上 下
146 / 154
おしまいの後

尾台さんと2020年

しおりを挟む
 尾台さんと付き合って始めてのクリスマスはまさかの平日であった。
 家のカレンダーは尾台さんが毎日クリスマスを見る度ハートを書くので、今朝ついに紙が耐えきれなくなってハート型にくり抜かれていた。

 そうかそんなに楽しみにしているのか、クリスマス……何か欲しい物ありますかって聞いたら「私もピアス開けてみたいとか思ってませんから!」って言うんだけど、うーんピアスはなあ。
 尾台さんの耳に穴開けるのやだなってイヤリングを探してる。

 それにしたって24日定時で上がるしても25日も26日だって仕事だし、あー面倒くせえな。

 ここは俺達が新たな時代を切り開かないといけないのでは?!!
 と今年のクリスマス、会社公式の休みにしない? なんか家族サービスとか適当な理由つけてさって部下に相談してみた所、自分が休みたいから会社そのものを休みにしちゃおうって王様かよ正気か? って全く取り合ってもらえなかった。

「会社休みなの嬉しくない?」
左を向けば新井君が、
「嬉しいけど、他の会社は普通にあるから、しわ寄せくるし。どうせ我々日本人は休みにしたって過半数の社員が、でも仕事がって出勤してくると思いますよ」
それで右から沖田君が、
「休日にする名目が家族サービスしましょうって家族いない俺等はどうすんですか」
「孤独死でもして下さい。君達の事はどうでもいいです」
「本当血も涙もない男だよね! 総務の袴田君ってさ!」
「やっぱり難しいかあ」

 クッソジジーからお前にプレゼントあげる気ないけど尾台さんに高級ディナー予約していいかって言われたから断っておいた。
 どうして初めてのクリスマスにジジーの息のかかったご飯食べないといけない訳? 俺の作ったサンドイッチの方が美味しいよ絶対。

 で、クリスマスに近付くにつれ、家の中が少しづつクリスマス仕様になっていくのが、尾台さんと同棲してるんだなって感じられて嬉しかった。ただ寝るだけだった家が、こんな帰りたくなる場所になるなんてな。

 玄関にかかったクリスマスリースに、窓ガラスにはサンタやトナカイのジェルシールが貼られてて、カウンターには雪だるまがいる。
 夕飯の後、ソファーで仕事をしてる俺の膝で寝っ転がって携帯弄ってる尾台さんはエロ漫画でもホモ漫画でもなくクリスマスディナーのレシピを検索をしていた。

「クリスマスって言ったらチキンだな! でもウズラの卵が入ったミートローフも作りたいしぃ、ローストビーフも食べさせたいよお。あ、後ビーフシチュー! ロールキャベツもイイネ☆」
「どんだけ俺に肉食わすの尾台さん」
「だってほら、袴田君っていつもにやってするけど、嬉しいとニパってするでしょ! 美味しい物食べた時のがニパが多いから、クリスマスは袴田君のニパってするとこいっぱい見たいの―」
「ちょっと止めてもらっていいですか、俺ニパとかしてないですから」
「してるよ! 知らないの? 今日の夕飯からあげだよって言うとニパってするんだよ!」
「してないです」
「してるよ、自分じゃ気付かないだけで。私のも食べていいよって言うと恐縮しながら超笑顔じゃん」

 クソ、なんか格好悪くてやだなそれ。

「いつもの私を煽るイキった笑顔じゃなくて素直な雄太可愛いね?」
「イキってないよ。なんかムカついたから今から尾台さんアヘ顔ダブルピースにでもしちゃおうかな」
「はいはい、これ終わってからね」

 俺のPC指差されて、尾台さんはわーいえっちだえっちだーってお風呂沸かしに行ってしまった。
 この俺の、眼鏡でクールな袴田君がそろそろ崩壊するのではと危機を感じながらPC叩いてたら、尾台さんは走って帰ってきて。

「ちゅーんちゅん?」
「はい」
「すーき」

 後ろから抱き付いてきて、頬にキスしてきて耳にもキスして、また好きって言いながら舌をねじ込んでくるから、一瞬で体温が上がってしまった。

「尾台さん悪戯しないで」
「愛しの眼鏡君とのスキンシップだよお」

 尾台さんの甘い香りと短い息使い、顔を竦めれば舌が引いて、逃がさないって顔を抱き締めてきて頭に胸を押し付けられて、もう仕事どころじゃないな。
 それでも、保存はしないととPCを操作してるんだけど、尾台さんは首を甘噛みしてくる。
 吸って、噛んで消極的な小さな赤い印をつけてきて、満足そうに唇を舐めて口にキス。

