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おしまいの後

袴田君と熱海旅行1

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 カメラを構えた草食系眼鏡男子は、電車の窓の外に海や森が広がっているというのに、そのレンズに私しか映さずに言うのだ。

「はい尾台さん、せーので言って?」



「…………」


「はい、せーの【絵夢駅弁大好きぃ】」
「言わないって言ってるじゃないですかしつこいな」
「何でですか、大自然を走り抜ける車窓を背景に可愛い婚約者が満面の笑み浮かべながら駅弁食べてる所を被写体に収めたいってそんなおかしいことですか」
「セリフがおかしいの!!」
「お箸もって最高の角度で何を躊躇ってるのか理解不能です」
「いや駅弁は好きだけどさ」
 カシャ
「カシャじゃないよ袴田君! ご飯中にカメラ止めなさい、なんてお行儀悪い子かしら」

 舌打ちなんてしちゃって、まあ反抗的! ご飯は笑顔で食べるものなのに。 
 ちなみにここは東海道新幹線の中だ。





 最近の私達はというと、仕事もそこそこ大変で、結婚式のことも煮詰まってて……一週間心休まる日がない日常が続いてる。
 そしたら本当は新婚旅行にって思ってたんだけど、袴田君が温泉にお泊りしに行きませんかって誘ってくれたのだ。

 そんな急に大丈夫ですか? って聞いたら、袴田君はいつぞやの私が作った旅のしおりを出してきて、「ここにもうプランはあるので」って眼鏡直して言った金曜日の夜。
 翌日、ヨガも家事も全部投げ出して、東京駅に舞い降りたのは朝の8時だった。

 7時頃に起きて、ボーっと支度して朝ご飯は淹れてくれたミルクティだけ、お泊りだけどメイクなんて最悪しなくていいしって省いてたら袴田君のリュックに二人分の荷物が収まった。


 駅のコンコースでちょっと立ち止まる、休みの日だっていつだって東京駅は人の波ができてる、スーツ着てる人もいっぱいいて大変だあって溜息。
 皆はこれから仕事なんだなって思ったら見てるだけで疲れちゃうよ。だから私ってば休みの日は家にいたり、外出てもお散歩とかヨガになってしまうんだ。

 繋いだ手を引っ張られて、前から来た人を避ける、よそ見していて気が付かなかったから、ありがとうって袴田君に言ったら、

「いえ、直ぐにこの人混みから脱出できますからね」
「うん、大丈夫だよ」

 そうだよなあ、袴田君だって人がたくさんいるところは嫌いなタイプじゃん。それでも行きたいって言いだしたんだからよっぽど袴田君も疲れていたのか……それとも私が顔に出しちゃってたのか。

 どっちにしたって今日も私の為に頑張ってくれる袴田君好きだなあって手繋ぐのだけじゃ物足りなくなって腕組んで肩にすりすりしちゃう。

「えへへへへ」
「何尾台さんどうして急に懐いたの」
「教えてあげにゃい」

 袴田君、んぐって言いながら胸押えだしたけど、どうせ心配してもエッチしたいって言うだけだから無視だな。

 少し歩いてたら袴田君が指さして言う。

「ねえ尾台さん。電車の乗車時間は50分もないですが、何か買って新幹線で食べませんか」
「いいですねえ」

 連れてこられたお弁当屋さんは朝早くから大盛況だった。今から選ぶの? 私優柔不断なのに新幹線の時間に遅れないかなってお店の外で迷ってたら、袴田君が頭ぽんぽんしてきて買ってくるからここで待ってろって。

「尾台さん、近くに人いたらどうぞって見てる場所譲りそうだし、中々決まらなくて朝ごはんじゃなくてお昼ご飯になってしまいそうだから、俺が好きそうなの見繕ってきます」
「そんなわかったような口をきいて! あなたに私の好みなんてわかるんですかねえ?! 我々は所詮他人ですよ! 生まれた場所も育った環境も違うのに」
「はいはい」

 脳内読み取られまくりで恥ずかしいから、強がってみたけどどんな弁当買ってくれるのか楽しみでたまらないよ、どうしよう。
 それで案の定、新幹線の発車と共に蓋を開けたら、わーいってしてた。

「わあ! いっぱい色んなの入ってる美味しそう! 押し寿司に、かまぼこに卵焼きにチャーシュー、ハム、ポテトサラダ、野菜の煮物に~他にもまだまだ、これ好きなやつ!!」
「でしょう?」

 眼鏡キラが眩しいよ袴田君! 私の事よくわかってるう! 一口サイズのおかずが色々入ってて、次何食べようって迷いながらわくわくするの大好き!

