上 下
40 / 58
第2部 第ニ章 黄金郷を求めて

2-2-27.反撃のベネディクタ

しおりを挟む
第二十七話
反撃のベネディクタ


 私は、目を大きく見開いた後、グッと強く目をつぶっていた。

 あぁ、幼い頃から、恋い焦がれていた“シュベルツさんの孫”が、こんな、こんな、とんでも無い無礼な奴だとは!
  

 その時、アガーテは怒り狂っていた。

「やはり、無礼者だ!
 ヴィルヘルミーナ伯爵令嬢様に向って、『美人ではない』だと! 家士として聞き捨てならんッ」

「若旦那ッ、そうだよ。訂正しなよ。早く」
「あぁ、そうだな。ヴィルヘルミーナ嬢。大変、申し訳ない事を言ってしまい……」

 その時、
「お嬢様ッ、お嬢様! お気をシッカリと」と、アンナが叫ぶように言ったのだ。

 今の私は、周りから見ると、どんな状況だったのだろうか?
 見苦しい姿を晒しているのだろうか?

 どうやら、聞いた話では、ヨーゼフさん以外は、皆、『あわわ。あわわ』と、あたふたしていたようだ。
 しかし、そこに、その私の状況を喜んでいるヤツが現れた。

 ベネディクタだ!

 なんと、ドレスアップして現れたのだ!
 いつの間に、ドレスアップなど?


「まあ、お転婆令嬢のミーナ従姉妹さまより、ワタクシ、ベネディクタが正当なお祖母様の孫ですわ」

 はあ?
 こいつ何を、言っているんだ?

 そうだった!
 ベネディクタもシュベルツさんの孫を狙っていたのだ。

 だから、ボンベイに着く前から、姿を消し、ドレスアップしておいたのだなッ。
 いつ、シュベルツ商会の関係者にあっても良いようにと。

 ドレスアップしたベネディクタを見た、武装集団員は、声を上げた。
「「「オオォォォ」」」
「ご令嬢だ」
のご令嬢だ」と、男たちの顔に明るさが戻ってきた。

 えっ、なんと言うことなんだ。

 ベネディクタが、『ご令嬢が来た』と、男たちから歓待を受けているではないか!

 私は、ベネディクタのために、10ヶ月もの航海をしていたのか?
 まだ、社交界デビューすらしていない、この小娘に……
 頭がクラクラしてきた。

 そうこうしていると、ふと気が付いた。私は、いつの間にか椅子に座っていたのだ。

 横には、アンナがいた。どうやら、アンナが彼らに椅子を用意させ、上手くやってくれたようだ。
 そして、ハッと正気に戻った。

 それは、ヨーゼフさんが、話をしている最中だった。

 何の話か?
 この船がレプリカでは無い証拠についてだ!

「そして、儂は先代キャプテンのヴィルヘルミーナ伯爵から、この船だけの創芸品があることを聞いている」


 なんだと?
 そんな物があるのか?
 聞いてはないぞ!


 そもそも、イリーゼからは、レプリカと聞いていたのだから。

 ヨーゼフは、私に「ヴィルヘルミーナ嬢、船に上がることを承諾してもらえるかな?」
「えっ、ええ、もちろんですわ」と、返答した。
 私自身、気になるからだ。

 そして、向かったのは、船長室だった。
 奥の本棚の後ろには、大型の隠し扉があり、開けると!

 無数の鍵が吊るされていた。

「なに? これは」
「ヴィルヘルミーナ嬢、よく見てご覧なさい。何と書いてある?」

 ハッ! と気付いたのだ。

 名前が書かれてある。
 そう、一本の鍵にクルーひとりの名前が書かれてあった。

 そして、この扉には、

  皆の輝ける未来のため、
  私は、道を照らす灯台となろう。

 と、書かれてあった。

 お祖母様の字だ!

 これは、お祖母様の鍵。
 これは、エマリーさんの鍵。
 さらに、これはイリーゼさんの鍵、
 これは、ヤスミンさん、ローズマリーさんの鍵だ。

 その中に、聞き慣れない名前があった。

 エルメンヒルデ?

 誰だろうか。この鍵の持ち主は?

「この古い鍵を見て、まだ、レプリカと言うのかね?」

「いえ、とんでもありません。
 先代クルーたちの鼓動を感じました。ヨーゼフさん、ありがとうございます」と言うと、目に涙が滲み出してきた。

 すると、エルハルト氏から、
「私から、新しい鍵の素材を提供しよう。今のクルーの名前を入れて欲しい」と申し出があった。
「ボンベイに来られたお祝いだと、思ってくれ」と言う。

 お祖母様が“あのシュベルツさん”に恋していた訳が、どことなくわかった。

 なので、
「喜んで、お受けさせて頂きます」と、返答しておいた。

 そして、我らの白い船は、無事、ボンベイ港に入港することが出来た。



 すると!

 そこには、すごい野次馬で溢れかえっていた。
 まあ、港のすぐそこで、大演習を行ってきたのだからな。

 ああ、それから、ベネディクタ!
 君は、もうこの船には、乗せんからな!


 次回の女海賊団は、伯爵令嬢は伊達ではないのだ!
 小娘とは違うのだよ、小娘とは!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

処理中です...