 視界に尾台さんの顔が広がって、濡れた瞳が私の事好き? なんて少し恥ずかし気に首を傾げて聞いてくるから、PC閉じて後頭部を掴んだ。

 眼鏡を直して、わざとらしくない笑顔で言う。

「大好き」

 尾台さんは瞬きをして嬉しそうに口をムズムズさせて首に抱き付いてくる。
 お風呂いこお風呂! ってジタバタ初めてそのまま抱き上げて風呂場に向かった。





 それでクリスマス、ご飯は私が作りたい! ってまさかの尾台さん気合いを入れて半休を取っていた。
 お昼過ぎに彼女は姿を消して、会社を出る時は連絡下さいね! だって。
 クリスマスツリーは一緒に買いに行った、尾台さんの背よりは少し低い立派なツリーで土日に一緒にオーナメントを作るのは楽しかった。

 それで帰りますのメッセージを送って、家に着けば玄関からクリスマスソングが流れてて、こういう恥ずかしいようなむず痒くなる演出尾台さん好きだよなっていつも思う。
 部屋に入ったら、メリークリスマスなバルーンとトナカイな尾台さんがいた。

「おかえりなさい! 袴田君」
「ただいま。あれ、サンタコスじゃないんですね?」

 角と赤い鼻、ベージュの編み上げビスチェにミニスカトナカイはとっても可愛いらしいけれど。

「はい、だってクリスマスにこんな頑張ってるのに、鼻が赤いってだけで皆から罵られて笑いものにされて、冬空の寒い下で速く走れ! って鞭で叩かれるんですよ! 私にあってないですか」
「うん、そうかな……そっか俺がサンタさんをやってお前が世界で一番役に立ってるよ、って慰めてあげればいいんですね」

 尾台さんは抱き着いて来て、袴田君のそういうところ本当好き! ってスリスリしてきた。

 それで驚くなかれ、夕飯はそれはもう、肉尽くしなのは予想できたとして、メインはこれです! って尾台さんシュラスコ出してきてびっくりした。
 アマゾンって本当なんでも売ってるよね! って鉄串買ったって、オーブンやコンロを駆使して固まり肉焼きました!! ってトナカイさんがお店顔負けのお肉をストップするまで削いでくれた。

 クリスマスプレゼントは尾台さんに選んでもらった、ピアッサーとイヤリング、エッチしてる時の尾台さん可笑しくなった時に開けるか、イヤリングかどっちにしますかって。
 尾台さんは悩んで、やっぱ痛いのやだ! って煌びやかに光るピンクゴールドのルーフタイプのイヤリングを選んでくれた、一応ピアスに見えるものを選んだ。




 それで尾台さんからのプレゼントはカメラだった。

 見て直ぐわかる高価なカメラ、いつか欲しいんだよなって一度だけ彼女の前で話した気がする。
 でももうカメラにお金はかけませんからって心配かけたくなく言った。
 高かったでしょうって聞けば、尾台さんは手作りのシュークリームを俺の口に押し当ててきて、


「これから家族も増えるんだし、袴田君の欲しかったカメラでいっぱい私達を撮ってね?」
「…………はい」
「あ、ニパってしたあ可愛いちゅんちゅん!!」

 ずっしりと手の平に乗るカメラに、目の前のにゃんちゃんトナカイの眩しさにもう心掻き乱されてしまって、今宵こそはと悦ばせないといけないなって、明日遅刻の勢いで尾台さんしゃぶってしまった。

 そこからは怒涛の年末忙殺スケジュールで、双方記憶がないレベルで忙しかったけど、帰ったらにゃんにゃんさんを抱き締めて眠れるってだけで頑張れたな。



 それで冬休み、肩の荷が下りて、1日目は二人でずっと寝てた。
 トイレ行く時尾台さん連れてって一緒にしてまたベッドに戻って寝て、うちは大掃除する程汚れてないし物もない、少し雑巾がけや年末の買い出しに行って、大晦日は、またアマゾンで尾台さんがお蕎麦の手打ちセットなる物を購入していたので(わかってたけど止めなかった)二人でそばを打った。
 彼女といればなんでも楽しいし美味しい、一緒の空間に居られるだけで幸せ。


