん的な雰囲気とか、
一見すると、優しそうなところとか、
胸の大きなところとか、
一定のニーズがあるはずだ。
そうこう考えていると、売り場の後ろから男女のひそひそ話が聞えてきた。
「もっと小さなイラストは作れへんの?」
「出来ると思います」
「ほな、それと〇〇屋のお菓子と組合わせて、売りましょう。『女海賊団のミニイラストのおまけつきのお菓子』よ」と、言っている女はエマリーだった……
どこぞのキャラメルのおまけなのか?
商売の話になると、エマリーは上方あたりの話し方になるようで、これが“あきんど”だからということなのか?
そして、私のイラストが、ハズレになるような話しは聞きたくない……
なので、私は、エマリーに見つからないように、その場を離れた。
――もう少し、私のイラストは丁寧にお願いしたいわ。
さて、クレマンティーヌと彼女の海兎海賊団を追いかけて行った黒船海賊団は、どうなったのだろうか?
「黒船の連中が、まだ付いてくるのか。しつこいんだよ」
「お嬢様、運河に逃げ込めそうです」
「よし、運河を使って、上手く巻いてやるわ」
「クレマンティーヌ、忘れもしない」と言ったのは、雲を付く大男のバーナー・シュバルツだ。
あの女は、以前、スペインからガレオン船の設計図を調達したということで、多額の金額で交渉してきた。
オレは、本物の設計図とは思っていなかったのだ。
何故なら、これはスペイン海軍のトップシークレットだ。
だが、フランスの一部の貴族に、スペインが売りに出したという。
この話、額がべらぼうに高い上、嘘か誠かわからなかったので、交渉には応じなかった。
しかし、フランシス・ドレイクは、「高額でも、祖国の役に立つかもしれない。ガレオン船が多数で攻めて来たら、今のイングランド王国では太刀打ちできない」と、買うことにした。
そう、イングランドはスコットランド王国やアイルランドとの問題が山積みなのだ。そこに最新鋭のガレオン船でスペインが攻めて来たらと考え、高額でも買ったのだ。
他にも、ドイツ商人にも売れたそうだが、どこの誰だかは知らない。
まあ、ろくでもない奴だろう。ガレオン船の設計図を買う商人など。
そして、ドレイクのガレオン船が完成した。
オレの感想は、キャラック船を大きくしただけに思えた。ただ、鈍重なキャラック船よりかは、フロントヘビーを抑え、後部の船室が充実している。
また、積載量は、圧倒的に思える。
だが、この一隻の船がイングランド王国の世界への挑戦の始まりとなるのだから、世の中はわからない。
ある時、ドレイクは言った。あの『大いなる祝福を受けた艦隊』計画の対策会議でだ。
「女王陛下、出資をお願いします。
あの忌々しい艦隊が出来る前に、世界中のスペインの方面基地から略奪を行います。そうすれば、あの艦隊の完成は遅れます。そして、略奪したカネで、王国の海軍を整備してください」と。
「おい、フランシス。世界中とは、どういうことだ。そんなことが出来る何かを掴んだのか?」
「説明します。パナマを襲撃した際、大西洋の反対側に大西洋に匹敵する大きな海を見ました。これがインドの東へ続く海洋のはず。そこはスペインが独占している海。ここへ出て、スペインの基地を襲います」
「なるほど……」
「それには、そこへ行って戦闘の出来る船が必要です。それが、このガレオン船の設計図」
「フランシス、お前、ガレオン船の設計図を手に入れたのか?」と、ホーキンスは驚いた。
「私は、面白いと思います。女王陛下」
「ハワード提督……」
「分かりました。出資者を募りなさい。私も出資します」
「陛下、自ら!?」
「フランシス、この設計図を貸してくれ、これだけでは世界は回れない。儂が手直しをしてやる。世界一周を出来るように」
そして、イングランド王国初のガレオン船、排水量305トン、全長36.5mのペリカン号は完成した。
ペリカン号は、ヨーロッパから錨を上げ、世界一周の旅の途中、支援者の一人であるハットン卿にちなんで、“ゴールデン・ハインド”号と改名する。
ハットン卿の家章の黄金の牝鹿を頂いたわけだ。
この世界一周の旅は、スペインにダメージを与えただけでなく、様々な業績を達成したことは、歴史が教えている。
オレが言いたいことは、ただひとつ。
10歳のときに、いち船乗りとして船に乗った少年が、時を経て、世界を周り、結果、王国の騎士となったことだ。
騎士の称号は、エリザベス女王が自らゴールデン・ハインド号にて、叙勲を与えた。
それは、フランシス・ドレイクが38歳のことだった。
「お前ら、海賊なら、この事の意味がわかるよな。海賊なら」
すっかり女海賊団は、人気者になっていた。
行く先々で、人が集まるのだな。
それと、先日の一件で、エルメンヒルデは伯父のお気に入りとなったようだ。
「良かったら、お父上のことを教えて欲しい」と、父のことを調べてくれるそうだ。
のちに、エルメンヒルデの父親が病気で入院していることを、伯父が知らせてくれることになる。
また、クライネス・キンダーも伯父とアンナに気に入られたようだ。幼子が可愛いという感じだろうか?
