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おしまいの後

袴田君のお悩み◎ ※

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 ああぁあーやっべーもやもやする。



 この俺が一時の感情に左右されて仕事が疎かになるなんて、何とも情けない話だが、もやもやするもんはするんだよ。

 んで、こんな時ぐらい引っ込んでてほしいのに、うちの部下ときたら異様に俺の動向に敏感だから困る。
 俺の異変に気付いて、まず口を開くのは左に座る新井君だ。

「どーしたんッスか袴田さん! そんなビジュアル系が足組んで『カウントダウンTVをご覧の皆様……』みたいな顔しちゃって!!」
 は? って言い返す前に右の沖田君が髪をかき上げながら。
「『俺達はメジャーにいっても、今までのスタイルは変えないんで、HOA immortalが一番大事にしてるのはお客さんとの距離間。やっぱ俺達はライブが原点なんで、テレビだからって方向性変えたらそれはもう俺達じゃない、音楽辞めるまで今のパフォーマンスを維持していきたい。なので申し訳ないですけどこれからもテレビはこんな感じで……』みたいなクソ生意気に斜に構えたアレですか、袴田さん!」
 えいえいって肩叩かれて瞬時に払う。
「すみませんね、クソ生意気に斜に構えてて」
「うぉおおおお! 袴田さんが謝ったぁあ! 病気ッスか?」
「っるせぇんだよ、殺すぞ」
「あ、何だ。いつもの袴田さんだったぞハイジ」

 舌打ちして睨んで、とりあえず軽く裏拳かましても、良かった袴田さん元気ー! なんて顔殴られながら胸撫で降ろしてる新井君見て、あーっと、パワハラの定義って何だっけと思った。
 っつかHOA immortalって何だよ、って言いたいけど、ぜってー聞かない。
 返事するのも面倒臭くて溜め息吐けば「悩み事はなんでもボクに相談して下さいよ!」と宇宙で一番頭悪そうなやつが胸張って言ってきたから、そこからは完全に二人を無視しといた。


 まあお察しの通り、俺がもやもやするっていったら原因は尾台さん以外にない。
 むしろ彼女以外に悩む事象に出くわした試しがない。

 で、昼休み、念のため息を止めて覚悟しながら開けたお弁当箱は……。

 何ともない普段通りの美味しそうな彩で、ハムの魚が泳いでてハートに抜かれた桜でんぶご飯に肉が多めなおかず……これを見るに尾台さんが怒っている気配はない。

 安心したけど、尚のこともやもやが募る。

 肉団子を食べながら少し回想してみるか、そうそれは昨晩のことだ、情事が済んだ後彼女の体を温かいタオルで拭いていた。たまに舐めたり噛んだりしたけど、特段変ったプレイもしてないし、綺麗にしてあげてる間、尾台さんは真っ赤な顔をしながら愉悦に浸った息を漏らしていたるだけだった。

 だったのに、タオルで首から顎まで拭って、唇は舐めてキスをしたら、いつもは視線があえば好きだと言うのに顔を離した彼女は俺に言ったんだ。
 ちょっと悩まし気に眉を潜め顔を横に倒して小さな声で。

「あの……」
「何ですか」
「次えっちする時は……その……」
「はい」

 セックスが激しかったせいか弱弱しい声を出すので、力の抜けた体を抱き寄せて額の汗をタオルで吸い取る、口元に耳を寄せれば鼓膜に湿った音が響いて。

「あの、ゴム着けて……くださ……」


「え」
「だから、その……ゴム」
「ゴムってコンドームのことですか」
「う」

 正式名称を出せば尾台さんはビクンってして、唇を噛んで……え? 何、どういう意味? 何で急に、は?
 尾台さん未だ俺と視線を合わさず、それなのに脇腹辺りを爪立てて指でさすってくるもんだから、こっちはゾクっとくるんだけど、いやそんなのはいいか、だってこれでまたやる気出したら、次する時はゴムとやらをつけるんだろ?
 もやっときてタオルをベッドの外に放り投げて顎を掴めば、尾台さんは「あん」って短い悲鳴を上げて俺の手を掴み返してくる。

「痛いです、何ですか袴田君」
「何ってこっちのセリフですよ、尾台さんコンドームって何の為にあるか知ってます?」
 無理矢理視線を合わせるように顔を近付けて、眼鏡が当たる距離、それでも尾台さんは目を逸らしてて、あれ何だろうこの反抗的な態度。

「わかりますよ……それ……くらい、私だって大人です」
「ですよね? あれはなんですけど」
「……わかってますよお」
「へえ?」
「でも……」

 どんな理由が隠されているんだと聞いてやりたいのに、どうしても直ぐ感情的になってしまう俺は体が勝手に尾台さんを押し倒してて。
 尾台さんは訳を言いたくないのかムッとした表情で俺を睨み上げてきて、すげーそそる、虐めたい。
 両手を顔の横で押さえつけて、キスしたら「待っ……」と漏らした割には舌絡ませてくるけど。
 息吸えなくなるほど口の中掻き回して、耳までしゃぶりにいけば華奢な体がまた震えだす、首も噛んで舐め上げて顔を離せば、尾台さんの顔はもう出来上がっていた。

