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眠らずのブラックドッグ
15. またいつか
しおりを挟む野盗の襲撃からもう少しで一日が経過する。
クロウ少年とサラクと野盗達の拠点を調べ、村に戻ってきたのは日暮れに近い時間帯だった。
「ブラックドックさん、本当にもう行ってしまうんですか? もう日が傾いていますし今日は村でゆっくり休んでもらって、翌朝出発した方が安全だと思いますけど」
「そうだな、ブラックドック君には本当に世話になった。まだ碌に礼もできていないし、その右腕も完治していないのだろう? 一泊だけでもしていかないか?」
「ありがとう、でも私も先を急ぐのでね。すまないが遠慮させてもらうよ」
元から夜が好きということもあるが、アンデットになってからは朝が若干苦手になった。
戦闘能力が落ちるわけでは無いが、日の光に過敏になっているのか視界が少しチカチカするし、日差しが非常に暑く感じてしまう。
できればこのまま村を出発して、夜中にのんびりと歩きたいものだ。
急いでいるのにのんびりとはこれ如何に。
「もしかしてブラックドックさんって朝弱かったりします?」
「ああ、実はそうなんだ」
「いつも朝は機嫌が悪そうというか、目に疲れが出ている感じなんですけど夜は元気ですしね。ブラックドックさんはずっと睡眠をとっていなかったのでそのせいかなと思っていました」
「はっはっは、私は夜型なものでね。機嫌が悪いわけでは無いよ」
「なら良かったです。……ところで、ブラックドックさんは何か目的があって旅をしているんですか? 話せないことなら聞きませんが、もし協力できるようなことがあれば何でも言ってください」
特に欲しいものは無い……いや、あるか。
それに色々と聞いておかなければならないこともあった。
クロウ少年がいてよかった。
「実は訳あって身分が証明できないんだ。もし出身地等を聞かれたときにこの村の名前を使ってもいいかなだろうか?」
「その程度なら全然構わない。何かあっても君がここの出身であると口裏を合わせておこう」
「あとはそうだな……君たちは“勇者”について何か知っていることはあるかな?」
「勇者ですか? 先の三大龍魔王との大戦での功労者という意味でなら、確か五人ほどいたはずですが」
……三大龍魔王?
それに大戦と言ったが何かあったのだろうか。
「あの、三大龍魔王、とは」
「……本当に、何も知らないのか」
「……ああ、知らないんだ」
「なら簡単に説明していくから、知りたいことがあったら聞いてくれ。この大陸には五つの国が存在している。昔は結構頻繁に国同士で戦争が起こっていたんだが、とある魔物のせいで状況が一変した」
「もしかして、その魔物が三大龍魔王だったのかな?」
「正解だ。突如現れた三体の龍種、炎獄龍ムスペルヘイム、氷獄龍ニブルヘイム、死獄龍ヘルヘイムによって戦争どころじゃなくなった。国同士が協力しなければ全滅していたかもしれない規模の大戦だった」
三大龍魔王の名前を聞いて思い当たるのは、手帳に記載されていた、アナスタシアの肉体に取り込まれている龍種の細胞。
まさかこの肉体に取り込まれている細胞がそんな怪物のものだったとは驚きだ。
取り込んでいるのが細胞だけなので炎獄龍と死獄龍の魔法使えないが、耐性があるだけでもありがたい。
そして氷獄龍ニブルヘイム。
手記の男は氷獄龍の遺骸から龍珠という特殊な物体を生成し、アナスタシアに埋め込んだらしい。
この龍珠という物体の影響で、アナスタシアは耐性だけでなく《氷獄魔法》というスキルも獲得している。
リスクが伴うため使用するつもりは無いけれど。
「そんな時急に現れて国を救った英雄が勇者様ってわけだ。確か三大龍魔王が倒されたのが二十年位前だったか。私も年を取るはずだ」
二十年、それだけの年月があれば勇者にも娘の一人や二人いるだろう。
三大龍魔王と相打ちになっていなければの話だが。
「勇者の家族構成とかって知っていたりするかな」
「流石に全員のものは知らないが、一人だけ知っている。私たちがいるこの国__メヒティマ国の勇者アイゼンワンド、結界の勇者と呼ばれていた英雄だ」
「ふむ、そのアイゼンワンド氏に娘はいたのかい?」
「いや、娘というか結界の勇者に子供はいない。そして既に亡くなっている。龍王の討伐時で既に結構な年だったらしい」
残念ながら既にこの国に留まる理由はないようだ。
「なら他の勇者を順に訪ねていくことにするよ。教えてくれてありがとう、助かったよ」
「この程度の情報は何処でも聞ける。礼を言うのは此方の方だと言っているだろう」
「ブラックドックさん、この村の北東に海に面したスクリューという港街があります。一応船が出ていて他の国とのやり取りがありますし、そこなら勇者について詳しい人がいるかもしれません」
「情報感謝だ少年。それでは、そろそろ出発しようかな」
「……また、この村に来てくれますか?」
……恐らく、私がこの村に戻って来ることは無いだろう。
この旅はアナスタシアを家族の元へ帰し、私もまた眠りに就くことが目的のものだから。
この別れが、この村の人々との今生の別れとなってしまう。
もう来ないとは言いづらいが、嘘を言うわけにもいかない。
「私はもう、この村を訪れることはできないと思う。でも、また君たちと会いたいとも思っているよ。……だから、またいつか、だね」
「……わかりました。ですが、もし困ったことがあれば、手紙でもなんでも送ってください! 俺は必ず駆け付けます!」
「な~にカッコつけてんだか。じゃあなブラックドックさんよ、世話になった」
「君の旅に幸福がもたらされることを祈っている」
クロウ少年、サラク、ジンの三人に見送られ、私は村を出る。
ちなみに村の住人全員に見送られるのは時間が掛かりそうだったので、見送りは遠慮してもらった。
村から少し離れて、振り返り手を振ると、クロウ少年が手を振り返し見送ってくれる。
「ブラックドックさーん! またいつかー!!」
私は軽く手を振り、新たな街を目指して歩き出す。
もうすぐ夜がやって来る。
死者が喜ぶ時間帯、私が好きな時間帯。
私はこれから訪れる夜と新たな出会いに思いを馳せ、黄昏の下を進むのだった。
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