21 / 25
3.バルト海を並び行く幽霊たち
3-17.ただ一つのあこがれだけは、どこの誰にも消せはしない 2
しおりを挟む
3-17.ただ一つのあこがれだけは、どこの誰にも消せはしない 2
「お頭……」と、団員たちが不安そうな顔で、こちらを見ている。
「大丈夫、言ってくるわ」と言うと、「私も行きます」「なら、私も」と、次々に名乗り出てくれたが、そんな大勢で行くものではない。
伯父とアンナは私に話しがあるのだから。
「しかし、お頭、私とイリーゼは連れて行くべきです」と、エルメンヒルデが言った。
「護衛隊の隊長と副隊長ですから」
「分かった。護衛隊として来てくれ」と言うも、イライザやエマリー達が、苦い顔をしていた。
隣の部屋の扉をノックしたが、何と名乗ればよいのか?
「はい!」とアンナの声が聞えた。
「入ります」と言うと、アンナが「ヴィル?」と声をかけてきた。
ヴィルヘルミーナとして、対応しろということか?
「お頭、今日呼ばれたのはキーナ・コスペル海賊団の船長です」と、エルメンヒルデが強い口調で私に言った。
この一言は、私の胸に、ズドンと響いた。
吹っ切れた。
「オッホン。キーナ・コスペル海賊団の船長、キーナ・コスペル、入ります」と、私が言うと、エルメンヒルデは、澄んだ瞳でまっすぐに正面を見ていた。イリーゼも覚悟が出来ているようだ。
部屋に入ると、一例をして、
「本日はお招きいただきましてありがとうございます。団員も喜んでおります」と言うと、私は後ろの二人を見ると、ドレスアップしたイリーゼとエルメンヒルデが挨拶をする。
「キーナ船長の護衛隊長のイリーゼ・アインホルンです」
「同じく副隊長のエルメンヒルデです」
エルメンヒルデがフルネームを名乗らないのに、伯父とアンナは「うん?」と言う感じになった。
庶民には姓が無いというか、有っても名乗ってはいけないのが、この社会のルールなのだ。
だから、この二人はエルメンヒルデが庶民出身と思ったに違いない。
しかし、このエルメンヒルデは貴族の隠し子なので、名乗れないのだ。
なので、私は、
「エルメンヒルデは、貴族ですが、分けあって姓は名乗れないのです」
「まさか、勘当でも……」
「公爵様、詮索は不要です」
伯父は、私が“伯父”でなく、“公爵様”と言ったことに、苛立ったように見えた。
「そうか、貴族のお嬢さんとアインホルンの血統を持つ者が護衛隊とは、ヴィル。説明してもらおう」
「そうよ、ヴィル。海賊になった理由を教えて。社交界にも出ずに商売を始めたとかいうから」と、アンナが言うが、その社交界で、先日、アンナは、王妃に「幽霊を運ぶ」と、噂を広められたのではないのか?
「ヴィル、君は領地を相続する身なのだ。もしものことがあれば」
「いずれ、そうなるでしょうが、狭い貴族社会の中に閉じこもっているのは、性分に合わないのです。王妃が噂を流したことで、涙するような社会には居たくはないのです。
信じる仲間と共にありたい。欲しいものを手に入れたい」
「ヴィル、貴女の欲しい物って、なんなの?」
「この世のどこかにあるという、“赤い真珠”を探しているわ」
「ヴィル、子供じゃあるまいし、そんな理由で海賊をしているの?」
「海賊ではない。私掠船だ」
「同じよ。危ないわ」
「戦場に行く騎士も同じだ。アンナ。私は騎士の称号も得ている」
その時、言葉に詰まった三人に沈黙が訪れた。
「公爵様、よろしいでしょうか?」と言ったのはエルメンヒルデだ。
「うん? 良い、話を聞こう」と伯父は返答しエルメンヒルデは一礼をして口を開いた。
「ありがとうございます。我が船長の代弁をさせて頂きます」
なんだ!
エルメンヒルデよ。私の代弁って?
「お頭……」と、団員たちが不安そうな顔で、こちらを見ている。
「大丈夫、言ってくるわ」と言うと、「私も行きます」「なら、私も」と、次々に名乗り出てくれたが、そんな大勢で行くものではない。
伯父とアンナは私に話しがあるのだから。
「しかし、お頭、私とイリーゼは連れて行くべきです」と、エルメンヒルデが言った。
「護衛隊の隊長と副隊長ですから」
「分かった。護衛隊として来てくれ」と言うも、イライザやエマリー達が、苦い顔をしていた。
隣の部屋の扉をノックしたが、何と名乗ればよいのか?
「はい!」とアンナの声が聞えた。
「入ります」と言うと、アンナが「ヴィル?」と声をかけてきた。
ヴィルヘルミーナとして、対応しろということか?