「海苔巻きは全部食べなくていいですよ、向こう着いてご飯食べられないと尾台さん可哀そうだから」
「おかずも全部は一口あげます。美味しいの共有したい」
「はい、します」
「袴田君は何食べてるの?」

 覗き込めば、ご飯の上に牛肉煮に牛そぼろが乗ってるお弁当って……

「ほぼ肉じゃないですか、このお弁当」
「そんなことなですよ、気持ちこの端に人参と里いも煮たの入ってますから尾台さんにあげます」
「あ、好き嫌いはいけません」

 もう既に私のお弁当に移動させてるから、後で一口食べたらあげよう。

 東京を出て話してたら直ぐ品川、品川駅を発車したところで袴田君が缶ビールを開けて渡してくれた。

「え? ビール?? 朝からですか」
「ほら尾台さんってこういう経験なさそうじゃないですか、俺尾台さんの処女全部奪いたいんで色んな思い出作りましょう」
「なんか……電車の中でお酒って……いけない気がして……やだドキドキする、しかもこんな時間から」
「でしょでしょ」
「あれでも袴田君はノンアルコールなんだね?」

 首傾げたら持ってた缶に乾杯ってされて、一緒にちょっこっと飲む。

「俺、この後車の運転するから」
「ああ……レンタカー借りるのね」
「そう、家から車もいいけど電車挟んだ方が旅行っぽいって……」

 袴田君のくれた里芋少し食べてまたお酒飲んで、ちょっと恥ずかしくなってしまった。

「うん、前に話したね。覚えてくれてたんだ」

 頷いて優しく笑ってくれて、お酒もあってお胸がキュンってする。

「もちろんですよ、俺はだいたい尾台さんとの会話はボイスレコーダーに録」
「私のキュン勝手にぶん投げんの止めてくれる?!」

 袴田君はクスクスしながら私の手を掴んでお箸に挟まれた里芋を食べた。

「尾台さんを経由した里芋最高においしいです」
「ヨカッタネ(棒)」

 私も袴田君のお弁当一口もらったり、お弁当に入ってた海苔巻き見て今度一緒に作ろうって話したり、窓から見える景色綺麗だねって言ったり、新幹線っていつぶりかな、とか何でもない楽しい会話。
 最近頭悩ます内容ばかりだったから声のトーンも弾んじゃう、そしたらあっという間に熱海に着いていた。

 最後に来たのは小学生の家族旅行だったかな、熱海の駅はすっごい綺麗になってて補整されたロータリーに無料の足湯まである。

 新鮮な空気吸い込んでお空に両手を掲げて伸びをしてたら、袴田君が上に引っ張ってくれた。

「疲れてませんか?」
「むしろ元気になっちゃった」
「それはよかったです」

 上を向いたら眼鏡の奥と目が合って太陽を背景にした袴田君かぁっこういいよおって勝手に口元緩んじゃう。
 はああ好きだな……声も顔も体も……んんん、ダメダメ! 止めろ私の脳内、勝手に袴田君とのエッチを頭の中に映し出すんじゃない! 

「尾台さんどうしました?」

 首振って間抜けな顔してたら恥ずかしいから何か言っとく。

「こここここの後の予定は何でしたっけ」

 聞けば袴田君はそのまま手首掴みながら答えてくれた。

「旅のしおりには、この後サンビーチに行ったり」
「ふんふん」
「来宮神社に伊豆山神社、これはどちらも縁結び祈願って書いてあ」
「詳細はいいです」
「承知しました。それとロープーウェイにも乗りたいし、海の幸食べたいし、行けたら美術館もって」
「ほうほう」
「後はハーブローズガーデンに行って紅茶見るのと秘宝館でしたかね」
「ちょっと私の旅のしおりの最後に卑猥な場所足さないで下さい!」

 にゃ! って顎引っ掻いたら、袴田君は掴んだ手の平にキスして額にもキスしてにやってした。


「それで最後は露天風呂付のお部屋で朝まで俺と一緒にいたいって書いてありました」


 フレームに太陽の光が反射して思わず息を飲む、お酒のせいだよね? 顔熱くなってきた。
 袴田君の高い鼻が髪に潜り込んでクンクンされて後ろから抱きすくめられて、こんな……駅前で……。
 大きな手で体まさぐられて我慢よ絵夢、変な声出すんじゃない。下腹部に滑った指先がぐりぐり子宮圧迫してきて、この体勢…………やだ腰密着してるじゃん、人たくさんいるのに、吐息くらいで背筋にゾクゾクきてる。
 袴田君はいっぱい頭にキスした後お腹押したまま耳のそばで、

「んんッ……」
「明日お休みだから、たくさんここ虐めて精子で溢れさせてあげるからね」

 耳たぶ噛まれて反射的にコクコク頷いてしまった。



※袴田君のコミカライズ5話が公開中です。
https://www.alphapolis.co.jp/manga/official/809000362
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