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二人ぼっちのアンデット

20.刻印、目標、本を読め

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「……とまあ、やっぱりガダスを目指すならお勧めは航路だ。内戦中のアルカイダなんか通過してみろ、いつたどり着けるかわかりゃしない」

「成程ね、なら素直に船で向かうとするよ」

 傭兵ギルドに来てから数十分、個人識別証の発行を待つ間、サニーという傭兵と話をしていた。

 サニーは現在三十三歳。二十歳頃から傭兵として活動しているらしく、傭兵歴は十年を超えるそうだ。
 会話の内容も非常に有用で、かつ本人にユーモア精神もあるためか少し時間を忘れた程だ。

「それがいい。実力があるなら乗船資格を満たすのもそんなに時間は掛からないだろうし……っと、アンナさんが出てきたぜ、行ってみな」

「ありがとう、今度一杯奢らせてもらうよ。では、失礼する」

 サニーへ軽く手を振り、私は手続きをしてくれたアンナという女性がいる受付カウンターへ向かう。

「ああ、来たね、登録前に名前を教えてもらえるかい? 私はアンナ、見ての通りこのスクリュー傭兵ギルドの受付職員だ」

「ご丁寧にどうも、私はブラックドッグだ。ガダスへ向かう旅の途中だが、これからよろしく頼むよ」

「ああ、よろしく。それから、早速だけどプレートの右下に血を垂らしてもらえるかい? ナイフや短剣が無いなら貸し出すよ」

「ナイフがあるから大丈夫だよ」

 プレートを受け取り、以前使用した医療用メスで指先を浅く切る。

 ……血が流れない。
 自分がアンデットだと理解はしているが、時々考えが及ばないことがまだ多いようだ。

 仕方が無いので指先を五ミリ程切り落とす。血は殆ど流れないが、何とかプレートの窪みに血を垂らすことが出来たので、再度アンナにプレートを渡す。

「それじゃあ登録するよ。《刻印》対象、ブラックドッグ」

 アンナの腕には魔道具が嵌められており、アンナが《刻印》と呟いたとき僅かに発光していた。

 そして光がプレートに移り表面をなぞると、私の名前がプレートに刻まれた。

「これで登録は済んだよ。今日からあんたも傭兵として扱われるからね。何か質問はあるかい?」

「プレートを処分する際、刻印された名前は消せるのかい?」

「刻印自体は魔力を込めてプレートを破壊すれば自動的に消滅する。傭兵を引退する際にギルドに返却してくれれば、登録料は返金されてプレートも此方で破棄しておく形になるよ。ちなみに刻印が消えている場合は再発行しないと個人の識別は行えないから注意しな」

「理解した。それともう一つ、傭兵には等級制度が存在すると聞いたのだが、等級が上がる具体的な条件を聞いても良いかな」

「聞き返すようで悪いけど、等級についてはどのあたりまで理解してる?」

「初級、中級、上級、特級の四等級があるのは聞いているよ」

 サニーに聞いた話では、海を渡る際に護衛として雇われる傭兵は最低でも中級、殆どは上級の傭兵らしい。

「基本はその四等級を知っていれば問題ない。だが実際はそれぞれの等級に特殊な条件付きの等級が存在するんだ。初級なら初級二種、上級なら上級二種、ただし特級のみ例外で二種は存在しない。二種というのは索敵、調査探索、採取探索のみ許可された者たちの等級で、簡単に言うと戦闘を行わない傭兵のために用意された等級だ。通常より昇級は慎重にはなるがね」

 二種等級か……戦闘を行わないなら護衛の依頼は入ってこないだろう。《封緘》を応用して荷物の運搬でも申し出れば、商人が雇ってくれるかもしれないが、折角傭兵となったので護衛として海を渡っていこう。

「そして昇級についてだが、基本は自身の等級の依頼を十件達成した後、指定された対象の討伐・採取・捕獲を達成すれば無事昇格となる。十件というのは十種類の依頼という意味だから誤解しないように。毎年いるんだよ、薬草採取とかを十件こなして昇格させろって言う新人が」

「ふふふ……新人らしくていいじゃないか。失敗した経験があれば、人の話を聞かずに行動することも減るだろうさ。それはそれとして、最後に一つ聞きたいんだが、複数の依頼を同時に受注することは出来るかい?」

「ああ、問題ないよ。だけど期日までに依頼が達成できなかった場合は違約金がかかるから注意しなよ。違約金はギルドと半々、依頼の失敗が続くと等級が下がることもあるからこっちも要注意。それと依頼中に別の討伐対象と鉢合わせることもあるから、先に採取・討伐を行ってからの依頼受注も許可している。あまり報告が遅れられるとこまるがね」

「違約金か……気を付けるよ」

 その後傭兵ギルドの中を見て回ったが、特筆すべきものは無かった。どうやら一階は軽食をとれるスペースと総合受付カウンター、二階は依頼掲示板とフリースペース、三階は丸々ギルド職員用となっているようだった。

 ただ二階のフリースペースに魔物や植物に関する情報が書かれた分厚い本が二冊ほど設置されていた。

 二種類の本は貴重なのか、一人用の机に鎖で繋がれている。流石にこの二冊限りということは無いだろうが、丁重に扱おう。

 席に着き、まずは植物図鑑から目を通していく。

 優先するのはこの世界の情報、傭兵の仕事関係だけでなく一般常識も学んでいかねばならない。

 サニーに聞いた話では、次にガダスへ向かう商船が到着するまで二十日程掛かるそうだ。当面の目標は傭兵としての階級を上げることだけ。

 私は先程切った指先を本に着けないように布で縛り、重く分厚い本の表紙を捲るのだった。



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