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14、幼馴染
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午後のお仕事です。
私は無心でPCを叩きながら(ちなみに寿司打で一万円のコースでお会計二万円以上いきます)、の受講生のスケジュールを調整したり、新規のお客様に受講カリキュラムを説明したり、お問い合わせに対応していました。
頭の中に想定されるトラブル全てのマニュアルが詰まっているので、基本は冷静に端的に業務を遂行できます。自分の中にコンピューターがある感じで質問から無感覚で答えを導き出して、最後に人間である“私”の感情を加えて、お客様にあった対応をするという感じです。
数年働いた後この方法に到達しました。だって真正面から感情向き出しで仕事をしていたら、疲れてしまいます。
私達は対面していないだけで、音声越し、メール越しに一日に何人もの人に会ってるのにはかわらないんです。
もちろん誠意を持って出来るだけ親身になってお話を聞くようにしてますが、私も人間ですからそれなりに自己防衛しながら働いているという意味です。深入りはしない、安定した距離を保つって人間関係において大事です。
昔、会話の中で趣味が同じで意地統合し親身になって対応していたお客様がいました。
ですが、その方は突然交通事故に遭ってしまい死去、ご両親から受講解約の連絡がきて呆然自失、泣いて泣いて苦しくて一か月程落ち込んだ時期がありました。
その方との前日までのメールや通話記録を見る度、何も手につかず現実に戻れませんでした。今も思い出すと辛いです。とても勉強熱心で優しく面白い方でした。
また、とても仲よくして頂いたお客様がおりました。ですがある時、同時期に申し込んだ友人より自分のカリキュラムの方が遅れているとクレームがありました。
直に謝罪しましたが、怒りは収まらずそれから毎日のように苦情の電話がかかってきて私への不満に始まり感情に身を任せて罵詈雑言を浴びせてきて、規約を違反して強制退出させられまで半年間それが続きました。
その時は二キロほど痩せました。退会された後も待ち伏せされて刺されるのでは怖かったです。でも初めはとても良い方だったんです。
もっともっと色々ありますよ? どんな仕事でも壁はあるもんです。気にするのは止めましょう。私は文句と愚痴が一番嫌いですから、済んだ物事に口出ししません。
だからこそ、そこから学んだものを軸に冷淡という意味ではなくてクールな対応を心がけてます。
でもどうしたことか、今日は午後から仕事に集中できません、いや、問い合わせに対しては適切に対応してます。
でもそこじゃなくて、電話が終わったり次の仕事の移行する時にいつもだったら直に眼鏡を直しながら次の体勢を整えるのに手が止まってしまうのです。
その原因はわかってます。さっきの銀君の言葉です。
「ちょっときーちゃんに言いたい事あるから」
これ……。
ズキンと胸が痛んでソワソワします。
私はこれに似た言葉をある方に投げかけられた事がありました。
それは入社して一年目のある日、午後の仕事の前、トイレから出てきた時です。
私は銀君や家族からお弁当の感想を貰い、褒めてもらってよし! 最後まで仕事頑張るぞって気合いを入れていた時です。
私の目の前に現れたのは広報の方でした。とっても整った綺麗なお顔立ちでお洋服も今時でメイクもバッチリな女性がこっちに来ました。
それもそうです、弊社はその頃若い社長が挑む急成長のベンチャー企業として様々な雑誌やメディアに取り上げられてまして、その方は我が社の顔としてテレビにも出ていましたから、会社の中で抜選された美人さんなのです。
一瞬目が合ったものの、どうみてもカーストの違う私は話す機会もない部類の彼女に何事もなくすれ違おうと会釈だけをしたら、唐突に腕を掴まれました。
それも、何か咄嗟に危険を知らせるよな引っ張り方ではなく、爪を立てる敵意のある引き止め方に私は一瞬で固まってしまいます。
もちろん私は立ち向かう勇気もないので、逃げ腰で無言で振り返ります。
「…………」
彼女は黙ったまま何も言わず、やはりこちらを睨んできます。一秒でも早く逃げたい私は振り絞った小さな声で言います。
「な、何かご用でしょうか」
目も見ないで聞けば、女性はワンレンの茶髪をかきあげながら、私の腕を離さずに言います。
「ちょっと言いたい事あるから」
「え」
「こっち来てもらっていいですか」
隣には愛ちゃんここみちゃんといましたが、意味不明なこの状況に二人を巻き込むのは申し訳ないと思って「先に行って」と言いました。
だってここは会社だし、殴られたいりはしないでしょ? それにこの方は人違いしてるって線が濃厚でした。
もしかしたら普通に仕事に関して私の対応したお客様が迷惑をかけたのかもしれない。
でもそういうのは大体メールでやり取りするし、直接対話するとしても段階を経てだ。自分でさばけないトラブルがあればまずは上司に報告するので、初対面でタイマンだんて聞いた事ない。