クライネスの“あの飄々とした性格”も貴族向きだ。
さすがに公爵家の養子には、出来ないだろうが、伯父が世話をするのなら、大商人や一代貴族の養子なんて夢じゃない。
今のうちに、礼儀作法やら教養を仕込んでおこうか?
そして、貴族から大商人への養子や嫁入りは、歓迎される。
大商人としては、貴族への結びつきが出来るだけでなく、貴族社会に精通している者がいれば、作法やらに困ることが無いのだから。
その時は、良い名前を付けてもらえよ。
クライネス・キンダー、つまり、“ガキ”とか“おチビちゃん”では、大きくなって困るだろうし。
だが、この時の私は、想像すらしていなかったのだ。
クライネスが、将来、「名前をもらえるなら、『ヴィルヘルミーナ』じゃなきゃ嫌よ」ということで、クライネスがヴィルヘルミーナになろうとは。
バターにクッキーと、やかましかったクライネスの癖に!
さて、街中では、絵師が女海賊団のイラストを描いていた。
写真の無い時代、即興でイラストを描く仕事があり、街角で商売をしていた。
おそらく、絵の勉強をしている者が、小遣い稼ぎで街に立っているのだろう。
そこで、どんな絵があるのだろうかと、覗いてみると!
ヤスミンとイリーゼが人気のようだ。
これは、ヤスミンの顔アップ。
滅茶苦茶、男前だ。これを好きだという女もいるだろう。毛むじゃらの男より、男装の麗人が好きだというような。
次に、男装の麗人のヤスミンとお嬢さん風のローズマリー。これなら、男も女も買えるな。
こちらはイリーゼだ。
エルメンヒルデと背中合わせで海賊刀を構えている。
ほうほう、カッコいいので、ファンには人気が出るだろう。
またまた、二人がダンスでも踊るかのように、手を握り合い、正面を向いている。社交ダンスか?
その中に、とりあえず程度に、ワタクシのイラストもあった。船長服の私だ。
あまり気合が入っていない……
なぜ……
そして、気になったのがエマリーが無い!
あの女は、デカいだけで、ブサイクでは無い!
そう、例えるならば、
みんなのお姉さん的な雰囲気とか、
一見すると、優しそうなところとか、
胸の大きなところとか、
一定のニーズがあるはずだ。
そうこう考えていると、売り場の後ろから男女のひそひそ話が聞えてきた。
「もっと小さなイラストは作れへんの?」
「出来ると思います」
「ほな、それと〇〇屋のお菓子と組合わせて、売りましょう。『女海賊団のミニイラストのおまけつきのお菓子』よ」と、言っている女はエマリーだった……
どこぞのキャラメルのおまけなのか?
商売の話になると、エマリーは上方あたりの話し方になるようで、これが“あきんど”だからということなのか?
