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3 玄関ヴァージン1
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「あーっと……そう言えば俺コンビニに行きたかったんだ!」
「…………」
ドアが開かない事実を再確認して、呟いた事もない独り言を口走って俺は急いでエレベーターに戻った。
小向さんはそんな俺の動きを何も言わずにじっと見ている、扉が直ぐ開いて彼女と目も合わせずに俺はまたエレベーターに乗り込んでエントランスに向かった。
ちくしょうな事に24時間在中のコンセルジュがいるような豪華なマンションではない、そして財布も携帯も鍵もない。
駅近築浅の10階建て、どこにでもあるマンションだ、エントランスはソファーやオシャレな間接照明があったり小綺麗にされてあるが特別な機能もなく至って普通!
とりあえずソファーに腰を降ろしてみる、そして気がつく……あ……ちょっと温かい、そっか小向さんずっとここ座ってたもんな、と数分前の小さな背中を思い出した。
決して彼女に恨みはない、だって住所を確認せずに開けたの俺だし、携帯も鞄の中で財布も鞄だが彼女のせいではない……とは言うものの途方にはくれてるんだが、まあ明日管理人さんが来れば何とかなるだろうと頭をかいた。
いや、何とかなるか?
ならねえな、だってまだ9時だぞ、飯も食ってないし風呂はいいとしてトイレどうすんだ。
いや、やめろ俺、考えるな尿意が込み上げるだろ、最後にしたのは会社で5時だ、なんて考えらたら頭の中便器でいっぱいになるだろ! やめろ! いつもなら飯食って風呂入る前にトイレ行ってスッキリしてる時間だとか考えるなよ!!
うわんお母さん! ぼくトイレに行きたいです!
辺りを見渡して、うん、無理。立ってできるようなとこなっし!
だとしたら、近場のトイレのある公園に行くしかないのだが、いや待てよそこに行ったら、絶対ここには入れない訳で野宿確定だな?
この寒い東京の冬をスーツだけで乗り切れるだろうか、今だってかなり寒いのに……あ、今日夜雨とか言ってなかったか?
言ってたな? いや、むしろ目細めて外見たらもう降ってるじゃん。ならアレか交番行けばいいのか、あそこならトイレも貸してくれるだろうし仮眠もとらせてくれるだろう、後は俺のプライドの問題と交番徒歩15分の極寒+雨に堪えられるかだな、今はちょっと外出る気になれないが……。
でもあれか、俺疲れてるし? このまま寝て目が覚めたら朝、とかミラクル起きないだろうか。
睡眠時間は、だいたい夜1時から7時までの平均6時間だが、今日は、うん、色々あったし緊張してたからこの夜9時から管理人さんがくる朝の8時まで? 11時間は寝れるんじゃなかろうか!!
よし、寝るぞ守!!
って目閉じて、うん!! 寝れねえ!!
寒い、トイレ行きたい、お腹空いた!! よって、寝れねえ!!
ソファーの隅に寄ってガタガタと腕を摩る、ここまで来たら羞恥心なんてないだろう、助けを呼べばいいのにたまにマンションの住人が帰ってきたら、ちょっとスーツの内ポケットから手帳出して意味もなくカレンダー見て頷いて、用があってここにいるふりする俺どうにかしてえ!
何でもないです、な顔して挨拶して俺本当バカじゃないの!!? そういう君の素直じゃないところ大嫌い!!
目の前に置かれたガラステーブルに手帳を叩きつけてふっかい溜め息吐いたら。
「あの……」
「え」
聞き覚えのあるか細い声に驚いて、思わずビク!! ってした。
だって背後に小向さんが立っていたのである。アイスブルーの髪が少し右に傾いて抑揚のない声が静かなエントランスに響く。
「あの、もしかして」
「だだだだっだ大丈夫ですよ!」
「でも」
「俺は何も見てないし、これはここにいるのは、えっと色々考え事してて……あの家にいるより雑念がないかなって、ほらえっと来年は東京でオリンピックが開催されるのかなって思」
「私はあまり興味ないです」
「え」
「オリンピック……開催されたとしても……」
「うん」
「日本人ですけど、運動あまり得意じゃないし」
「あ……そっすか」
「テレビでちょっと見るかもしれないけど、見に行ったりとかは……人ごみも嫌いだし……テレビの中継で十分です」
「あっと……俺も人ごみは苦手で」
「気になるのは近代五種くらいですかね」
「めっちゃコアな種目推すじゃないですか! 日本の競技人口33人だよ」
「ぁう、何かすみません」
「い、いえ」
沈黙……。
あ、何だコレ、何だこの会話、と気まずくなってたら、小向さんがもじもじしながら後ろにやっていた手を前に持ってくる。
「これよかったら、寒くないですか」
「え」
バカみたいだが、28歳にもなってさっきから【え】ばっか連発してるけど、マジで【え】しかないんだ、だって小向さん、ひざ掛け持ってる。
「気になって見に来たら、あなたずっとここにいるから、もしかしたら家に入れないのかなって」
「…………いや」
「そうですか、でもここ寒いから……私さっき寒くてブランケットとってこようと思ったら、荷物渡してもらえて助かったんです」
何て答えようか考えていたら、小向さんはいらなかったら捨ててくれていいので、とひざ掛けをソファーに置いて帰って行った。
「…………」
ドアが開かない事実を再確認して、呟いた事もない独り言を口走って俺は急いでエレベーターに戻った。
小向さんはそんな俺の動きを何も言わずにじっと見ている、扉が直ぐ開いて彼女と目も合わせずに俺はまたエレベーターに乗り込んでエントランスに向かった。
ちくしょうな事に24時間在中のコンセルジュがいるような豪華なマンションではない、そして財布も携帯も鍵もない。
駅近築浅の10階建て、どこにでもあるマンションだ、エントランスはソファーやオシャレな間接照明があったり小綺麗にされてあるが特別な機能もなく至って普通!