けど、どうにも私に直接言いたいのかもしれないっと思えばやっぱり思う節はないので人違いだよなって…………。
その頃は乏しかった頭のコンピューターをフル回転んしていたら、少し人気のない廊下で彼女は私の腕を解放して優しく笑った。
「ごめんなさい森野さん、突然」
「い、いえ大丈夫です」
私の名前を知っているから、人違いではないのかなって、逆に怖くなって、その温和な声色に私は掴まれた腕を摩りながら頷く、爪が長かっただけで、そんなに私に悪意はないのかなって恐る恐るだ。
そうしたら彼女は言った。
「あなた、小野君とどういう関係なの?」
と、柔らかかった声から一変、熱のこもったトーンに怒っている鋭い目付きに睨まれて、私は何も答えられなくなる。
私はずっと日陰で生きて来てこういう主人公的な自分の意見をハッキリ言える人と対峙したことがないのです。
自分意見はあるけれど、言ってバカにされたりとか殴られたらどうしようって公の場面で自分の意思を声高らかに宣言した経験もないから、困ってしまう。
でも今わかるのは目の前にいる彼女が私が嫌いで、答えによっては私がもっと傷付く言葉を投げかけられるんだろうって現実。
どうしようってもじもじして眼鏡を直していたら、眉間を寄せた綺麗な顔が舌打ちをして、ぎゅって胸痛くなる。
何か罵られる言葉を投げかけられた訳でもないのに、泣きそうになって弱すぎる自分が嫌い。
色んな人に対応している癖に目の前に人がいると途端にこれだ、動けない。
この人の気に障らない答えってなんだろうって色々考えたけど。
「早く応えてよ」
の催促に一言素直に
「幼馴染です」
と小さく呟いた。
すれば彼女は目を一度大きく見開いて、よく分からない笑みを浮かべた。
私にはそのつり上がった口角が何を意味しているのか分かりませんでした。
バカにしている、とはまた違う感じ、目を逸らして、また前髪をかきあげて溜息と一緒に私を見る、私はもう何も言わない。
すると彼女は腕を組んで目を細めて言いました。
「それだけ?」
「……?」
声の代わりに首を傾げます。
「幼馴染です、だけでいいの?」
「…………はい、銀く……えっと小野さんとは家が近くて小さい時から知り合いでした。それだけです」
「へえ、そうなんだ?」
正直、まさか仕事ではなく銀君の話で私は驚いていたんです。それはマニュアルにないですから。だからそれ以上に機転がきかないでいたら、彼女は言います。
「小野君もそう言ってたよ、あなたの事幼馴染だって」
「はい」
「でもその後こうも言ってた」
「はい?」
ツンと、私から視線を逸らしよそを向いて続けます。
「【あんなのと幼馴染にならなければよかった】って」
私は無心でPCを叩きながら(ちなみに寿司打で一万円のコースでお会計二万円以上いきます)、の受講生のスケジュールを調整したり、新規のお客様に受講カリキュラムを説明したり、お問い合わせに対応していました。
頭の中に想定されるトラブル全てのマニュアルが詰まっているので、基本は冷静に端的に業務を遂行できます。自分の中にコンピューターがある感じで質問から無感覚で答えを導き出して、最後に人間である“私”の感情を加えて、お客様にあった対応をするという感じです。
数年働いた後この方法に到達しました。だって真正面から感情向き出しで仕事をしていたら、疲れてしまいます。
私達は対面していないだけで、音声越し、メール越しに一日に何人もの人に会ってるのにはかわらないんです。
もちろん誠意を持って出来るだけ親身になってお話を聞くようにしてますが、私も人間ですからそれなりに自己防衛しながら働いているという意味です。深入りはしない、安定した距離を保つって人間関係において大事です。
昔、会話の中で趣味が同じで意地統合し親身になって対応していたお客様がいました。
ですが、その方は突然交通事故に遭ってしまい死去、ご両親から受講解約の連絡がきて呆然自失、泣いて泣いて苦しくて一か月程落ち込んだ時期がありました。
その方との前日までのメールや通話記録を見る度、何も手につかず現実に戻れませんでした。今も思い出すと辛いです。とても勉強熱心で優しく面白い方でした。
また、とても仲よくして頂いたお客様がおりました。ですがある時、同時期に申し込んだ友人より自分のカリキュラムの方が遅れているとクレームがありました。
直に謝罪しましたが、怒りは収まらずそれから毎日のように苦情の電話がかかってきて私への不満に始まり感情に身を任せて罵詈雑言を浴びせてきて、規約を違反して強制退出させられまで半年間それが続きました。
その時は二キロほど痩せました。退会された後も待ち伏せされて刺されるのでは怖かったです。でも初めはとても良い方だったんです。
もっともっと色々ありますよ? どんな仕事でも壁はあるもんです。気にするのは止めましょう。私は文句と愚痴が一番嫌いですから、済んだ物事に口出ししません。
だからこそ、そこから学んだものを軸に冷淡という意味ではなくてクールな対応を心がけてます。
でもどうしたことか、今日は午後から仕事に集中できません、いや、問い合わせに対しては適切に対応してます。