「どうしてそんなエロい顔してるんですか、何かありました?」
「袴田君にいっぱいちゅうされ……って」
「ああ、これ?」

 また交わるキスして、抵抗する口調な割に押さえつけた手に動きはないし、むしろ指を絡めたいのか俺の手を引っ掻いてくる、
 手の平に指を置けば、直ぐ握り込んできて、「袴田君ッ……」って口の中も熱くさせてる。
 すげー口の中のもの吸ってくるし、体温上げて「しゅき、好……っき」って連呼してきて、俺も下半身に血が滾ってくるんだけど、それなのに次回はゴムありだと?

 もやもやして舌を淡く噛んだら、体をしならせて細い足が腰にまとわりついてきた。

「何、尾台さん」
「袴田く、ぎゅうして?」

 涎垂らしながら抱っこ要求がとても可愛くて胸撃ち抜かれる思いなんだけど、ぐっと堪えて顔を引く。

「でも尾台さんは俺との間に0.01ミリの壁が欲しいんでしょう? そんなんじゃ本気のぎゅうできないよ」
「えっと……」
「俺言いましたよねえ? 尾台さんとするなら中出し一択だって」


 手首を頭上にまとめ上げて片手で押さえる、頬を撫でてしなやかな体を指先でなぞって、尾台さんは体中が性感帯だから涙目になりながら目を瞑って声出さないように必死に耐えてる。
 でもお臍の下をグリグリ押せば堪えられなくなって腰を浮かせて声を上げた、あまりにも可愛い悲鳴だったので食べたくてキスして。

「さっき正常位で思いっきりここに種付けしたの、まだいっぱい溜まってるのに、今更ゴム着けろってどういう意味?」


「だって……」
「だってじゃねえよ」
「あぅこわい」
「ねえどうするんですか? 尾台さんだからまたしたいでしょう? この奥の口で俺の熱いの飲みたいんじゃないの」
「ひぁ」
「ゴムつきのチンコで白いの掻き出しちゃっていいの」
「あぁ、ゾクゾク……」
「よがってないで答えろよ」

 睨めば尾台さんは顔を背けるので、耳を舐め回しながらお腹を手の平でゆるーく圧かけて刺激する、股は膝で虐めてやれば、さっき拭いたのにもう濡れてるし。

「ほし、けどぉ……」
「けど?」
「あの……」
「生じゃなきゃ感じない癖に、何様のつもりで俺に注文つけてるんですか、尾台さん自分の立場わかってる? 俺の形わかんなくてイケなくて泣くのあなただよ」

 言って押さえつける手と、お腹に置いた手、股に食い込ませた膝に同時に力を込めやったら、尾台さんはそれだけで体を仰け反らせてイッた。
 涙目と真っ赤な顔と荒い息が可愛いくてキスするんだけど、唇を離しても挿れてっておねだりしてこないなあ。

「袴田君、袴田くっ……」
「うるさい」
「ぅ」

 ぴしゃりと言えば目尻に涙ためて瞼をキツく閉ざして、うーん、言葉でも感じてるのに挿れてって言わない。

 それで、その後もどれだけ焦らしても頑なに生では欲しいって言わない尾台さんに痺れをきらして、一番尾台さんが辛い放置プレーをして寝てやった。

 俺の背中に抱き付いて、袴田君袴田君苦しいよぉって体引っ掻きながら、えぐえぐ泣いてたけど心を鬼にして一夜を明かした(っつかその前に一回はしてるんだぞ!) それで朝起きて様子を伺ったが尾台さんが怒ってる様子はなかった。


 ほら、もやもやするし意味不明だろ……!!
 何だよ、何で今更避妊してほしいんだよ、予め言っておく尾台さんはまだ妊娠していない。
 それは尾台さんより尾台さんの体を熟知している俺が言うんだから間違いない。
 そしてまだイライラする周期でもない、私なんてぇどうせ何やってもダメダメだしぃ、誰からも必要とされてないんだぁっていじいじ始まったら漢方茶飲ませて軽減させてるし。

 じゃあ何だよ、もやもやして仕事手につかねえぞ。
 どうすんだこれ、営業に当たりに行くか。

 とりあえず、尾台さんに嫌われたらもう地球上で生きていける自信がなので、仕事の帰りに生まれて始めて避妊具を買った。
 サイズ的に一般の物では不足があるかもしれないので、大きめのサイズの方もレジに持っていく、何だこれは雑費? 医療費? 交遊費? え、光熱費?! 尾台さん家計簿細かいから、何て申請しよう。


 で、帰って来たら尾台さんは「ちゅんちゅんおかえりなさぁい! ちゅうして! ちゅうして!」ってぴょんぴょんしながら飛び付いてきて、はい眼鏡割れそう可愛いですコレ。
 抱っこでリビングまで連れてったら、ご飯の用意できてるし、いつものにこにこ尾台さんだ。