そして、私のイラストが、ハズレになるような話しは聞きたくない……
なので、私は、エマリーに見つからないように、その場を離れた。
――もう少し、私のイラストは丁寧にお願いしたいわ。
さて、クレマンティーヌと彼女の海兎海賊団を追いかけて行った黒船海賊団は、どうなったのだろうか?
「黒船の連中が、まだ付いてくるのか。しつこいんだよ」
「お嬢様、運河に逃げ込めそうです」
「よし、運河を使って、上手く巻いてやるわ」
「クレマンティーヌ、忘れもしない」と言ったのは、雲を付く大男のバーナー・シュバルツだ。
あの女は、以前、スペインからガレオン船の設計図を調達したということで、多額の金額で交渉してきた。
オレは、本物の設計図とは思っていなかったのだ。
何故なら、これはスペイン海軍のトップシークレットだ。
だが、フランスの一部の貴族に、スペインが売りに出したという。
この話、額がべらぼうに高い上、嘘か誠かわからなかったので、交渉には応じなかった。
しかし、フランシス・ドレイクは、「高額でも、祖国の役に立つかもしれない。ガレオン船が多数で攻めて来たら、今のイングランド王国では太刀打ちできない」と、買うことにした。
そう、イングランドはスコットランド王国やアイルランドとの問題が山積みなのだ。そこに最新鋭のガレオン船でスペインが攻めて来たらと考え、高額でも買ったのだ。
他にも、ドイツ商人にも売れたそうだが、どこの誰だかは知らない。
まあ、ろくでもない奴だろう。ガレオン船の設計図を買う商人など。
そして、ドレイクのガレオン船が完成した。
オレの感想は、キャラック船を大きくしただけに思えた。ただ、鈍重なキャラック船よりかは、フロントヘビーを抑え、後部の船室が充実している。
また、積載量は、圧倒的に思える。
だが、この一隻の船がイングランド王国の世界への挑戦の始まりとなるのだから、世の中はわからない。
ある時、ドレイクは言った。あの『大いなる祝福を受けた艦隊』計画の対策会議でだ。
「女王陛下、出資をお願いします。
あの忌々しい艦隊が出来る前に、世界中のスペインの方面基地から略奪を行います。そうすれば、あの艦隊の完成は遅れます。そして、略奪したカネで、王国の海軍を整備してください」と。
「おい、フランシス。世界中とは、どういうことだ。そんなことが出来る何かを掴んだのか?」
「説明します。パナマを襲撃した際、大西洋の反対側に大西洋に匹敵する大きな海を見ました。これがインドの東へ続く海洋のはず。そこはスペインが独占している海。ここへ出て、スペインの基地を襲います」
「なるほど……」
「それには、そこへ行って戦闘の出来る船が必要です。それが、このガレオン船の設計図」
「フランシス、お前、ガレオン船の設計図を手に入れたのか?」と、ホーキンスは驚いた。
「私は、面白いと思います。女王陛下」
「ハワード提督……」
「分かりました。出資者を募りなさい。私も出資します」
「陛下、自ら!?」
「フランシス、この設計図を貸してくれ、これだけでは世界は回れない。儂が手直しをしてやる。世界一周を出来るように」
そして、イングランド王国初のガレオン船、排水量305トン、全長36.5mのペリカン号は完成した。
ペリカン号は、ヨーロッパから錨を上げ、世界一周の旅の途中、支援者の一人であるハットン卿にちなんで、“ゴールデン・ハインド”号と改名する。
ハットン卿の家章の黄金の牝鹿を頂いたわけだ。
この世界一周の旅は、スペインにダメージを与えただけでなく、様々な業績を達成したことは、歴史が教えている。
オレが言いたいことは、ただひとつ。
10歳のときに、いち船乗りとして船に乗った少年が、時を経て、世界を周り、結果、王国の騎士となったことだ。
騎士の称号は、エリザベス女王が自らゴールデン・ハインド号にて、叙勲を与えた。
それは、フランシス・ドレイクが38歳のことだった。
「お前ら、海賊なら、この事の意味がわかるよな。海賊なら」
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