でもそこじゃなくて、電話が終わったり次の仕事の移行する時にいつもだったら直に眼鏡を直しながら次の体勢を整えるのに手が止まってしまうのです。
その原因はわかってます。さっきの銀君の言葉です。
「ちょっときーちゃんに言いたい事あるから」
これ……。
ズキンと胸が痛んでソワソワします。
私はこれに似た言葉をある方に投げかけられた事がありました。
それは入社して一年目のある日、午後の仕事の前、トイレから出てきた時です。
私は銀君や家族からお弁当の感想を貰い、褒めてもらってよし! 最後まで仕事頑張るぞって気合いを入れていた時です。
私の目の前に現れたのは広報の方でした。とっても整った綺麗なお顔立ちでお洋服も今時でメイクもバッチリな女性がこっちに来ました。
それもそうです、弊社はその頃若い社長が挑む急成長のベンチャー企業として様々な雑誌やメディアに取り上げられてまして、その方は我が社の顔としてテレビにも出ていましたから、会社の中で抜選された美人さんなのです。
一瞬目が合ったものの、どうみてもカーストの違う私は話す機会もない部類の彼女に何事もなくすれ違おうと会釈だけをしたら、唐突に腕を掴まれました。
それも、何か咄嗟に危険を知らせるよな引っ張り方ではなく、爪を立てる敵意のある引き止め方に私は一瞬で固まってしまいます。
もちろん私は立ち向かう勇気もないので、逃げ腰で無言で振り返ります。
「…………」
彼女は黙ったまま何も言わず、やはりこちらを睨んできます。一秒でも早く逃げたい私は振り絞った小さな声で言います。
「な、何かご用でしょうか」
目も見ないで聞けば、女性はワンレンの茶髪をかきあげながら、私の腕を離さずに言います。
「ちょっと言いたい事あるから」
「え」
「こっち来てもらっていいですか」
隣には愛ちゃんここみちゃんといましたが、意味不明なこの状況に二人を巻き込むのは申し訳ないと思って「先に行って」と言いました。
だってここは会社だし、殴られたいりはしないでしょ? それにこの方は人違いしてるって線が濃厚でした。
もしかしたら普通に仕事に関して私の対応したお客様が迷惑をかけたのかもしれない。
でもそういうのは大体メールでやり取りするし、直接対話するとしても段階を経てだ。自分でさばけないトラブルがあればまずは上司に報告するので、初対面でタイマンだんて聞いた事ない。
けど、どうにも私に直接言いたいのかもしれないっと思えばやっぱり思う節はないので人違いだよなって…………。
その頃は乏しかった頭のコンピューターをフル回転んしていたら、少し人気のない廊下で彼女は私の腕を解放して優しく笑った。
「ごめんなさい森野さん、突然」
「い、いえ大丈夫です」
私の名前を知っているから、人違いではないのかなって、逆に怖くなって、その温和な声色に私は掴まれた腕を摩りながら頷く、爪が長かっただけで、そんなに私に悪意はないのかなって恐る恐るだ。
そうしたら彼女は言った。
「あなた、小野君とどういう関係なの?」
と、柔らかかった声から一変、熱のこもったトーンに怒っている鋭い目付きに睨まれて、私は何も答えられなくなる。
私はずっと日陰で生きて来てこういう主人公的な自分の意見をハッキリ言える人と対峙したことがないのです。
自分意見はあるけれど、言ってバカにされたりとか殴られたらどうしようって公の場面で自分の意思を声高らかに宣言した経験もないから、困ってしまう。
でも今わかるのは目の前にいる彼女が私が嫌いで、答えによっては私がもっと傷付く言葉を投げかけられるんだろうって現実。
どうしようってもじもじして眼鏡を直していたら、眉間を寄せた綺麗な顔が舌打ちをして、ぎゅって胸痛くなる。
何か罵られる言葉を投げかけられた訳でもないのに、泣きそうになって弱すぎる自分が嫌い。
色んな人に対応している癖に目の前に人がいると途端にこれだ、動けない。
この人の気に障らない答えってなんだろうって色々考えたけど。
「早く応えてよ」
の催促に一言素直に
「幼馴染です」
と小さく呟いた。
すれば彼女は目を一度大きく見開いて、よく分からない笑みを浮かべた。
私にはそのつり上がった口角が何を意味しているのか分かりませんでした。
バカにしている、とはまた違う感じ、目を逸らして、また前髪をかきあげて溜息と一緒に私を見る、私はもう何も言わない。
すると彼女は腕を組んで目を細めて言いました。
「それだけ?」
「……?」
声の代わりに首を傾げます。
「幼馴染です、だけでいいの?」
「…………はい、銀く……えっと小野さんとは家が近くて小さい時から知り合いでした。それだけです」
「へえ、そうなんだ?」
正直、まさか仕事ではなく銀君の話で私は驚いていたんです。それはマニュアルにないですから。だからそれ以上に機転がきかないでいたら、彼女は言います。
「小野君もそう言ってたよ、あなたの事幼馴染だって」
「はい」
「でもその後こうも言ってた」
「はい?」
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