 手洗いうがいするまでキスお預けさせて、部屋に戻って来たら尾台さんは駆け寄ってきてキスしてくれて、テーブルに戻ると麦茶を注いでる。
 俺に気が付いてグラスや箸を置きながら、大きな袋を見せてきた。

「何ですか」
「ほらこれ、寧々ちゃんもらったの! こないだ北海道旅行に行ったんだって」
「北海道? へえ、ふりかけですか?」
「そう、ご当地大人のふりかけ! 味がねぇ? ウニにー毛ガニにージャガバターにチーズ! 袴田君どれがい?」
「尾台さんは何が食べたいんですか」
「気になるのは、ウニと毛ガニ!!」
「じゃあ、俺毛ガニにしますね、尾台さんウニ食べて」

 二人で席に着いて、温かいご飯を渡されて、他のふりかけの表紙も気になって、歯で袋引き千切りながら見てたら。


「キャッ!」


「ん?」
 尾台さんがびっと頭の天辺までびくつかせながら背筋伸ばして、何だ?

「何ですか」
「べちゅに」
 あ? これは別にの顔じゃないだろ、頬赤くなってるし。

 で、なぜかウニの袋も渡されて、仕方ないから歯で開ける、ご飯交換しながらゆっくり夕飯を食べた、今日も今日とて尾台さんのご飯は美味しかった(ナスと鶏肉の甘酢餡とサラダとアサリの味噌汁)。
 そして当然だが、昨日お預けされた尾台さんは、ベッドの上で激しく俺を求めてきて、そりゃイカせてはあげるけど、いざ挿入となって俺はおもむろにベッドから降りた。

「ん? どうしたの袴田君どこいくの? え、やだぁ今日もお預けですか」
「今日もって、昨日もしたでしょう」

 というか、今日は昨夜と違ってゴムと言わずに「キテキテ」だけど、まあ一応彼女の意思を尊重して、帰りの買ったあの箱を鞄から取り出してみた。
 尾台さんは、パッケージを見てハッと驚いてそわそわしてる。

「ほら、ゴム……これしないとしちゃいけないんでしょう? 俺は尾台さんと密着してないと気が済まないし、あなたも中に出ししてグチャグチャにされてイキまくるタイプの人だから、これつけたら双方不完全燃焼この上ないだろうけど、物は試しに着けてみますか」
「んっと……!!」

 眼鏡を直して首を傾げたら、尾台さんは首をプルプル振ってベッドから降りてこっちに来た。

「尾台さん?」
「あの、いらないです!」
「え、どうして? 昨日はあんなに……」

 裸のまま一歩俺に近付いた所で尾台さんは人差し指をもじもじさせて。

「その……だって」
「何、怒らないからハッキリ言って?  俺鈍感だから言葉にしてくれないとわからないです」
「絶対……怒らない?」
「怒らないよ、命懸けます」

 頷けば、尾台さんは生えてそうな猫耳と尻尾をピンとさせて俺を見上げた。

「えっとね、さっき袴田君がふりかけ、歯でビリってやってたから、もう、いっかなって」
「あ?」
「だーかーらぁあ、あのTLコミックなどである、メンズがエッチしたくてたまらなくなって、はあはあしながらコンドームの袋を歯でピリって開ける所を生で見たかったんです! あるでしょ? あるでしょ?」

 今日一キラキラな笑顔で、こういうやつ!! って袋歯で開けるの真似てる。

「…………へえ」
「あれ? 袴田君怒ってる?」
「ませんよ、え? でも何で? だったらそう言えばいいじゃないですか」
「もう分かってないなあ! 言ったら自然体な感じじゃなくなっちゃうでしょ!」
「ああそう、でもふりかけの袋なんて興奮して開けてないかったのに、あれでいいんだ」
「んん……真剣な顔して開けてるのも中々素敵だったぁ」
「…………」

 まあ、こんなもんだよ、俺の悩んでたもんはな、へえそーかよ、はいはい……。
 ああああ、尾台さんが俺の精子拒否ってなくてよかったぁ!

「袴田君?」

 頭かいてたら、尾台さんが更に近付いてきたので、怒ってるわけじゃないけど。
「絵夢」
 少し冷たい音程で言えば、尾台さんはピタリと足を止める。

「な、なんですか?」
 声だけでもじついて、一瞬で顔を期待の色に変えて本当に尾台さんはドエムだな……。
 睨めばびくっと体が跳ねて口ムズムズさせてる、ならお望み通り言ってやらないとな。


「何猫が二足歩行してんだよ、床に膝つけてこっちこい」

「…………ぅ」
「挿れてほしいなら、どうしないといけないのかわかってるだろ」

 コンドームの箱をゴミ箱に投げ捨てて、眼鏡に手を添えながら見下し気味に言って見せつけたら、尾台さんは一瞬唇をきゅっとかんだけど、直に瞳を潤ませて。

「にゃあ」

 と鳴いた。




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