 初めての年越しは、神社の境内だった、遠くから除夜の鐘が鳴っていた。
 焚火にあたりながら順番を待ってる間に、年が明けたのだ。炎に照らされる尾台さんの横顔はとても綺麗で、目が合えば笑ってくれて2020年元日1秒で、あ、この人好きってなった。
初詣のおみくじは二人揃って吉だった、2つあるから吉2倍になって大吉だねって手握ってくるの、愛しすぎて苦しくなってキスして抱き締めるだけだ。
「セックスがしたいです!」
「もうやだぁここ神社だよ! まだ年明けて10分だよ袴田君」

 家に着いて、体冷えてるから甘酒飲んでから寝よう? って首傾げてくるの、本当にこの人といれて幸せだなって思う。
 キッチンに向かう細い肩を引き寄せる。



「今年も宜しくね尾台さん大好き」
「ふふ、私も大好きだよ今年も宜しくね袴田君」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

極上エリートとお見合いしたら、激しい独占欲で娶られました 俺様上司と性癖が一致しています

如月 そら
恋愛
旧題:俺様上司とお見合いしました❤️ 🍀書籍化・コミカライズしています✨ 穂乃香は、榊原トラストという会社の受付嬢だ。 会社の顔に相応しい美麗な顔の持ち主で、その事にも誇りを持っていた。 そんなある日、異動が決定したと上司から告げられる。 異動先は会社の中でも過酷なことで有名な『営業部』!! アシスタントとしてついた、桐生聡志はトップセールスで俺様な上司。 『仕事出来ないやつはクズ』ぐらいの人で、多分穂乃香のことは嫌い。 だったら、こんなお仕事、寿退社で辞めてやるっ!と応じたお見合いの席には……。 🍀2月にコミックス発売、3月に文庫本発売して頂きました。2024年3月25日~お礼のショートストーリーを連載中です。

上司と部下の溺愛事情。

桐嶋いろは
恋愛
ただなんとなく付き合っていた彼氏とのセックスは苦痛の時間だった。 そんな彼氏の浮気を目の前で目撃した主人公の琴音。 おまけに「マグロ」というレッテルも貼られてしまいやけ酒をした夜に目覚めたのはラブホテル。 隣に眠っているのは・・・・ 生まれて初めての溺愛に心がとろける物語。 2019・10月一部ストーリーを編集しています。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

【R18】男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
真田(さなだ)ホールディングスで専務秘書を務めている香坂 杏珠(こうさか あんじゅ)は凛とした美人で26歳。社内外問わずモテるものの、男に冷たく当たることから『男性嫌いではないか』と噂されている。 しかし、実際は違う。杏珠は自分の理想を妥協することが出来ず、結果的に彼氏いない歴=年齢を貫いている、いわば拗らせ女なのだ。 そんな杏珠はある日社長から副社長として本社に来てもらう甥っ子の専属秘書になってほしいと打診された。 渋々といった風に了承した杏珠。 そして、出逢った男性――丞(たすく)は、まさかまさかで杏珠の好みぴったりの『筋肉男子』だった。 挙句、気が付いたら二人でベッドにいて……。 しかも、過去についてしまった『とある嘘』が原因で、杏珠は危機に陥る。 後継者と名高いエリート副社長×凛とした美人秘書(拗らせ女)の身体から始まる現代ラブ。 ▼掲載先→エブリスタ、ベリーズカフェ、アルファポリス(性描写多め版)

木曜日の内緒のレッスンは恋のはじまり~触れられるたび好きになってしまいます~

sae
恋愛
若槻瑠衣(わかつきるい)(25)は学生の時に不感症と言われて以来恋愛下手になり未だに処女を手放せずにいる。社内の高嶺の花に恋をしているがそのトラウマと自信のなさから見守るだけの恋をしていた。ひょんなことからその恋の相手の同期、太刀川柾(たちかわまさき)(30)に秘密がバレて不感症を克服させてやると言われる。木曜日の定時後に行われる秘密のお試し期間に瑠衣の心に次第に変化が訪れて……。 ▷俺様先輩×恋愛トラウマ女子の秘密のオフィスラブ。 ▷R-18描写多め、キスなどの軽い描写は☆、濃厚シーンには☆☆表示、苦手な方はスルーしてください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。