とりあえずソファーに腰を降ろしてみる、そして気がつく……あ……ちょっと温かい、そっか小向さんずっとここ座ってたもんな、と数分前の小さな背中を思い出した。
決して彼女に恨みはない、だって住所を確認せずに開けたの俺だし、携帯も鞄の中で財布も鞄だが彼女のせいではない……とは言うものの途方にはくれてるんだが、まあ明日管理人さんが来れば何とかなるだろうと頭をかいた。
いや、何とかなるか?
ならねえな、だってまだ9時だぞ、飯も食ってないし風呂はいいとしてトイレどうすんだ。
いや、やめろ俺、考えるな尿意が込み上げるだろ、最後にしたのは会社で5時だ、なんて考えらたら頭の中便器でいっぱいになるだろ! やめろ! いつもなら飯食って風呂入る前にトイレ行ってスッキリしてる時間だとか考えるなよ!!
うわんお母さん! ぼくトイレに行きたいです!
辺りを見渡して、うん、無理。立ってできるようなとこなっし!
だとしたら、近場のトイレのある公園に行くしかないのだが、いや待てよそこに行ったら、絶対ここには入れない訳で野宿確定だな?
この寒い東京の冬をスーツだけで乗り切れるだろうか、今だってかなり寒いのに……あ、今日夜雨とか言ってなかったか?
言ってたな? いや、むしろ目細めて外見たらもう降ってるじゃん。ならアレか交番行けばいいのか、あそこならトイレも貸してくれるだろうし仮眠もとらせてくれるだろう、後は俺のプライドの問題と交番徒歩15分の極寒+雨に堪えられるかだな、今はちょっと外出る気になれないが……。
でもあれか、俺疲れてるし? このまま寝て目が覚めたら朝、とかミラクル起きないだろうか。
睡眠時間は、だいたい夜1時から7時までの平均6時間だが、今日は、うん、色々あったし緊張してたからこの夜9時から管理人さんがくる朝の8時まで? 11時間は寝れるんじゃなかろうか!!
よし、寝るぞ守!!
って目閉じて、うん!! 寝れねえ!!
寒い、トイレ行きたい、お腹空いた!! よって、寝れねえ!!
ソファーの隅に寄ってガタガタと腕を摩る、ここまで来たら羞恥心なんてないだろう、助けを呼べばいいのにたまにマンションの住人が帰ってきたら、ちょっとスーツの内ポケットから手帳出して意味もなくカレンダー見て頷いて、用があってここにいるふりする俺どうにかしてえ!
何でもないです、な顔して挨拶して俺本当バカじゃないの!!? そういう君の素直じゃないところ大嫌い!!
目の前に置かれたガラステーブルに手帳を叩きつけてふっかい溜め息吐いたら。
「あの……」
「え」
聞き覚えのあるか細い声に驚いて、思わずビク!! ってした。
だって背後に小向さんが立っていたのである。アイスブルーの髪が少し右に傾いて抑揚のない声が静かなエントランスに響く。
「あの、もしかして」
「だだだだっだ大丈夫ですよ!」
「でも」
「俺は何も見てないし、これはここにいるのは、えっと色々考え事してて……あの家にいるより雑念がないかなって、ほらえっと来年は東京でオリンピックが開催されるのかなって思」
「私はあまり興味ないです」
「え」
「オリンピック……開催されたとしても……」
「うん」
「日本人ですけど、運動あまり得意じゃないし」
「あ……そっすか」
「テレビでちょっと見るかもしれないけど、見に行ったりとかは……人ごみも嫌いだし……テレビの中継で十分です」
「あっと……俺も人ごみは苦手で」
「気になるのは近代五種くらいですかね」
「めっちゃコアな種目推すじゃないですか! 日本の競技人口33人だよ」
「ぁう、何かすみません」
「い、いえ」
沈黙……。
あ、何だコレ、何だこの会話、と気まずくなってたら、小向さんがもじもじしながら後ろにやっていた手を前に持ってくる。
「これよかったら、寒くないですか」
「え」
バカみたいだが、28歳にもなってさっきから【え】ばっか連発してるけど、マジで【え】しかないんだ、だって小向さん、ひざ掛け持ってる。
「気になって見に来たら、あなたずっとここにいるから、もしかしたら家に入れないのかなって」
「…………いや」
「そうですか、でもここ寒いから……私さっき寒くてブランケットとってこようと思ったら、荷物渡してもらえて助かったんです」
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