「お頭、今日呼ばれたのはキーナ・コスペル海賊団の船長です」と、エルメンヒルデが強い口調で私に言った。
この一言は、私の胸に、ズドンと響いた。
吹っ切れた。
「オッホン。キーナ・コスペル海賊団の船長、キーナ・コスペル、入ります」と、私が言うと、エルメンヒルデは、澄んだ瞳でまっすぐに正面を見ていた。イリーゼも覚悟が出来ているようだ。
部屋に入ると、一例をして、
「本日はお招きいただきましてありがとうございます。団員も喜んでおります」と言うと、私は後ろの二人を見ると、ドレスアップしたイリーゼとエルメンヒルデが挨拶をする。
「キーナ船長の護衛隊長のイリーゼ・アインホルンです」
「同じく副隊長のエルメンヒルデです」
エルメンヒルデがフルネームを名乗らないのに、伯父とアンナは「うん?」と言う感じになった。
庶民には姓が無いというか、有っても名乗ってはいけないのが、この社会のルールなのだ。
だから、この二人はエルメンヒルデが庶民出身と思ったに違いない。
しかし、このエルメンヒルデは貴族の隠し子なので、名乗れないのだ。
なので、私は、
「エルメンヒルデは、貴族ですが、分けあって姓は名乗れないのです」
「まさか、勘当でも……」
「公爵様、詮索は不要です」
伯父は、私が“伯父”でなく、“公爵様”と言ったことに、苛立ったように見えた。
「そうか、貴族のお嬢さんとアインホルンの血統を持つ者が護衛隊とは、ヴィル。説明してもらおう」
「そうよ、ヴィル。海賊になった理由を教えて。社交界にも出ずに商売を始めたとかいうから」と、アンナが言うが、その社交界で、先日、アンナは、王妃に「幽霊を運ぶ」と、噂を広められたのではないのか?
「ヴィル、君は領地を相続する身なのだ。もしものことがあれば」
「いずれ、そうなるでしょうが、狭い貴族社会の中に閉じこもっているのは、性分に合わないのです。王妃が噂を流したことで、涙するような社会には居たくはないのです。
信じる仲間と共にありたい。欲しいものを手に入れたい」
「ヴィル、貴女の欲しい物って、なんなの?」
「この世のどこかにあるという、“赤い真珠”を探しているわ」
「ヴィル、子供じゃあるまいし、そんな理由で海賊をしているの?」
「海賊ではない。私掠船だ」
「同じよ。危ないわ」
「戦場に行く騎士も同じだ。アンナ。私は騎士の称号も得ている」
その時、言葉に詰まった三人に沈黙が訪れた。
「公爵様、よろしいでしょうか?」と言ったのはエルメンヒルデだ。
「うん? 良い、話を聞こう」と伯父は返答しエルメンヒルデは一礼をして口を開いた。
「ありがとうございます。我が船長の代弁をさせて頂きます」
なんだ!
エルメンヒルデよ。私の代弁って?
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
ティー・クリッパーの女王
SHOTARO
歴史・時代
時は19世紀半ばから後半のヨーロッパ。
アジアから運ばれる茶が、巨万の富を生んでいた頃。
最も早く、今年の新茶をロンドンまで、運んだ船に"世界最速"の称号を与えて、しかも、最速の船には茶葉1トン当たり10シリングの賞金まで課す賭けの対象となっていた。
そんな頃、ロッテルダムのアインス商会では、商船が私掠船に襲われ、積荷も船員も奪われ存亡の危機に。
その時、インドから「茶葉500トンを確保した。輸送を頼む」と知らせが来る。
「新茶500トンを運べば、身代金も完済できる!」と皆を喜ばせた。
それを聞きつけた、イギリス商人から“世界最速レース”である今年の"ティーレース"の参加要請が届く。
このレースに参加するには、快速帆船こと“ティークリッパー”を用意しないといけない。
会社の危機を救うため、愛する船長を助けるため、そして、世界最速の称号を得るため、快速帆船"Sleutels tot de toekomst"号が、今、テムズ川のドックから出港する。
ペンキとメイドと少年執事
海老嶋昭夫
ライト文芸
両親が当てた宝くじで急に豪邸で暮らすことになった内山夏希。 一人で住むには寂しい限りの夏希は使用人の募集をかけ応募したのは二人、無表情の美人と可愛らしい少年はメイドと執事として夏希と共に暮らすこととなった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
幼なじみはギャルになったけど、僕らは何も変わらない(はず)
菜っぱ
ライト文芸
ガリ勉チビメガネの、夕日(ゆうちゃん)
見た目元気系、中身ちょっぴりセンチメンタルギャル、咲(さきちゃん)
二人はどう見ても正反対なのに、高校生になってもなぜか仲の良い幼なじみを続けられている。
夕日はずっと子供みたいに仲良く親友でいたいと思っているけど、咲はそうは思っていないみたいでーーーー?
恋愛知能指数が低いチビメガネを、ギャルがどうにかこうにかしようと奮闘するお話。
基本ほのぼのですが、シリアス入ったりギャグ入ったりします。
R 15は保険です。痛い表現が入ることがあります。
握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)
SHOTARO
歴史・時代
何故か、「何でも握りつぶす握力令嬢」という都市伝説が中世のウイーンの街にあった頃のお話し。
ヴィルヘルミーナの母が死んで3年が経過した。
母の突然の死を乗り越え、今年、社交界デビューするヴィルヘルミーナ。
だが、帝国内は、帝国を支配を狙うもの、選帝侯を貶めようとするもの、帝国から距離を取るものと各家の野望が渦巻いていた。
そんな中、ヴィルヘルミーナも各家の野望に巻き込まれ、命を狙われることになる。
この危機を、どう切り抜けるのか?
鍛えに鍛えた握力で、社会のしがらみを握りつぶす。
「やはり、頼れるものは自分だけのようね。この三年間、休まず剣を振り続けたことは、私を裏切らなかったわ」
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる