150 / 154
おしまいの後
袴田君と熱海旅行1
しおりを挟むカメラを構えた草食系眼鏡男子は、電車の窓の外に海や森が広がっているというのに、そのレンズに私しか映さずに言うのだ。
「はい尾台さん、せーので言って?」
「…………」
「はい、せーの【絵夢駅弁大好きぃ】」
「言わないって言ってるじゃないですかしつこいな」
「何でですか、大自然を走り抜ける車窓を背景に可愛い婚約者が満面の笑み浮かべながら駅弁食べてる所を被写体に収めたいってそんなおかしいことですか」
「セリフがおかしいの!!」
「お箸もって最高の角度で何を躊躇ってるのか理解不能です」
「いや駅弁は好きだけどさ」
カシャ
「カシャじゃないよ袴田君! ご飯中にカメラ止めなさい、なんてお行儀悪い子かしら」
舌打ちなんてしちゃって、まあ反抗的! ご飯は笑顔で食べるものなのに。
ちなみにここは東海道新幹線の中だ。
最近の私達はというと、仕事もそこそこ大変で、結婚式のことも煮詰まってて……一週間心休まる日がない日常が続いてる。
そしたら本当は新婚旅行にって思ってたんだけど、袴田君が温泉にお泊りしに行きませんかって誘ってくれたのだ。
そんな急に大丈夫ですか? って聞いたら、袴田君はいつぞやの私が作った旅のしおりを出してきて、「ここにもうプランはあるので」って眼鏡直して言った金曜日の夜。
翌日、ヨガも家事も全部投げ出して、東京駅に舞い降りたのは朝の8時だった。
7時頃に起きて、ボーっと支度して朝ご飯は淹れてくれたミルクティだけ、お泊りだけどメイクなんて最悪しなくていいしって省いてたら袴田君のリュックに二人分の荷物が収まった。
駅のコンコースでちょっと立ち止まる、休みの日だっていつだって東京駅は人の波ができてる、スーツ着てる人もいっぱいいて大変だあって溜息。
皆はこれから仕事なんだなって思ったら見てるだけで疲れちゃうよ。だから私ってば休みの日は家にいたり、外出てもお散歩とかヨガになってしまうんだ。
繋いだ手を引っ張られて、前から来た人を避ける、よそ見していて気が付かなかったから、ありがとうって袴田君に言ったら、
「いえ、直ぐにこの人混みから脱出できますからね」
「うん、大丈夫だよ」
そうだよなあ、袴田君だって人がたくさんいるところは嫌いなタイプじゃん。それでも行きたいって言いだしたんだからよっぽど袴田君も疲れていたのか……それとも私が顔に出しちゃってたのか。
どっちにしたって今日も私の為に頑張ってくれる袴田君好きだなあって手繋ぐのだけじゃ物足りなくなって腕組んで肩にすりすりしちゃう。
「えへへへへ」
「何尾台さんどうして急に懐いたの」
「教えてあげにゃい」
袴田君、んぐって言いながら胸押えだしたけど、どうせ心配してもエッチしたいって言うだけだから無視だな。
少し歩いてたら袴田君が指さして言う。
「ねえ尾台さん。電車の乗車時間は50分もないですが、何か買って新幹線で食べませんか」
「いいですねえ」
連れてこられたお弁当屋さんは朝早くから大盛況だった。今から選ぶの? 私優柔不断なのに新幹線の時間に遅れないかなってお店の外で迷ってたら、袴田君が頭ぽんぽんしてきて買ってくるからここで待ってろって。
「尾台さん、近くに人いたらどうぞって見てる場所譲りそうだし、中々決まらなくて朝ごはんじゃなくてお昼ご飯になってしまいそうだから、俺が好きそうなの見繕ってきます」
「そんなわかったような口をきいて! あなたに私の好みなんてわかるんですかねえ?! 我々は所詮他人ですよ! 生まれた場所も育った環境も違うのに」
「はいはい」
脳内読み取られまくりで恥ずかしいから、強がってみたけどどんな弁当買ってくれるのか楽しみでたまらないよ、どうしよう。
それで案の定、新幹線の発車と共に蓋を開けたら、わーいってしてた。
「わあ! いっぱい色んなの入ってる美味しそう! 押し寿司に、かまぼこに卵焼きにチャーシュー、ハム、ポテトサラダ、野菜の煮物に~他にもまだまだ、これ好きなやつ!!」
「でしょう?」
眼鏡キラが眩しいよ袴田君! 私の事よくわかってるう! 一口サイズのおかずが色々入ってて、次何食べようって迷いながらわくわくするの大好き!
「海苔巻きは全部食べなくていいですよ、向こう着いてご飯食べられないと尾台さん可哀そうだから」
「おかずも全部は一口あげます。美味しいの共有したい」
「はい、します」
「袴田君は何食べてるの?」
覗き込めば、ご飯の上に牛肉煮に牛そぼろが乗ってるお弁当って……
「ほぼ肉じゃないですか、このお弁当」
「そんなことなですよ、気持ちこの端に人参と里いも煮たの入ってますから尾台さんにあげます」
「あ、好き嫌いはいけません」
もう既に私のお弁当に移動させてるから、後で一口食べたらあげよう。
東京を出て話してたら直ぐ品川、品川駅を発車したところで袴田君が缶ビールを開けて渡してくれた。
「え? ビール?? 朝からですか」
「ほら尾台さんってこういう経験なさそうじゃないですか、俺尾台さんの処女全部奪いたいんで色んな思い出作りましょう」
「なんか……電車の中でお酒って……いけない気がして……やだドキドキする、しかもこんな時間から」
「でしょでしょ」
「あれでも袴田君はノンアルコールなんだね?」
首傾げたら持ってた缶に乾杯ってされて、一緒にちょっこっと飲む。
「俺、この後車の運転するから」
「ああ……レンタカー借りるのね」
「そう、家から車もいいけど電車挟んだ方が旅行っぽいって……」
袴田君のくれた里芋少し食べてまたお酒飲んで、ちょっと恥ずかしくなってしまった。
「うん、前に話したね。覚えてくれてたんだ」
頷いて優しく笑ってくれて、お酒もあってお胸がキュンってする。
「もちろんですよ、俺はだいたい尾台さんとの会話はボイスレコーダーに録」
「私のキュン勝手にぶん投げんの止めてくれる?!」
袴田君はクスクスしながら私の手を掴んでお箸に挟まれた里芋を食べた。
「尾台さんを経由した里芋最高においしいです」
「ヨカッタネ(棒)」
私も袴田君のお弁当一口もらったり、お弁当に入ってた海苔巻き見て今度一緒に作ろうって話したり、窓から見える景色綺麗だねって言ったり、新幹線っていつぶりかな、とか何でもない楽しい会話。
最近頭悩ます内容ばかりだったから声のトーンも弾んじゃう、そしたらあっという間に熱海に着いていた。
最後に来たのは小学生の家族旅行だったかな、熱海の駅はすっごい綺麗になってて補整されたロータリーに無料の足湯まである。
新鮮な空気吸い込んでお空に両手を掲げて伸びをしてたら、袴田君が上に引っ張ってくれた。
「疲れてませんか?」
「むしろ元気になっちゃった」
「それはよかったです」
上を向いたら眼鏡の奥と目が合って太陽を背景にした袴田君かぁっこういいよおって勝手に口元緩んじゃう。
はああ好きだな……声も顔も体も……んんん、ダメダメ! 止めろ私の脳内、勝手に袴田君とのエッチを頭の中に映し出すんじゃない!
「尾台さんどうしました?」
首振って間抜けな顔してたら恥ずかしいから何か言っとく。
「こここここの後の予定は何でしたっけ」
聞けば袴田君はそのまま手首掴みながら答えてくれた。
「旅のしおりには、この後サンビーチに行ったり」
「ふんふん」
「来宮神社に伊豆山神社、これはどちらも縁結び祈願って書いてあ」
「詳細はいいです」
「承知しました。それとロープーウェイにも乗りたいし、海の幸食べたいし、行けたら美術館もって」
「ほうほう」
「後はハーブローズガーデンに行って紅茶見るのと秘宝館でしたかね」
「ちょっと私の旅のしおりの最後に卑猥な場所足さないで下さい!」
にゃ! って顎引っ掻いたら、袴田君は掴んだ手の平にキスして額にもキスしてにやってした。
「それで最後は露天風呂付のお部屋で朝まで俺と一緒にいたいって書いてありました」
フレームに太陽の光が反射して思わず息を飲む、お酒のせいだよね? 顔熱くなってきた。
袴田君の高い鼻が髪に潜り込んでクンクンされて後ろから抱きすくめられて、こんな……駅前で……。
大きな手で体まさぐられて我慢よ絵夢、変な声出すんじゃない。下腹部に滑った指先がぐりぐり子宮圧迫してきて、この体勢…………やだ腰密着してるじゃん、人たくさんいるのに、吐息くらいで背筋にゾクゾクきてる。
袴田君はいっぱい頭にキスした後お腹押したまま耳のそばで、
「んんッ……」
「明日お休みだから、たくさんここ虐めて精子で溢れさせてあげるからね」
耳たぶ噛まれて反射的にコクコク頷いてしまった。
※袴田君のコミカライズ5話が公開中です。
https://www.alphapolis.co.jp/manga/official/809000362
いいね貰えると嬉しいです。
0
お気に入りに追加
1,829
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
イケメンエリート軍団の籠の中
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり
女子社員募集要項がネットを賑わした
1名の採用に300人以上が殺到する
松村舞衣(24歳)
友達につき合って応募しただけなのに
何故かその超難関を突破する
凪さん、映司さん、謙人さん、
トオルさん、ジャスティン
イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々
でも、なんか、なんだか、息苦しい~~
イケメンエリート軍団の鳥かごの中に
私、飼われてしまったみたい…
「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる
他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」
副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~
真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。